PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Je te veux>Quartum Tuba

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 とある巨大な生き物がいた。
 R.O.O.で観測された終焉の獣――名を“ベヒーモス”という。
 でっか君、なんて愛らしい呼称がついているが、其の巨体は愛らしいとは程遠い。
 ラサ南部、コンシレラ。其処に“でっか君”はいる。

 ある時、ベヒーモスを観測していた者が異常に気付いた。
 其の背中から何か粉のようなものが噴き出しているのを見付けたのだ。だが、其れは粉などではなかった。もっと絶望により近いものだった。よくよくみれば怖ろしい事に、小型の終焉獣の群れであったのだ。

 どこぞのユリカ氏によって『ちっさ君』と命名された其れは、各地へと雲霞のように広がっていく。求めるのは一体何か。食糧? 敵? 其れとも――我々が希望を溜め込んだ器だろうか。



「ラサのコンシレラにベヒーモスが現れた、って話はもう伝わってるかな」

 グレモリー・グレモリー(p3n000074)はいつものように無感情に話し始める。
 レオンがこのローレットにいない事も、代わりにユリーカがあたふたと仕切っている事も、グレモリーは既に納得し、呑み込んだあとなのだろう。

「其のベヒーモスなんだけどね、背中から終焉獣を吐き出し始めた。しかも転移陣を使って何処かへ転移している個体もある。まだ検討中なんだけど、彼らの目的は――」
「やあやあやあやあやあ!! どうやらまだ“奪われて”はいないみたいだね、イレギュラーズ諸君!!」
「げ」

 グレモリーの話を聞いていた 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が、突如現れた大声の主を見て露骨に嫌な顔をした。この前突然現れて、“わたしは君の師匠だよ”とのたまい、兄の居場所と敵を教えて消えた謎の麗人、マキナが其処にいたのである。

「……君は、マキナ。だったかな」
「そうだとも! 雲雀くんの師匠、マキナだ。気軽にマーちゃんと呼んでくれても構わないよ」
「誰が師匠だ! 俺にはちゃんと! 師匠が! いるんだっつーの!」
「いやいや。君の師匠はわたしだよ。ずっと前からそうだったもん」

 唸り声を上げる雲雀と、拗ねたように頬を膨らますマキナ。
 二人を見ていたグレモリーは無感動に両手を上げ、制止のジェスチャをした。

「まあまあ。……マキナ、最初の言葉を繰り返させるようで悪いんだけど、君も終焉獣――ちっさ君の目的を知っている?」
「知っているとも。大事な雲雀くんの危機かも知れないからね。彼らは君たちが持っている“パンドラ収集器”を狙っているんだ」
「――パンドラ収集器? 何故そんなものを」

 其の場にいて無言を貫いていた 『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が、不審そうな顔でマキナに返す。疑っていない訳ではない。でたらめかもしれない。だが、でたらめというには余りにも突飛な発言に、思わず疑問を呈せずにはいられなかった。

「彼らは収集器の中にあるパンドラを狙っているのさ。其れを喰らって滅びのアークに変換し、吐き出す。とても簡単な話だとは思わないかい? 寧ろ今までこの戦法を取って来なかった事にわたしはちょっと驚きを隠せないね」
「パンドラ収集器……」

 雲雀はそっと手にパンドラ収集器を載せ、覗き込む。最初に手渡されてそのままの収集器、其の中には雲雀がこれまでの冒険で集めたパンドラが眠っている。筈だ。

「で。キミはどうして此処に? マキナ」
「其の中でも大きめの一団を見付けたんだ。其の中にこの前話した“わたしにとってのサプライズ”も混じっていてね。これでもわたしは最後まで責任を取る方なんだ」
「――あのケンタウロスか」

 雲雀を見守っていた 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の視線が鋭くなる。
 以前雲雀が兄を救出した際に出会った、成長する透き通った終焉獣。彼はラダの体躯を『学び』――四つ足の獣から無貌のケンタウロスへと姿を変え、あっという間に逃げ去ってしまった。

