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イラスト詳細

セラ・マクブレインの一周年記念SS

作者 茜空秋人
人物 セラ・マクブレイン
イラスト種別 一周年記念SS
納品日 2018年09月17日

3  

イラストSS

妖刀『斬雪』


「うっ……」
 まさか、イレギュラーズの私が逆に襲われるとは……。
 依頼とは全く無関係に、『揺曳』セラ・マクブレイン(p3p001082)は野盗に襲われていた。
 もっともここは幻想、野盗の襲撃などごくごく日常的な出来事で、そう珍しいことではない。だからこそイレギュラーズなどの稼業が成り立つのだし、セラにしたところで悪党どもと立ち合うのは飯の種、荒事がけっして初めてというわけでもない。ないのだが、それでもセラにとって好ましい事態とはとても言えなかった。
 これがいつもの依頼であったならば、セラは万全の計画をたて仲間とともに襲撃をする側なのだ。
 だがプライベートで一人のときに、たまたま野盗に襲われる経験などセラにはなかったし、さらにセラは本来は狙撃種であり、多数を相手に立ち回るのを得意とはしない。近接による戦闘の最中に得物は手元から弾かれ多勢に無勢、なす術もなく追いつめられていた。遠距離戦闘を専門とするセラにとって不運としか言うほかなかった。
「へへへ、抵抗しなければ、何も命までとろうってわけじゃねえ。痛いのは嫌いだろう?」
 セラの小ぶりな胸に刀を突きつけながら、野盗の一人がニヤリと下卑た笑みを浮かべる。
「うう……」
 どう控え目に見積もっても、絶体絶命。
(ああ、私、こんな小汚い男どもにいいように玩ばれるんだわ……飽きたら奴隷として売られて……)
 ネガティブな未来図を想像し、項垂れるセラ。
(こんな男たちに……――れるくらいなら……)
 それは闇市で偶々入手した刀。元来刀など扱えないのだが、それでも何かの役にたつこともあるかもと御守り代わりに持ち歩いていた刀の存在を思い出すと、それに手をかける。
「おいおい、いい加減に諦めなよ?」
「それとも痛めつけられるのが好きなのか? 奇遇だな、俺も痛めつけるのは大好きなんだ」
 野盗たちがさらに厭らしく嗤う。
(汚されるくらいならいっそ、この手で……)
 見るも汚らわしい野盗どもにむざむざ嬲られるくらいならと、セラは鞘から刀を抜き放つ。
 ――!?
 月明かりをうけた刀身が怪しく輝き、セラは――そして野盗たちも息を飲む。辺りの空気の温度が下がったのを肌で感じたのだ。


 その刀、銘を『斬雪』と云う。
 かっては名立たる剣豪のもつ業物であったが、長い時を経て好事家や富豪の手に渡る先々で傷害事件に使われ、いつしかいわくつきの刀と扱われはじめた……曰く妖刀であった。
 その妖刀が巡り巡って闇市を経て、今、セラの手によって戦いの場に顕れた。

