PandoraPartyProject

冒険

闘技場設定は『練習場』から!


幻想種“教導”所

 聖教国ネメシスの北西に広がる森林地帯の一角に、エールリヒの森は広がっている。
 かつて幻想種たちが静かにその永い生を送っていたこの一帯は、ある時天義の聖騎士らの一団により開墾されて、エールリヒ(誠実)の森と名を改められたのだ。
 森の入口にあたるエールリヒの町に、今となっては往時の開拓者村の面影はない。高い城壁と尖塔とが荘厳な佇まいを見せる城塞と大教会を中心に発展したこの町は、今では天義のどこにでもある都市のひとつであった。

 もっとも……だからといってこの町が、森と切り離されたわけではない。住人の多くは木こりや狩人で、エールリヒ城の領主であり敬虔な聖騎士でもある森林伯、カール・ヴァルトグラーフ・フォン・エールリヒに仕える幾らかの者たちを除けば、大半が森と何らかの関わりを持っていると言えたであろう。それは取りも直さず森の先住者であった幻想種たちにとっては、突然わらわらと湧いてきた余所者たちに、自らの領域を侵されたことに違いなかった。
 必然、両者は軋轢を生む。最初は彼方よりやって来た異種族に森の恵みを分け与えることも厭わなかった幻想種たちも、いつの間にか殖えていた人間種たちの生存圏が広がって、自分たちの聖域を侵しはじめたともなれば黙ってなどはおれなかった。まずは対話が行なわれ――しかしその試みは失敗に終わったことを彼らは理解する。確かに、最初は問題ないのだ……だが短命な人間種らは、世代交代によりすぐに約定を忘れる。一方で幻想種たちもその原因に思い至れず、人間種の裏切りであるとして報復を行なったのだ。

 幻想種からすれば人間種の裏切りであり、人間種からすれば幻想種による一方的な攻撃であった。幻想種たちにとっての不幸は、エールリヒが聖騎士らの開墾した町であったということだ。
 聖騎士たちは“邪悪な”幻想種たちを次々に討ち、森を人間種の支配下に収めていった。そうなれば幻想種たちの反撃はますます過激になって、対抗するようにより多くの聖騎士たちが天義の各所より集う。それでもまだ森を知っているうちに入っていたエールリヒの聖騎士たちとは違い、余所者の聖騎士たちは森に入ってすぐに、幻想種たちが“邪教に傾倒していた徴”――すなわち彼らの自然信仰の証を発見するのだ。

 かくしてエールリヒの森の幻想種たちは、ほとんどが別の森へと散るか、改宗し、人間種の中で生きることを強いられた。だが、今も森のあちこちに、細々と暮らす者たちがいる――そして時に不運にも聖騎士たちに見つかって、苛烈な断罪と教導が行なわれている。
 否。その“教導”は、時には苛烈という言葉も生ぬるいほどの拷問であったと噂されている。エールリヒの聖騎士たちからすればそれは必然なのだろう……何故なら今でも昔の生き方を変えようとしなかった幻想種たちは、そうでもせねば自然信仰を捨てないのだろうから。
 だが、『冥刻のエクリプス』事件の後に、天義国王シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世はそのような強引な遣り方は改めるべきであるとした。であれば本来そのような施設は廃止されるべきなのであろうが……如何せん、エールリヒは極めて保守的な地域なのだ。
 『幻想種教導所』と名付けられていたその施設は廃止されるどころか、むしろ存在そのものを秘匿されるようになった。はたしてそれは、天義の掲げる正義に合致するものであろうか?
 もしもその教導所とやらが実在し、苦しむ者がいるのなら。その者を探し、助け出すことこそが、フェネスト六世の願う新たな正義であるに違いない。


 シナリオ:るう

参加者一覧
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
アンバー・タイラント(p3p010470)
亜竜祓い
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計
シスター・テレジア(p3n000102)
俗物シスター

探索記録

 昼なお鬱蒼とした森の中の街道を抜けると、無骨な城壁が姿を表した。かつては多くの幻想種たちを阻んだであろう街を囲む石壁も、今では通行税を取る門番がいるだけで、中に入るのに支障があるわけではない。
 とはいえ、保守的なエールリヒの町では、余所者が歓迎されることはない。例外は、外交官を除けば巡礼者くらいだ……ゆえにラムダ・アイリスのチームは「巡礼のために訪れた」という表向きの理由を告げて、入市の手続きをつつがなく終えた。


 さて、この町のどこかに『幻想種教導所』はあるに違いない……はたして、どこを探せばいいのだろうか?