「これは是非とも信じて欲しいんだけど、わたしは旅人だ。だから魔種じゃないし、怪物を集めるなんて芸当も出来はしない。ただ彼らが集まった場所を探し当てて、君たちに教えに来た。其れだけだよ」
「其れは実にありがたい話だね。僕の情報では居場所までしか掴めなかったから、敵の構成が判るのは助かる」

 其のケンタウロスとやらが首魁なのかい。
 グレモリーが問うと、さあね、とマキナは頭を振った。

「彼らは主従ではなく、あくまで協力関係にあるようだ。場所は覇竜の山岳地帯、ヴァンジャンス岩山だよ。会っているかな? グレりん!」
「……うん、合ってる。でも其の『グレりん』はやめてほしい」
「其れは残念。――と、わたしが今日君たちに差し出せる情報はこれだけだ。ヴァンジャンス岩山は険しい。足元に気を付けて戦いたまえ! では雲雀くん――と、ええと、雲雀くんの『仮の』師匠はどなたかな?」
「俺だよ、『自称』師匠さん」

 わざとらしく周囲を見回すマキナに、カイトが手を挙げて煽るように一言添える。
 マキナは特に気分を害するでもなく――ふうん、とカイトを上から下まで舐めるように見た。

「――まあいいや! 雲雀くんを護ってくれる存在がいるのは良い事だからね! あの小さな試練たちは、君たちのパンドラ収集器を優先して狙って来るだろう。壊されないように是非気を付けたまえ! アディオス!」



 ――おや?

 アナタたちは沢山いるね。
 ワタシは一人だ。仲間はいない。皆狩られてしまった。
 何処へいくんだ? ワタシもついていっていいかい?
 何を求めているんだい? アナタたちが欲しいのは――そう。

 其れに協力したら、ワタシはアナタたちと友達になれるかな?

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 或いは彼は――迷子なのかもしれません。

●目標
 敵の一団を撃滅せよ

●立地
 覇竜北部、ヴァンジャンス岩山です。非常に険しい岩山です。足場を確保するのも一苦労でしょう。
 敵の一団は其の辺りに留まっているようです。其れはまるで、敵を誘い込もうとしているようにも見えます。

●エネミー
 ちっさ君(ベヒーモスの欠片)x20
 無貌のケンタウロスx1

 ベヒーモスの欠片は四つ足の獣に蠅の翅が生えたような姿をしています。
 基本的に爪や牙を用いた物理攻撃と、衝撃波のような神秘攻撃で攻撃してきます。

 無貌のケンタウロスは『カタチとタタカイ』をラダさんから学習しています。
 自らの腕を銃と銃弾に変化させ、遠距離から物理攻撃を行います。

●特徴(ほぼPL情報です)
 今回のエネミーは皆さんのパンドラ収集器を率先して攻撃してきます。
 (プレイング冒頭に『何処に収集器を仕舞っているか』記入して頂けると助かります)
 特に無貌のケンタウロスはちっさ君の生態に興味があるので、積極的にパンドラ収集器を攻撃してくるでしょう。

●NPC
 マキナはリプレイ中には出て来ません。
 彼はあくまで雲雀さん、おいては周囲の人物の奮闘を見守る姿勢です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <Je te veux>Quartum Tuba完了
  • 深淵より彼らは来たり。神の印なきものに苦しみを与えん。
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ


「あの短時間で似せて来るとは思ってなかったよ」

 飛竜『がんも』に乗りながら、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は呆れたように、後悔するようにそう呟いた。

「模倣する“のみ”なら其れで良いんだけどな」

 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)がホバーバイク『凍鮫』に騎乗して唸らせながら言う。其の先は許されない事だ、と言外に籠められていた。

「――あの透明なケンタウロス……さんはともかく、終焉獣が成長してしまったのは俺にも責任の一端がある。あいつの話に二回も乗るのは癪だけど……癪だけど!! でも今、少しでも奴を削れるなら……!」

