PandoraPartyProject

冒険

闘技場設定は『練習場』から!


御伽朔想モラトリエ

●はじまりのモラトリアム
 ギルド・ローレットのメンバーリリーはその日、サロンメンバーであるひとりの依頼者と出会ったのだった。
 依頼者は、17歳の少年。そして、彼の妹だという13歳の少女。
 少しぽっちゃりしていて、愛嬌のある顔立ち。名前は、兄が田辺秋音(たなべ・あきね)。妹が田辺つよし(たなべ・つよし)。
「あなたたちの絵を描かせてほしいんです。俺は油絵を」
 秋音少年はそう言って折り目正しく頭を下げた。妹のつよしは兄と微妙に距離を取り、「あたしは、てぇてぇ漫画描く」と頼み込む。
 絵はともかく、てぇてぇ漫画とは――、リリーは仲間たちとしばし視線を交差させ、考え込み――結局、依頼を受けたのだった。


●花屋のお兄さんは、心配です
 色とりどりの花が天に向かって花弁を開いて、のびのびと咲いている。
 一輪一輪がうつくしく、可憐で、大切だ。
 花屋のお兄さんは優しい瞳で花を愛で、ふと表情を曇らせる。
「彼、大丈夫かな」
 心配事があるのだ。
 それは、お兄さんの趣味活動に起因する。
 お兄さんが思い出すのは、サロンの風景。
 少年が過去を描いて――年配者、サロンの主が褒め称え。
 少年に催促する――もっと過去を描いてほしい、もっと見せてほしい。懐かしい景色を、ひとを。思い出を。
「こうではない。違うだろう? こんな景色ではなかっただろう」
「もっとリアルに描けるだろう。ああ、もったいない」
「顔を思い出したいのに、顔が曖昧ではないか」
 描くにつれ、徐々に不満が増えていく。

「俺、過去をもう描きたくないんです」
 ある時、少年がそう言って――、

「ああ、心配だな」
 うつくしい花に向かって、お兄さんは鬱々と呟いたのだった。


 シナリオ:透明空気

参加者一覧
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール

探索記録

●再現ノスタルジィ
 再現性東京。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げたその区画――古き良き昭和をモチーフとする『1970街』。昭和の町並みを進むと、『レトロ』をうたい文句にデザインされたノスタルジックな街道がある。絢爛明媚な薄紅桜がひらりはらりと舞う色を瓦斯灯のメロウな光が照らし染め、石畳の通りに立つ看板の文字は洒落た飾り文字を誇り、木造りの椅子並ぶ甘可愛いが売りの和ロリパーラーメイドさんの笑みの花咲くカフェーを通り過ぎ、煉瓦建築を横切って。辿り着くのは、虚木館(うつろぎ-かん)と呼ばれるプレーリーハウススタイルを思わせる館。ドラマチックな空間構成で知られるその館内に入れるのは、館主のお眼鏡にかなった若者のみ。招かれた若者はメンバー証を持ち、音楽、絵画、文学、なにかしらの才能があるのだという。
 それは、サロンーーSalon d’ patria。

 ギルド・ローレットのメンバーリリーはその日、サロンメンバーであるひとりの依頼者と出会ったのだった。
 依頼者は、17歳の少年。そして、彼の妹だという13歳の少女。
 少しぽっちゃりしていて、愛嬌のある顔立ち。名前は、兄が田辺秋音(たなべ・あきね)。妹が田辺つよし(たなべ・つよし)。
「あなたたちの絵を描かせてほしいんです。俺は油絵を」
 秋音少年はそう言って折り目正しく頭を下げた。妹のつよしは兄と微妙に距離を取り、「あたしは、てぇてぇ漫画描く」と頼み込む。
 絵はともかく、てぇてぇ漫画とは――、リリーは仲間たちとしばし視線を交差させ、考え込み――結局、依頼を受けたのだった。

●モデルさんのお仕事
 『幻櫻旅寓カフェー』。そんな看板を冠する店の中。黄土色の木の腰壁を設けた白壁には、朱色で舞妓さんと桜の絵が描かれている。蓄音機が奏でる途切れ途切れの歌謠曲があたたかなメロディで店内をゆったりと浸している。