 やはり、蛇の道は蛇だ。事情に詳しい関係者の力を借りるのが一番かもしれない。あるいは、文献に当たってみるのでも何かの手がかりが得られるかもしれないが……?


 調査によると、かつて、エールリヒ城が対幻想種戦の最前線であった頃、多くの幻想種たちが捕らえられ、エールリヒ城にて厳しい尋問を受けたのだとか。
 もちろん、そのついでに改宗を迫ることくらいは、当然やってのけたのだろう……だとすると、やはりエールリヒ城が怪しいか。


 さて、この町のどこかに『幻想種教導所』はあるに違いない……はたして、どこを探せばいいのだろうか?

 ……しかし、やはりいまいちエールリヒ城に乗り込むにしては情報が足りない。
 念のため、外の森にも何かないか確かめてみるとしよう……。


 昼なお鬱蒼とした木々に覆われるエールリヒの森は、秘密を隠すには都合のいい場所のようにも思える。
 流石に昼でも明かりが必要だとは言わないが、太陽は隠れて薄暗い。なるほど、このような場所で自然を崇めていたら、何も知らぬ聖騎士たちが邪教の儀式と勘違いするのもさもありなんといったところだ――その是非については目を瞑るとすれば。

 こういった場所を進む時には、やはり地元の案内役を立てるのが安全というものだろう。
 ラムダ・アイリスのチームが案内を依頼した狩人は、快く――幾らかの駄賃を支払うことにはなったが――森の奥までの案内を買って出てくれた。


 無論、案内人とて『教導所』の場所なんて知るわけがない。だが、彼の知る範囲でとはいえ道案内があったことにより、多くの危険を回避できた。
 もっとも……肝心の『教導所』の痕跡は、見つかりそうにはなかったのであるが。

 だが、裏を返せば『教導所』は、今調べた限りの範囲にはないということだ。
 案内人も、これ以上は案内できないと言っている。一旦、町に戻ることにしよう。


 さて、この町のどこかに『幻想種教導所』はあるに違いない……はたして、どこを探せばいいのだろうか?

 これまでの調査を総合すると、やはり怪しいのはエールリヒ城であるようだ。


 森林伯の居城であるはずのエールリヒ城はしかし、存外、入るのは簡単だった。巡礼といえば普通の町ならば神殿になるに違いないのだが、エールリヒ城は“邪悪な幻想種との戦いを指揮した”聖地であるので、巡礼者が訪れる前提で開かれているのだ。
 無論、“開かれている”といってもそれは“領主の居城にしては”の話。巡礼者用のルートは決まっていて、それから外れることは許されてはいない。

 が――許されていないからと諦めるようならば、そもそも『教導所』からの幻想種の救出など叶うはずもない。
 さて……では次はどう動くとしよう?

 しばらく様子を見ながら巡礼を続けているうちに、ラムダ・アイリスのチームはとあることに気がついた。
 監視の目は確かにあるのだが、その監視者全員が全員強靭な精神の持ち主かと問われれば、必ずしもそうとは言えないのだ。
 そっと近付いて魔眼で見つめる。哀れな衛兵はしばし正気を失って、呆然と立ち尽くしているばかり。
 今だ。今ならば道を外れることができる。魔眼の効果が失われないうちに、とっとと先に進んでしまうとしよう。


 こっそりと抜け出てきたのはいいが、特に目ぼしい場所があるわけでもない。
 まずは、散策あるのみだ。

 こういうものは、逆に何かが隠されていそうな場所を探すのがコツだ。そのつもりでいろいろと調べていると、ラムダ・アイリスのチームは怪しげな扉を見つけるのだった。明らかに地下への入口だ。


 地下室への扉には、頑丈そうな鍵がかかっていた。どうやら簡単には中には入れてくれなさそうだ。

だがよく見ればかなりの上方に、明り取りか換気口らしき穴が取り付けられていた。ある者は自力であそこに到達し、またある者は扉を透過すれば、簡単に中に入れそうだ。


 そこは幻想種たちとの戦いの時代を思わせる、恐ろしい地下室だった。
 左右に鉄格子の部屋が並んでおり、中には拷問具が置いたままになっているものもある……幸いにしてそれらが最近使われた様子はなさそうではあるが。


 そのまま教導所を奥に進んだラムダ・アイリスのチームが見たものは、決して豪華ではないものの、それなりには人が暮らせるように作られた牢屋だった。
 どうして、こんな場所に……その答えはすぐに明らかとなる。そこにはベッドに腰掛けたまま嘆く、一人の幻想種女性が囚えられている。
 女性は、ラムダ・アイリスのチームの接近に気付くと顔を上げ、怯えたようにこちらを見つめる。その頬には泣き腫らした跡があり、何者か――間違いなく森林伯だろう――が罪もない彼女を囚えたらしいことが見て取れる。