 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)はマキナが“弟子”と称する人物である。だが、雲雀にとっての師匠はカイトだけだ。
 カイトと弟弟子である『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は揃って雲雀を見て。

「大丈夫だ。雲雀、お前がそう信じてるなら――お前の『師匠』は俺だけだよ。簡単な話だ」
「なんか雲雀兄さん怒ってんねえ。……まあ、誘導されてる気持ちは判らんでもないけど。でも、放置してたらあかんのも事実やし。さっさと片付けましょ」

「Nyahahaha! 其の通り、簡単な話である! 汝らは師匠と弟子、奴らは敵であり破壊対象。其れだけの話だ、非常に簡単であるな」

 『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)が猫のように笑う。だが彼女に毛並みがあるならば、限りなく逆立っていただろう。
 愉快なのか不愉快なのも判然としない。成長途中で途上な餓鬼。
 二足歩行というものを、『無貌』の在り方を私が教えてやろうではないか!

「しかし、姿かたちや戦い方を学習して変化したタイプは少し前にも見たが――此処まで特定個人の姿とやり方を真似て来るとはな」

 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はラダを一度ちらりと見ると、……心に芽生えた不安の芽を誰にも知られぬように抜き取り、いつものように泰然とした。

 『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、腰から下げた旅日記――パンドラ収集器をそっと撫でた。情報が正しければ、敵は此処を狙ってくるはずだ。

「無尽蔵に出てくるのなら、早いところなんとかしないと危ないね。……とはいえ、まずはこっちを先になんとかしないと」
「そうですね、……収集器の破壊。効率の良い可能性の潰し方だと思います」

 『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)が己のパンドラ収集器である白いリボンを縋るように撫でる。

「だけど私たちはいつだって可能性を手繰り寄せてきた、……今回だって、きっと、必ず。潰させません!」



『ワタシはどうやったらアナタたちと友達になれるのかな』

 無貌のケンタウロスは小ベヒーモスに問いかける。答えはない。彼らにはそもそも意思があるかどうかわからない。
 ただパンドラを嗅ぎ付けて破壊するだけのケモノ。其れが彼らなのかもしれないが、無貌のケンタウロスは語り掛け続ける。

『ワタシは一人だ。友達が欲しいんだ。例え其の先に滅びしかなくても、一人より誰かといた方が楽しく迎えられるだろう?』

「Nyahahahaha!」

 静かだった小ベヒーモスと無貌のケンタウロス、彼らの声を打ち払うのは正に無謀の声!
 何事か、と彼等が顔を向けると、其の身体からほんの少しばかりパンドラの気配を『はみださせた』ロジャーズが宙に浮いていた。

「待ち伏せのつもりか? 残念だったなぁ。今のは詫びだ、文字通り“蒐集”したいならば、まず、私を壊して魅せよ!」

 ぶおん。
 ぶおん。
 蠅のような羽の生えた獣――小べヒーモスがつぎつぎと飛び立つ。無貌のケンタウロスは其れを見送る。己は前衛向きではないと判っているから。

「――行こう!」

 気配を遮断していた雲雀たちが、其れに合わせて動き出す。雲雀が皆を引っ張る形で、一気に接敵前に攻勢をかけた。

 雲雀の頭上に光が灯る。其れは堕天の輝きである。神ですら倦み払い落すような光が、小ベヒーモスたちを照らし、焼いた。
 更に雲雀は攻勢にでる。どろり、と岩壁が真っ赤に染まり、まるで血だまりのように粘性を帯びる。其処から次々と伸びる小さな赤い手が小べヒーモスを絡め取り、冷気と共に罪人を引き摺り込もうとする。
 逃さない。
 逃さない。
 死んで逃げる事すら許さない。
 超範囲の血だまりが小ベヒーモスと無貌のケンタウロスへと襲い掛かる。

 汰磨羈は三絶の一を解放する。魂魄の奥底にある太極を引きずり出し、己の限界を超越する。
 さらりと伸びた長髪が揺れ、そうして其処に、更に空間を飛び越える力を得る。
 妖刀『愛染童子餓慈郎』をすらりと抜き放つ。

