PandoraPartyProject

冒険

闘技場設定は『練習場』から!


にゃんだふるらいふ


 様々なの人々が行き交う交差点。
 人々はみな忙しく、手元の小さな端末を見ながら、または目的地を目指して素早く足を動かし、沢山の大きなハコに囲まれた街を通り過ぎていく。
 ――ここは、再現性東京。
 大きなハコには、沢山の人や店、会社が詰まっている。所謂雑居ビルというやつだ。宿泊施設の場合もある。
 それらが立ち並ぶ中に、可愛らしい看板のついたひとつの店があった。

『癒やしの空間、「にゃんだふるらいふ」
  あなたの日々の疲れを、可愛い猫たちが癒やします♡

   一時間 ¥1000(にゃんとドリンクバー飲み放題)
   ご宿泊 ――…………               』

 猫カフェかぁ。今度行ってみようかな。
 なんて通り過ぎようとしたモカは、二度見した。
(『宿泊』って書いてなかった!? 猫ちゃんと一緒に一夜を過ごせるの!?)
 そうなんです。(迫真)
 このレンタルキャットサービス店は、事情があって猫ちゃんをお家にお迎えできない人々の願望を叶えてくれるお店なのだ。
 因みに看板には『会員になると、予約制で意中の猫ちゃんの指名も出来ます(猫ちゃんに嫌われると断られる場合も御座います)』とも書いてあった。マンチカンでもラグドールでもノルウェージャンフォレストキャットでもスコティッシュフォールドでもサイベリアンでもラガマフィンでも……お好みの猫ちゃんと一夜を過ごせちゃう訳である。しかし、会員になるには猫ちゃんに認められなくてはいけない。猫ちゃんからの許可が降りないと、会員にはなれないのだ。
 猫好きのあなたは、すぐさま踵を返して帰宅した。
 何故かって? 猫ちゃんに合うための身なりを整えるためです。

 そうしてしっかりと準備を整えて来店したモカは、お店の注意事項にしっかりと目を通すのだった。

【ご来店のお客様へ】
 ・猫ちゃんたちは気まぐれです
 ・無理強いをしてはいけません
 ・つれなくてもご褒美です
(※意訳:全て猫ちゃんの気まぐれによる確率判定です)


 シナリオ:壱花

参加者一覧
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera

探索記録

●ご来店
 どんな猫ちゃんでも愛せるし、まだ会員証もないモカは『お試しトライアル』(会員証のないお客様のコース)をすることにした。
 宿泊準備もばっちりだし、身なりも整えてある。バッチリだ。
 好かれるかどうかの不安があるが、つれなくったって勿論ご褒美。同じ空間に存在することが許される幸せに浸れば良いだけである。


●猫ちゃんがいる!
 ノックをしたら驚かせてしまうだろうか。
 そんな不安を覚えながら、極力ゆっくり静かに扉を開けた。
 室内は少し広めのビジネスホテルのようだった。
 ビジネスホテルと違う点は、壁にキャットウォークが着いていたり、キャットタワーがあったり、猫ちゃんが遊ぶためのおもちゃが用意され、一人用の部屋でも猫ちゃんが一緒に横になっても余裕のあるダブルベッドになっているところだろうか。
(猫ちゃん、大抵ベッドのど真ん中で寝るもんね)
 人は、猫ちゃんの邪魔をしないように身体をくの字にしたり隅っこでIの字になって寝るのだ。

 そして、一角には、猫用のドアがある。
(……あ、これ、猫ちゃんに嫌われたら帰られるやつだ……)
 猫ちゃんに無理強いは出来ない。猫ちゃんに嫌われたら、ひとり寂しく寝るしかないだろう。

 ――さて、肝心の猫ちゃんは……。
 きょろきょろと探してみれば、キャットタワーの一番上から尾が垂れていた。
 モカが来たことに気がついたのだろう。寛いでいたところから立ち上がり、んんんっと伸びをする。
 三角の耳は立ち上がっておらず、ぱたんと前に折りたたまれた小さな耳の猫ちゃんは――。

(スコティッシュフォールドだ! かわいい!)


●己との戦い
 猫ちゃんはいと尊き至高の座(キャットタワー)で可愛いクリームパン(我々の業界では前脚のことを指す)をペロペロしている。モカのことなど眼中にない様子だ。
 猫ちゃんに触りたい。
 猫ちゃんを愛でたい。
 すぅはぁすぅはぁと猫ちゃんを吸いたい。
 頬ずりして顔中に植毛される喜びに浸りたい。

 しかし、駄目だ。それはいけない。
 猫ちゃんから距離を詰めてくれている訳ではないのに、そんな愚行を犯してはいけない。猫ちゃんに嫌われてしまう。
 倒すべきは己の煩悩である。
 モカは目を閉じて、己の欲望との長い戦いを始めた――。

 ――ふう。
 大丈夫だ。荒ぶる心は静まった。


●チャンスタイム
 これならば猫ちゃんとの正しい付き合いが――んんんん猫ちゃんんんん!?
 えっ、どうしたの? スリスリしてくれるの?
 ここ何、にゃばくら? いきなりそんなサービスしてくれちゃうの?
 幾ら高級猫缶を詰めばいいの?
 お触りは大丈夫ですか、猫ちゃん!!!!!!!

