イラストSS

●暗黒の海/揺蕩う二人
　無限の闇の向こうに何があるのか、堕ちてみるまでは誰にも分からない。そしてその奈落に堕ちた者は語る舌を持たず、伝える術を持ち合わせない。
「随分」
　故に彼が――黒衣の騎士が、リゲル＝アークライト(p3p000442)が闇の果てに見た麗しいその姿はまるで福音のようだった。
「随分と――待たせたものね？」
　現界と奈落を隔てる闇よりも尚深く。暗黒の海を、ベールのように、ドレスのように纏った美しい女が赤い唇で三日月の形を描き出す。
「従者の分際で、不敬だわ。万死に値するかしら？」
　ベアトリーチェ・ラ・レーテ(p3n000109)のそんな嗜虐的な言葉にも、リゲルは「おお」と感謝と喜びの声を上げる以外の術を持たなかった。
　呼び声に応え、堕ちに堕ちて。
　汚れた堕落を纏い、結局は敗れ去った――忠を誓った女主人を守る事叶わず、『底』に堕ちた自分をまさか彼女が出迎えてくれるとは。感動的なシーンに胸がざわめく。
「力及ばずッ！　御身を守れなかったとあらば、申し開きの言葉もなく！」
　闇に染まっても『理想的な騎士』たるリゲルは首を差し出す事さえ厭わない。
　そんな彼に目を細めたベアトリーチェは優しく囁く。
「まぁ、過ぎた事。それは良いです。それより、リゲル。この先です」
「この先と言うと――」
「――無論、これで幕引き等赦されない。冥府の長にご挨拶に参りましょう。
『ここ』のルールは知りませんが、私は冠位『強欲』」
　ベアトリーチェは凄絶に笑う。

　――次はこの場所を奪ってしまえば良いのです――

※担当『YAMIDEITEI』