イラストSS

　窓から差す月明かりも、その黒き棺までは届かない。
　程よい暗闇の中で眠っていたアリシア・アンジェ・ネイリヴォームが感じたのは微かな違和感。それは消えることなく、徐々に彼女の意識を浮上させていく。
（温かい……？）
　体の所々、違和感のある部分が何やら温い。心地よくはあるがこれは一体何なのか。眠気が意識を引きずり戻そうとする中、アリシアは薄っすらと目を開いた。

　視界に移ったのは──寝顔。

「……え？」
　思わず小さく声が漏れるが、目の前で眠るヨハン＝レームは起きる気配もない。とても満足そうな笑みを浮かべ、むにゃむにゃと口元が小さく動いている。視線を下ろせば眠っているにも関わらず、コンセント状の尻尾がユラユラ揺れていた。
「あの……」
「んんー……むにゃ……」
　夢でもみているのだろうか。ヨハンはもぞもぞ動くとアリシアへ抱きついてくる。服が肌の大部分を隠しているもののやはり──温い。
　彼がここにいる理由は目覚めてからでないと分からなさそうだ。アリシアはそう判断すると目を閉じる。
　困惑はしたけれど、起こすのは忍びないし。眠いし。何より、彼が温かかったから。

　暫しして、棺の中には2人分の寝息が小さく響き始めたのだった。

※担当『愁』