PandoraPartyProject

イラスト詳細

久々の休暇

作者 布川
人物 Morgux
イラスト種別 一周年記念SS
納品日 2018年09月17日

5  

イラストSS

戦場神と死霊魔術師は休暇中、ダンジョンに挑む

「ここか」
『暴牛』Morgux と『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス は洞窟の入り口に立っていた。
「情報屋の言うことは正しかったようだね」
 目の前に広がる空間は、明らかにただの洞窟とは異なる。そもそもこの場所からして、船でなくては来れない場所にあった。
「ふむ。なかなか興味深い……年代があきらかに近くの建造物とは異なるね」
 ジークが遺跡の壁を興味深そうに叩いた。もとより学者肌で、面白いものがあると聞けばやってくるスケルトンだ。
 腐れ縁というやつなのか、気が付けば一緒に行動していることが多い。
 モルグスとジークはそれぞれ武器をとり、遺跡の中へと足を踏み入れていった。 

 しばらく進むと、苔むした広場に出た。
「何かいる、上だ」
 モルグスが言ったが早いか、ぽたぽたと滴り落ちてきた水滴は不定形の形をとる。
 スライムだ。
 モルグスは奇襲を軽々とかわし、獲物を両断した。真っ二つにされたスライムはそれぞれに動き出す。
 しかし、モルグスは、息もつかせず斬身で片方を引きちぎる。スライムは弾け飛び、それ以上は再生しなかった。
「要するに、形を保てないようにすりゃいいわけだ」
「なるほど。仕組みが分かってしまえば、なんてことはない」
 ジークの破滅の黒死斑が辺りを包み、スライムを一網打尽にする。

 スライムの小道を終えると、小さな木箱があった。
 それ以上に先へ進む道はない。
 いや、ここまできてそのはずはない。
「!」
 注意深く壁を調べていたモルグスは、崩れ落ちる地面に飲み込まれる。幸いなことに、擦り傷程度で大きなダメージはない。
「落とし穴か。楽に下に降りれてラッキーと思うべきか?」
「相変わらず幸運だね」
「コイツのおかげかもな」
 聖鎧レオは、不運を跳ね除ける力を持つと言われている。
「ここから先に進めそうだ。ジークも降りるといい」

 現れた空間は、また様相の違った場所だ。両脇にはずらりと石の棺が並んでいる。
 どうやら、ここは遺跡といってもいわゆる墓場というものらしい。
 棺の一つががミシリ、と動き出した。骸骨の手が蓋を持ち上げ、起き上がったスケルトンが目を光らせる。傍らにあった古びた剣を握る。
「ジークの親戚か?」
 モルグスの軽口に、ジークは呵々と笑う。禍々しい装備を好んで身に着けるジークは、この場にふさわしい装いと言えるかもしれない。
 いつのまにか、スピリットがあたりを舞っている。
 どこもかしこも亡霊ずくしだ。
 後退したジークが石を踏むと、何か押し込んだ音がした。
「気をつけろ。ジーク!」
 モルグスは声をあげる。
 壁から矢が放たれる。警告の甲斐あって、鋭い矢はジークの肋骨のすれすれをかすめていった。矢じりを見るに、何か塗られているようだった。
 ここにあるのは、魔物だけではない。盗掘者から墓を守るためのトラップもまた豊富というわけだ。
 ジークの姿勢が崩れたのを見計らって、スケルトンが駆け寄り、剣を振り上げる。
 しかし、モルグスが受け止めた。力任せに振り下ろされる剣を、こちらも力任せに押し返す。力比べなら負けはしない。スケルトンの剣がみしみしという音を立ててへし折れ、姿勢を崩した。
 スピリットが輝き、今まさに神秘攻撃を行おうとしている。だが、相方の動きが分かっていたモルグスは、攻撃させようとするに任せる。ジークの影が這い寄るようにして、背後からスピリットを葬った。シャドウオブテラーだ。
 同時に、モルグスの一撃がスケルトンの脳天を勝ち割る。
「まだだ。まだいるぞ、モルグス君」
 ジークはさまよう魂を感知していた。
 この部屋の暗いところが、なお一層暗く集まっていく。……シャドウだ。
「連戦か」
 この程度の相手では、モルグスは消耗を感じてすらいない。モルグスは、むしろ戦いを楽しむような気配があった。頬には浅い傷があったが、すでに治りかかっている。 
 シャドウは言葉にならない叫び声をあげ、モルグスへと向かう。モルグスは武器を構えたが、全く持って手ごたえがない。
「物理攻撃が効かねえのか。厄介だな……」
「そちらは任せてくれ」
 ジークは魔術書を構える。
 不意に、棺がいくつも揺れはじめる。スケルトンが、2体、3体と起き上がる。
「俺の相手はこっちだな」
 同時に、部屋には嫌な気配が漂い始めていた。
「これは……瘴気か」
「……早く片付けないと、まずそうだな」
 幸い、スケルトンの一体一体はそれほどの強さではない。

