日が傾き辺りが薄暗くなってきた頃
昼間は閉ざされ砦のようなそこも、明かりが漏れ幾分家らしい雰囲気になっただろうか

よやっと僕も動けそうな時間かな…

るるる♪るるる♪るるるるる♪
(大きく膨らんだ紙袋を胸に抱き、歌いながら道を歩く。夢見るような青の瞳に夜の闇に包まれはじめた街の風景を映すうち、昼間閉ざし切っていた建物に明かりが灯っていることに気がついて。)

…お家の人いるのかしら？どんな人かしら？
(気紛れな好奇心にしたがって足を止め、コンコンコンと扉を3回ノックする。)

…？今の…聞き間違えじゃなかったら、ノックの音…？
（さて今夜はどうしようか…と思考を巡らせていたところ、表から聞こえてきたノックの音。今まで碌に訪れる者等なく、当然鳴らされることのなかった音に驚き…来客への期待と聞き違いへの疑念を抱き扉へ）

え、と……誰か…いるの？
（そっと、伺うようにゆっくりと開けられた扉。そこから覗いた顔は日に当たら無いため色素が薄く、白い肌と髪の少年のようだ）

あ、いた。
(扉からのぞいた人影にパッと表情を華やがせ)

お兄さんこんにちは。はじめまして。
私、ルミエール。お菓子は如何？
(小鳥が囀るような可愛らしい声で語りかけ、ちょいと小首を傾げてみせる。整えられた金の髪がさらりと一房肩に溢れた。)

…！？
（聞き間違いではなく本当に来客がいたこと、そして表情の華やぐ理由に見当が付かず面食らい）

こ、こんにちは……おか…し？それってどういう…
（なぜお菓子なんだろう、聞いていたハロウィンの時期ではないし。そういうセールスなのだろうかとぐるぐると思考が回るも悪いものではないという感覚だけ感じ）

お菓子はお菓子よ。美味しいお菓子。
街の人のお手伝いしたら沢山買ってもらえたの。
(胸に抱いた紙袋の中から可愛らしいアイシングクッキーを取り出してみせる。相手の戸惑う様子を見て可笑しそうにくすくすと笑い)

お兄さんここのお家の人でしょ？
お昼間は真っ暗だったけど、今来たら明かりがついてたから気になって遊びに来ちゃったのー。

あぁ…可愛くて美味しそうなお菓子だ。お手伝いのご褒美の……おすそ分け？
（無邪気に笑う姿に緊張を下げながらもあまりに無警戒な訪問への戸惑いは残して）

うん、そうだよ。
昼間は…そうだね、僕が昼間は動けないから。どうしても夜になっちゃうんだ。
こんな時間に遊びになんて…君、お家にはいいの？

うん、おすそ分け。
私一人で食べてもいいけど、今日は分けっこしたい気分なの。

お家にはね、好きな時に帰ればいいの。
私が何処で何してるか、私の父様には視えるから。
何処へ行くのも、何をするのも自由なの。
お兄さん暇？暇なら遊ぼ？

そうだね…じゃあ、貰おうかな

結構放任な親…ってわけでもないのか。それもギフトかな
でも見てるだけじゃ、もしなにかあったとしても間に合わななくない？
まあ、君がそういうなら僕はいいか…
僕は何か予定があったわけじゃないし暇だよ

うん。
もらった時一枚食べたけど、甘くてとっても美味しいの。変な毒も薬も入ってないし、大きくなったり小さくなったりもしないわ。きっと、多分だけど。

えっとね、私と父様は繋がってるの。
父様は私のご主人様で、私は父様の眷属なの。
だから大丈夫。
(幾らか言葉足らずな説明。果たして言わんとしている事が相手に伝わるかどうか。何しろ少女は不器用なのだ。内面が幼い事も相俟って、他人に何かを説明することは正直なところ余り上手くはない。)
じゃあ、お家にお邪魔してもいい？
クッキーもあるしお茶会しましょ？
(だが、少女にとってはそんな事柄よりも目の前の彼と遊ぶことの方が重要であるらしく、断られるなどとは微塵も思っていない様子で無邪気に笑う。)

