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純白のドレスを前に二人が想うものは
イラストSS
ときん、と胸が高鳴った。
シャイネン・ナハトの街並みに鮮やかな光がふわりふわりと揺れている。
アンナは傍らのルルリアに視線をちら、と向ける。ツインテールと共にふんわりとした狐の耳が揺れ、楽し気にこの夜を歩いているのだ。
手を引かれ、周囲を見回せば、少し開けた場所に雪の城よりも尚鮮やか白が飾られる。
それは、幸福の花嫁が纏うドレス。
「わ」と声を出したのはどちらであろうか――ふわりと風が揺らした髪を押さえたアンナはきょとりとドレスを見遣った。
「綺麗ですね。ウエディングドレス……花嫁の衣装だそうですよ?」
トレジャーハンターであったルルリアにとっては縁のない――恋愛をする暇なんてなかったのです、とそう言った――彼女は憧れますねとアンナに柔らかに微笑んだ。
着ることができれば素敵、と女の子の夢を胸に浮かべてみても自分よりもアンナの方が似合うのだろうかとルルリアは傍らの彼女に視線を向ける。
赤いコートに身を包み、何所か俯いた調子であったアンナはその気配に顔を上げた。ルルリアの笑みは柔らかで、楽し気であることにアンナは気付く。
「あ――ドレス、ね」
「はい。とってもきれいで素敵です」
ルルリアが手をくい、と引けば握られる掌に僅かに力が入り、緊張したように顔を上げたアンナがぱちりと瞬いた。
「どう、したのかしら?」
金の瞳を瞬かせるアンナにルルリアは「ううん」と首を振る。
ルルリアはアンナがドレスを着れば可愛らしいのだろうなあと茫ともう一度、ショーウィンドウに視線を戻す。
その動きひとつだけでもアンナの胸は高鳴った。まだまだ、自覚したばかりの恋のはなし。好き、だとか、愛してる、だとか、そう言う『感情』を口にするにはまだ遠く、ときめきに戸惑うばかりのアンナはルルリアの横顔を盗み見た。
ドレスを綺麗だと笑ったその笑顔。
きっと、彼女も純白のウエディングドレスが良く似合うだろう。
そうして、そのドレスを着てこちらに微笑みかけてくれるのだ――ブーケを手にして「似合うでしょうか?」なんて、少し照れた笑みを向けて。
ただ、それだけを想像して、かあと頬に熱が上がった。
(いえ、何を考えているの私……)
手を繋ぎ、シャイネン・ナハトの夜を二人で過ごす。
それだけでも幸せと緊張が混ざり合って、その胸は張り裂けそうなほどにときめいているというのに。
「綺麗、ね」
そう小さく告げて。
神様、もう少しだけ幸せを思い描いていいかしら――?
※担当GM『夏あかね』