 スケルトンの群れとシャドウを片付けた二人は、ついに最深部へと至っていた。
 そこは、最も高貴なものが葬られるであろう空間だ。
 そして当然、その棺を守るものもいる。
「親玉か」
「ボスはつきものというわけだ」
 棺の前には、巨大なメテオゴーレムが佇んでいる。二人の姿を認めると、巨体はゆっくりと起き上がった。
「ジーク、準備はいいか?」
「ああ」
 遠距離からのジークの攻撃を皮切りに、メテオゴーレムは反撃を開始する。図体の割に、そこそこに素早い。モルグスは突進を避けたが、その拳がどれほどの威力なのかは、えぐれた壁を見れば分かる。
 だが、モルグスはひるまなかった。そして、守りに回るわけでもなかった。
 思い切り踏み込み、横に飛ぶ。ゴーレムがぐるりと首を回す前に、視覚外に回り込み、後ろから幻打を放つ。
 重い振動が、武器を通して伝わる。
 さすがに堅い。だが、攻撃が通っていないというわけではない。……手ごたえはあった。
(形がある、ってのは分かりやすくていいな)
 ジークの魔弾が、ゴーレムの表面を削り取って炸裂する。
「こうまで堅いと、神秘攻撃もなかなか通らないね」
「効いてないわけじゃない。なら持久戦だ」
 強い相手だ。
 血液が沸騰するような興奮を覚える。

 ゴーレムが剛腕を振るうたびに、遺跡が震える。
 一撃でも食らったら、致命傷となるのは間違いがないだろう。
 二人は、ずいぶんと善戦していた。
 モルグスは前衛から身を引かず、攻撃の隙を狙っては攻撃を叩き込む。しかし、ゴーレムの一撃がモルグスを捕らえた。思い切り壁に叩きつけられそうになり、受け身をとったはいいが、壁際まで追いつめられてしまった。
 モルグスは冷静に辺りを見回し、そして瞬時に判断した。手元にあったロープを切り、落石の仕掛け罠をわざと作動させたのだ。
 落石のつぶてのあられに、ゴーレムの動きが止まる。
 土煙があらわになってみれば、モルグスは無傷だ。
 戦場は彼に味方した。ゴーレムが体勢を立て直す前に、抜け出して武器を構える。
 ジークのシャドウオブテラーが、ゴーレムの右足を捕らえて打ち倒す。姿勢を崩すゴーレムに、モルグスは容赦なく飛び掛かる。
 狙いは、背中だ。
「トドメだ」
 モルグスの一撃が、純粋な暴力という形をとり、ゴーレムに深く深く突き刺さる。

 ゴーレムは耐えたかに思えた。
 だが、ゴーレムの体にヒビが入る。
 モルグスが力を籠めると、ピシリ、ピシリとヒビはどんどん広がっていく。
 ダメ押しの、最後の一振り。
 核が砕け散り、ゴーレムは物言わぬ石塊に還った。

「遺跡はここで終わりみたいだな」
 たどり着いた玄室には、様々な宝飾品が収められていた。ほとんどはさび付いており、価値があるかは怪しかったが……モルグスは小さな石板に目を止める。
「これが秘宝か?」
「らしいね」
 丸い石板の文は、またどこかの場所を現しているらしかった。モルグスは、石板を惜しげもなく真っ二つにする。
「いいのかい?」
「山分けって話だったからな」
 半月となった石板を、二人はそれぞれに懐にしまう。
 ダンジョンを後にし、ひとときの休暇を終える。
 ……新たな冒険が待っている。

PAGETOPPAGEBOTTOM