冒険
闘技場設定は『練習場』から!
永遠の町へようこそ。
――永遠の町へようこそ。
この町を訪れた者が、衛視に聞く言葉がそれだ。
小さな、そして辺鄙な町である。
一行はまず、石造りの門をくぐり抜けると、大通りへ足を踏み入れた。
石畳の両端に並ぶのは様々な商店であり、ほどなく中央のマーケットへたどり着く。
何の変哲もない、ただの田舎町である。
街道に沿っている訳でもない。近隣の村落から特産品が集まるでもない。
ならばこの町は、いかにして成立しているのか。
それも、こんな大仰な名前をして。
話を続ける前に、まずは依頼内容についておさらいせねばなるまい。
一行が受けた依頼は、あろうことか『永遠を終わらせること』であった。
町は小さいながらも、活気に満ちて見える。
例えば――あちらでおしゃべりしながら歩く若者達は、その手に肉を挟んだパンを持っていた。
そっちのご婦人は、店内で美しく織られた布を品定めしている。
聞こえてくる怒鳴り声ほども大きな声は、八百屋の店主が値引きを始めた合図だ。
参加者一覧 | |
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橋場・ステラ(p3p008617) 夜を裂く星 |
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ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371) 私の航海誌 |
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ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093) 人間賛歌 |
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モカ・ビアンキーニ(p3p007999) Pantera Nera |
探索記録
どこもかしこも盛況だ。
そう見える。
そうあれかし。
――そうであるならば、本当に良かった。
実のところ、町の全ては、まやかしだ。
手を触れると、するりとすり抜けてしまう。
夢か、幻か。
情報屋の調査によれば、この町は――とっくの昔に滅びているらしい。
声は聞こえる。姿は見える。
しかし触れることも出来ず、においも感じない。
旅の武芸者が語るように『見えるものが全てではない』などとも言うが。
いや、今回の場合は少し違うか。
この町の特色とは、一体何であるのか――
幻想(この国)に詳しい者ならば気付くかもしれない。鉄材を加工する工場(こうば)が散見される。
鉄資源にあまり恵まれない幻想にあって、近くの村で多少の屑鉄が採れたのが、この町の強みだった。
ともかく一行は、目的地へと足を進めた。
案の定と言うべきか、情報屋の言葉通りと言うべきか。
姿を見せたのは魔物だ。
手早く打破し、浄化してやろう。
短い祈りを終えた一行は、町の中央へと向かう。
そこは商工ギルドであった。
難しい表情で会議する老人達――その幻影を一瞥して、一行は二階のギルド長室へ踏み入った。
そこでは一人の老婆――ギルド長ミグラ・マーティスが、一枚の紙を眺めて涙を流しているではないか。
内容は王都に居る孫娘が勉学に励むだけの、非常に日常的で他愛もないものだ。
最後の仕事を始める前に、依頼主について語ろう。
メリエル・マーティスはギルド長の孫娘である。
この町は二十年ほど前に滅びている。
原因は鉱山から噴出した毒ガスだ。
当時メリエルは王都の学院におり、難を逃れた。
そして幼い頃から親しんだ、何もかも全てを失ったのを知ったのである。
原因が原因であるゆえに、長らく立ち入ることも出来なかった地域だが、最近の調査でようやく空気に問題がなくなったことが分かったらしい。
ところが、だ。
調査隊が町へ踏み入った際に見た者が、この光景だ。
町がそのまま、幻のようになっていたのである。
ただ一つ違っていたのは、カルサスの町という名が、永遠の町という名に変わっていたことだった。
当時、町にもたらされる鉄資源は徐々に底をついていた。