『オオオ、コレハタタカイノバ。オレノノゾムモノ』
 サラの心に妖刀の歓喜の声が響く。
「な、なに? あなたは?」
『オレハザンセツ。オマエノモツカタナダ。サアタタカオウ』
 『斬雪』のもつ感情――そして記憶が奔流となる。
 業物故に実用品としてではなく美術品として扱われたこと。それに我慢がならなかったこと。その負の想いがいつしか呪いとなり、気が付いたら妖刀と成り果てていたこと。剣豪とともに戦うのが愉しかったこと。
 その混然とした全ての想いが一つとなり、セラに流れ込む。
『サアイコウ、タタカイノトキハキタレリ』
 刹那の一閃。
 油断もあったのだろう。その隙をついた『斬撃』が野盗の右腕に振り下ろされる。
「うげええええええええ!」
 セラの胸に突きつけられていた刀が右腕ごと地面に転がり、野盗が痛みに絶叫した。
「……」「な……野郎、何しやがる!」「て、手前!」「いぃぃぃぃ、腕が! 俺の腕がああ!」
 一瞬の後、我に返った野盗たちの怒号が飛び交う。
 が、一番呆けていたのは他ならぬセラであった。
(な、何? 今の……私……?)
 刀剣術など知らぬ素人には決して放つことなど出来ぬ見事な一斬。自分が達人にも等しい技を繰り出したことに、心底セラは愕然とする。
『オドロクコトハナイ。タタカイナラバオレガオボエテイル。ソレヨリクルゾ』
 『斬雪』の言葉に我に返ると、セラは右に跳びのき新たに繰り出された野盗の一撃を寸前で避ける。遠距離専門といえどもイレギュラーズだ、野盗如きとは違う。油断したまま斬られるなんてことはない。
『クルゾ。コウゲキハオレニマカセロ』
(わかりました。お願いします)
 残る野盗は三人。その三人の攻撃を避けることにセラは意識を傾ける。素人の自分が攻撃を意識しても、『斬雪』の足を引っ張るだけ。そのセラの判断は正しい。

『ウシロニハシレ』
 『斬雪』の言に、セラは踵を返すと走り出す。
「逃げるのか!?」「待ちやがれ!!」
 追いかけてくる野盗。タイミングを計る斬雪。
『イマダ』
 セラは立ち止まり振り返る。
「なっ!?」
 身体が覚えているかのように、無意識に『斬雪』が突き出される。まるで後ろに目があるかのように狙い放たれたそれが、綺麗に野盗の胸を吸い込まれていく。あまりにも自然な一突。
「グエエッ!」
 『斬雪』に貫かれた野盗が、絶命の声をあげた。
「……女だからって、油断しすぎたみたいだな。もう容赦しねえ! いくぞ!」
「ヘイ!」
 野盗の一人がセラの背後に廻りこみ、挟撃の形となる。野盗たちの顔に、先程までの油断も下卑た笑いもない。
 対するセラも、もうネガティブな悲壮さは微塵も見えなかった。
 刀を構えて凛とした瞳で野盗たちを睨み返す。正しくクールビューティ。まるで、かの剣豪がセラに乗り移ったかのように、そこにいつもの超弱気、超悲観的、超臆病なセラは居なかった。
「いつでも、どうぞ」
「調子に乗るなあっ!」
 セラの挑発に、それを合図のように野盗が動く。前から、そして後ろから。
 野盗の攻撃をギリギリまで引きつけると、セラが白い翼が大きく羽ばたかせて宙を舞う。
「……っ!?」
 野盗二人の刀が虚しく空を斬る。
 セラはそのまま後ろに翔ぶと、背中の野盗のさらに背後を取りかえし『斬雪』を袈裟切りに振る。
「グッ……」
 思わぬ背後からの一撃に、野盗はそのまま崩れ落ちた。
「うっ、うう……おのれ……覚えていやがれっ!」
 最後に残った野盗一人が旗色を悪いと見るやいなや、捨て台詞を吐いて逃げ出した。
 セラは冷徹な目でその背中を追う。獲物を狙う狙撃種の目だった。そのまま『斬雪』を構えると翼を羽ばたかせ、野盗の背中にぶつかっていく。
「ぐわあああああぁっ!」
 後には野盗の絶叫だけが残った。


「ハァハァ……終わりましたね」
 野盗を倒したものの、ただでさえ虚弱体質なセラ。慣れない近接戦闘で無理矢理に身体を動かしたためボロボロに疲れ切っている。
『オレハマダツカエル、オレハマダタタカエル、タタカイタイ』
 戦闘の余韻に耽る間もなく、『斬雪』の想いがセラに響く。
「本当に、ありがとうございます。お陰で助かりました」
『オレハ……』 
「私、刀も扱えるようになります! そして斬雪さんとこれからも一緒に戦います!」
『オオ、オオオ、アリガトオ……』
 こうして、狙撃種だったセラは侍の道を歩きはじめたのだった。

 -fin-

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