PandoraPartyProject

ギルドスレッド

街が隠す静寂の部屋

FLSS【夏花火】

-夏花火-

・花火大会は突然に
「…花火大会…?」
夏も終わりに差し掛かったある日、街中には「納涼花火大会」と色とりどりの花火が描かれたチラシが、所々に貼られていた。
チラシには、近日、近くの川岸で花火大会が開催される旨が書かれていた。
一緒に花火を楽しもうと知り合いに声を掛ける者、ひと稼ぎしようと屋台の計画を立てている者など、花火大会について街角は賑わいを見せていた。当日は、それなりに賑やかな催し物になりそうだ。
一つチラシを手にしたグレイルも、例外ではなかった。
「…誰を…誘おうかな…?」
尻尾を一つ揺らし、知り合いに声をかけてみようと賑やかな街角へと歩き始めた。

・お茶会にて
「花火大会?」
「…うん…みんなで…どうかなって…」
グレイルの拠点にて行われたお茶会の席で、花火大会の話題を切り出した。
最初にグレイルが声をかけたのは、お茶会にいつも顔を出してくれるリゲルだ。
「いいなー、是非一緒に行こう!」
「…それでね…ギルドのみんなにも…声をかけてみて欲しいなって…」
リゲルは、規模の大きいギルドのマスターだ。
グレイルは、自分一人が声をかけて回るよりも、複数人で誘って回った方がたくさんの人と花火大会が楽しめる、そう考えたのだ。
「分かった。俺からも声をかけてみるよ!当日が楽しみだな!
……あ、折角だから、浴衣とかも用意しておかないとなあ…」
「…うん…ありがとう…僕からも…声をかけてみるよ…」
花火大会を一緒に楽しむ人を探すため、今回のお茶会はこれでお開きになった。

・穴場を探して
「…一緒に花火大会に行く人も…だけど…見やすい場所も…探さないと…だよね…」
空を眺めながら街角を歩くグレイルは、そう呟いた。
花火大会は花火がメインなのに、肝心の花火が人込みで見えないのは、本末転倒だ。
そこでグレイルは、花火が人混みや建物に邪魔されず、綺麗に見える場所を探していた。
「…やっぱり…高い場所の方が…うーん…ここは…人が集まりそう…だな…」
街中を歩き回って探してみるも、なかなか良い場所が見つからない。
どうしても花火が良く見える場所は、人が集まってしまう。
その証拠に、事前に見つけていた穴場も、結構な数の人が下見に様子を見に来ていた。
「…流石に…人混みが無い…というのは…難しいのかな…」
これより前に様子を見に行った候補も、いつもは誰もいないような場所なのに、下見役と思われる人が、姿を見せていた。
グレイルは少し落ち込んだ様子で、一度自身の拠点へと戻ることにした。

「………ん…あれは…」
グレイルが拠点へと戻る途中で、街中に見知った顔を見つけた。
それは、滅多にいない獣種の魔術師として、街角で知り合ったラデリだった。
最近、あまり出会うことが無かったので、しばらく話でもしようと、声を掛けることにした。

「……あぁ、花火大会か。街角のチラシが目についたからな、そのような催し物があることは、知っているよ。」
「…うん…それでなんだけど…一緒に花火大会…行かないかなって…知り合いにはもう声をかけてるし…結構な人が…来てくれるとは思うけど…」
「あぁ、俺で良ければ、参加させてもらおう。俺の知り合いが丁度その日、依頼で花火大会に行けないから、一人だったしな」
「…そうだったんだね…じゃあ…当日は…よろしくね…
………あとは…見る場所…だなあ…」
「……ん、見る場所なら、俺の知り合いが見つけてくれた場所があるな。
一人であの場所を占領してしまうのも、どこか勿体ないと思っていたんだ」
その言葉に、グレイルは尻尾を震わせた。折角だからと誘った人が、偶然にも穴場をすでに見つけてくれていたとは。
しかし、今まで自分が目星をつけていた場所はすべてハズレだった。そのため、ラデリの知り合いが見つけた穴場も、同じようになっていないか、当然ながら気にかかった。
「…その場所って…他に花火を見る人で…一杯になったり…しないかな…?
 …あ…僕が目星をつけてた場所…全部ダメだったから…それで…ちょっと心配だなって…」
「その心配なら大丈夫だ。まぁ、当日まで楽しみにしていてくれ。」

