PandoraPartyProject

冒険

闘技場設定は『練習場』から!


幼児化から始まる遺跡闘技大会『カピエル・クラウ』

●遺跡闘技場『カピエル・クラウ』
 第一試合、一層にて『幼児化でもつよいんデス!』。
 第二試合、二層にて『あにまる着ぐるみなバトルをおたのしみにっ!』。
 第三試合、三層にて純戦決勝。
 ――パンフレットには、暑苦しい飾り文字で試合メニューが書かれている。

 雪がちらつく遺跡の入り口に行列ができていた。
 ここは、ゼシュテル鉄帝国の一角。今日はカピエル・クラウという名の闘技大会が行われるのだ。

「ホットドリンクいかがっすか! ビーヴァいかがっすか!」
 売り子が行列を入口から最後尾まで遡り、溌剌とした声を響かせている。コートを着込んだ老婦人と幼子が手をつなぎ、笑顔でパンフレットを見て語り合っている。
「おばーちゃん。推しチームある?」
「ああ。おばーちゃんはイレギュラーズのちーむが好きなんじゃ」
 その後ろでは、退屈まぎれに屈伸している精悍な男がいた。
「ふんっふんっ、……後ろのレディがとても気になる。これは――ひ、と、め、ぼ、れ」
 彼がチラチラと気にしているのは、寒さに凍えて今にも倒れそうなひ弱なレディ。
「冷え症にはこの待ち時間、つらいわ。でもイレギュラーズの勇姿を見たい! 私、ファンなの!」


●控室
 選手控室には、個性豊かなチームや選手がそろい踏み。
 筋肉自慢の『マッスル・ルーキーズ』!
 きっと仲良し二人組『斧お嬢様&メイド』』!
 格闘パンダ率いる『パンパンパンダマンズ』!
 頭が七色らしい『輝く七色頭の一番星』!
 モンスターなのか『MONSTER』!
 進行係のお兄さんは経験が浅いのか、胃薬片手に緊張の面持ち!

 そんな中に、あなたが率いる武力自慢のチームは堂々と足を踏み入れたのだった。


 シナリオ:透明空気

参加者一覧
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途

探索記録

●遺跡闘技場
 第一試合、一層にて『幼児化でもつよいんデス!』。
 第二試合、二層にて『あにまる着ぐるみなバトルをおたのしみにっ!』。
 第三試合、三層にて『そろそろ本気出していくぜぁぁ! 純戦の決勝』。
 ――パンフレットには、暑苦しい飾り文字で試合メニューが書かれている。


 雪がちらつく遺跡の入り口に行列ができていた。
 ここは、ゼシュテル鉄帝国の一角。今日はカピエル・クラウという名の闘技大会が行われるのだ。
「ホットドリンクいかがっすか! ビーヴァいかがっすか!」
 売り子が行列を入口から最後尾まで遡り、溌剌とした声を響かせている。コートを着込んだ老婦人と幼子が手をつなぎ、笑顔でパンフレットを見て語り合っている。
「おばーちゃん。『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』ってしってる?」
「ああ。おばーちゃんはなぁんでも知っとるよ。『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』はノリがいいんじゃあ」
「ノリってなぁに。つよい?」
「ああ、くっつくんじゃよ」
「すごぉい」
 その後ろでは、退屈まぎれに屈伸している精悍な男がいた。
「ふんっふんっ、坊主、戦いはノリよりマッスルだ」
 そのまた後ろでは、寒さに凍えて今にも倒れそうなひ弱なレディが。
「マッスルなんていくら鍛えても私の体には根付かなかったわ。それより早くバクルド・アルティア・ホルスウィングさんの勇姿を見たい! 私、ファンなの!」


「ふんっ! ふんっ! ふんぬぅ」
 『マッスル・ルーキーズ』のメンバーが鼻息荒く準備体操をしている控室。

「出場チーム『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム 』の皆さんですね。試合開始まで、しばらくお待ちください」
 バクルド はこれから始まる戦いに思いを馳せながら仲間たちとライバルの顔ぶれを見た。

