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ギルドスレッド

現在地と地平線

地平線には冬の頂

入山のピークは過ぎていたが、それでもまだ箱獣(ボクシー)の列は途切れることなく道を逸れてうねりを作っていた。先ほど二度目の往路が始まったところで、その列を山頂まで運び切るにはあと三回は往復する必要がある。

右手に広がる崖の下に作られた大きな檻では、もう一頭の箱獣が自分の腹に鼻先を埋めるように、巨大な四角い身体を丸くして、寝息をたてながら寛いでいた。長い腕と強靭な手のひらも、同じく腹の下に埋もれていて見えそうもない。
檻の外には箱獣が背負うための有蓋輛が置かれ、風になびかないようロープでしっかりと地面にくくりつけられていた。

ヤズィードは、箱獣の列からはずれ事務用に設けられた小屋に向かう途中、山の頂をおもわず、もう一度見上げた。
剣のように鋭く天に伸びた山頂は、麓からは数かに雪の白さが垣間見えるだけで、その切っ先はほとんど点にしか見えなかった。だが、そこに何があるのか知っていて眺めると、特別な感慨が胸に降りてくるのも確かだった。

時折凍えるような冷たい風が山肌を撫でながら吹き降りて、つよく地面を撫ぜては古い空気を払い去った。風が耳の中で膨張したように感じられ、その瞬間だけは、騒がしい人々の喧騒が完全に消え去るのだった。

ヤズィードはその後もちらちらと頂きに目線を馳せながら、小屋にたどり着き、分厚い引き戸を肩の力でこじ開けて中に入った。中は閑散としていて、備えられた机に男性と女性がそれぞれスーツ姿で座っていた。

「巡礼の方ですか」女性がヤズィードめがけて言った。「チケットの紛失でしょうか」

ヤズィードは応えた。
「巡礼は巡礼なんですが、歩いて登りたいんですけど」

それを聞くなり、男性が後ろの棚から大きなファイルを取り出して、女性に会釈しながら寄越した。女性は手元に置かれていた小さなメガネをかけ、向かいの端に寄せてあったスツールを手のひらで示すと「わかりました。椅子どうぞ」と言った。

ヤズィードが椅子を手繰り寄せているあいだに、女性は目当てのページを引き当てたらしく、メガネを外して手元に置く音が室内に静かに鳴った。

座って向かい合うと、まずファイルされている書類の上部を指でなぞって示し「親族の方ですか」と聞いた。

「いや、そういうわけじゃないんすけど」ヤズィードも示されるままに書類を覗き込んだが、書かれている内容は堅苦しく歪曲していて、じっくり読んでも理解するのに時間がかかりそうだった。「やっぱり部外者じゃ登れませんか」

「いいえ、可能ですよ。年に数人はそういう方もいらっしゃいます。ただし通常はあらかじめ手続きをすませておく必要があるんです」女性は書類の下部まで指を滑らせた。「箱獣による運搬でも死亡責務はおいかねますが、徒歩での入山の場合は、死体紛失に関しても我々は関知できません」

ヤズィードが何度も頷くのを確認して、男性がまた違うファイルを取り出し、今度は書類も抜き出して、女性に寄越した。
女性は受け取った書類を簡単に眺め、胸元から一本のペンを取り出すと、それらを合わせてヤズィードに手渡した。

「通常の入山時のものとはレベルが変わってきます。よろしければサインをしてください。シーシャも用意できます。入山料とは別になりますが、これがない場合は巡礼法は適応されませんので、必ず取り付けてください」

ヤズィードは書類にサインをしながら尋ねた。「箱獣で入山する場合もシーシャをつけるんですか」

「いえ、箱獣の油分が同質の効果をもっています」女性は応えた。「有蓋輛の下部から吸い上げて、霧状にして輛内に散布する仕組みになっています」

簡単なサインを済ませただけで女性は書類を取り上げ、料金を受け取った。あまりにもあっさりと、短時間ですべてが済んだ。書類を片付けているあいだに男性が隣の部屋に消えていて、戻ってくるときには外付け用シーシャを抱えていた。

それを受け取り、口元の布の下に差し込む形で管を咥え、革のボールに包まれた壜を腰にぶらさげた。栓はまだ締められているが、こぽこぽと水が沸き立つ音が管の底から微かに聞こえてくる。

「このシーシャは借り物になるんですか」ヤズィードは尋ねた。

「まさか」女性は応えた。「当然さしあげます」






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※多分

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