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桜ノ杜

【二周年記念】SS:祭りへ向かうふたり

 幻想のとある街から、徒歩でしばしのところ。
 人里から距離を置き、街道からは少々外れた、静かな場所に佇む庵がひとつ。
 裏手にある山からの風は、麓を流れる小川の上を通り、涼し気なものとなって辺りの暑気を払ってくれている。
 そのおかげか庵からする声は、朝日が顔を出してから少々過ぎた頃合いとなっも、暑さを気にした様子はない。
「卵、チーズ、べーこん、お野菜いろいろと、調味料あれこれ。……端的に述べると、これらを組み合わせてパンに挟む。ということですね」
「うん、そんな感じね。珠緒さんは初めて作るんだし、好きなものを選んでいってね」

 教師役、藤野 蛍(p3p003861)。
 生徒役、桜咲 珠緒(p3p004426)。
 科目、サンドイッチ。

 昨日のうちに街の市場で買い揃えてきた品々を、ぐるりと眺める。
 パンは焼きたてを購入してきた。一晩経って状態の落ち着いたパンは、食感と小麦の香りを活かしたまま、素材を受け止めてくれるだろう。
 卵は、一部の旅人が持ち込んだ生食文化のおかげだろうか、高い鮮度を保ったまま取り扱う業者を見つけることができた。
 簡易冷蔵庫(半地下の貯蔵庫に、術で作った氷と合わせて入れるだけ)を使っておけば、野菜は勿論こういった品も数日はもたせることができる。
 チーズは長期保存向きのものを選んだし、よく燻製されたベーコンはそもそも保存食だ。

 まずは食材を分担して切り分ける。
 蛍は専門家ではないし、珠緒は初めての作業ばかりだが、ふたりの丁寧な取り組みは、怪我もなく十分な結果を見せた。
 卵は茹でてから刻み、酢と油・卵黄を主とした調味料で和える。
 蛍のような知る者からすれば定番のペーストは、初見の珠緒を「卵を卵で……?」と戸惑わせたが、みそ汁に豆腐を入れ、納豆に醤油をかけて同じ膳で食す民族もいるのだ。味見ひとつで気にしなくなった。
 
 あとは、好みの食材を選んでパンに挟むだけ。
 しかし、初挑戦の生徒は実に堅実であった。感情のままに手を出す様子はない。
 数回、イメージトレーニングなのかこねるように手を動かしていたが……
「あの。やはり、一度お手本を見せていただけますか?」
「そう? 少し溢れるくらいは問題ないのだけど。それじゃあ、ひとつ作って見せるわね」
 教えるというよりは、一緒の作業が楽しい教師役であった。
 さほど多くも致命的でもないが、食材と調味料の相性や、挟む位置で変わったりするものはある。
 手本を見て、疑問点を質問して、飛び抜けて器用ではないが丁寧に実践して。
 完成品を見て、蛍を見て。微笑と共に、ありがとうございます、と。
(んんんんッ 100点満点中1000点ッ!!)
 一緒の作業ができているだけで100点なのである。加点は留まるところを知らない。満点、とは。

 できあがったサンドイッチは乾燥しないよう包み、バスケットに詰める。
 お茶を淹れ、買い置きのお菓子も持って。お弁当の準備は万端整った。
 鞄を肩にかけ、日除けの帽子(お揃い)をふわりと頭に乗せて。
「よし。それじゃあ、いきましょ! 街でやっているっていうお祭り、今日のはどんなかしら?」
「なんでも、『ニシュウネン』というやつだそうですよ」
 ふたりとも、食材は仕入れたが情報は仕入れていなかったようで。
 でも、お祭りだというし。ふたりで行けば、きっと楽しめる。
 自然に手を取り合い、庵にいってきますと告げて、でかけていったのでした。

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