「あなたたちが優勝候補?」
 大斧をかついだ赤毛の女性戦士がこちらに歩いてくる。仲間と思しきメイド娘があたふたと先行し、バクルドの傍に蜜柑箱をぽてっと置いた。
「?」
「あなたたちが『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』? あたくしはレギィナ。あなたをぶっ潰す女ですわ!」
 レギィナは貧しい胸を誇るように肩を張り、顎をあげて見下すようにしながら近くの床に置かれた蜜柑箱の上に乗った。乗らないと身長が低くて見下せないからだ。バクルドは蜜柑箱の真実に気付いた――。
「ふん。言い返す言葉もないようですわね?」
 メイドが後ろでふんぞり返るレギィナの背を支えている。限界ぎりぎりまで反り返って、倒れそうになったのだ。
「さすが、お嬢様ですぅ」
 メイドは笑顔でレギィナを称賛し、恐らく国一番の雪山よりも無駄に高いと思われるレギィナのプライドを満たしてあげている。
「強いですぅーお嬢様天才ですぅー、優勝ですぅー」
 見ているだけで疲れるような妙な主従だ。

 『パンパンパンダマンズ』のパンダが笹を手に精神を集中している。『輝く七色頭の一番星』は頭をターバンで隠し、どのタイミングでターバンを外すかを打ち合わせ中。

「他のチームはあまり気にしない方がいい」
「!」
 小さな声に気づいて視線を向けると、椅子の下で丸くなる全身黒ずくめの覆面集団がいた。1人1椅子体制で膝を抱えて蹲る姿は、異様。
「なにしてるんだあれ」
「あやしすぎる」
 ささやきが室内に満ちる。黒ずくめは『MONSTER』と名乗り、「今は壱ノ型、ヤドカリの修練中だ」と渋い口調で言い放ったのだった。

「そろそろ入場です」
 司会進行のお兄さんが胃薬を片手に呼びかけた。
「あたくしが入場しますわー!!」
 レギィナお嬢様も楽しそうだ。バクルドは微妙なおももちで彼女を見つめ、自らも試合会場に足を踏み入れたのだった。


●第一試合『幼児化でもつよいんデス!』
 足を踏み入れた瞬間、選手全員が煙に包まれ――、
「「ワアアアアアアアッ!!」」
 歓声が沸く。
 入場したバクルドは、全身が幼児へと変わっていた。精神は大人のまま、装備やアイテムも幼児でも携行・装備できるサイズに縮まって。
 これが、この古代遺跡の謎技術のなせる業(わざ)、らしい。

「わああ、みんなちっちゃくなったよおばーちゃぁん!」
 リアル幼子が観客席でスティック刺しのボイルド・コーンを手に口をあんぐり開けている。
「ふぉっふぉっふぉ。あれが『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』じゃよ」
「へえ~!」
 おばーちゃんは孫を見守るような顔でバクルドに手を振っている。
「おばーちゃん、バクルドさんと話した事あるう?」
「ないわい」
「そっかぁ」
 隣の席では、精悍な男がダンベルを持ち上げながら「あの幼い体で武器を振り回すとは。やるな!」と感心している。ひ弱なレディはそんな彼の隣でグリューワインのカップを持ち、両手の指先をあたためていた。
「冷え性には辛いわぁ」

 レギィナとメイドは小さな女の子姿で手をつなぎ、周囲を警戒している。
「こうして手を繋いでいると、本当に子どもの頃みたいですわね」
 レギィナが呟く。メイドは静かに頷いた。

「第一試合! 全チームがこれより戦い、KOされなかった上位10チームが次に進みまぁす!」
 司会進行のお兄さんが緊張した顔でマイクを握り、声を張り上げる。よく見なくても手がぷるぷる震えている――。
「わたくし初仕事! 初仕事です!」
 お兄さんは新人スタッフだった。面白がった観客が空になったカップやゴミを投げつけている。
「ベテランに交代しろぉ!」
「お前には興味ねーぞー!」
「ああっ!? 世間の荒波がきびしくてわたくし初仕事で挫折しそうです!」
「弱音を吐くなぁ!」
「いいから進めろー!」