「カイト、雲雀! “いつも通り”だ、合わせていくぞ!」
「はいよっと」

 声に答えたのはカイトだった。いつものように雨帳を纏い、大地から黒い雨を降らせた。其れは雨というより、多重に牙を持つ獣の一噛みのようだ。

「こんにちは! 俺は! 絶対封殺入れるマンです!」

 彩陽がウォーワイバーンで飛翔する。岩山の周囲に漂う霊魂から霊力を少し借りて、――己の武器に載せて、放つ。奇跡よ起きろ。起きないなら起こすまで。
 其の“奇跡”に巻き込まれた小ベヒーモスたちに、奇妙なヒトガタの何かがまとわりつく。翼にぐるり、纏わりつけば、其れ等はもつれあいながら岩山のあわいへ落ちていく。

「Nyahahahaha! 有象無象が! そうだ、其れこそ無貌のあるべきである! こやつらの方が余程“無貌”らしい!!」

 高笑いするロジャーズが広範囲に怒りを撒く。小ベヒーモスがロジャーズを狙う、
 そいつらではなく――ラダが狙ったのは其の引き付けに応じなかった小ベヒーモスたちだ。エアリアルを起動、銃を構えて弾丸を討ち放つ。一発がどうすべきかとばかりに跳んでいた小ベヒーモスを捉えると、其の周囲の小ベヒーモスを巻き込んで巨大な砂嵐を巻き起こす。

「――……お前は最後だ。私の姿で暴れられる前に、ここで討ち取ってやる」

 ――アレクシアが祈る。
 神へ祈る。そんなものがいるかは判らないが祈る。
 すると祈りはカタチになって、アレクシアへと降り注ぐ。回復と攻撃の力を底上げして、ロジャーズを振り仰いだ。
 彼女の周囲にかなりの小ベヒーモスが集まっている。怒り付与役としては想定以上の成果だが、あの量を一人で相手してしまうのは危険だろう。
 更にまだ範囲から逃れているものもいる。アレクシアはそいつらをひきつけることにした。

「ほら、見て」

 手品のようにアレクシアの手に現れる花は、闘争を誘う赤色をしている。
 ふわり、と舞った花弁たちは魔力となって拡散し、ロジャーズの魔手から逃れた小ベヒーモスたちを捉える。

 ――これでちっさ君は大体まとめられた……かな。

 問題は無貌のケンタウロスだろう。見下ろせば、彼――或いは彼女は右腕を銃の形に変化させ、アレクシアへと……アレクシアへと銃口を定めている!

「アレクシアさん!!」

 今まさに無貌のケンタウロスへと向かおうとしていたユーフォニーが声を上げた。
 だが無情なるかな、ケンタウロスの銃は待ってはくれない。ばきゅん、と音がして、銃弾がアレクシアのパンドラ収集器――其の、ベルトを穿った。

『外しましたね』
「……貴方は……何が狙いなんですか?」

 あれは誤射ではないだろう。ユーフォニーが見る限り、無貌のケンタウロスは確実にアレクシアの腰に下げた本を狙っていた。
 ドラネコを召喚して上空へ送り出し、露出した命を掌握するかのように手を握り込む。無慈悲なる手の一撃を喰らってよろめく無貌のケンタウロスへと、ユーフォニーは問うた。

『ワタシは彼等のお手伝いをしているだけですよ』

 無貌のケンタウロスは言う。

『彼等とトモダチになりたいと思ったんです。彼等は可能性を消したいと言っていました。なら、ワタシは其の手伝いをするべきかと』
「――……可能性……?」
『そうです。アナタの其のリボンもそうですね?』

