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イラスト詳細

クルティアリア=ヴァリエン=スティックブックの一周年記念SS

作者 塩魔法使い
人物 クルティアリア=ヴァリエン=スティックブック
イラスト種別 一周年記念SS
納品日 2018年09月17日

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イラストSS

●吸血鬼ミーツ、太陽

「ほう、空というものはここまで高いものなのじゃのう」

 どこまでも広がる壁のない世界。吸い込まれてしまいそうなほど透き通る青い空と、もくもくと漂う雲、その中を自由に飛び回る鳥や飛行種の姿。そして天に輝く燃え盛る火の玉。 幻想の町外れ、生まれて初めて見る昼の空を目が眩みながらも感動しながら眺める一人の赤髪の少女がそこに居た。



 数日前に、無辜なる混沌に召喚されたばかりのその少女、『鮮血猟姫』クルティアリア=ヴァリエン=スティックブック(p3p005848)は大いにその新しい世界を満喫していた。物心がつく前から人の生命よりも長い年月を地下で過ごし地上に疎かった吸血鬼の彼女にとって、混沌世界は初めてに満ち溢れる神秘の世界であった。

 例えそこが滅びが近い世界であろうとも、多少の不便があろうとも、その好奇心がもたらす楽しさには到底及ばない。



 その好奇心が、本来闇に属する吸血鬼であった彼女を日の光の下へと誘いだしたのだ。今日はクルティアリアにとって、初めて自らの意思で日中に顔を出した日でもあった。

「太陽というのも吸血鬼が浴びれば灰になるとあれほど言われていたのじゃが……わらわには少々眩しいだけでそうでもないみたいじゃのう」

 混沌を照らすそれを手で隠しながら、そう呟けばどこか得意げな顔で――『吸血鬼が太陽に弱い』と言う事が吹き込まれた嘘なのかか、本当にそうで混沌証明によって耐性が付いただけなのか……今となってはわからないが、そんな事も気にせずに初めてみた昼の空を満喫すれば視線を降ろし、次は街並みを見物しようと、優雅に歩きだす。



 クルティアリアの、そんな初めての昼の外出のお話。



 活気に溢れる、幻想の中心、メフ・メフィートの街並みを歩きながら、クルティアリアは再び目を好奇心の光で輝かせる。れんが造りや木造といったカラフルな家々の数々、その前や周囲を彩る様々な物、そして行き交う様々な種族の人々……その対象は数えても数え切れない。特に他種族の人々を見ることは彼女にとって非常に興味深いものであったらしく、純種の人々とすれ違う度に、怪しまれない程度にまじまじと観察してはその個性に一人テンションを高めるクルティアリアなのであった。

 更に荷を運ぶ為の大きな牛や馬とすれ違えば非常に興奮した様子で、たまたま近くにいた青年に「あれはなんじゃ!?」と尋ねる。

 男から不思議そうな顔で「うん、あれは馬だろう?」などと伝えられれば、クルティアリアは「そうか、あれが馬なのじゃのう……くふふふ」と、口を開けないように怪しく笑いながら感謝の言葉を伝えれば好奇心のままに、また次の新鮮な物を探しに歩き出す。

 そんな事を何件も、何件も繰り返しながら辿り着いたのは一軒の建物。

 それは開放的で小奇麗な喫茶店。家とは違うその建物にクルティアリアの好奇心が疼き、休憩がてら訪ねて見たいと一歩足を踏み出しながら。

「ほう、この家は随分と面妖な趣じゃの、扉も無くこんなにも多くの椅子と机が並べられておる、どれ、少し中に入ってみようかの」と、心が命ずるままにその建物の中に入り、中にいたエプロンを着ている女性に「そなた、ここは一体何をするところなのかえ?」とうきうきとした様子で質問を投げかけ。



「あら、かわいいお嬢ちゃん……ここは喫茶店よ」「お嬢ちゃんではないわ! 妾はクルティアリア、ヴァリエンの名を冠する偉大なる吸血鬼ぞ!」



●吸血鬼ミーツ、パンケーキ

 十数分に及んだ店員の女性との問答。その末に、ギルドより支給されていた硬貨の一枚を机に置き「これでなにか一つわらわに料理を作るのじゃ」と注文できるほどには喫茶店という概念をクルティアリアは辛うじて理解することができた。途中何度も「お嬢ちゃん」呼ばわりされる度に、何度も(彼女の言葉を借りれば)『省エネモード』をやめて、本来の姿で応対してやろうかと思いながらも。



