冒険
闘技場設定は『練習場』から!
エドワルド海賊団と亡霊船の戦い
●その日
海賊団の占い師が未来を視た。村が襲われるという未来だ。
海賊団の船長エドワルドは、その村の名を聞いて息を呑む。あの嵐の日、溺れた彼を助けてくれた海種の娘が住む村だったからだ。
前のお頭が死に、そのころの海賊団は解散になって、行き場のない連中が集まり彼を旗頭に再結成したのが、この海賊団だ。
「俺は守りたい」
返事を聞くまでもない。そう思う。
「守れると思うんだ」
だが、戦えば被害も免れないだろう。エドワルドは居並ぶ海賊団員ひとりひとりを順に視た。姿勢を正し、彼らが誇れるよう気高い瞳で迷わずに。
「俺は惚れた女の村を守るために、戦う。お宝も何も期待できねえ。危険はたんまり待ってるがな――」
「おかしら、おかしら」
年少の金髪のトミーがやんちゃな声で問いかけた。
「襲われてから助けりゃ、俺ら名声もあがるし、助けた女はおかしらに惚れるに違いねえぜ!」
隣にいた年長の赤髪シグルドがそんなトミーに拳骨をして黙らせる。
彼らは皆、訳ありだ。
親をなくし、居場所がなかった者。社会でやらかし、陸にいられない者。奴隷だったのを助けられた者。彼らの父のような存在だった『お頭』が亡くなった後、年少も年長も一緒になって呟いたのだ。
「今更、カタギになんて」
なれねえよ、なあ?
「は」
エドワルドは笑った。家族みたいな団員たちに目を細め、『父』もこんな気分だったのかと思いながら。
「俺は、女にいい所を見せたいわけじゃねえ。女をモノにしたいわけでもねえ。ただ、知っちまったからにはほっとくと寝覚めが悪い」
すっきりするためにヤる。それだけだ。そう言って笑った。
「いいか、俺の海にはな、俺の寝覚めを悪くする亡霊なんざ存在が許されねえんだよ」
だいたい、女にいいところを見せて、惚れてもらって、その後どうすんだ。
俺は女の扱いなんか知らねえし、幸せにもできねえよ。
そんな海賊団の中、ひとりの少年が心の中でつぶやいた。
(でも、亡霊と戦ったら、この中のメンバーが絶対に誰か死んでしまってまた悲しい思いをするんだろうな)
心が弱い。そう自覚する少年は――彼を「優しい」と言ってくれた海兵の爺さんを思い出す。海賊団と海兵は敵同士だったけれど、縁が続き、ある時は共闘し、またある時は共に冒険をして――最終的には、やっぱり敵同士なのだけど。
(あのお爺様にお知らせしよう。もしかしたら、助けてくれるかも)
少年は、特別あの爺さんと仲が良かった。無人島で共に過ごした夜、たいまつの灯りの中で本当のお爺さんと孫のように過ごしたのだ。
●ドラマの冒険
ネオフロンティア海洋王国の港町からドラマの冒険は始まる。
夜のことだった。とある事情で港町を訪れていた冒険パーティドラマ・ゲツクのチームは、パノラマ状に広がる海を見晴るかす街道を歩いていた。
寄せては返す波音が絶え間なく耳を騒がせ、潮の香りが満ちている。そんな中、ドラマは一人の『爺さん』の存在に気が付いた。
シナリオ:透明空気
参加者一覧 | |
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ドラマ・ゲツク(p3p000172) 蒼剣の弟子 |
探索記録
●その戦いの即興歌
♪俺たちゃ陽気な海賊団
♪正義も悪も知らねえぜ
♪ヘイ、ホー手を叩き
♪ハイ、ホー銃を撃て
♪惚れた女ぁ守るため
♪盟友と戦う戦場は
♪海兵爺さんが目こぼしする夜、町娘も眠る夜の海
♪人助け? 名誉はいらねえ、ただヤりたいから守るのみ