 陶器のカップ&ソーサーは、インディゴ生地めいたコバルトブルーと白の精緻な花柄模様。内側に湛えるのは香り高い紅茶の煌めき。アッサムを使用したロバストでモルティーなリーフ・ブレックファスト・ティー。
 桜千鳥の和三盆糖シュガーマドラーを添えられて。
「珈琲もお抹茶もございます」
 店主が笑い皺湛える目元を笑ませ、親類筋の娘だという女給が料理を運ぶ。

「今度、サロンで新作発表会があるんですよ」
 秋音少年の声は控えめで、店内の空気に染み込んでいくようだった。
「俺は、サロンの落ちこぼれなんです」
 秋音少年はそう言い、リリーたちに笑いかけた。
「最初は、才能があると言われました。でも、枚数を重ねるにつれて思ってたより伸びないっていうか。メッキが剥がれたっていうんですか」
 スケッチブック片手に、手は『やどい 』のメンバーの醸し出す世界観を捉えた速写画を描いている。
「まわりの人たちもそう言いますし、自分でも才能がないなって思うんですよ――こんな僕に描かれるのって、なんか嫌です? あはは、すみません……」
「兄ちゃんは賞を取ったこともある」
 むすっとした顔でつよしが呟く。
「あたしは、趣味で漫画描くだけ。でも、お金はちゃんと払うよ」

 瓶詰め京飴、郷愁誘う素朴なあんころもちにみたらし団子、どら焼き、あんみつ、白玉くりぃむ乗せぜんざい、紅い金魚が泳ぐ水色羊羹、蕩けるバターのあったかワッフル、チョコパフェ、フルーツタルト、フォトジェニックなパステル・カラフル・トゥンカロン。
 サンドイッチにオムライス、イカ墨パスタにカレースウプ、エビフライ、旬野菜のサラダバー……、
 テーブルの上に、兄妹と『やどい』が注文した料理が届く。

「あたしの推しスイーツ」
 つよしがトゥンカロンをリリーに差し出した。
「これも美味しいですよ」
 秋音少年はおっとり微笑み、青じそドレッシングに艶めく旬野菜のサラダを示した。
「特にこのキャベツ。胃にも優しくて」

 扉が蝶番の小さな軋みをあげて、カランカランと来店を報せる鐘が鳴る。
「いらっしゃいませー!」
 次々と新しい客が来店する。


●ただいま、お仕事中
 つよしがスケッチブックを手に目を爛々とさせた。
「てぇてぇとこ描きたいから、『やどい』のみんなでなんかそういうのをやって」
 兄が困り顔で説明してくれる。
「すみません。こいつの言う「てぇてぇ」は「関係性尊い」の意味で、仲良いところを見せてほしいみたいです」
 リリーはカップを口に運び、考えた。そして、仲間を見た。
「そのケーキをあーんってするとこ見たいぃ」
 つよしが焦れてオーダーし始めた。これも仕事だ。やどい はオーダーの通りに動き始めた。
「あーん」
 ショートケーキをさくりとフォークでひとかけら掬い取り、仲間に差し出す。
「いただきます」
 笑顔でぱくり。お返しに、とサンドイッチを差し出され。
 ――これが「てぇてぇ」になるだろうか?

 見れば、つよしは熱心に頷き、手を動かしている。この方向性で良いらしい。秋音もまたそんなリリーを紙に記録しようと鉛筆を動かしている。
「ほっぺについたクリームを指で拭ってぺろってするのおね」
 しゃかしゃかとつよしの手が動き、こんこんと湧き出る妄想をオーダーする。
「リリーさんとそこのあなたでお膝抱っこ」
「王様ゲームみたいなノリに……」
 思わずつぶやくリリー 。
「つよし、あまりはしゃぎすぎてはいけないよ。すみません、こいつが」
 謝りつつ秋音も手を止めない。この撮影タイムは1時間ほどで終わり、兄妹は食事代を負担してくれた。

「今日はこの後、もう1箇所付き合ってほしいんです」
 秋音は何度も頭を下げて懇願する。この上さらになにを求められるのか……。

 彼らが歩く道は人通りが多い。人々の視界に兄妹とやどいが一瞬映る。特に気になるような事がなにもなければ、そのまま通り過ぎて、数秒後には忘れてしまうことだろう。

●???
「あそこにいるのは……まあ、いいか」


●ただいま、お仕事中(2)
 やがて辿り着いたのは、貸衣装屋だった。
「到着しました、ここです」
「わーい」
 田辺兄妹がワクワクとした面持ちで『やどい』に衣装を選んで渡してくる。ハロウィンかコスプレ大会か――そんなバリエーション豊富な衣装の数々。
「これも、その、お仕事なので」
「おねがいしま!」
 リリーは仲間の顔色を窺いつつ、動物の着ぐるみを着たりアリスモチーフのコスチュームに身を包んだり、フォーマルスーツやドレス、メイド服にチャイナ服、民族衣装にプラグスーツ、和着物と幅広い衣装を着こなした。

