先日、街の市場を歩いていたときのことだ。

少女はひとりの青年と出会い、
そしてコーラなる飲料の存在を知った。

青年の持っていた青く発光する飲料を試すつもりはないが、発光しないものもあるという。
コーラの実と柑橘類とシナモン等で味付けされたというそれを今日。
少女は勇気を出して買ってみたのだ。

……。
（テントの中、少女は正座しながら先端が細くなった円筒形の容器を持つ。 持ち上げて、上から下から横から矯めつ眇めつ）

……。
（テントから身を乗り出す。 褐色の液体は光に透かすとなかなか綺麗だった）

（見た目、褐色の水。気泡が見える）
（匂い、未開封の状態ではしない）
（手触り、容器はつるりとしている）

（容器に張られた、これまたつるりとした赤い紙の文字を見る。 コーラというのはこの飲料の名前だろう。 裏側の文字を見れば飲料の材料もわかるが、残念ながら製法までは載っていなかった）
ふーむ…。

（糖類。なるほど甘い飲み物なのだろう。砂糖という文字が見える。もう一種類の糖はなんだかよくわからなかった）
（カラメル色素。色素…？ 染料でも溶かしているのだろうか）
（酸味料。どうやら甘いだけでなく酸っぱいらしい。甘酸っぱいと予想）
（香料。香りづけに香草などを使用したのだろうか）
（カフェイン。正体不明。謎の物質。崩れないバベルといえど万能ではない）

……。
（コーラの実も柑橘系も入ってないじゃん）

（カフェインなるものが正体不明のままだが、飲料としては人体に有害な印象はなかったので、少女は正座したまま静かに蓋を回した）
（容器をよく見れば開封するために蓋をどちらへ回せばいいのかすら書いてあるのだから、とても親切な作りである。致せり尽くせりというやつだ）

（カシュ、と音と同時に蓋から気体が噴き出した。 少女は驚かない、父や祖父たちが酒を造るとき、液体から気泡が出る様子はよく見てきた。いま溢れた気体もその類なのだろうと判断する）（開けきる）

（匂い、甘い匂い。独特の香りがする）

（容器を僅かに傾けて人差し指の上に垂らす。 冷たい）
（手で揉むとベタついた）

（指を舐める。なかなかに甘ったるい）

（以前、男が言っていた炭酸の味、というのはこれだろうか。 甘ったるさの中に独特の風味がある。悪くない）

（少女は意を決して呷った）

うッぶ、げほッ！

（噴き出した）

【完】