・花火大会当日
花火大会当日、青い浴衣を纏ったグレイルは前もって決めていた待ち合わせ場所に、予定時間よりも少し早く到着した。
「…みんな…まだかな…」
「グレイルさん!先に来ていたのか、お待たせ!」
先に到着したのはリゲルだった。空色の浴衣が涼やかで、リゲルの爽やかさをより強調している。
「…あれ…リゲルさん…一人なんだ…」
「…あー、それが、他の人も誘ったんだけど、当日に依頼とかで予定が合わなくてさ、結局予定が合うのが俺しかいなくてね…ゴメンな」
「…ん…他に予定があるなら…仕方ないよ…リゲルさんが来てくれただけでも…僕は嬉しいよ…」
「そう言ってくれると、有難いな、今日は楽しもうな!」
「…そうだね…楽しもうね…」
二人で話をしていると、ラデリが少し遅れて集合場所にやってきた。深緑色の浴衣が、赤い毛並みと相まって、よく映えている
「やぁ、少し遅れたな、今日は誘ってくれて、ありがとう」
「…あ…ラデリさん…大丈夫だよ…そこまで待っていないから…」
「あ、ラデリさんもグレイルさんに今日の花火大会へ誘われたんですね!今日は楽しみましょう!」
「あぁ、いい思い出にしよう」
「…ん…とりあえず…予定があった人は…これで全員…かな…」
花火大会に参加できる人は、最終的にグレイルを含めて3人だったようだ。
「さて、早速だが穴場へ案内させてもらう、少し歩くがいい場所だ。期待しておいてくれ」
そう告げるとラデリは、二人を連れて穴場へと向かった。

しばらく歩いた後、花火大会へ向かう人が見られなくなった先に、その穴場はあった。年季の入った和風の民家だ。
「到着した。この民家の中だ」
「…ここの中…か…随分古い民家…だね…」
「そうだな、家の中かー、確かに穴場かもしれないな」
グレイルはハッとしたように、ラデリへ訪ねる。
「…あ…えっと…ここに住んでいる人に許可は…」
「あぁ、それなら大丈夫だ。この民家には家主がいない、いわゆる廃屋ってやつだな」
「…そっか…でも…他の人の家に上がり込むわけだし…礼儀は大事だよね…お邪魔します…」
「そうだな、ここを使っていた人に対しての礼儀は大切だよな、お邪魔します!花火大会の花火を見るのに、使わせてもらいますね!」
「…あぁ、そうだな、お邪魔させてもらう」
それぞれが民家へ挨拶をすると、一つ穏やかな風が吹いた。

・夏花火
古民家の中は思っていた以上に綺麗で、今までここに誰かが住んでいたのではないかと錯覚させるほどに、整理されていた。
「…すごく綺麗に…整頓されているね…」
「そうだな、家主がいなくなったとは思えないよな」
「あぁ、ここを使う条件として、この民家の掃除を管理人に言われていたからな…っと、ここの縁側からなら、花火がよく見えるだろう」
ラデリが差した先には、縁側の向こうに庭が広がっていた。こちらも、綺麗にされていて、川には魚も放されていた。
「ここも綺麗にしていたんだなー、ラデリさん、ありがとう!ここの魚も、ラデリさんが持ってきたのかな?」
「いや、その魚は元からいた。どうやら、ここの池は川に繋がっているらしい」
「…そうだったんだ…」
縁側で談笑をしていると、すぐに花火大会が開催される時間がやってきた。
花火大会が開催されたことを告げるように、一つ、花火が空へ打ちあがった。
3人の目線は空へ。
「おー、始まったな!」
「そうだな、綺麗な花火だ」
「…花火…綺麗だね…」
夏の終わりを告げるように、一つ、二つ、大きな花火が夜空に咲いた。

-了-

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