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月下のアンサンブル
月下のアンサンブル
イラストSS
耳に届いた音色が、誰かを震わせた。
雪降る中、今宵一幕のステージに立つは――ヨタカとルナール。
正装に身を包み、手にはコントラバスとヴァイオリンを携えて。
奏でる。
誰ぞに宛てた旋律か。或いは今日この日の為の旋律か。
雪が散る。激しくは無く、ソレらもこの音色を聞きたいが如く。
ゆっくりと。ゆっくりとその身を地へと辿り着かせて。
聞き惚れるのだ。
白き世界の狭間にて。一節一節を刻んで往く。
指先に込めた集中が数刻と続くが――しかしそれを苦とはせぬ。
手中へ抱く彼らの世界を知るのだ。演奏者とは指先で語るモノなのだから。
込めるは力ではなく魂で。
この世界を奏でていく。
さすれば両者の間に笑みが零れて。
意図してではなく自然に。さて、なぜかと問われれば答えに困るのだが。
答えと出来るようなモノではない何かが――心に生まれていたから。
シャイネン・ナハトの今日この日。年に一度の特別な日。
彼らは奏でる。
ゆるやかな、風が吹いた。ルナールの結んだ髪が沿う様に凪いで。
音をも流す。どこぞへと、どこぞへと流れて……
――耳に届いた音色が、誰かを震わせた。
※担当『茶零四』