 助けに来た。そうアイリスが告げると、彼女はそっと入口近くの部屋を指差した。
「あの部屋に、この牢の鍵が保管されています……どうか私をここからお出し下さい」

 では、力ずくで破壊するのも時間はかかるし、彼女の言うとおりにしてみるとしよう。


 かくして、女性とラムダ・アイリスのチームは『教導所』を後にした。道すがら女性に他の犠牲者はいないのかと尋ねたところ、今はこの場所に囚われているのは彼女だけであったらしい……つまり、彼女と共に脱出できれば今回の冒険は成功ということだ。

 ラムダ・アイリスのチームはここまで、かなり速やかに事を運ぶことができている。追手を心配することなく、とっととエールリヒの町からおさらばしよう。


 エールリヒの町は次第に小さくなりゆき、いつしか森の中へと消えていった。
 もう、かの町に関わる一切のものが感じられなくなった頃、女性は自身をバルバラと名乗り、何故自分があそこに囚えられていたのかを訥々と語る。
「私は、あの町で代々の森林伯に仕える使用人でした。ですが、あの方は二十数年前、長命種ゆえに年老いぬ私に興味を持ったのです」
 それは不憫な異種族の女に幸せを教えてやろうという傲慢なやり方ではあったが、彼女には主たる貴族を拒むことなど許されなかった。彼女は娘を産み、しかし娘を欲していた当時の森林伯はそれを取り上げ、自身と幻想種の血を引く側室との間の娘として育てはじめる。
 エールリヒという保守的な土壌において、使用人の異種族に過ぎぬ彼女は自分が実母だと名乗り出ることすら許されなかった。時は過ぎ、娘は銀色がかった側室とは似ても似つかない金色の髪を持つようになり、これ以上二人の娘であるとして育てることはできなくなった。
「きっとあの子も、自分が疎まれていることを薄々と感じ取ったのでしょうね……いつしか酷い悪戯で周囲を困らせるようになって、手を焼いた森林伯はあの子を修道院に入れることになったのです。
 風の噂では、あの子はそこでも悪戯をして、修道院から追い出されただか逃げ出しただか……。森林伯は、その私の娘が私と結託して復讐を企てるのを恐れて、私をこの部屋に閉じ込めたのです。そんなつもりなど毛頭ないと、何度もお伝えしたにもかかわらず!」
 謂れのない罪で牢に閉じ込められていた今ですら、彼女は森林伯に復讐をしたがっているようには思えない。彼女のことは、このまま森林伯の手の届かぬところへと逃がしてやるのがよいのだろうが……彼女の心残りは、やはり彼女の生き別れの娘だ。
「もしもあの子と会うことがあれば、どうかあの子に伝えてやって下さい……母は、貴女を愛していたと。
 ああ、可哀想なテレジア! 私があの子を手放したばかりに辛い思いをさせて……!」

 すると、ふとラムダ・アイリスのチームの皆の視線が集まったことに気が付いたのか、シスター・テレジアは慌てて首を振ってみせた。
「わ、わたくし出生については喋るといろいろとヤバそうなので一切誰にも申し上げないことにしているのですけれど……そうですわね、随分と私に似た方がこの世にはいらっしゃるんですのねおーほほほ!」
 無関係を装う彼女が本当のところ何を思っているのかは、使っているのがバレるのを承知でリーディングでもしない限りは判らないが……。

挑戦結果

 おそらくはバルバラの娘、彼女が心配なんてしなくても逞しく生きている気がするのだが、それを彼女に伝えてしまっていいものやら?
 ともあれ、バルバラは今後はローレットの紹介を頼って、深緑の森でひっそりと余生を過ごすことにするらしかった。つまり、ローレットを通じれば彼女の居場所は判るのだから、今後、彼女の娘が“見つかった”時にも、何か困ることはないだろう。

 彼女の今後に、幸あれ。


※ 最後の章に★がついて終わった場合はトゥルーエンド、★★がついて終わった場合はパーフェクトエンドです。トゥルーエンドは『俗物シスター』シスター・テレジア(p3n000102)の同行とエールリヒ森林伯カールとの面会が、パーフェクトエンドはそれに加えて戦闘の完全回避が条件の一部として設定されております。是非ともお目指し下さい。
(パーフェクトエンドは、CPさえ足りていればレベル1のキャラクター×3+シスター・テレジアでも達成可能です)

戦績

攻略状況:攻略成功!

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