 ほのかに暖かく、甘い香りが喫茶店内へと漂う。軽食が出来上がるまでの間、椅子から外の風景――特に青空――を眺めながら、厨房から漂う香りに心を踊らせて。

「はい、お嬢ちゃん、おまたせ」そう店員の女性がコーヒーと一緒に運んだのはホイップクリームがたっぷりと乗ったパンケーキ。「なんども言わせるのじゃないのじゃぞ」と言い返しつつも、クルティアリアの目線は既にそれに釘付けになっていた。

 店員がカウンターの向こうに行ったのを確認してから、優雅に一口頬張れば、「! うむ、面白い味じゃな!」とすっかり上機嫌で、礼儀を崩さずも明らかにそのペースは早くなり、半分ほど食べた後であろうか。コーヒーカップが視界に入れば、おもむろにそれを取り、何に使うのかもわからない砂糖もミルクも混ぜずに一口――「苦い?!」

 思わずコーヒーカップを落としたり零すと言った事はなかったが……相当苦いコーヒーだったのだろう、甘党の彼女には尚更堪えたのか、目からは大粒の涙。「お嬢ちゃん、大丈夫?」と女性店員から声をかけられるも、威厳を保とうと泣いてはおらぬわと強がるクルティアリアの姿がそこにあった。

「全く、この黒い湯がこんなにも苦いとはのう」と砂糖とミルクを多めに入れてもらったコーヒーを片手にため息をつくも、幸せな一時に再び表情が緩む。

 見つかることを恐れ、長い間地下から出ることすらかなわなかったあの頃に比べたらコーヒーが苦かった程度ではどれだけちっぽけな悩みであろう。そう思いながら、コーヒーとパンケーキを完食すれば、「そなた、次のパンケーキとやらを持ってきてくれるのはいつなのじゃ?」と優雅に、店員へ若干偉そうにおかわりを要求して。



「はーい、いいわよー……あらその牙……異世界の人だと思っていたけれどもしかして」「始めに言ったであろう!」



 ……そんなやり取りをしながらも、パンケーキを始めとした甘味を楽しみつつ、喫茶店内においてあった子供が遊ぶ用のおもちゃやサイコロに心を踊らせては遊んで見るクルティアリアなのであった。



●吸血鬼ミーツ……全部?

「……もうすっかり暗くなってしまったのう」

 上機嫌に喫茶店を出て、何件かの店や家で若干の騒ぎを起こしつつも無事に幾つかの店を渡り歩き――気が付けば、すっかり日の光は消え、空は星空に変わっていた。

 クルティアリアは再び空を見上げ、神妙な顔付きで星のまたたきを見つめる。その顔は何かをやり遂げたかのような明るいものに変わっていた。

「面白いものじゃ、空は天井と違って時間が経てばこんなにも姿を変える」

 ずっと地下に隠れ住んでいた吸血鬼の姫、まだまだ知りたい事は沢山ある。昼にしか見れないものがこんなにもあったのなら、この星空の様に夜にしか見れないものも有るのかもしれない。今夜も色々な面白い物を探しに行こう。慣れてきたら幻想の外へと足を伸ばすのもいいかもしれない――ここは混沌、様々な異世界のごった煮のスープ。その好奇心と探究心が枯れ果てぬ限りは、心の思うままに新しい物を楽しみ尽くすことができる。

「せっかくじゃ、今夜ももう少し歩いてみるかの」

 そんな事を考えてなのか、どこか上機嫌で夜のメフ・メフィートへと再び足を運ぶクルティアリアなのであった。



 特異運命座標は十人十色。貴女にも何か面白い物が発見できますように。





●あとがき

 GMの塩魔法使いです。

 WSSのご参加ありがとうございました。

 お任せという事でステータスシートやプレイングを参考に「何日か夜の初めての外の世界を満喫して、今度は昼の世界に挑戦してみた吸血鬼」という体で書いてみましたです。

 特に、一番気に入ったのはなんだかんだどこでも見れる「空」なんじゃないかなあと言うイメージで書きました。青空とか星空とか……

 お気に召していただけたら幸いなのです。

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