 無貌のケンタウロスが、ユーフォニーへと視線と指を向けた。
 すると。
 ユーフォニーの下方から“黒い雨が咢のように逆巻きに降り注いだ”。

「きゃあああっ!?」
「……な!?」

 目を剥いたのはカイトだった。
 あれは間違いなく先程見せた己の技、『黒顎逆雨』! 威力は流石に本物には劣るようだが……

「アレクシア!!」
「わ、わかってる……!!」

 庇うように本を抱えながら、アレクシアがユーフォニーに癒しの手を伸ばす。
 カイトは内心で唇を噛んだ。ラダを学んだ、というから油断していた……あの無貌のケンタウロスは、誰からでも何でも吸収する性質を持っている可能性がある。
 だとすれば余りにも厄介だ。

「雲雀、彩陽! さっさと小さいのを片付けるぞ!」
「了解、師匠!」
「おっけー、ししょー!」
「私の名も呼ばぬか!!」

 汰磨羈、おこ。
 おこになりながらも接敵した彼女は、穢れた泥の一撃によって、広範囲の敵を一気に封殺範囲内へと吹っ飛ばしたのだった。



 カイト、雲雀、彩陽の封殺絶対付与するマン3名による封殺と、それぞれの活躍により、小ベヒーモスはロジャーズ一人でも対処出来る数まで減っていた。

「Nyahaha! 脆い、脆い! 最初にちらりと可能性を見せて魅せたというのに、触れられもせぬとは!」

 とはいえ、ロジャーズも傷だらけだ。小さな奇跡は既に使い切り、アレクシアが最優先で回復に回っている。
 だが収穫はあった。携行品の3度は使い切ったが、其れだけの価値はあった。残りの小ベヒーモスは数体。

「さて、……無貌を名乗る貴様はどう出る?」

 ま、我はこいつら鏖殺するまで動けないんだけどね!Nyaha!

「そろそろ終わりにしよか」

 彩陽が召喚した魔空間。其処に呑み込まれた小ベヒーモスたちが、次々と其の全身を圧搾され、粉々になって散っていく。
 更に其処にカイトが狙い撃つように光の雨を降らせ、邪悪な存在である小ベヒーモスたちを灰燼と変えた。

 さて、残るは――



 汰磨羈が刀を揮う。
 片腕を銃に変えた透明な獣が素早く其の直線上から逃れ、岩山を蹴る。
 じわり、と大地から湧き上がる黒い気配を察して、雲雀が攫うように汰磨羈を其の場から離脱させ、偽・黒顎逆雨から回避させる。

「助かった、雲雀」
「ちっさ君はあと少しだから、師匠と彩陽に任せてきた。――……師匠の技を真似るなんて、厄介だし面倒臭い敵だな」
「全くだ。次は何を学ばれる事やら」

『ああ、楽しいな』

 無貌のケンタウロスの気配が変わって行く。姿かたちは変わらない。ただ、まるで数百年を生きたかのような老獪さが無貌のケンタウロスから滲み出ていた。

『楽しいな、楽しい……!! 戦う事はとても楽しい! オマエ達から学んだ技で、オマエ達をいたぶるのは余りにも楽しい!』
「……悪趣味かよ」

 雲雀が吐き捨てた。
 此処で大丈夫だ、と汰磨羈は適当な岩山で降ろして貰う。刀を握り直し、無貌のケンタウロスを見下ろした。

 ユーフォニーが迫っている。
 幸いにして、無貌のケンタウロスは範囲攻撃を学んでしまったので皆が遠巻きにばらけて見ている状態だ。其の状態なら――これが撃てる!

「奪わせません、と言ったでしょう!」

 其れは世界。ユーフォニーだけの世界。
 彩波揺籃はきらきらと煌いて万色に輝く。溜めに溜めた一撃が、見事に無貌のケンタウロスへと叩き込まれる。

「お前には教えてない事があったな」

 其の後ろから矢のように、ラダが飛び込んでくる。

 ――三光梅舟!

 持っていた銃をくるりと回すと、銃床で一気にぶん殴る!