見た目も美味しそうだったしね
大きくなったり縮んだりなんて、あったらアリスのお菓子みたいだ

ご主人様で眷属…僕が向こうで作ってたようなのかな
（本来の世界で血を吸い自分の眷属を作り出していたのを思い出し、
それと似たようなもの…この少女も誰か主に作り出されたものなのかと経験から想像し）
所謂保護者さんの同意もあるものみたいだし…いいかな？
僕の飲むものしかおいてないから口に合うものがあるといいけど！
（保護者の有無に関係なく、なにかをするつもりもないし
相手が居なければ今夜も暇するだろうことを考えれば断る理由もなく）

ふふ。お邪魔します。
そういえば、お兄さんの名前をまだ聞いてなかったわ。お兄さんのお名前はなあに？

うん、どうぞ
（言いながらドアを開けて屋内への道を作る）
そうえば、名前を教えてもらったのに僕はまだだったね。
ゼンツィオ、僕はゼンツィオだよ。

ゼンツィオ。ゼンツィオお兄さんね、覚えたわ。
今夜は宜しくね。仲良くしましょ。
(嬉しそうに目を細め、屋内へ足を踏み入れては内部を見渡し)

あ、そうだお兄さん。
「吸血鬼は招待されなければ未踏の建物には入れない」って本に書いてあったけどあれって本当？

そうそう、ゼンツィオ。よろしくね。ルミエール。
（屋内に入り内側から見ると…その家は日光を遮る為窓という窓、光の入りそうな場所にはすべて分厚いカーテンを引くか板を打ちつけている。それを除けば外に出られず暇を持て余したゼンツィオによって掃除されており、一人暮らしの家としては綺麗な部類だろう。）

ああ、こっちに伝わってる吸血鬼のお話しのひとつだね。
僕の世界の吸血鬼で言えば招待されなきゃ家に入れないなんて制約はないよ。
他だと…流れる水を渡れない、だっけ？それもないね

ふぅん。世界によって違うのね。
窓が全部塞がってるのはお兄さんが吸血鬼だから？

みたいだよ？僕もこの世界に来てから知ったけどね
そうそう、昼間に日光が入ってきちゃうと困るから

吸血鬼は日光に当たると焼けちゃうっていうものね。私のお友達の吸血鬼の猫ちゃんは太陽も平気みたいだけど。夜しかお出かけできないのはちょっと不便そう。退屈しない？

そうなんだよね…僕みたいに日光がダメなのもいればへっちゃらなのもいるからね
退屈だし、不便だねー。やっぱり大抵の人と物は昼間に動くから夜だとそんなにだし

ずーっと夜ならいいのにね。
皆既日食とかおこれば楽しいのに。
(目に付いたテーブルに菓子の詰まった紙袋を置き)

お兄さん好きな飲み物はなあに？
紅茶？コーヒー？トマトジュース？

皆既日食！確か少しの間だけ太陽がかくれちゃうんだっけ？
その間だけなら、僕も昼間の外にこのままの姿で出れるかもー

んー…普段飲むなら紅茶か、コーヒー？
トマトジュースは似てなくもないけど血じゃないし…ぁ、コーヒーはお砂糖入りでね

そうよ。お昼なのに真っ暗になるの。
自然現象だと滅多におきないけど。

うん、じゃあ紅茶。紅茶にしましょ。
新鮮な血はまた今度。
(ぽんと軽く手を叩けばテーブルの上に
白磁のティーセットが現れる。)

ここで起きるのを待ってたら何十年後、とかなっちゃうかも？

うん、紅茶でも……ぇっ
（ティーセットはどこだったかな…と振り返ろうと
テーブルに現れたそれにいつの間に、と目を奪われ）

うふふー。
(目を見張る彼に少し自慢げな表情を向ける。
テーブルの上にはポットやカップのみならず、ミルクポットや砂糖壺も並んでいて。)

