PandoraPartyProject

シナリオ詳細

追憶の園

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●追憶
 ――白い太陽の光が、■■の眼を焼いた。

 木製のベンチに身を預けたまま、薄っすらと目を開ける。
 時計の針は13時58分を指し示していた。午睡にはちょうどいい時間だ。花壇に咲いたチューリップは静かに佇んでいる。白昼夢を見ているような昼下がり。本当に全員寝静まってしまったかのように住宅街には沈黙が落ちていたが、この公園だけはにぎやかだ。
 目の前では数人の子供たちがボールで遊んでいる。■■の視線はその内の一人へと吸い寄せられた。

 今よりも短い、肩までの髪。この頃はまだ髪を伸ばしていなかったのだ。
 それから、母によく似た顔つき。父譲りの瞳の色。
 洋服も両親と一緒に買ったものだったと思う。
 もう会えない両親の面影は今より色濃くて、優しく胸を引っ掻いた。

 ふと、ボールが高く宙に跳ね、誰も手にできないまま地面に落ちる。ころころと導かれるように■■の足元に転がってきて、つま先にぶつかる。■■はぱたぱたと駆けつける音を聞きながら、ボールを拾い上げる。
 これも誰かが導いた結果なのか、急いで駆け寄ってきた子供は、目で追っていたその子だった。
「ありがとう!」
 家族を大事にするようにと、その子に伝えようか迷った。数秒逡巡して、結局やめることにした。
 子供はボールを受け取る。そして無駄な言葉を交わすことなく、友達の輪の中へ戻っていった。ボールを拾い上げた人物が居たことなんて、遊んでいる内にすぐ忘れてしまうだろう。
 それで構わなかった。ただ『昔の自分』が浮かべられた純粋な笑顔を見るだけでよかったのだ。
 ■■はアルバムを仕舞うように、瞼を閉じた。

●現在 - 境界図書館
 幼き自分と出逢える箱庭。
 そんな世界があるのだと、境界案内人のカストルは一冊の本、もといライブノベルを掲げた。
「成長って、興味深くて面白いことだよね。ずっと昔の記憶、皆は覚えているのかな?」
 真っ白な本だった。表紙には『The Garden of Recollection』という題字と、二人分の黒い人影が描かれている。著者は不明。ライブノベルには珍しくないことだ。総じてシンプルな装丁だが、ここから繋がる世界は闖入者の存在を読み解き、生まれて十数年以内の光景を再現することで、その過程において生命より捻出される動力の学習を重ね世界の維持を云々。
「つまり――君たちは昔の自分と出会えるってだけだね。うん、それ以上でも以下でもないよ」
 苦笑いを浮かべながら、カストルは小難しい説明を取りまとめた。
「それじゃあ、皆も気になったら自由に行ってみてね」
 気晴らしのためでも、行き場のない感情を昇華するためでも、どんな目的であっても白き本は歓迎することだろう。

NMコメント

 こんにちは、NMの梢と申します。

●世界説明
 この境界世界では「参加者様の幼少期の光景(より厳密に言うと、生まれて十数年以内のどこかの光景)」が再現されます。
 日常の一コマ、もう会えない人と居る姿、人生の分かれ道、などなど。シチュエーションはご自由に。

 あくまで再現ですので、この世界で何が起こったとしても現在の参加者様の心身には影響がありません。
 極端な話、このシナリオの中で幼少期の自分が死んでしまったとしても、現在の参加者様は普通に生きていられます。

●目標
 昔の自分に会って、やりたいことをやりましょう。
 遠くで見ているだけでもOKです。皆様が居るだけで世界の維持に必要なパワーが溜まっていく、とのこと。

●補足
 昔と今とで口調に変化が生じている場合、昔の口調も記載していただけますと助かります。
 特にこだわりが無い場合は無記載でも問題ありません。

●サンプルプレイング
【例1】
 僕は昔の自分と一緒に遊んでみるよ。
 同年代の人がいなくって、一人で遊んでばっかりだったんだ。

【例2】
 あのとき村を襲ってきた化け物を追い払うわ。
 これで何かが変わるわけではないけれど……それでも、あのときの皆を助けたいの。


 相談期間を短めに設定してありますので、プレイングの送り忘れにはご注意ください。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 追憶の園完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年03月26日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
紫暮 竜胆(p3p010938)
守護なる者