 バクルド(幼児姿)は仲間たちを見た。仲間たちも小さくなっているが、戦意は高いようだ。
「バクルドたん、がんばってえ!」
 黄色い声援が幾つも降ってくる――、


 バクルド(幼児)がじりじりと後退する。目の前のパンダ風幼児(敵選手)が奇声をあげながら連撃を繰り出していた。
「ぱぱぱぱぱっ! っぱん! ぱぱんだぱんっ!」
 ――これは!
 バクルド(幼児)の背筋を戦慄が駆けあがる。
 ぬいぐるみみたいで可愛い右脚がダンッと力強く大胆に踏み込み、ふわふわボディが前傾し、左回りにひねりをくわえ回転するようにして繰り出す右のふさふさパンダハンド! バクルド(幼児)が駒めいて廻り半身を回避させれば、一瞬前までバクルド(幼児)の状態があった虚空をパンダハンドが通過して――まるで高速で円舞曲を踊るかのように2者がくるりと回転する。
 しばし舞う両者。
 仲間の援護により数分後パンダ風幼児(敵選手)が地面に倒れ込み、勝敗は決した。

「そこまで! 1層の勝利チームが決まりました!」
 ――ワアアアアアアアアアアアッ!!
 歓声と拍手が沸く。

「おばーちゃん、『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』が勝ったよ~」
「おばーちゃんは勝つと思ってたわぁ」
 おばーちゃんはにこにこしながら幼子の頭を撫でた。
「俺の推しだったマッスル・ルーキーズが!! 負けた」
 精悍な男が男泣きしている。
「幼児化して筋肉、しぼんじゃいましたもんね」
 ひ弱なレディがそっとハンカチを差し出した。

「あなたたちも次に進むのですのね!」
 レギィナがメイドに傷の手当をしてもらいながら勝気な目で睨んでくる。
「それでこそあたくしのライバルですわ!」
 バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム も互いの負傷度合いを確認し、応急手当てをした。


●第二試合『あにまるなバトルをおたのしみにっ!』
 応急処置を終えた選手たちが遺跡の二層ステージに入場し、幼児から元の姿に戻った代わりにさまざまな動物の着ぐるみ姿になっていた。観客たちもまた、二層の観客席へと移動を完了させていた。

 しゅわわ。会場の壁際で蒸気が吹きあがっている。
「演出用の蒸気ですっ! 予算をつぎ込んでおりますー!」
 司会進行のお兄さんがドヤ顔で叫んでいる。
「うっせぇ~!」
「どうでもいいわぁ~!」
 観客が野次ると、お兄さんは「えっ、また何かやっちゃいました?」としょんぼりしている。
「でも、今のは台本に書いてあったんですよ」
「上司に代われぇ~」

 幼子はおばーちゃんの袖を引き、「おとなってたいへんだね」と呟いた。
「そうじゃねえ」
 ほのぼのとした空気の中、2人は着ぐるみ姿のバクルドに視線を移して。
「わー、着ぐるみバクルドさんだあ」
「着ぐるみバクルドさんじゃねえ」
「おばーちゃん、バクルドさんはどうして着ぐるみを着たの?」
「バクルドさんもお仕事なんじゃよ」
「そっかあ。バクルドさんたいへんだね。着ぐるみ似合うねえ」
「可愛いのう」
 おばーちゃんと幼子は微笑ましい会話をしながらホットミルクを飲んでいる。

 精悍な男がひ弱なレディにハンカチを返そうとして、思いとどまっている。
「あー、これは、洗って返そう」
「気にしなくてもいいのに」

 レギィナがくまさんの着ぐるみ姿でバクルドに体当たりを仕掛けてくる。フライングだ! けれど、着ぐるみどうしの衝突はふんわりとした衝撃で、見た目にもファンシー。観客は微笑ましい反応を見せた。
「お嬢様~、愛らしいですぅ」
「ふふん? 当たり前ですわ!」
 レギィナはメイドの誉め言葉に気をよくした様子でふんぞり返り、バクルドに着ぐるみの手を差し出した。
「今回もお互いがんばりましょう」

「戦闘、開始~!」
 マイクを握ったお兄さんが声を張り――上位10チームが戦いを始めた!