私ね、魔法使いのムスメなの。
だから魔法が使えるの。
青薔薇の魔女って呼ばれてるのよ。

（次々と出てくるものを見つめながら）
へぇ……凄いな、どこからこんな…
レベル１のせいで皆似たようなものって思ってたけど…

魔法？ギフトとか…あれともまた違うのかな

内緒ー。

お兄さん、紅茶にお砂糖とミルクは入れる？
私はいつもお砂糖沢山入れるのよ。

むむっ、内緒なんて言われちゃったら気になるなぁ…

僕もお願い！たっぷりめで甘いのがいいな

はあい。
これでもこの世界の法則に縛られて
できること随分少なくなっちゃってるのよ？
前はいつでもどこでもどんなものでもお菓子に変えたりできたのに、今は出来ないの。残念。
(二つのカップに紅茶を満たしては琥珀色の水面に白いミルクと砂糖を沈め、銀の匙でかき混ぜる)

いつでもなんでもお菓子に…
いいなぁ…僕も殆どなにもできなくなって、デメリットしか残ってないから羨ましいや。
（手際よく準備されていく紅茶の様子を見入るようにしながら

混沌肯定。面白い法則だよね。
便利なようで不便だけど、そのままならなさが愛しいわ。
お兄さんは元の世界だとどんなことができたの？
どんな生活をしていたの？
(淹れた紅茶を「どうぞ」と手で指し示し、椅子に腰掛ける。事情を知らぬ第三者がみれば「少女こそがこの家の主人である」と認識しかねないごく自然な動作。)

じゃあ、ルミエールは混沌肯定は嫌いじゃ無いんだ？
んー…一番は影を操ることかな。
大抵のものは作れたし、制御下にあるうちは日中でも消えないんだ。
（ありがとう、と紅茶を受け取ってその対面に座り

当たり前に手元にあったものを当然の様に奪われる。
そういう事には慣れているから。
一番大切なものは取り上げずにいてくれたから、嫌いというほど憎んではいないわ。

影を使って遊ぶの？愉しそう。
お城を作ったりもできたのかしら。

…それに慣れてるっていうのもどうかと思うけど。
僕は取られる側じゃなかったからあんまり好きじゃないなぁ。

できるよー？
陽の光が苦手だからね、昼間は作った城の中で過ごしたりするんだ。

いいないいな。
ひんやりして心地好さそう。
召使いさんも影でつくるの？
それとも人間さんを攫ってくるの？

日光を遮ってるから、基本的にひんやりだね。

召使はそれぞれだよー。
影から作ったのもいれば従えたのもいるし。
あっちだと人間はあんま労力にならないし、
食料としてが主だった…かな？

食料…。
そういえば私、人間さんをお菓子にして食べたことはあっても、そのまま食べたことはまだなかったのだったわ。
どんな味かしら？甘いかな？

んー…甘いのはめったにないかなぁ。
味自体はお肉のあれと似たような感じっていうか…
血だからね、だいたいそんなの。

鉄みたいな味？そっかー。
…お兄さん、もしかして元の世界だと偉い人だった？

まるっきり鉄って感じじゃないけどそんなかも。
僕らにはそれがご飯だし美味しく感じてるけど。
んん…普通の吸血鬼だったけど、あれを偉いっていうのかな？

王様って感じじゃないけど王子様みたいな。
気紛れで求婚しにくる人間さんとかいなかった？

きゅ、求婚っ？…ってあれだよね、男女の…？
そんなのは居なかったかなぁ…

いなかったの？意外だわ。
ということは、お兄さんってもしかして…。

もしかして？（きょとん

童貞？

ど、どどｄ童貞？？

童貞ー。
あれ？もしかしてわからない？
あのね、童貞っていうのはねー。
(一切恥ずかしがる様子なく意味を説明しようとし出す)

わっ、わかってるから！わかってるよ！？
大体の意味は知ってるっ！

うん、そうだと思った。
慌てちゃって、お兄さんったらウブなのねー。

ぅぅ…仕方ないでしょ…
こっちに来るまで、僕らには殆ど必要なかったんだから