「!?!?!?!?!?」
 突然モカの前で、猫ちゃんがころんと転がった。
 こ、これは……! お腹をモフってもいいよのポーズ!?
 そろりと手を伸ばせば、ふかふかな毛がモカの手を優しく包み込むように受け入れてくれる。ああ、なんて幸せなのだろう。
 もふもふ、もふもふ。
 いつまでもモフっていたい。

「あいたっ」
 しかし猫ちゃんは気まぐれだ。
 気分が変わった瞬間甘く噛んで、離れなさい! と告げてくる。


●ふりふりタイム
 モカのなでなでに満足、あるいは及第点を与えた猫ちゃんは、満足そうな顔をしている。むふーっとドヤッととしているような表情が愛らしい。

 室内のおもちゃ箱には様々なおもちゃが入っている。
 ねこじゃらし、
 ネズミ型のおもちゃ、
 キャットニップが入ったぬいぐるみ、
 鈴やカラカラと鳴る木片が入ったボール……

 ひとまずのウォーミングアップは猫じゃらしでいいだろうか。

 えいっ、えいっ!
 す、す、と右に左に猫じゃらしを振る。
 猫ちゃんは姿勢を低くするとお尻を振って後退し始めた。
 耳は伏せられ、瞳は眇められ、獲物を狙う目になっている。

 ――バッ!
 じゃらしを振ると同時に、素早く猫ちゃんが突撃してくる。
 モカもそれに合わせて素早く逃げる動きをすれば――
 くるくる、くる! ドタタタタ!
 猫ちゃんはとっても楽しそう!


●おやつタイム
 猫ちゃんは唐突に遊ぶのをやめる。
 ふりふりする猫じゃらしから視線を外し、水を飲みに行った。
 猫じゃらしに満足してくれたということだろう。どこか達成感を覚えながら、モカは次はどうしようかと考えた。
(あ、そういえば! 受付でおやつを買ったんだった!)
 細長い梱包の半液状のおやつだ。
 猫の麻薬と言われるくらいに猫ちゃんたちが飛びつくことを猫好きじゃなくても知っているくらい、動画広告でおなじみのやつ。今日だって、此処に来る前に大きなビルについた巨大モニターで流れていた。

『なぁん♡』
 おやつを取り出すとすぐに猫ちゃんが駆け寄ってきて、キラキラな瞳で見上げてくる。
 今日イチ可愛い声を出した猫ちゃんは早く早く言わんばかりにモカの膝に可愛いお手々を載せて伸び上がってきた。

 急ぎすぎて震えそうになる手で開封し、そっと差し出せば、ふんふんと匂いを嗅いだ猫ちゃんは美味しそうにペロペロと舐めてくれている。
 うんうん可愛いなぁ、なんてニコニコしていたら――
「えっ?」
 突然強い力で引っ張られた。

 見れば猫ちゃんはフーッ息を荒げているし、思いっきり梱包に噛み付いて空いた穴からはぼたぼたとおやつが落ちてしまっている。
 猫ちゃんの表情はと言えば「これは自分の獲物だ!」と言わんばかりの表情で、暗がりに持ちこんでいきそうだ。
 えっ、なにこれ、すごい……野生を感じる……。
 ワイルドな猫ちゃんも可愛いねぇ!

 モカはごめんねと一度猫ちゃんに断ってから、中身を小皿に移すことにした。
 美味しいおやつを誰にも取られないと安堵したのか、猫ちゃんは小皿を可愛くペロペロしていた。
 あっという間に食べきり、猫ちゃんは満足顔。
 うんうん、よかったねぇ!


●どたばたタイム
 次はどうしようか?
 ちらりと視線を向けると、猫ちゃんがどこかへ歩いていってしまう。
 これはもしかして……帰っちゃう?


 ――と思ったら、猫ちゃんが鈴の入ったボールを咥えて持ってきた。
 これを投げて欲しいってことなのかな?
 よーし! いくよ、猫ちゃん!