「注目は矢張りバクルド! 『輝く七色頭の一番星』選手とアツイ戦いを見せています!」
 司会進行のお兄さんが実況している。『輝く七色頭の一番星』選手は自慢の輝く七色頭をうさぎさんの着ぐるみフードで隠していたが、この時両手をフードの端にかけ、不敵に笑った。
「バクルド、やるな! 俺の輝く七色頭を見せてやろう!」
「そのフードの下に何が……」
 観客がざわざわしている。
 これには司会進行のお兄さんもノリノリだ。
「ななななぁーんとぉ! ここで『輝く七色頭の一番星』選手、フードに手をかけたぁ!」
「……」
 バクルドは攻撃の手を止めてその演出を見守った。そして、全てを見終わってから丁寧にとどめを刺し、『輝く七色頭の一番星』選手に礼儀正しく一礼した。


「決勝に進むチームが決まりましたぁ!」
 進行の声が響く。進行のお兄さんは心なしか、慣れてきたのか声に張りが出て、自信のようなものが滲んでいる。視線が合えば、にこっとした。
「チーム、『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム 』! そして、チーム『MONSTER』!」
 決勝戦に進むチームが発表される。2チームだけ。

 ――ワアアアアアアアアアッ!!

 バクルドはステージを見渡し、その姿を探した――あのお嬢様とメイドの姿を。
「ロミー! しっかりして、ロミー!」
 自身も傷だらけのレギィナが血塗れのメイドに縋りついて泣いている。救護班が駆け付け、応急処置をしてから救護室へと運ぼうとしていた。


「おばーちゃぁん、『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム 』、勝った!」
「良い戦いだったねえ」
「うん!」
「じゃあ、大きな声で言ったら喜ぶかもしれんねえ」
「よぉし。『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム 』~! つよかったよー! 決勝もがんばってね~!!」
 幼子が目をきらきらさせて『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム 』に声援を送ってくれる。精悍な男とひ弱なレディが一緒になって拍手をした。
 ちいさな拍手。
 それが少しずつ広がり、やがて大きな拍手の渦になった。
「どの選手もよかったよ!」
「アツイバトルだったぜえ!」
 観客の声と拍手はそれからしばらくの間止まず、会場をあたたかに賑やかしたのだった。



「決勝戦は、昼休憩を挟んででで、からでです!」
 司会進行のお兄さんが噛んでしまい、真っ赤になる。
「くぅ」
「どんまーい」
 観客はそんなお兄さんに意外にも優しい声をかけてくれた。
「えっ、ここは野次らないんです? ひっこめとか言われないとは」
「ひっこんでもいいぞー」
「あ、やっぱり!?」
「あはははは……」
 笑い声が反響する。そんな会場を後にして、バクルド は仲間と共に救護室に移動した。


●束の間の休憩
 救護室に行くと、大会救護班が駆け付けてきた。
「『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム 』の皆さん、治療しますね。この後は決勝ですか。頑張ってください!」
 白いカーテンの向こうで選手たちが救護班や仲間と会話している。バクルド はレギィナとメイドの声に気づいた。
「申し訳ありませんですぅ、お嬢様」
「あたくしがミスったのですわ。あなたは悪くないですの」
「ですが――」
「それに、あたくし、別に優勝しなくてももう良いんですの。ま、負け惜しみじゃなくってよ」
 すんすんと鼻を啜る音が聞こえる。泣いているのだろうか。レギィナは湿った声で、不安定に揺れる声で――笑った。
「あたくし、大切なことを思い出しましたのよ」
「それは、なんですぅ……?」
 シャッ。
 バクルドの目の前で白いカーテンが左右に引かれ、レギィナとメイドの姿が遮るものなく露わになる。
「あっ、バクルド 様!?」
 メイドはバクルド の存在に気づいていなかった様子で目を丸くした。だがレギィナは、最初から気づいていたような目でバクルド をまっすぐに見つめたのだった。


