「慌てて借りたので急ごしらえですが、こんなものでしょうか
人をお招きするのに、恥ずかしくない準備ができていると良いのですが」

ラサの奥地、砂漠を抜けた先の緑が芽吹く場所。
彼女が普段住んでいる廃神殿から、そう遠くない場所にこの街はある。
その片隅に借りた家屋の一室で、彼女ーーーサルヴェナーズ・ザラスシュティは、不安げに唸っていた。
無理もない。かつて精霊であり、精霊種となってからは一つ所に留まらず、深い人付き合いもしてこなかった彼女に、人をもてなした経験などないのだ。

ひた、ひたと。灰色の髪を揺らして歩きながら、彼女は最後の確認をする。
椅子と食卓は買った。絨毯も買った。
茶器と茶葉を揃え、淹れ方も（付け焼き刃だが）練習した。
人を招くことになって慌てて店にあった物を買い揃えたので、部屋の中が妙にちぐはぐな印象になってしまったが、これはこの際仕方があるまい。

見た目はともかく、これで完璧。完璧なはずだ。
もしかしたら、すぐそこまで来ているかも。そう思って窓の外を見たところで、あることに気付く。紅茶と一緒に出す果物がない。

「今から市場に行って間に合うでしょうか。いえ、でもお茶だけお出しするわけにはーーーー」

迂闊な過去の自分を呪い殺したい気分になりながら、彼女は市場へ向けて屋根伝いに飛んで行く。
どうか客人が来るまでに戻ってこられますようにと願いながら。

貴方を出迎えたのは、そんな事情でもぬけの殻になった部屋だ。
家主は何処に行ったか知れないが、恐らくはすぐに戻ってくるだろう。
さて、大人しく待つか、暇つぶしに何事かをするか。

サルヴェナーズが言ってたのって、ここだよなー。
ノックしてみるか。
（こんこん、とノックするも、特に反応がない。留守かな？　試しに少しだけ扉を開いてみる。）
おーい、サルヴェナーズー…？
…って、誰もいねぇ。

（部屋のインテリアは、割と種類がまばらなものがいくつか。あんまり拘りは無いのかな？とりあえず部屋に入って、見渡し。）
ん、今は出てるってことかな。
とりあえず待ってよーかな。（一度椅子に座って待つ。）

（じっと座って時間が過ぎると、色んなことを考える。サルヴェナーズの話のこと。目隠しの理由。そんな大事なことから、なんだか下らないことまで。）

──そうだ！
サルヴェナーズがかえってきたら、ちょっとだけ驚かせてみるかな！
（きょろきょろとあたりを見回してから、部屋の入り口から死角になる位置にそっと身を潜めた。どうやらサルヴェナーズがかえってきたところに、後ろから声をかけようという作戦らしい。）

（家屋の前に降り立てば恐る恐る中を覗き、人影がないのを見て取るとホッとした様子で入って来て）
ーーーよかった。なんとか間に合ったみたいですね。急いだ甲斐があったというものです。
これは井戸で冷やしておきましょう。その方が、きっと喜んでもらえるでしょうから。

（エドワードには気付かず、そのまま果物を抱えて、裏口の方へ歩いていく）

(サルヴェナーズが歩き去った後で、こそっと物陰から姿を現し)
なるほどなー…サルヴェナーズ、くだものを冷やしてくれてんのか
驚かすタイミング逃しちまったし、それっぽく入り直すかな……(サルヴェナーズが戻ってこないうちにそろーっと入口の方に出ようと)

……？
何やら物音がーーーー（振り返れば、見覚えのある赤毛が入口の方へ向かっているのを見つけて）

エドワード、そこで何をしているのですか？（戻って来ては、その背に声をかけて）

（ぎっくーーーーっ！肩を張り詰めたままぴたりと止まる。なんと。戻る途中で見つかってしまった！）

え…えーっと。

実はこっそりお邪魔してたんだぜ！！！
いやあ、びっくりするかなあってさ。あはははは（大げさに笑って見せる！）

ーーーー

ふふ、驚きました。意外と面白いことをするのですね、エドワード。
そして、我が家……と言う程住んでは居ないのですが、いらっしゃいませ。
自宅だと思って寛いでくださいね。
貴方のために果物を用意してあります。食べながらお話しましょう。
お茶は、カルダモンティーで良いですか？苦手であれば、普通の紅茶やミルクティーも淹れられますが。（テーブルに林檎やザクロを置いて、椅子を勧めて）

ははっ、つい魔が差したっつーか、なんとなくさ。

まじ！？じゃ、ごちそうになろっかな！
カルダモンティー？飲んだことねーかも！せっかくだしそれもらおうかなっ（話しつつ、勧められた椅子に腰かけた。）

それでは、張り切って淹れないといけませんね。
少しだけ待っていて下さい。お湯はもう沸かしてありますから。

（ややあってお茶を淹れて戻ってくれば、迷うように視線をそらして）

それで、今回のお話ですが……

ありがと！（サルヴェナーズが持ってきてくれたお茶を受け取って、ゆっくり口の中を潤した。）

と、そうそう。
サルヴェナーズの目のことだよな。
オレとしてはやっぱ、心置きなく景色とかを見れた方が、いいと思うんだよなー…。オレが冒険してきたとこでもさ、びっくりするくらい綺麗なとことか、あったから。

やっぱサルヴェナーズの目って、力を抑えたりすんのはむずかしーのか？

それを言いにここまでーーーやはりエドワードは、面白い方ですね。気遣ってくれて、ありがとうございます。
意識していれば抑えることも可能ではあるのですが、ふとした瞬間に無意識に使ってしまうことがあるのです
だから私は、コレを着けておいた方がいいのですよ。そうでなくとも、この目を怖がる方も多いですから

それに私は、直接目で見なくとも感じるのです。葉の擦れる音、霧や森の匂い、身を撫でる風の感触、美しい景色を見た貴方の息遣い。それだけでも、十分に満足ですよ。

ひひ、そーかな？（面白い、という言葉にはにこっと笑みを見せた。）
仲良い奴に綺麗な景色を見せたいのって、そんなに特別なことでもねー気がするぜっ

サルヴェナーズは、エルナとの時もたくさん助けてくれたしよ。
こういう形での礼にもなるかなって思うし……
あと、サルヴェナーズって普段は静かだけど、楽しそうな時は、ほんと楽しそうな反応するからなっ、

（少し考え）
んー……なるほどな。
そんならさ、サルヴェナーズ、実際に見に行ってみるか？すげー景色のとことかっ

あれは私がそうしたいと思ったことをしただけですから、本当にお礼をしていただくには及ばないのですがーーー
ですが、そうですね。エドワードさえ良ければ、連れて行って頂いてもよろしいですか？