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【2019SN】雪が降っても一人
【2019SN】雪が降っても一人
イラストSS
ドン、と肩がぶつかった。
「キチッと前見て歩きやがれ、バカ野郎があ!」
恋人同士であろう男女が申し訳なさそうに頭を下げながら、足早に去っていく。
「けっ……浮かれてんじゃねえぞ」
シャイネン・ナハトに限って、直接的な暴力はご法度である。故に、気に食わない事があっても飲み下す。
ポケットに手を突っ込んで風を切って歩く男は、僅かばかりの給金をちゃらちゃらと鳴らしていた。
グドルフに休みは無い。こんな日だって仕事は舞い込むものだ。
──去年の今頃は、何をしていたか。
あいつらと馬鹿をやっていたか。誰かとメシでも食っていたか。随分と遠い記憶に感じる。
珍しく、男はコートの前を閉めて歩く。吐いた白い息が風に乗って消えた。
「寒ィ」
額に、冷たい感触がじわりと
雨か、ついてねえ──と手を軽く伸ばし、空を見上げる。
「──雪か」
幼い頃。妹と親友と一緒に、雪の積もった庭を駆け回った時を思い出した。
舞う雪を目で追うと、雪は地に落ちると同時に水になって染み込んでいく。
それと一緒に、楽しかった記憶もするりと消えていく気がした。
「感傷に浸るなんざ──らしくねえな」
自嘲気味に呟いたグドルフは、石床に滲んでいく淡雪を踏みにじって、また歩き出した。
※担当『りばくる』