『死ぬ時は舞台の上が良い』と役者が言った。

「ならば俺が殺してやろう」と脚本家が嗤った。

『努力、勉強、研究……日々の積み重ねが才能を高めてくれるんだ』

「必要ない。いつどんな時も、【運命】が最もふさわしい場所へ俺の魂を運ぶのだ」

「愚者に纏わり付く白犬め、お前こそは阿呆と呼ぶにふさわしい！』

『いやいや、腐った百合ほど耐え難いものはないだろ？」

ところで、貴方の初めの台詞って何でしたっけ？

ーーー　へぇ、そう。
「オギャア」なんて随分間抜けなことを言うんですねぇ。

それで、最期はどうでした？

ーーー　あはは、そりゃ面白い！

お前の赤い靴は一生外れないよ。
結局その靴っていうのはね、血溜まりの撥ねたのとか臓物を踏んづけたのとか、そういうことの積み重なりでその有様なわけ。わかる？だからさ、足を洗ったって遅いのよ。

まな板の上にヒョロリとした人参が載っているが、あれは僕である。
そう思うことにする。そうでなければこの罪悪感は行き場を失ってしまう。

「良いよ、別に」

まな板の上ではタンタンという小気味良い音を立てながら人参が刻まれていく。
縦に斜めにバラバラになって、見るも無残である。
ああいいぞ、もっと刻め。優しくするな。
君は僕のこととなると性格も味付けも甘めになるけれど、本当はもっと本音をぶちまけて欲しいんだ。世の恋人たちはきっとそうしている。自分たちも倣うべきだ。
何かある度に提案するのだが、彼女は首を横に振ってそれ以上詰め寄ることはしない。

「他の女の人と話してるとか、私のメール無視するとか、デート遅刻されても……全然どうってことないし。良いの、ほんと。気にしてないからさ」

肉の切れ込みにこれでもかと香辛料を刷り込み、グツグツと煮えたぎる圧力鍋に放り込んで、蓋を被せる。そして、玉ねぎもルーも形無しに溶けてきたところで「もう大丈夫かな」と独りごち、彼女は僕の方を振り返った。

「いっぱいあるから残さず食べてね」