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ギルドスレッド

某所

【RP】Le souvenir de la neige【低速】

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リズリー・クレイグとの1:1RPスレッド



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 初めは当たり障りのない会話だった。
 脇腹を指でつつき、それを払うという手の動作を交えての世間話。
 そして、この一言が現状を招いた最大の原因である。

「鉄帝って苔以外食べ物あるんですか?」

 鋼鉄の寒風を吹き飛ばす喧噪で店は犇めいている。
 テーブルには向かい合わせで座る寂しい女が二人。
 一人は料理に顔を埋め、一人はそれを愉快気に眺めていた。
「ぼぶぶび……ばべばべばい……」
 ピンクの頭が謎の言語を発する度、空気と共に料理が吹き零れる。
「あー?なんだって?」
頬杖をついて、ジョッキを片手に訊き返した言葉の端には、隠し切れない笑いが滲んでいる。
 のそりと顔をあげる。炒られた米や肉の粒がポロポロ剝がれて落ちていく。

「んぐ……。苔以外食える物があるのはわかりました。
 でも頼みすぎでしょ。頼みすぎだよリズリーちゃうォエ……ッ」
 喉までせり上がってきたそれを飲み下す。もはや何を食べ何を飲んだか定かで無くなるほど頭がぼやけてきていた。
「……鉄帝ってこんなに食糧に余裕あるんですか? あ、でも海洋王国から支援されてるんでしたっけ」
 一層判然としない記憶から、父の言葉を探り当てて捻りだす。確か今年に限って食糧支援がなされているとか、なんとか。
「ははっ、悪い悪い……おっと、料理の上にぶちまけるのは勘弁しておくれよ?」
“苔食”発言に本気で怒ってはいない。どちらかと言えば、その少しばかり癪に障る言い方に対するお返しというか、じゃれついてみたようなイメージ。追い詰めはしても、トドメを刺す気はハナからなかった。

「んーそうだね。支援で今は多少楽になったろうが、鉄帝国って括りで見りゃ未だに余裕はないだろうね。けどまあ、そりゃあくまで全体の話……あるところにはあるものさ」
残った皿から腸詰を摘まみながら、どこか他人事のように話す。
 水の入った、粗野なジョッキに口を付ける。口の中に滑るように入り込む冷たさは周囲の熱気と比べると氷のよう。熱の籠り始めた体の熱もゆっくり消えていく。「ふーん」と漏らす、興味の在処を掴めない声色の主。
 しかし若芽色の瞳を見つめる、眠たげな視線だけは動いていない。

「こんな国ですからね」
 その言葉も相手に届いた後は周囲の喧騒にすぐさま消える。
「麦も稲もトウモロコシも育たないんじゃ首都より離れたところは酷いんでしょうね。リズリーちゃんって鉄帝のどの辺の人なんですか?」
ジョッキを逆さにする勢いで酒を呷る。水でも飲むように一気に中身を空にすると、テーブルに小気味よい音と共に叩きつけた。

「わかってるじゃないか。こういう国さ、良くも悪くもね」
決して褒めていないような言葉選びながら、その声色は肯定的なもの。
「アタシかい?アタシはヴィーザル出身だよ。それも鉄帝軍人一人来やしない辺鄙なところのね」
誇るでもなく、声を潜めることもなく、何でもない事のように伝える。
「はーん」
 またも興味の失せている声色。質問している以上、この場合は「酷い場所」と称した郊外出身であった事実への悔悟や呵責の無さの表れか。

「麦も稲もトウモロコシも育たないけど人は育つもんなんですね。今もそっちに住んでるんですか?」
 ジョッキを両手で支え、口に付けたままくぐもった声で「家族とか多そう」なんて付け加える。
「ははっ、興味無さそうだねえ」
反応の薄さに気を悪くするでもなく、かえって新鮮だと笑って。

「確かに、麦も稲もトウモロコシもないが、芋も根菜も育つし獣も獲れる。ちょいと厳しいきらいはあるが、生きるには十分さ」
空のジョッキを振って追加を頼みながら、「そういえば数年帰ってないねえ」と呟いて。
「血が近いのはそれなりに居るが、家族って言えるのは親父一人さ。久しぶりに顔見せてやってもいいんだけどね……最近はちょっと情勢が悪いだろ?」
 ジョッキを置いて指を宙で回す。

「あれですかアイツら。あの。こないだ集落助けに行ったときとか。なんかスナイパーにねらわれた時とかのあの」

『アレアレ』と呪文を唱えて首をかしげている。
遅れて鏡合わせにに首を傾げて。

「アレ……?ああ!あの鳥野郎かい。そうそう、ああいう奴らに目を付けられかねないからね。アタシ一人ならまだ無茶も出来るけど、里には若いのもいる。いたずらに危険を呼び込むようなこたぁしたくないのさ」