リプレイ

●『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)
 ごろりと床に寝転ぶ感覚。
 床から見上げる書棚は少々不可思議だったけれど、すぐにどこにいるかを理解した。
 まだ人間の姿だった頃、まだ旅に出ていなかった頃、ライは貴族の邸宅に住んでいた。この姿になってから素直に信じてくれる人も減ってしまったけれど、ライは高名な貴族の跡取りだったのだ。豪奢な屋敷は檻にもよく似ていたけれど、広い書斎だけは自由を見せてくれた。
 過去の自分はいつも本を読んでいたあそこに居るはず。そろそろと本棚の陰から顔を覗かせると、案の定一人の少年が本を読んでいた。
「よう、俺」
「うわっ!?」
 急に話しかけられた驚きで、少年はついつい読んでいた最中の本を取り落とす。
「カーバンクル!? それに"俺"って……?」
「頭ごなしに怖がったり、否定しないのはやっぱり俺だな」
 ライはふわりと跳び上がり、机の上にちょこんと座る。少年が読んでいた本が目に入った。タイトルを見ると懐かしさが込み上げてくる。何度も読み返していた大好きな冒険小説の一巻だ。幼い自分は、広大な世界を巡る主人公に憧れを抱いていた。
 この小説の好きな部分を列挙できたら、『自分』だということの証明になるだろうか? 思い出せる限りの好きな巻やキャラクター、シーンをすらすらと語る。
「本当に俺なのか? でも、どうして……」
「――俺は未来からやってきた。特別な道具を使ったんだ」
 正確には少し違うが、こういう説明の方が分かりやすいだろうとライは判断した。
「なんでそんな姿なんだ?」
「ある宝石に呪われてしまったんだ。俺の冒険譚、聞きたいか?」
 ライは語る。未知を追いかけて訪れた、数多くの遺跡や秘境の地を。とりわけ空中大陸とゴーレムの物語は少年の食い付きもよかった。
 だけれど、冒険が齎すものは夢と希望だけではなくて。
「お前はどう思う? 後にこんな姿になって、いろいろ苦労すると分かっていても、冒険がしたいか?」
 ライは尻尾の先を伸ばし、本のタイトルをつぅとなぞる。その末尾までなぞり終わる前に、少年は答えを出した。
「それでも冒険に出たい。いろんな場所に行ってみたい!」
「やっぱり俺は昔から変わらないな」
 ライもこの姿が好きではなかったが、ここまでの足跡への後悔はまるでなかった。
 そして、若き彼の目がきらきらと輝いているのを見て――ああ、確かに自分はこの情熱で旅に出たのだと、自然と微笑みを浮かべていた。

●『かわいいもの大好き倶楽部』紫乃宮 竜胆(p3p010938)
 劫々と燃える炎は、確かな熱を放ち、彼を圧倒した。

 真っ赤な世界だった。赤子を抱き締めたまま斃れる女性、武器を手に悔いの表情のまま殺された男性――誰しもが角を切り落とされて死んでいた。
 この世の地獄を前にして、竜胆の手は紛うことなき恐怖で震えていた。片手で右目を、片手で刀の柄を触れる。
「大丈夫。力はつけてきた」
 言い聞かせるように呟くと、彼は前を向いた。年端も行かぬ子供が角を切り落とされそうになっている。
 半ば無意識に飛び出し、背後から賊に斬りかかる。……鮮血の雨が降り、賊はどさりと倒れた。
 不思議なものだ。記憶に映る彼らはおぞましい悪鬼のようだったのに、こんなにも呆気なく殺せるなんて。心を煙らせていた恐怖が消えると、怒りの炎が鮮明に燃える。
 早く逃げろと促すと、子供はよろよろと立ち上がり、逃げていった。竜胆もまた、立ち止まっている暇は無いと地を蹴る。

 紫紺の角は希少。高く売れる。
 たったそれだけの理由で、竜胆の故郷は滅ぼされた。

「こんな手練れがいるなんて聞いてねぇぞ!?」
「ヒィ、助け――!」

 ――どけ、私は、いや、俺は、お前たちに復讐するためだけに生きてきた。
 ――焼けた同胞に縋って泣きじゃくっていた俺ではない。

 母親を助けた。そして父親も。友人達も。あのとき死ぬ筈だった人々を。
 しかし助けた彼らの顔をまともに見ることすらなく、竜胆は駆けてゆく。疾く行かなければ、この怒りは止められないから。
 幾人を斬り、返り血塗れになってしまった刀を放り投げ、賊の持っていた刀に持ち替える。凄絶な立ち姿が見据える先は、次なる敵だった。
「大将首をよこせ」
 地底から這い上がるような低い声に、竜胆自身でも自分の声だとは思えなかった。だがそんな些事に構っていられない。
 賊は答えを返さず、刀を抜いた。二つの刀が何度も打ち合う。竜胆は一瞬の隙を見逃さず、鋭い蹴りを穿つ。体勢を崩した即座に馬乗りになり、刀を頚動脈に突きつける。血が噴き出し、彼の頬を濡らした。
 嗚呼、次に行かないと。立ち上がり、背を向けた瞬間、誰かの気配を感じた。
 幼い少年が、こちらを見ている。
 竜胆は瞬時に理解できた。彼は本来なら唯一の生き残りとなる人物だ。
 台所下にある食料保存庫に、彼は隠れていた。ここに隠れていろと、両親に言い付けられて。それに忠実に従ったから、『竜胆』は生き延びた。
 子供の両目の端には、雫が浮かんでいる。怖々と血塗れの男を指差して、唇を震わした。……お、に。