 レギィナが真っすぐな目でバクルドを見つめる。その瞳に自分が映っているのをバクルドは強く意識した。
「あなたには、人を惹き付ける何かがある。ボロボロになっても限界を超えて立ち上がる強さと、応援したくなるような何かが――、あたくし、悔しいけれど敵わないと思いましたの」
 差し出された手は、包帯で厚く巻かれている。バクルドはその手を優しく握り返した。
「て、手加減するんじゃありませんの!」
 レギィナがぎゅっと手に力を籠める。そして、「アイタタ」と苦痛の声を零してちょっぴり悔しそうな涙目をした。
「くふぅ。もう。悔しいですわ。でも、その。どうか決勝、負けないで、バクルド」
 その背後でメイドもまたしずしずと頭を下げ、「ご武運を」と祈るような声をかけてくれる。バクルドは頷き、勝利を誓い――、

「え、と。時間、平気です?」
 救護班のメンバーが恐る恐る口を挟む。
「そういえば、お昼ご飯も食べないと」
「ごはん、一緒にいかがですぅ?」
 メイドが提案して、治療を終えた者たちは勝者も敗者も皆一緒に昼食を摂ることになった。


●皆でランチを
 テーブルの上で湯気をあげるのは、体を温める料理の数々。
 赤くとろりとしたボルシチはパンプーシュカ付き。浸したパンを口に運べばじゅわじゅわと染み出るお出汁が口の中に広がって自然と笑顔を誘うようなおいしさ。
 シャリっとした食感のニトロガニーナが体温で滑らかに溶ける歯ざわりが好ましい。
 ビーフストロガノフは見ているだけで体温が上がりそう。木のスプーンでぐるりとろりと混ぜて、中にかくれんぼしていた牛肉をお出迎え――ぱくり。ふにゃり。煮込まれてかなり柔らかいお肉は、それ自体が溶けているみたいで。汁と肉とが混ざってトロットロ、喉を通して腹を満たせばぽかぽか、全身が温まって幸せ気分。

 大きな皿の上、敷き詰められた緑のソースの上に転がるゆで卵はグリューネゾーセ。7種類のハーブを使った絶妙ソースは癖になりそう!
 隣にはシンプルにチーズをかけた大きなソーセージ。シンプルだけに、期待を裏切らない美味しさなのは言うまでもない。
 大きなハーブの葉の上に飾られているのは、お洒落なポテト・アンド・ハンドケーゼ。
 色違いの二種葡萄が艶めくタルトにラズベリーソースをとろっとかけて、薔薇ジャム入りのロシアンティーをお供に。

 レギィナも、メイドも、パンダも、マッスルも、七色頭も、MONSTERも。先刻までライバルとして戦っていた皆が同じテーブルについて、料理を味わい、笑顔を見せて、身の上話や今日の感想を語り合う。
「バクルド、がんばってね」
「応援してますわ」
 同席していた『MONSTER』は「こっちも応援してくれ」と拗ねたように口を尖らせ、一同は同じセリフを繰り返して――全員で笑ったのだった。

 皆の応援を受け止め、力強く頷いてバクルドは仲間たちと共に立ち上がる。

 ――いよいよ、決勝戦だ。


●決勝の舞台へ
 決勝戦の舞台に進むと、割れるような歓声と熱気が『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』を迎え入れた。
「さあ! それでは決勝です!」
 司会進行のお兄さんも気合を入れたのだろう。手に「気合」という字が描いてある。
「兄ちゃん、気合だぞ!」
「今度はトチるなよぉ~!」
 観客が笑顔で声をかけると、お兄さんはニコッと笑った。
「わたくしも皆さんのおかげで本日1日でグッと成長いたしました!」
 お兄さんはその手を堂々と天に突き上げ、大声を張る。
「さあっ! 遺跡闘技大会『カピエル・クラウ』! 決勝戦に挑む勇士たちを皆で迎えましょう!
 チーム、『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』! リーダーバクルド・アルティア・ホルスウィング 氏が率いる名声高きギルド・ローレットの勇士たちです! そのギャップある幼児姿、可愛らしい着ぐるみ姿。なにより、熱い戦いぶり! 今大会ですっかり魅了されたというファンの方も多いのではないでしょうかっ」

 ――ワアアアアアアアッ!!

