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聖夜最後の患者さん(酔っ払い)
聖夜最後の患者さん(酔っ払い)
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聖なる夜(シャイネン・ナハト)と言えども世間は別に休日ではない。
今日も閑古鳥鳴く診療所で黄瀬は本日もお客は零かと受付終了の札をカウンターへと置いた。
(やれやれ、聖夜ということで千客万来――も困るけれど、少しの患者でも来てくれれば……)
カウンターの上に並んだカルテを片付けて日誌を書いている黄瀬の耳に、来客を告げるベルの音。
「ああ、今日の診療は――」
終了、と言いかけた彼の目の前に立って居たのはシャイネン・ナハトのパーティーに参加すると非番であった医療助手、十三。
「先生ぇー」
べろべろに酔った様子の彼はネクタイをほどき、だらしなく着崩したワイシャツなど気にする素振りもなく十三は黄瀬への腕へと擦り寄った。
「シャイネン・ナハトのパーティーだから楽しみにしてたのに……。
参加者皆恋人餅で惚気ばっかりだったんスよぉ! 先生ぇ、悔しいんで俺と結婚してください!」
頬を赤らめ、うっすらと涙を浮かべた十三に「そっかそっか、恋人ばっかでつらかったんだねぇ」と窘めつつ酔い覚ましだよと水を手渡そうとする。
――いや、その手に消毒用エタノールと書かれたボトルを持って居るのはさしたる問題なのかもしれない。
「先生ぇ……寂しい……」
「そっかそっか。んー……じゃー、そんなに言うなら付き合っちゃう?」
え、と小さく声が漏れたが、その真意は黄瀬しか知らず。十三は目の前が眩んだ気がして、目を閉じた。
聖なる夜の記憶が彼に残っているのかは……彼のみぞ知るのだ。