●『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)&『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
「その世界では、僕達自身が昔の姿に戻ることもできますか?」
 睦月が境界案内人に尋ねると、彼は暫し考える素振りを見せ、口を開いた。
「強く願えば、もしかしたら、ね。現実では不可能でも、限られた物語の世界であるならば」
「……ありがとうございます」
 睦月は傍らの史之と目を合わせた。
「たとえば僕としーちゃんがもし、主従じゃなくて、別のなにかとして出会っていたならば、……それでもやっぱり僕は、恋に落ちるんだろうな」
 今までの道行きを思い返しながら、睦月は語りかける。
 初めて彼と出会えたとき、愛されたいと願ってしまったこと。彼が居なくなってしまったときに、自分の全てを費やして探したこと。再会できたときには本当に嬉しかったこと。
「……うん、混沌に召喚されてたんだけど、カンちゃんから見れば、失踪だったよね」
 史之は睦月の苦悩を想像はできても、実感はできない。
 だが、今彼女が言わんとする提案を察することはできた。つまり、満足に過ごせなかった境遇の埋め合わせを望む気持ちを。
「もう一度出会い直したいな、カンちゃん、おまえと」
「大事な大事な夫さん。もういちど、出会い直そうか」

 ――悠然と佇む人影が一つ。
 見上げた空は幻とは思えない程に澄み切っている。澄然とした青に包まれて、黄金色の葉々は静かに波打つ。広い公園の向こう側では同年代の子供たちが遊んでいたが、史之は離れた場所で誰かを待っていた。
 そして、ぬいぐるみを抱えて、公園の入り口から歩いてくる睦月が見えた瞬間、昔の一幕が頭を過る……。
 『彼/彼女』が、もう一人と初めて出逢った瞬間を忘れることはないのだろう。人間誰しも遠い記憶を思い出すのは難しいけれど、最初の邂逅は心に残っていた。神社の奥、冬の凍てつくような寒さの中で、心の熱を灯したのだ。
 史之から見て、幼い彼女の顔付きは微かな記憶と相違なかった。しかしあの時と大幅に印象が異なるのは、ラフな服装を着ているからだろうか。
 銀杏の木の下、普通の公園の、普通の子供たち。『言祝ぎの祭具』とその従者という特別な存在にはふさわしくないような、ごく平凡な光景。だけれど、それが睦月が望んだ光景だった。
「こんにちは、史之お兄ちゃん。……しーちゃん」
「急にどうしたの?」
「こうして出会っていたら、しーちゃんは近所のお兄さんみたいになってたのかなって」
 二人はくすりと笑って、他愛ない話題に興じる。
 けれど、次第に口数は減っていった。この時でしか伝えられない想いを、伝えたくなってしまって。

 睦月はそっと囁く。
「しーちゃん、だいすき、愛してる」
 あの世界では言葉にできなかった愛を、昔に戻れた今この瞬間に。
 史之も考える。――出会い直した今、伝えたい言葉を。
「これからは一振りの刃となり、お傍へ侍ります」
 最初に捧げた言葉を、今一度彼女の御前で紡ぐ。
「言わされたセリフだったけど、俺の本心でもあったんだよ。それに……俺は睦月の前でだけはかっこつけでいたいな」
 男の意地も、つまらない見栄も、彼女にはすぐに見抜かれてしまうだろうと分かっていたけれど、それでも。
「笑われてもいいよ、その笑顔は俺だけに見せてほしい。こう見えて俺は独占欲が強いほうだからね。カンちゃんのこととなると夜もおちおち寝てらんない。そのくらいはね、想ってるんだよ」
「僕を一目惚れさせた責任、……もうとってくれてるか。ね、夫さん。僕をなによりも大切にしてくれるいとしの夫さん」
 ……旦那様ってよぶと照れちゃうところも好き。だから夫さん。
 そんな風に独白する睦月は、きっと彼のかっこつけも見破れていたし、全部ひっくるめて愛しているのだろう。
「愛しているよ。刃としておまえにふれるすべての邪を切り払おう。盾としておまえをよごすすべての魔を打ち払おう」
 真摯な想いを伝え、自嘲気味に唇を歪めた。
「重いかな? ごめんね、だけど俺はこういう愛し方しかできないんだ。なによりも大切だよ、俺の睦月」
 北風から護るように、史之は睦月を抱き締める。
「死も2人を分かつことはできないんだよ。いつまでもいっしょにいよう。君の傍が僕の天国、君の周りにだけ空気がある。きれいな、秋の空みたいな、青い青い澄んだ空気がさ」
 睦月も抱き締め返したかったけれど、両手はぬいぐるみを持っていたから――代わりに、精一杯背伸びをして、額と額をくっつける。
「だいすきだよ、しーちゃん。愛してるよ」
 たとえ、出逢い方が違っていても。たとえ、どれ程の歳月が過ぎようとも。愛の契りは永遠に。そう強く信じたくて、二人はお互いの熱を交わし合った。

成否

成功

状態異常

なし

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