イラスト詳細
雪村 沙月の伊砂によるシングルピンナップクリスマス2019(横)
雪村 沙月の伊砂によるシングルピンナップクリスマス2019(横)
イラストSS
目が冴えるほどに、キリッとした冷気が頬をうつ。
まだ陽が昇ったばかりの早朝。雪村 沙月(p3p007273)は静々と摺り足で縁側を歩いていた。
某所にある日本庭園。そこには活気に満ちたシャイネン・ナハトの喧騒も、深雪に音が吸い取られて届かない。
しんとした静寂の中、耳をすませば時折聞こえてくるのは、そこに息づく自然の音。
空を飛び交う鳥の鳴き声。木の上から雪が落ちる、籠ったような落下音。今しがた聞こえてきたのは、庭池に張った薄氷が陽射しに溶ける音――かもしれない。
(こんなにも気を張らずに過ごせるのは、いつ振りでしょう)
師走の頭頃に女王イザベラが『大号令』を発してからというもの、幾度も海洋へと出向き、時に身を危険に晒しながらも、凛として困難に立ち向かい続けてきた沙月。
そんな彼女が束の間の休息に嗜んだのは日本茶だった。
煎茶の適温は80度。沸騰したままのお湯では熱すぎて、茶葉が思うように開かない。
お湯を湯飲みに入れて縁側へ運び、湯冷まししてから急須の方へ。
後は振らず回さず、お茶の甘味と旨味が広がっていくのを、庭園の景観を楽しみながらじっと待つ。
嗚呼。この空白の時間こそ、最高の贅沢。
口にしたぬるめの一杯は、優しい甘さをもって沙月を癒す――。
※担当『芳董』