件の鳥スナイパーたちを一人で相手するとなると相当に面倒そうだと、煩わしげにため息を吐いた。
「蛮族が蔓延ってる。鉄帝はやっぱ怖いね」
 それも口だけ。あの暗くて深いウォー・ウルフの森の中で、腕から矢を引きずり出す痛みに眉一つ動かさなかった女の顔には恐怖の影すらない。

――体制に立ち向かう彼らを蛮族というのは、どうなんだろう。まあいいか。悪い事してたし。
「仲間思い? 家族は一人って言うけど、リズリーちゃんは家族思いって感じする」
「へえ、家族思いか。そう見えるかい?」
少し照れ臭そうに頬を掻いて。

「そういや、ラグラはどの辺の出身なんだい?口ぶりから鉄帝じゃなさそうだけどさ」
「どこからどう見ても清く正しい幻想ガールですが?」

 どこからどう見れば、だが。こんな寒いとこに生まれたら産んだ親を恨みます、と叩く口ぶりは、鉄帝の脅威にさらされている幻想人らしいと言えば、らしいかもしれない。
 貴族は貴族同士でいがみ合い憎み合う事に忙しい。そして庶民は自身のいる土地を脅かす外敵が憎らしい。というのが生まれて数年間で得た幻想の大まかな認識。

「今あっちはここみたいにデカい反抗勢力はないですからね。ノーふんふダム?」

 ゆえに他国については殊更理解を持っていないのは自明であった。
 そこまで言って、疑問を呈する。
「あれ。ヴィーザルってそのノーふんふ一のとこですよね? もしかしてクーデター派ですかヒューッ!!」
「幻想か。確かに、こっちに比べりゃ随分平和そうだ」
表向きは。声には出さず、酒と共に言葉を飲み込む。
何せ常日頃から貴族が腹の探り合いをするような国だ。そういう勢力が居たとして、鉄帝程わかりやすく現れはしないだろう。
「ノーザン・キングス、だよ。アタシは違うけどね」
安定しない呼称に訂正を入れつつ、不愉快そうに鼻を鳴らして。

「余所から見れば同じに見えるんだろうが、ヴィーザルに住んでるからって全部が全部ノーザンキングスってわけじゃないってのは覚えておいて欲しいね」
「じゃあ彼らからしてみれば反抗勢力ってことになるんですね」

 不愉快な面を見せた彼女から目を離して、持ち上げたジョッキの水面へ。「全部が全部そうではない」。ならば「そうではない」彼女の部族は厄介者のはず。
 反抗勢力などと物々しい扱いはされずとも、道にある障害を跳ね除ける程度の事は混沌諸国が領土を広げていった様に、かの連合国家も行うだろう。
「従わないってだけで、積極的にバチバチやってるわけじゃあないけどね。基本アタシらは里の周りに引きこもって暮らしてるから、向こうから来なけりゃ何にもならないしさ」
しかし、近年のヴィーザルはノーザン・キングスとしてかなり纏まりつつある――鉄帝攻めよりも3部族間での内部抗争が頻発しているのを加味した上でも、だ――いつ情勢が牙を向いても良いように、動くための備えをしなければならないと感じている。

「はあ、面倒だねえ」頭なんて使わずに生きていたいと深く溜息をついた。
「ふーん」
 3度目。
 興味の失せている声色。しかし今回は、その無関心の行先を思索する間もなく声が紡がれた。

「生まれ故郷だから、見捨てられないんですか?」

「面倒」と言い腐るその様に純然な疑問。どうして? と問う。
 根本の問題だ。価値観の問題だ。自分と彼女では物の基準が違うことはわかっている。それでも問わずには居られない。
 水面から彼女の瞳へと視線を戻して問い続ける。

「リズリーちゃんの家族だって、その人がいなくなったらなくなるわけで。仲間は他にもいっぱいいるんでしょうけど、それもいなくなったら何にもなくなるわけで。

 そうしたら、面倒なことは考えなくて済むようになるんですよね?」
不愉快そうな顔はどこへやら、ぐびぐびと喉を鳴らして空のジョッキを順調に増やしているところへ。
「んぐ……あん?要するに、あたし以外の部族の奴らが全員おっ死んだら面倒が無くなるだろってことかい?……まあ、そりゃそうじゃないか?守るモンがなくなるんだからね」

からりとした様子で言葉を重ねる。
「何が聞きたいのかよくわかんないけど。面倒なこととやるかやらないかはまた別の話さ。今は確かにローレットとしてこっちに居るが、別にアタシはヴィーザルの…ベルゼルガのリズリーであることを捨てたわけでもないしね」
「それは、自分が自分である為なんでしょうか。
 仲間の為ではなく、あくまで自分の為なのかな」
「然り」