「これで、どんな作品が生まれるんでしょう」
「見たかった」
「すみません」
 会話しつつも衣装替えは進み、兄妹はリリー の姿を目に焼き付けつつ、紙にもやっぱり姿絵を描いて記録するのであった。


 そして、数日の時が流れ――、


●秋音のアトリエ
 ――さあさあと雨が降る日だった。

「いつも、すみません」
 あたたかな室内で椅子に座ってポーズを取るリリー。少し離れたところで懸命に筆を動かしているのは、秋音だ。シャツ&デニムパンツルックの上から絵具汚れが目立つエプロンを着用し、朱利桜のパレットを手に、銀のスチール油壺からオイルを足してペインティングナイフで色を練る顔は楽しげで、F4号の張キャンバスの色の山に色足した筆を洗浄液でぐるり遊ばせ、時計の針に視線をちらり。
「ああ、そろそろ休憩しましょう」
 秋音は初日よりだいぶリリー に打ち解けた微笑みを浮かべ、アトリエのカーテンを揺らして外を見た。
「あしたは、つよしと遊園地でしたか」
 リリーは傍に置かれた珈琲カップを指先で弄りながらこくりと首を縦にした。
「あいつ、本当は――漫画とかより、リリーさんたちと遊びたいんだと思います。寂しいのでしょう」
 リリーの目を真っすぐに見て、兄の眼をした秋音が真摯に言の葉を紡ぐ。選びに選んだであろう言い回しは、曖昧という名の薄透明な衣で寂しさとどうしようもない無力感を包み、モラトリアムの終着分岐路を探るようだった。
「俺たちは、親と離れてしまいました。きっと、もう会えないと思うんです」
 その胸には、多くの記憶があると言う。秋音は壁に並ぶイーゼルの上と下とに置かれた複数の絵を見せた。そこには、記憶の風景や人々が描かれているのだ。
「目に見えないもの。耳で聞き取れないおと。触れることもできないなにか」
 黒い玻璃のような目が絵から逸らされる。
「朔の迷子のようです。どこかに月を夢見ていて、醒めた後時間と共に移ろい消ゆ月光の残滓を搔き集めて、俺たちは自分の朔を描くのかもしれません」
 そして、哂った。
「俺は、いつか気づいたんです。自分が描いているものに。そして、恥ずかしくなってしまいました。俺は――過去ばかりに没頭して、恋しがってばかりで、迷子の幼子みたいで、駄々っ子みたいで、ああ俺格好悪い――そう思ってしまいました」
 絵に布をかぶせて過去を秘め、秋音はリリーの絵を見せた。

「まだ、途中ですけど。これは、俺の新しい一枚なんです」


●つよしと
 今日は、つよしと遊園地に来ている。

「ジェットコースター楽しかったね」
 つないだ手をゆらり、揺らして。
「あんまり手を繋いでると、繋げなくなった時が哀しいから」
 つよしは呟きながら手を放し、ツアーガイドめいた目でリリーを誘う。
 しゅわっと気泡を立てるドリンクを買って、チュロスを手に乗り込むのは観覧車。ゆったり高く昇りながら語り合うお化け屋敷の思い出。そして、一番高く昇った時つよしはそっと窓から目を逸らした。
 
「兄ちゃんの絵、いい感じ?」
 リリー はもちろん、と返事した。
「ふうん。ま、よかった」
 金出してるしね。そう呟き、つよしは耳を赤くして唇を尖らせた。
「モデルがいいんだから、いい絵になるに決まってるんだけどね。リリーさんだもん」
 そして、窓の外を見ようとした時――、

