公認設定一覧
饗世 日澄が公開している公認設定の一覧です。
ある偽善者の昔話
日の眩さを知ったのは、未だ父の身の遺る天義の家を姉と共に出た時のこと。
戯曲から言葉を、物語から数を覚え、しかし自らの性別も知らぬまま、「彼」は放浪した数年さえも朽ちた植物の様に過ごす筈だった。
──その転機は、街娼となった姉が運命に殺される事を厭うて「彼」の手に刃を握らせたこと。
それが狂気に堕ちた姉の唯一の願いで有ったのだ。
或いは既に魔種と成り果てていたのかもしれない。
何故なら、最期に姉が意思を持って口にした名こそは腹の仔の物ではなく。かつての『彼』の──
そうして泣かぬ筈の姉の仔が産声をあげた時、「彼」は愚かにも、生きる意味を錯覚した。
それこそが、知りえたはずもない愛であると。(300文字)
戯曲から言葉を、物語から数を覚え、しかし自らの性別も知らぬまま、「彼」は放浪した数年さえも朽ちた植物の様に過ごす筈だった。
──その転機は、街娼となった姉が運命に殺される事を厭うて「彼」の手に刃を握らせたこと。
それが狂気に堕ちた姉の唯一の願いで有ったのだ。
或いは既に魔種と成り果てていたのかもしれない。
何故なら、最期に姉が意思を持って口にした名こそは腹の仔の物ではなく。かつての『彼』の──
そうして泣かぬ筈の姉の仔が産声をあげた時、「彼」は愚かにも、生きる意味を錯覚した。
それこそが、知りえたはずもない愛であると。(300文字)
ある偽善者の昔放
愛することは紛れもない『善行』である事実も。その余地を与えられなかった過去こそが、苦悩に満ちた家族愛の顛末であったことも。
飛ぶ鳥に手を伸ばす赤子の笑みも、そのあと初めて喋ったこの名の愛おしさも。
何も知らずに息をしていた。
自らのギフトが終いには助けを求める声さえ奪う事も、もう既に事切れた「子」を抱く以上を許さない事も。
何も知らずに息を絶やしたかった。
その筈なのに、気がつけば傷んだ我が子に『口付け』ていた。
『悪行』を為せとがなりたてる生存欲が、慈愛を騙る傲慢の腹を満たして『彼』に産声に上げさせた。
だからこそ、世の運命にも善悪にも縛られぬただの「人間」としての生を
望んでいたのに。(300文字)
飛ぶ鳥に手を伸ばす赤子の笑みも、そのあと初めて喋ったこの名の愛おしさも。
何も知らずに息をしていた。
自らのギフトが終いには助けを求める声さえ奪う事も、もう既に事切れた「子」を抱く以上を許さない事も。
何も知らずに息を絶やしたかった。
その筈なのに、気がつけば傷んだ我が子に『口付け』ていた。
『悪行』を為せとがなりたてる生存欲が、慈愛を騙る傲慢の腹を満たして『彼』に産声に上げさせた。
だからこそ、世の運命にも善悪にも縛られぬただの「人間」としての生を
望んでいたのに。(300文字)