来客宿泊用の小さな個室
風呂トイレ、冷蔵庫完備

朝日が気持ちいいくらい強く差し込む部屋で、
窓辺に一輪、名も知らぬ小さな花が
ガラスのジャム瓶に入れて飾られている

（おお……なかなか洒落た部屋やなぁ）
（今日は色々あって疲れたし、もう寝よかな）

（なんやこれ、めっちゃ清々しい朝やんけ）
（ええ部屋貸してもらえたなぁ）

…………

（ベッドに身を投げ出し、なんとなしにコンバットナイフを抜いて刃を眺める）

（感傷か？ハッ、馬鹿馬鹿しい。鼻で笑ってまうわ）
（「殺す覚悟」、とか言い出すような歳でもないやろが）

（俺の目的は変わらん。いずれ日本に帰る、それだけや）
（そのためやったら……傷つくのも、傷つけるのも恐れはせえへん）

…………

（……けど、ええ気はせえへんな……）

（ポケットからメダルを取りだし、床に放る）
（そして２４時間が経過してメダル化が解ける前に、自分でギフトを解除していく）
（メダルが次々と人型のモンスターに変わっていった）
（モンスターはどれも四肢を破壊されていたりして無力化されている）
（その上、体に爆弾を仕掛けられていたり「荷物持ち」をさせられていたり、有栖の道具と化していた）

…………

（それらの頭を無言で踏み砕いていく）

（…………モンスターを利用することについては躊躇いはあらへん）
（モンスターの死体を加工して武器にすんのと本質はおんなじやからな）

（再びメダル化したモンスターをポケットに仕舞っていく）

（もっとも、延々と生かさず殺さずを続けるほど完全に非情にはなりきれないのか、数回で破棄する予定ではある）

……あとは「人間」を傷つけることが出来るか、やな……

（頭の中で犯罪者と相対した時の事を想像した）
（想像の中の自分は躊躇いなくナイフを振るい、犯罪者をメダルに変えた）
（続いて何かしらの理由で赤の他人と対峙した場合）
（少し躊躇いつつもメダルに変えた）

（知人。ぎりぎりナイフを振るえるがよほどの事情がない限り不可能）
（友人。ナイフを取り落とした。確実に一撃で仕留められる状況でなければ絶対に不可能）

（いざという時に躊躇って致命的な失態を犯さないよう、自分が「どこまで非情になりきれるか」を確認し、それを元に今後の自分のスタンスを決めた）
（そうして確認作業を終えると、部屋を出ていった）

（コンコン、とノックし）…有栖、居るか？
（室内の気配を探りながら）

（誰もいない。どうやら倉庫の掃除に行っているらしい）

…居ないみたいだな(気配を探ったが誰も居ない。そのまま倉庫へ)

さて
（着替えてから事務所へ行く）

（部屋に入ると、ベッドに腰掛けて考え込む）
（理由は分からないが、ギフトの性能に変化があったらしい）
（何故か今まで通りに使えなくなるだろうという確信があった）

（今後の自分のスタンスについて再び考え直さねばならないらしい）
（有栖は目を閉じて考えることに没頭し始めた）

…………よし

（しばらくの間寝ていたが、ムクリと起き上がる）
（岩人との戦いで消耗した体力は休憩によって回復した）
（なのでもう１つの方の備品を探しに行くことにした）

（クランやラナティアが普段通りなのを確認したあと、戸締まりをしっかりしてから部屋に戻る）
（が、影から影へと移動するデタラメなギフト（だと思っている）を持つ武器商人を警戒し、徹夜で臨戦体勢）
（事務所の所員が活動し始める音を聞いてから、ようやく眠り始める）

（昼まで寝てから目を覚ます）
（着替えてホルスターにサプレッサー付きの自動拳銃、マグナム弾入りのリボルバーを仕舞い、）
（暗器として懐に軍用ナイフを忍ばせた）
（以前作業着のまま素手でゴーレムと戦うハメになったので常に武器を携帯はしていたものの）
（今後は常に完全武装でいる必要がありそうだと考える）

（今のところ、有栖は「日本人のまま」「日本の自宅に帰還すること」が優先順位の第一位だ）
（もちろん二位以下が大事な訳ではない）
（自分に余裕がある間は友人を守ろうと動くだろう）
（ただ、一位と二位の間には大きな隔たりがあった）
（もし昨日の時点で朝長だけでなく武器商人・アリスターが敵対していれば、事務所を破棄して１人で逃げていただろう）

（有栖はどこまでいっても「日本人」でしかなかった）
（平和な国にいたので技量で他のイレギュラーズに劣るだけでなく）
（精神面でも悪い意味で日本人だった）

（安心のためにしばらく武装したままで過ごすことになるだろうと考えながら）
（有栖は昨日途中で止めてしまった上に散らかしてしまった３階の掃除を再開することにした）

（※「二位以下が大事な訳ではない」ではなく「二位以下が大事でないとは思ってない」でした）

…………

（なんか色々と考えているうちに面倒くさくなってイライラしてきたらしい）

…………

（無言で立ち上がり、作業着に着替えて掃除に出掛けた）