冒険
闘技場設定は『練習場』から!
おきつね菓子問屋街
休日、希望ヶ浜の繁華街。
右を向いても左を向いても人の頭しか見えない大きなスクランブル交差点を、人々は時間内に通り過ぎるべく足早に歩いていく。緑の『進め』を表す信号がチカチカと点滅し、慌てて駆けていく人々の奥に――三角がひょこりと飛び出ていた。
「あれは……」
陣笠、と呼ばれる笠である。
道行く希望ヶ浜に住まう人々よりも少し身長があるのだろう。人々の頭の間から、或いは人々の頭の向こうに見えるそれは、信号が変わりきってしまった通りの向こうへ消えていく。
あなたは、その笠を被っている人物に心当たりがあった。――劉・雨泽(p3n000218)だ。
今日は休日で、オフ。時刻は、八つ時を過ぎた頃だろうか。今日はよく晴れ、太陽も高い。あなたは然程重要な予定を抱えていない、或いは予定までに時間的な猶予があった。
あまり希望ヶ浜では見掛けない彼が居ることが気になったあなたは、笠と揺れる垂れ布の行方を追いかけてみることにした。
交差点の信号がまた『進め』に変わってから追いかけたあなたは、笠が入っていったどこかの路地を探した。
確か、この辺りで――。
高いビルとビルとの間の薄暗い路地。
ひょこりと覗き込めば、遠くの角をひらりと布が誘うように揺れて、消えた。
追いかける。
また遠くの角で布が揺れ、消える。
不思議となかなか追いつけない。
――次の角で会えなかったら戻ろう。
これ以上は迷子になってしまうかもしれないし……と、あなたは思いながら角を曲がった。
それは、唐突に現れた。
希望ヶ浜の繁華街よりも古びた雰囲気。
周囲に建っていたビルにはない、時代に取り残された『昭和』感。
どこか懐かしさを感じさせるノスタルジックな佇まい。
周囲に建っていたビルよりも小さな2階建てくらいの店舗がずらりと並び、どこまで続いているのかは解らない。
ひとつひとつ、店舗なのだろう。壁面看板に屋号が記されている。
そしてその通りの入り口にはポップな書体のアーチがあった。
そこにはこう記されている。
――『おきつね菓子問屋街』。
シナリオ:壱花
参加者一覧 | |
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ドラマ・ゲツク(p3p000172) 蒼剣の弟子 |
探索記録
『おきつね菓子問屋街』……なんとも不思議な名前だが、妙に心がくすぐられる。
しかし問屋街にしては人が全然居ない。
定休日を揃えているのだろうか?
大きな看板の下を潜り抜け、あなたは問屋街へ足を踏み入れた。
ふと、白い何かが足元をするりと抜けて駆けていく。
あれは……猫? いや、犬……? それとも――。
考えるよりも先に、あなたの足は自然とそれを追いかけていた。
大きく揺れるふかりとした白い尾を追った。
それはするりととある店へと入っていく。
店の前に立ったあなたは、ガラスのはまった引き戸から店内を覗き込む。……当たり前のことだが、店内は菓子でいっぱいだ。
しかし、駄菓子屋のように様々な菓子が手に取りやすいように並んでいるわけではなく、どれもダンボールに詰められた状態で置かれている。問屋街だからだ。
一歩下がって頭上を見上げれば、『おきつね堂』と屋号の書かれた看板を見付けた。
引き戸は狐が一匹通れるくらい開いているため、手を掛ければ簡単に開くだろう。
見た感じ電気はついておらず、人の気配はしないようだが――。
あなたは引き戸へと手を掛け、中へと入ることにした。
「誰か、いませんか?」
声を掛けてみるが、静まり返った店内にはあなたの声だけが響く。
口を閉ざして暫く待ってみたが、返事はなかった。
奥に進んでみよう。
あなたは店の奥へと進んでいく。
右も左も、菓子の名前の書かれたダンボールの山だ。地震が起きたら危なそうなほどに積み上げられ、どう見ても危うい積まれ方をしているものまである。
星空こんぺいとう。
変声らむね。
人魚の尾びれゼリー。
声マネトローチ。
ドクターキャンディー。
……………………
………………
…………
……
……この建物は、こんなに奥行きがあっただろうか。
歩き続けているのに、終りが見えてこない。
店主らしき人影もない。
戻ろうか……。
諦めたあなたは振り返る。
しかし、そこにあったのはダンボールの山だった。
歩いてきたはずの『道がない』。
動揺して目を僅かに見開いたドラマの上に、影が掛かる。
積まれたダンボールのひとつが落ちてきたのだ。
ダンボールが開いて、バラバラと食玩の小さなフィギュアが降ってくる。
それは地面に着くと、何故だが少し大きくなって動き出し――。
あなたは驚きつつも、襲いかかってくるのならば已む無しと、食玩たちを退治した。
「よーけ派手に暴れてくれたなぁ」
食玩たちを倒し終えると、奥から二足歩行の白狐が顔を覗かせた。
「客か? それとも迷い込んだんか?」
「……あれ? 店主、店主。僕の知り合いだよ」
その後ろから顔を覗かせた雨泽があなたたちを見て告げると、マズルの上に乗せた眼鏡を前足で弄った白狐はごめんねと笑う雨泽に「あんたのか」と眉間にシワを寄せた。
「僕に着いてきてしまったのかな?
ここはね、珍かな菓子が買えるのだけれど……今日は定休日なんだ」
だから良かったらまたおいで、と口にした雨泽は店主ーと狐に何やら催促する。
「ほいほい。手、出し」
ゲツク が素直に手を差し出せば、店主はその上に小さな白い包みをころりと乗せる。
「これな、ただの飴ちゃうで。通行証や」
持っていれば偶然誰かの後に続かなくとも、『入り口』を見つけられる。
期限は一年間。期限内に新しく貰わないと、侵入者だと警備が反応するのだそうだ。
「期限が切れる前においでな」
今度は店がやっている時に。
購入は箱単位からになるけれど、と店主は呵呵と笑うのだった。
挑戦結果
白狐に見送られて店を出て、最初に潜ったアーチを抜ける。
不思議な香りの柔らかな風が頬を撫でたと思ったら、そこは見慣れた路地裏だった。
振り返っても、今しがた通り抜けたアーチはない。
狐につままれた気持ちで傍らを見れば、劉・雨泽が人差し指をひとつ立て、「他の人には内緒だよ」と常よりも悪戯めいた笑みを残した。
「それじゃあ僕はこっちだから」
またねとひらりと手を振る雨泽と別れ、あなたはまた雑踏の中へと身を投じる。
ほんの少しの非日常。まるでそれは夢のよう。
けれど手のひらの中の小さな感触が、あれは夢ではないと知らしめていた。
戦績
攻略状況:攻略成功!