 ガタン。
 突然、観覧車が停止した。
「「キャアアアアッ!!」」
 外から悲鳴が聞こえてくる。

●異変
 見れば、遊園地で全身黒服のあやしすぎる男たちが銃や刃物を手に暴れているではないか!
 男たちは何かを叫んでいる――、

「やば、なにあれ。映画の撮影? え、テロ? え、どうしたの」
 つよしが動揺している。
「ねえ、観覧車平気? ここ、安全? 危険?」
 リリーはつよしを落ち着かせ、両腕に抱きかかえて地上へと降りた。束の間、間近で問いかけるような少女の眼が瞬き、頷いた。
「リリー さんがいるところが安全。そうだね」

 黒服が怒号を響かせている。
「こんな街、現実逃避だ。偽物だ」
 叫ぶ黒服。その声は人々のこころを傷つけ、遊園地を楽しんでいた明るい表情を曇らせた。つよしもまた然り――少女はリリーの腕をぎゅっと掴み、首を振った。
「わざわざ遊園地を楽しんでる人に……ゆ、許せない」

「あたし、許せないよ。リリーさん、最後にもう一個おねがいしても、いいかな」
 リリーさんは強いって知ってるから。
 あんな奴らに負けないって信じてるから。
 少女はそう言って願うのだった。
「あいつらを、倒して……! みんなを守ってほしい!」


●叫び
「こんな街、現実逃避だ。偽物だ」
 叫ぶ黒服。その声は人々のこころを傷つけ、遊園地を楽しんでいた明るい表情を曇らせた。
 人々は未だ混乱し、怯え、傷ついた顔だが――敵はリリーにより倒されたのだった。

「ありがとう、リリーさん」
 つよしがリリーに抱き着き、泣きながらリリーの勝利を喜んでいる。

●遠くにサイレンの音が聞こえる。遊園地と――他にも?
 空を見れば、黒い煙が上がっていた。

●火
 数時間後、リリーは知ったのだった――秋音のアトリエが火事に遭ったことを。


●兄妹
「兄ちゃん!」
 つよしが悲痛な声をかける。
「つよし! リリーさん!」
 再会した秋音が必死な表情で駆けてつよしを抱きしめた。
「よかった。無事でよかった!」
「アトリエが、兄ちゃんのアトリエが――絵は? 絵は?」
「お前たちが無事でよかった」
 問いを繰り返す妹と、無事を喜ぶのみで答えぬ兄。

 リリーはそんな2人をすこし離れた場所に立ち、無言で見つめ続けた。

挑戦結果

●兄妹のエンディング
 何も、なくなった。
 秋音は焼け跡を漁り、黒炭の燃え滓に目を細める。
「にいちゃ、兄ちゃん……兄ちゃんの、絵が」
 思い出が。
 戻れない故郷が。
 大切なひとたちが。
 もう、会えないのに。もどれないのに。

 泣きじゃくる妹の体温が温かい。
 秋音はやさしくその背を撫で、頭を撫でてハンカチで頬を拭った。目を覗き込むようにすれば、ちいさな頃に戻ったみたいに全力で抱き着いてくる。
「おまえがいるじゃないか」
 兄は、微笑んだ。
「本当は、こういう時。本当に絵を愛している画生は、人生が終わったみたいに悲しむんだろうな。故郷や大切な人たちを愛する愛情深い人間は、慟哭して寝込んで、塞ぎこんで――けれど俺は今、それほど辛くないんだ、つよし」
 妹がしゃくりあげている。
 優しい娘だ。兄はそう思った。そう思うと、いとおしくて仕方ないのだ。
「つよし、俺は実のところ、それほど芸術に必死ではなかったんだと思うんだよ。過去を想うのも――悲しいし、寂しいし、恋しいけれど」
 傷がある。
 そう思った。
 心の中に、じくじくと血を流し続ける痛みがある。
 なのに、兄にはそれが大したことにはもう、思えないのだ。
 どちらかと言えば、この腕の内で泣き止まぬ妹の痛みこそが大事件に思えてならぬのだ。
「もし、おまえに何かあったら、俺は絵が無事であったとしても自殺したいほどにショックを受け、嘆き悲しんだだろう。犯人を決して許さないと思っただろう」

 秋音は穏やかな瞳であなたを見て、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ありがとうございました。……あなたの絵は、申し訳ないことに――せっかくモデルにご協力願い、長い時間付き合ってくださったのに――燃えてしまいましたが。妹を守ってくださったのが、本当に。なんとお礼をしたものか――」

戦績

攻略状況:攻略失敗…(撤退)

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