短く力強く、明確に言い切る。

「アタシ”たち”は皆、自分が自分であるために生きている。部族のためにではなく、部族の一員である自らのために戦い、時に仲間を助け、最後には死ぬのさ」
 生きて戦って、死ぬ。
「野蛮だね」と、言葉を受けて呟く。声に抑揚はない。けれど確かめるようにそっと触れるような音で。
「誰が見ていなくとも、何所にも残る事は無くても、そうやって、ですか?
 そうだとしたら、それは……」

 確かめる言葉を、数瞬の間の後に断つ。
「すみません、何でもありませんでした」
 ぽっかりと開けた口を確りと閉じてから、手の内にあるジョッキの中へ目を向けた。
 閉ざした言葉を水で飲み下す。この寒さの中にあって、すっかりぬるくなっていた水は自分の腹の中で不快な存在感を顕している。あるいはそれは、異物の所為か。

「リズリーちゃんのとこの人達って、みんなそーなんです? えーっとお父さんも?」
何かを避けるように言葉を選ぶ様子を、頬杖をついてじっと見つめ、耳を傾ける。
が、結局言葉は紡がれず。拍子抜けしてがくりと頬が滑り落ちた。
「ふふ……なんだい、煮え切らないねえ。ま、いいけどさ」

皿に残った冷めた料理を口に放り込みながら軽い調子で答える。
「んー、個人差はあるけど、大体そうだと思うよ。長としてのタテマエ的振る舞いがあるが、親父も根っこは似たようなもんだし。そもそも馴染まない奴はさっさと死ぬか部族を出てくかするからさ」
名を捨てて部族を去ること。それが自らの選び出した答えならば、それは尊ばれるべきである。惜しまれ引き留めようとすることはあっても、阻むことはない。
 生きるが故に馴染めない。染まれない。きっとその理由もまた様々なのだろう。
 部族として生きる道も故郷を捨て外で新たな道を拓く事も、どちらも険しい戦いに違いない。その途上で命を失う可能性は、どちらにもある。

 けれど。
 彼女達の生き方が如何に彼女らにとって炎の如き気高さを秘めているとしても。その熱さゆえ雪が溶けた跡に水溜まりしか残さず、いつかそこに何も残らなくなるのだとしたら。
「……どっちみち死ぬんですか。やっぱり野蛮でごぜーますわ。
 まあ皆、いつかは死にますけど」

 凍土にて赤く燃えるか、暖かい土地へ芽生えを探索に出るか。
 いつか全て無くなるのだとしても今を生きるならどちらが自分に合っているかという話なら。
「リズリーちゃんはそうしようと考えたこと、無いんです?」
 彼女は自分の中で今の自分に誇りを持っている。けれど「もしその道を選んでいたとしたら?」と、言葉尻に付け加えるなら。例えばの話をするなら、どうだろう。
「考えたことが無いから実際わからないけど、そういう道もあったのかもしれないね」

部族を捨てて外へ行く道。27も生きて自分の道を定めた今では、絶対に選ばない道だ。
けれど。在りし日の自分が、白銀の野山や、雪深き針葉樹林、吹雪の明けた晴天の空に魅せられて、ヴィーザルの大地に特別な想いを持つに至ったように。
もっと早く、外へ興味を抱くような何かに出会っていれば――道はまた、変わっていたのかもしれない。

「だがまあ、こんなのはたらればの話さ。何の因果かローレットのイレギュラーズ、なんて身分になっちまったが、それ以前にアタシはヴィーザルのリズリーだ。それをやめるつもりはない」
たとえ、もっと良い未来に進む道があったのだとしても。
たとえ、命が露と消え、死した跡に何も残らなかったとしても。
今の生き方に後悔はない。最後まで自分の意思で生きて、死ぬ。それだけで……それにこそ、他の何物にも代えがたい価値があるのだ。
――揺らがないなあ。
 けれど、この問いも或いは答える前からわかっていたのかもしれない。彼女の気勢を知っているから。あの雪原で、あの荒野で、あの山で、彼女と共に戦場で戦っているから。目の前に座る彼女なら、そう答えると。
 縛り付けるモノもなく、押し留める事もない自由な在り方。
 それはそうさせてくれる環境、そうしたいと思える場所。彼女の父をはじめとした家族、仲間がいるからなのだろう。

「やっぱり家族思いだねリズリーちゃん」
 少々の間を以って紡いだ、本人以外にはやや突飛にも思える言葉は音を発せず編み上げた結論か。それはきっと、彼女が彼女である限りその周囲を守ることにも繋がると思ったから。
「あん?家族思い?んー、どうだろ」
世界が滅んだら困るからとあまり深く考えずにこちらに居て戦っている現状、気にかけてはいても部族の事はほとんど放っておいてしまっているのもまた事実。
部族の、家族のために、なんて深い思い出やっているかと言われると怪しいが……
「まあ、家族思いかどうかは置いといて、部族の奴らのことは好きだよ。照れ臭いから面と向かってはあんま言わないんだけどさ」

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