彼らが挑むは亡霊船、町人も村人も知らぬ夜の海戦――「勝利を!」聲が夜の海面に木霊する。
●謎の爺さんとの邂逅から
ネオフロンティア海洋王国の港町からドラマの冒険は始まる。
夜のことだった。とある事情で港町を訪れていた冒険パーティドラマ・ゲツクのチームは、パノラマ状に広がる海を見晴るかす街道を歩いていた。
寄せては返す波音が絶え間なく耳を騒がせ、潮の香りが満ちている。そんな中、ドラマは一人の『爺さん』の存在に気が付いた。
海をじいっと見つめるじいさん――洒落ではなく(説明した方がいい? じいっと見つめるじいさ、……こほん)。ともあれ爺さんだ。
爺さんは制服のような衣装に身を包み、年の割に背筋はしゃきっとしていて、目は炯々として猛禽類のような気配を纏っていた。
ドラマの視線に爺さんもまた冒険パーティドラマ・ゲツクのチームに気が付いた様子で、振り返る。そして、しばし値踏みするような目を見せた。
例えば、レベル。例えば、名声。人数――、この時爺さんの心を動かしたのは、そんな何かしらの要素だったに違いない。
●奇縁
「これはこれは、腕が立ち名声のある方々とお見受けします」
爺さんは、目の前の冒険者パーティドラマ・ゲツクのチーム がたいそう頼りがいがあり、ぜひとも力を借りたい存在だと思ったのだった。
「さぞお忙しいことでしょう。されど、もしよろしければこの老人の頼みをきいてくださいませぬか――」
こうして、彼らの新たな冒険が始まった。
「海賊団と共に、亡霊船退治をしてほしいのです」
爺さんは手帳を取り出し、さらさらと日時と場所を書き記して渡した。
「この日、この場所、この時間。『エドワルド海賊団』が亡霊船退治のために出航するはずです」
「『エドワルド海賊団』? 亡霊船退治?」
問いかければ、爺さんは頷いた。
「『エドワルド海賊団』は数年前に壊滅したとある海賊団の残党どもです。構成員は若者ばかり。奴らはたいてい、孤児や奴隷出身。ガキの頃から海賊団で生きてきて、今更カタギにはなれないって連中が寄り集まって新たな旗を掲げたわけでして」
語る爺さんの眼は、まるで近所の悪ガキの話をしているようだった。
「キャプテン・エドワルドにこの銃剣を渡し、『セオドア』が傭兵を調達したと伝えてください。それで伝わることでしょう」
●エドワルド海賊団との初めての共闘
さて、指定された日時に指定場所へと訪れてみると、そこは剣戟と銃声が響く小戦場であった。岩肌にぽっかりと開いた自然洞窟の入り口で戦う海賊と魔物たち。ドラマは加勢するために駆け出した。
「お頭! 見知らぬパーティだ!」
海賊一味がパーティドラマ・ゲツクのチームに気づいて警鐘を発する。
闇に溶け込むような黒ずんだ洞窟から何人も海賊が現れ、前線を構築する。負傷した海賊たちは、仲間が支えたり抱えたりして洞窟の奥へと連れていく。
魔物はというと、海から現れていた。白い波間にぬっそりべったりと這い出て、上陸する動きを見ていると、洞窟の奥を狙う様子ではなく、どちらかといえば町に向かうようだった。
「そこのパーティ! 見ればわかると思うが魔物が町を狙ってやがる! 戦えるなら共闘を。戦えないなら逃げろ!」
朗々とした聲がかけられる。
声の主は、キャプテンコートを翻し、筋骨隆々とした浅黒い青年。最前線で敵の血に染め上げるその男は海賊団の船長エドワルドに違いない。片手に曲刀、もう片手には長銃を携えて、海賊は口の端を挑戦的に釣りあげた。
「俺が見たところ、あんたらは『戦える』方だ。そうだろ?」
――尻尾巻いて逃げてもいいけどよ!
