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ギルドスレッド

静謐と歪曲の聖堂

ある雑誌の切り抜き

(いわゆる「新聞記事」の切り抜きが、宙を舞っている)



その血錆びに塗れた教会は、冠する聖人の名より、数年前に没した司祭の名を挙げた方が記憶に残る者は多いだろう。
謂わく、「断罪のルタス」と。

聖教国ネメシスの国境付近に、このデアンの街がひっそりと存在している。
交易路沿いとは言え節制を義務とする天義の領地、娯楽も少なく金を落とす旅行客も少ないこの街は、常に貧しさに喘いでいた。
しかし、国境付近という立地のせいか、人種は聖都と比べ多少彩りがあったという。
その街の小高い丘に、例の教会がある。ルタス牧師が赴任したのは15年前であった。
ルタス牧師は非常に厳格で、神の教えに則ることを信条としていた。そして、彼は人間種以外の種族を殊更に厭う者であった。
否、厭うとは正しくない。
彼は、人間種以外の者とは生まれながらの罪があまりに重い為に「人間になり損ねた」のだと考えていた。
であるからこそ、心底からカオスシード以外の者たちを救わんとしていた。

即ち、罪を清める苦罰を授けることによって。

最初、彼は聖都から離れたデアンの人々の信仰心の薄さに嘆いた。
連日熱の入った説法を繰り返すことによって人々の信心を取り戻すと、次に人間種以外の者たちを「罪深き者」と断じた。
「罪深き者」たちは、よりいっそうの苦罰によって己が罪を禊がねばならない、と。

もちろん、その理屈に「罪深き者」と断じられた者たちは従わなかった。
ルタス牧師を相手にせず、教会にやってくることもなくなった。
すると、次第に人間種以外の子供たちの姿が街から消えていくようになったという。
ひとり、ふたり……それが十人を超えるようになると、教会から異臭の噂が流れるようになった。
更に十人が消えた頃、ようやく怪しんだ人々が教会の墓地ちかくの畑を浚えば、そこから実に二十六名もの死体が発見された。
それらの死体は

あるいは歯がすべて抜かれ
あるいは生爪がすべて剥がされ
あるいは溺死体がごとく浮腫み
あるいは隈なくていねいに炙られたかのように焼け爛れていた。

凄まじい拷問の跡の理由を、ルタス牧師はただ「罪から救うためだ」と語った。
その狂気なまでに澄んだ瞳に、街の住人たちは震え上がったという。

この事件より、ルタス牧師は当然街を追放されたかに思えた。
だが、どういった訳か、聖都はルタス牧師の有罪を認めなかった。
ゆえに、ルタス牧師は変わらず教会に封じられることとなった。
怯えた住人たちは、この狂気の牧師へ関わることを拒み教会への門扉を厳重に封じた。
そして、最低限の食料を届ける以外に、住人が牧師に関わることは無かった。

そういった不気味な平穏が続いた十年後。いまより五年前。
ルタス牧師の下へひとりの異形の女が現れたのは、この時である。


そして、女がデアンの教会から姿を消したのは、いまより一年前の事だ。

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