近い将来、町が衰退することは誰の目にも明らかだったのだ。
そして――勉学に勤しむ町一番の秀才メリエルの肩に、町の存亡がかかっていたのである。
残念ながらメリエルは天才に及ばなかった。
生真面目が取り柄の彼女は、それでも懸命に食いついていた。
けれど町の将来を担う社会研究は、遅々として進んでいなかったのだ。
ならば『せめて今のままで』。
願い叶うまで永遠に――
メリエルのために。
それが町の人達の願いだったという訳だ。
一瞬にして失われた命の輝きが、この幻を形作ったのだろう。
けれど弔わることの無かった魂達は、この幸せな幻影の中で彷徨い続けているという訳だ。
魔物を退けた一行は、ギルド長の幻影へと伝える。
孫娘メリエルの言葉だ。
もう良いのだと。終わらせるのだと。
すると老婆が叫んだ。
「アタシの孫が弱音を吐くんじゃないよ!」
違うのだ。
この町は全て『終わって』おり、失意のメリエルはそれでも一人勉学を続けた。
彼女が一人の学者と結婚したのは、町の滅亡から十年ほど後……つまり今から十年ほど前の話だ。
細々とした事情から子供は居ないが、そんな二人の共同研究は、王都で徐々に評価を上げている。
彼女等は今や、この町の為だけでなく、多くの人々に小さな希望の灯火を与える存在になっているのだ。
けれど未来が紡がれたからといって、人の無念が消え去るはずはないだろう。
だがこの町の幻影が、ただの一人の為に祈られた結果だったとしたらどうだろう。
不死者へ言葉を届けるのは難しいが、けれど一行は彼女が言った『ありのまま』を老婆に伝えた。
ふがいない孫娘で、町の未来を切り拓く期待に応えられず、申し訳なかったと。
手を震わせた老婆は手紙を取り落とし、口を開いた。
「そうかい」
ただの一言。
だが頑張ったのだ。孫娘は。
故郷を失い、後ろ盾もなく、苦学にめげず信念を貫いた。
そしてようやく、実らせようとしているのだ。二十年の歳月を賭して。
はじめの願いは叶わなかった。だがそれは、彼女のせいではない。
この町が滅びたのは、言ってしまえば『不運な事故』だ。
けれど彼女は、それでも未来へ続く何かを成し遂げようとしている。
老婆は一行の言葉に固唾を飲む。
「それならもう、一丁前風情た言えんこともないが――だがまだ青い」
そこまで伝えてもギルドの態度は頑なだ。
さすがに強情だが、未練が残るならばさもありなん。
だから一行は聞いてみた。
本当に「孫娘へ重荷を託したのか」と。
押し黙る老婆に、もっと言ってやった。
自身らが成し遂げることの叶わなかった願いを、ただの一人に背負わせたのかと。
しばしの沈黙があった。
長い静寂の後に、老婆はようやくこちらへ視線を定めた。
なにか、覚悟のようなものを秘めた瞳をしている。
ギルド長は息をゆっくりと吸い込むと、正確にはそのような虚像を見せると、言葉を連ねた。
「悪かったのは、あたしさね。本当にすまなんだ」
老婆は続けた。ただの一人に全てを背負わせてしまった後悔と謝罪を。
孫娘へ、本当に言いたかった言葉。
本当の未練を口にした。
――だから、幸せにおなり。可愛いメリエル。立派になったもんだよ。
あんた一人でも報われてくれるんだったら、あたしゃそれでいいのさ。
挑戦結果
――風が霧を払うように、眼前の幻が消えて行く。
こうして、さまよえる魂達は、全てが浄化された。
これで終わりだ。
永遠を閉ざした一行は、カルサスの町だった場所を後にした。
これは依頼内容には含まれないが――依頼主に、最後の言葉を伝えてやろう。
たしか、ここだ。
二人の女性研究者が、隣国との貿易と流通による経済効果について研究を重ねている屋敷である。
高度な算術の式を書いた羊皮紙が、所狭しと散らばっている。
メリエルへ全てを伝え終えると、彼女は泣き崩れた。
彼女の妻、最愛の伴侶にして最も頼れる共同研究者が、その背を支える。
「本当にありがとうございました。この御恩は忘れません」
その背を胸に預けた姿は、どこかほっとしたものと、これからの何かを感じさせるものだった。
そんな光景を背負い、一行は踵を返した。
彼女はきっと、幸せだ。
過去を失いながらも、見つけたものがあるのだと。
戦績
攻略状況:攻略成功!