そう言ってエドワルドは高らかに銃声を響かせた。
●勝利と銃剣
魔物の数が減り、やがて残らず狩りつくされる。勝利を収めたドラマ・ゲツクのチーム に海賊団の船長エドワルドが手を差し伸べた――握手しようというのである。
「あんたらつええな! すげえ助かったぜ。……ん? その銃剣は?」
ドラマが手を握り返し、爺さんから受け取った銃剣を渡せばエドワルドは目を見開いた。船長の周りを固めるようにしていた他の海賊たちもまた、同様に驚き目を瞬かせ。
「その銃剣は――」
『セオドア』が傭兵を調達した。そうドラマ が伝えると、海賊たちがさまざまな感情が入り乱れた反応を見せる。ある者は喜び。ある者は驚き。ある者は気味悪そうに。ある者は恐怖。ある者は――悲しみ。
「お、お頭。セオドアのお頭」
「そんなはずない。お頭は処刑されたんだ。俺は見た」
「俺もだ」
どうやら、セオドアというのは彼らがもともと所属していた海賊団のお頭の名前のようだった。
「この銃剣は、確かに亡きお頭の」
エドワルドは銃剣を大切そうに受け取り、周囲へと視線を巡らせた。
「お前ら、なんだそのツラは! お頭が俺らを助けてくれるってんだ、情けねえツラすんな」
海賊団はパーティドラマ・ゲツクのチームを洞窟の奥へと招いた。傷を癒し、準備をしながらエドワルドが事情を打ち明ける。
●海賊船長と恋語り
他の海賊には聞こえないよう、小さな声でエドワルドが囁いた。
「その爺さんは、俺が思うに海兵の爺さんさ。お頭とは幼馴染で、なのに敵同士でな。俺もよく戦ったものだ。あの時、お頭が捕まった時――処刑される日、奴はなんともいえない顔をしていてさ」
気持ちを切り替えるように笑い、エドワルドは首を振りポーションや食料を振る舞ってくれた。
「傭兵サン。仕事の話をしようや!」
エドワルドが説明する。
彼ら海賊団の中に、占い師がいるのだと。
「そいつが、予知夢を見たんだ。ここからほど近い海種の村が、最近この海域に出るようになった亡霊船に襲われる夢だ」
その村にいる女性は、昔エドワルドが海賊団の見習いだったころ、嵐の中でおぼれて死にかけた時に命を救ってくれたのだという。
「優しくて、イイ女だったよ」
初恋を持て余す少年のような目をして、エドワルドは赤く染まった頬を掻いた。声にはそんな自分に戸惑うような、自嘲するような甘さと苦さが滲んでいる。
「名前も知らねえ。その女が今どうしてるかも、わかんねえ。別嬪サンだったし、いい男と結ばれて幸せになってるといいな。……襲われるのは、その女の村なんだ。まあ、なんだ。助けてやりたくてな」
海賊団は情報を集め、亡霊船の出没時間と航海ルートの見当をつけた。ゆえに、村が襲われる前に人知れず亡霊船を退治しようというわけだ。
●
十分に準備を済ませ、彼らは戦いの場へと出発した。
●海賊の即興歌
♪俺たちゃ陽気な海賊団
♪正義も悪も知らねえぜ
♪ヘイ、ホー手を叩き
♪ハイ、ホー銃を撃て
♪惚れた女ぁ守るため
♪盟友と戦う戦場は
♪海兵爺さんが目こぼしする夜、町娘も眠る夜の海
♪人助け? 名誉はいらねえ、ただヤりたいから守るのみ
彼らが挑むは亡霊船、町人も村人も知らぬ夜の海戦――「勝利を!」聲が夜の海面に木霊する。
●亡霊船
星々が遍く生き物に平等に光を煌めかせ、澄んだ空気を思わせる美しい夜空が見守る夜。
海賊船に乗り、前方を警戒するドラマ・ゲツクのチーム が敵船発見の報せに緊張を高めた。海賊の声が飛び交い、忙しない足音が波音交じりに甲板に鳴る。
「奴らは海種の亡霊だ。船上で討つぞ、いいな」