「知らなかったろう。殴るにもいいんだよ、この銃は!」
『――そ、れは……知らなかったな!!』

 無貌のケンタウロスが前脚を持ち上げる。
 同じ体型だ、動きなど直ぐに判る。ラダが素早く後ろへ下がると、無貌のケンタウロスは一気に前脚を振り下ろし、岩山を打ち砕いた。

「!」

 ばきばきばき、と音がして岩が砕け、細かな砂礫が大地から噴き出すように吹いて舞う。

『……私には……まだ、やるべき事が……!』
「――ッ、また逃げる気か!! 卑怯者め!」
『なんとでも! 私は……終焉の為に……!』

 ――そうして。
 凄まじい砂嵐の収まった後には、透明な獣は残っていなかった。
 ただ、何か硝子の欠片のようなものが一つきり、落ちていた。



 ――硝子に似た透明な欠片を透かして見る。
 きらきらと陽光を反射する其れはとても美しく、まさかあのニセモノの一部であるとは信じがたい。
 だが、奴がいた場所に落ちていたのなら……

「何を考えている?」
「……ロジャーズ殿」

 にょき、と空を見上げるラダの前に現れたのはロジャーズだった。

「これは奴の欠片なのかを考えていた」
「だとすれば皮肉だな。生きぎたないものほど美しい」
「全くだ。だが……どこか見透かされているような気もするんだ」
「ほう?」
「奴が学んだのが私だけではない事を安堵しているのではないか――そんな気持ちを見透かされているようで」
「ほうほう。まあ、あの手の類は良いと思ったら手当たり次第に手を伸ばすもの。菓子を欲しがる子どもと同じだ。自らと同じだったからといって、負い目に感じる事はないと我は思うがな」
「――そうかな」

 ラダは苦笑した。
 だが、ロジャーズの其の言葉が正直有難かった。次こそは。次こそは奴を仕留めてみせる。

「あーっ! いた! ロジャーズ君!」
「治療を受けてくださーい!」
「おっと、騒がしいのがおいでなすった」

 アレクシアとユーフォニーがようやく見付けたといったていでロジャーズへと圧をかける。此処はまだ岩山なので、仲間たちが集まるのも一苦労なのである。

「仕方ないな、ではお言葉に甘えるとしよう。では、汝。次こそは鏖殺しような」
「……物騒な言葉だな」
「間違ってはいないだろう」
「其の前に」
「治療です!」

 ロジャーズはアレクシアとユーフォニーに両側から抱えられ、治療に適した場所に連行された。
 ラダは其れを見送り、……再び硝子の欠片を見上げる。



「雲雀兄さん、もう大丈夫?」

 彩陽がそっと覗き込む。
 大丈夫だと雲雀は笑い、弟弟子の頭をくしくしと撫でた。

「わー撫でんとって! 折角整えた髪があ」
「どうせ戦いでぼさぼさだろ。今更だ」

 カイトが笑う。
 其の笑い声を聞きながら、少し離れた場所にいる汰磨羈もまたくすりと笑う気配がした。

「やー、最初結構苛々してたっぽいけど、今は大丈夫かなーって、思てん。何に苛々しとったん?」
「んー……ああ。自称『師匠』にね」
「ししょー?」

 彩陽がカイトを見る。
 俺じゃない奴だよ、とカイトがいうと、そんなんがおったんかと彩陽はびっくり目を丸くした。

「いや、俺は認めてないけどね、あいつが師匠だなんて」
「やよなぁ! 俺達のししょーはししょー一人やんな!」

 人懐っこい彩陽の言葉に、照れ臭さそうにカイトは頬を掻く。
 雲雀はそっと空を見ていた。マキナが見ているような気がしたからだ。

 ――お前の話に乗ったのは二回目。三度目はない。

 ――其れと、思い出した事があるんだ。だから、三回目が来る前にお前を殺すよ。

 ――首を洗って待ってなよ。俺にこの“眼”と力を与えてくれたお礼を、たっぷりしてあげるからさ。

成否

成功

MVP

刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

状態異常

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚

あとがき

お待たせいたしました。
お疲れ様でした。
やっぱり封殺怖いよお……封殺無効の敵を出すしか……

ご参加ありがとうございました!

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