「そして、チーム『MONSTER』! リーダー『匿名希望』氏……」
「おばーちゃん」
「はあい」
 観客席には、お馴染みのおばーちゃんと幼子がいる。
「おばーちゃん、見てて。『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』が勝つからね!」
「うふふ。すっかりファンになったねえ」
 隣には、精悍な男が――ひ弱なレディの手に自分の手を重ねている!?
「『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』が勝ったら、あなたに伝えたいことが」
「ま、まあ。なんでしょう」

 ――変なフラグが立ったッ!
 ……ともあれ、決勝が始まったのである!


「バクルド、がんばえー!!」
 子どもが応援している。

「すごい――すごい!!」
 進行のお兄さんが語彙力を失っていた。だが、観客にはその声こそがリアルな興奮として伝播して、皆が同調するように声を出す。
「「すごい!」」



 会場に拍手が沸き起こる。
 勝者を讃える声。そして、敗者にも――、
「いい試合だった!」
「よかったよー!!」

「『バクルド・アルティア・ホルスウィングのチーム』、強かったよ。これだけコテンパンにされたら他に言いようもねえや。完敗さ」
 声がして、顔をあげれば『MONSTER』のリーダーが手を差し出していた。ボロボロに負傷した姿。自分もそうだろう――、
 バクルドは『MONSTER』のリーダーの手を取った。2者が握手を交わし、並んで手を振ると、ひときわ大きな歓声と拍手が会場を沸かせた。

挑戦結果

●エンディング
「次回もよろしくお願いしますー!」
 司会進行のお兄さんが懸命に観客に呼びかけ、何度も頭を下げて、退場する。
「楽しかったぜ~!」
「次もがんばれよー!」
 観客が笑いながら手を振って帰っていく。

「おばーちゃん、闘技大会すごかったね」
 幼子があどけない顔を紅潮させ、興奮冷めやらぬ様子ではしゃいでいる。
「そうねえ、おばーちゃん、どきどきしたわ」
「あのね、ボクも将来あんなふうになりたいな」
「あらあら、まあまあ」
 おばーちゃんは将来を夢見る純真な孫を見て、蕩けそうなほどあったで優しい微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、おばーちゃん。長生きして応援しなきゃねえ」
「うん!! ねえ、絶対、応援してね」
「はい、はい。うふふ」

 精悍な男は意を決したようにひ弱なレディの前で膝を付き。
「実は一目ぼれだったんだ!!」
「ええっ!?」
 レディが頬を抑え、満更でもなさそうな顔をする。
「そんな、急に――」
「い、いいや。今すぐ返事をくれなくてもいい。次の大会に俺は出る」
「ええっ?」
「そして、優勝する! だから、応援してほしい」
「――応援するだけで、いいの?」
「俺の勇姿であんたを惚れさせてみせるぜ!」
「――とぅんく――」
「なんだそのとぅんくって」
「乙女の秘密よ」

 そして、レギィナは。
「ろ、ろ、ろ」
「お嬢様?」
「――帰りますわよ」
「はいですぅ」
「あのね――2人のときは、小さいころみたいにタメ語でいいですわ」
「……!」
 マッスル男とパンダ男はがっしりと握手を交わし、七色頭は「次は八色で出直す」と宣言して去っていく。

「途中何回か本当に君をひっこめようかと思ったんだけどね」
「ハイ、申し訳ございません!」
 スタッフルームで司会進行のお兄さんが深々と頭を下げている。
「なんだかんだ盛り上がったからいいよ。この経験を活かして、次もよろしくね」
 お兄さんはパッと顔を輝かせた。
「――はい!」

 天から儚き雪が降る。手のひらで迎えれば、一瞬で溶けて生暖かい湿った感触が生まれて、風に吹かれれば冷たさになる。
 あなたは今日一日の激闘を振り返り、仲間と共に勝利の喜びと思い出を分かち合い――首から下げた勝者に授与されし黄金のメダルを持ち上げた。仲間もまた、同じようにメダルを持ち上げ――コツン、と互いのメダルの端と端を小突き合えば、それは祝宴の始まりを告げる乾杯のようでもあり、不可侵な神聖な儀式のようだった。

戦績

攻略状況:攻略成功!

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