矢が幾つも放たれる中、錆びた鋼線が飛んでいく。先端に鉤フックをつけた線が幾つも敵船の船縁に引っ掛かると、海賊団員が一斉に吠えた。
「船には実態がある! 引き寄せろ!」
「亡霊は船員だけだ。いけるぞ」
加速した海賊船が線で繋がった亡霊船を引き寄せながら接近していく。近づくにつれ、恐ろし気な亡霊船の乗組員がありありと見えてくる。落ちくぼんだ眼窩、皮が干からびて剥がれ落ちた骸骨、手に持った武器。
「――接舷!」
波があらぶり、白い飛沫をあげている。夜の海面は真っ黒で、底知れぬ宇宙へつながるような色だった。敵船から味方船へと飛び乗る亡霊乗組員。迎え撃つ海賊たち。味方船から敵船へと乗り込む海賊たち。
「ドラマ・ゲツクのチーム ――ドラマ・ゲツク ! 共に行こう! 頼りにしてるぜ!」
エドワルドがセオドアの銃剣を構えて、歯を剥きだしにして吠えた。
「――エドワルド海賊団とドラマ・ゲツクのチーム、これに在り! 俺らの眼が黒い限り、この海で女を泣かせる亡霊なんて許されねえってことを教えてやるぜ!!」
――それは、他に居場所がなく『海賊』という人生に行きついた若者たちが自分という存在に誇りを持てるような誇り高き叫び。堂々たる聲だった。
ひとりがその背に続き、また別のひとりが続く。
危険を顧みず、勇敢に。
「海賊は恐れない!」
誰かが叫び、亡霊骸骨を蹴り飛ばす。暗闇から伸びてきた骸骨の腕にからめとられ、藻掻きながらも恐れる表情は見せない。
「海賊は仲間を見捨てない!」
仲間が骸骨を斬り捨て、哂う。そんな戦場でドラマは仲間と共に最前線を戦っていた。
●海賊の盟友
「あんたらはすごいな……!! もし、あんたらがいなかったら、被害がどれだけ出ていたことか」
冒険パーティドラマ・ゲツクのチームのメンバーの活躍により、戦いは勝利を収めた。海賊もドラマ・ゲツクのチーム の面々は皆破顔し、勝利を喜んだ。
「あんたらは俺らの盟友さ」
海賊団が笑い、勝利と別れの宴を催した。ゆらり、ざぶり。彼ら以外には知られることなく、密やかに悪の芽を摘みとり平和を取り戻した日常の海の波間を海賊が掲げる灯りが気高き橙色に浮かび上がらせ、暗い夜の漆黒をわずかにあたたかな光に染め替えて。
夜明け前、海賊船が洞窟の奥に帰還して、彼らの冒険が幕を下ろす。
挑戦結果
●ピエトロ
港町に帰還した彼らに、依頼人の爺さんが頭を下げた。
エドワルドから聞いた話を打ち明ければ、爺さんは笑って肯定し、「ピエトロ」という自分の名を教えてくれた。
「ありがとうございます。私は結婚の縁にも恵まれず、この歳まで幼馴染の海賊団を追いかけまわしてばかりの人生でした。ある時は命を削り合う交戦、ある時は共闘、共に無人島に遭難して洞窟を探索したこともありました。不思議なもので、奴らは――我が子のように思えるのですよ」
差し出した報酬は、人魚の装飾を飾るちいさく可憐なオルゴール。奏でる音色はどこかもの悲しく、戻らぬ過去を懐かしむよう。メロディを聞きながらピエトロ爺さんは目を細めた。
「それにしてもあのエドワルド、女に奥手でいかんわい。まるで奴の若い頃のようじゃ」
空と海の間で穏やかな時間が過ぎてゆく。
世界の至る場所で同時多発的に様々な事件が起きている。イレギュラーズは、その事件にかかわるかもしれないし、かかわらないかもしれない。それはひとつの『縁』なのだ。
さて、明日はどんな縁があるだろう?
パーティは明るい今日をゆるりと歩く。共に歩く仲間と、他愛もない話をしながら。
戦績
攻略状況:攻略成功!