イラスト詳細
蝕雪
蝕雪
イラストSS
雪、ダ。
ガスマスクごしに、ジェックは空を見上げた。
白イ雪。
廃教会の屋根の上に、一人の少女が座っていた。
表情は分厚いマスクのせいでわからない。しかし、どこか面白がっているように思われる。
あたりはずいぶん冷え切っているというのに、少女の服装は薄着だ。細い手足が、使い古された夏用のセーラー服の下から覗いている。その肌は日差しを知らないように、白い。
少女は、無造作に細い手を伸ばす。ひとひらの雪が、手のひらに舞い降りた。
ただひんやりとして、溶けるだけの雪。
純白の雪。
ジェックのいたかつての世界の大気は、深刻に汚染されていた。有害物質に混じって降り注ぐ雪は、人体にとって危険なものだった。こうして直接触れることなどかなわないくらいに。
ジェックは息を緩め、銃を傍らに置いた。手のひらを空に向かって伸ばした。
ちらちらと降ってくるそれは、人体にとって有害なものではない。しみじみと実感する。
ここは、違う世界だと。かつての世界とは別の世界なのだと。
ああ、きれいな雪ダ。
ジェックは力を抜き、背中をがれきに預けてただ空を見上げた。ガスマスクに雪が舞い降りて体温で淡く溶けて消えた。
※担当『布川』