 えいっと出入り口のドア方面へとボールを投げた。
 猫ちゃんがダッと走っていく。
 ちりんちりんとボールを転がす音が響き――そして猫ちゃんが戻ってくる。
 口に、しっかりとボールを咥えて。

 わあ、猫ちゃん賢い!
 ポトンと適当の場所で落とされるボール(途中で猫ちゃんが落とした場合は拾い直してくれないので取りに行く)を拾い、ボールを揺すって音を鳴らすと猫ちゃんがスタンバイする。
「取っておいで!」


●入浴タイム
 ……ふう。
 猫ちゃんがだいぶ満足をしたようだ。
 ペロペロタイムに入っている間に入浴でも済ましてこよう。

 ゆっくりと湯船に浸かって温まるか、さっくりとシャワーで済ませるか。
 どちらにするか悩むなぁ……。

 猫ちゃんをひとりで待たせるわけにはいかない。
 シャワーで済ませよう。
 ……もしかしたらaPhoneで可愛い写真とか撮れてしまうかもしれないし。

 モカは急ぎ、シャワーで済ませた。
 猫ちゃんはベッドの上に移動してペロペロと丹念に毛並みを整えていたので、色んな角度から写真を撮らせてもらう。
 猫ちゃんからは一切カメラ目線は貰えなかったけれど、どの角度から見ても猫ちゃんは可愛い。


●すやすやタイム
 猫ちゃんと遊んでいたら、あっという間に眠る時間だ。
 猫ちゃんも遊びに満足したのか、キャットタワーの上で寝転がっている。

 今日は楽しかったなぁ。
 猫ちゃんも楽しい一日だったらいいなぁ。
 そんな気持ちを胸にモカはベッドに寝転がり、明かりを消した。
 おやすみなさい、猫ちゃん。


 ……………………ん。
 ふと、目が覚めた。時間を確認するまでもなく夜中だと解る時間だ。
 目覚めた原因は……解っている。

 足にふかりとした感触がある。
 ふわふわと羽根のように柔らかくて温かな存在。
 ――猫ちゃんだ。
 眠る時はキャットタワーの上にいたのに、寝ている間に降りてきてくれたらしい。暫く足元のくすぐったさに気付かない振りをしていると、猫ちゃんがむくりと起き上がった。
 寝にくかったのだろうか……。またキャットタワーに行くのだろうかと残念な気持ちが湧き上がる。
 ――が。

(ね、ねねねねね猫ちゃん!?)
 心はもう猫ちゃん限界オタクだ。
 だって! 仕方がない! 猫ちゃんが! 腕の中に入ってきた!!!
 腕をもみもみしている!? はわわ……。
 ……しかし、大興奮しているのがバレたら猫ちゃんは逃げてしまうだろう。
 モカは可能な限り息を潜め、この至福のひとときに身を委ねる。
 ああ、依頼で待ち伏せ等の潜伏経験をしておいてよかった……。


●翌朝
 なんて素敵な朝なのだろうか。
 モカは今、猫ちゃんとベッドをともにしている。
 離れたくはない……が、時間は限られている。とりあえず寝起きの猫ちゃんの姿をaPhoneに撮りまくり、この状況が夢ではなく現実であることを記録した。

 どれだけ名残おしかろうと、お別れの時間は来てしまう。
 バックヤードへと続く猫用扉の向こうでちりんとベルが鳴れば、猫ちゃんはがばりと起き上がっていそいそと退室していった。美味しいご飯の前に、ひとは無力なのだ。


 猫ちゃんも居なくなってしまったし、帰る支度をしよう。

挑戦結果

●NO CAT,NO LIFE
「こちら、次回から使える会員証になります」
 受付で会計を済ませたモカは受け取った会員証を大切に財布にしまい込む。
「お電話でのご予約の際は会員ナンバーを教えてください。もし指名したい猫ちゃんがいましたらホームページで空き状況等が見られますので、確認の上ご連絡下さい。それから……」
 一通りの説明を終えると、店員はにこりと微笑んだ。
「またのお越しを、猫ちゃんたちもお待ちしております」
 最高のお店だった。
 店員の声を背中に聞きながら自動ドアを抜ければ、繁華街のぬるい空気が身を包む。
 猫ちゃんに癒やされたモカの心は軽く、今日からは一層頑張れそうな気さえしている。
 ……けれど、やはり名残惜しい。
(もう一日、猫ちゃんと……なんて)
 いくらか離れた店を振り返る。
 そして、そこに。――モカは見てしまった。

(――ああ、猫ちゃん! 猫ちゃんがお見送りしてくれている!?)

 一夜を共に過ごした猫ちゃんが、どこかの部屋からモカを見下ろしていた。(たぶんただの気まぐれで外を見たのだろうけれど、モカはその思考を否定して)目が合ったことに気付いたのか猫ちゃんは、ふい……とすぐに姿を隠してしまう。
(ね、猫ちゃんが! 頑張れって言いに来てくれた!)
 なんだかすごくやる気が湧いてきた。
 モカは密やかにぐっと拳を握りしめると再現性東京の雑踏の中へと足を踏み入れた。
 待ってて、猫ちゃん! また来るからね!

戦績

攻略状況:攻略成功!

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