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血戦、護衛刀 対 魔剣

「まあ、鉄心さんったら。くすくす」
「いやあ。アイシャさんが美人だからですよ」
 日差しも晴々とした昼間。鉄心と美女は馬車に揺られていた。馬車を引くのは従者。馬車は何の変哲もない普遍的な馬車だ。豪奢な馬車もあったが、それでは盗賊にいかにも襲ってくださいと言わんばかりの風貌だろう。和やかに談笑する柊鉄心と美女。鉄心はこの世の外から現れた旅人(ウォーカー)だ。元の世界では主に護衛任務を任されていて、こちらの混沌(ケイオス)でも同じく護衛を任された。今回の任務はこの美女──アイシャを守り切ること。
「でも……鉄心さんが優しそうなかたでよかった……」
 そう言うアイシャは怯えているようだった。
「……」
 鉄心の目にもアイシャが恐れていることが伝わってくる。道中待ち構えるはアイシャの城の『元』騎士団長だ。彼はアイシャの兄を殺した前歴がある。打首にならなかったのは今までの功績を称えた恩赦と、逃亡したため捕らえることが出来なかったからだ。噂ではあるが、何でも魔剣に魅入られているらしい。
 ──馬車がピタリと止まる。アイシャがビクリと震えた。並々ならぬ雰囲気を鉄心も感じ取り、馬車を降りる。
 谷を抜けるにはこの道一本しかない。道の真ん中に、ボロボロのマントと傷だらけの甲冑姿の大男がいた。手には鈍色の剣。あれが魔剣だろうか。
「……馬車を引き返して、僕らが見えないくらい離れていてくれないかな」
「え……いや、でもあんたは……」
「……早く!」
 鉄心の大声に従者はピシャリと馬に鞭打ち、引き返す。
「正直……アイシャさんたちを守りながら戦えるか、自身がなくてね」
「……なかなか、若いのに冷静な判断だな。青年」
 騎士団長が口を開く。
「あんたが騎士団長のヴィルヘルムさんかな? ……いや、元騎士団長さん……かな」
「……ふん。念のため聞くが、大人しくアイシャ姫を渡す気はないか?」
「ないね」
 即答する鉄心。ヴィルヘルムは魔剣に魅入られていたと聞いていたが、話は通じるようだ。
「こっちも念のために聞かせてもらうよ。アイシャさんをどうする気だい?」
「決まっている。八つ裂きにして王の嘆く姿をこの目で見るためだ」
 あまりに外道な答えに誠一は息を飲む。
「魔剣に魅入られたってのは本当だったのかい?」
「魅入られている? 何を馬鹿な。この素晴らしい力がわからないのか? お前もあの愚鈍な王子と一緒だ。この剣を捨てろと言う王子と。だから叩き切ってやったまでだ。すると王は血相を変えた。今まで尽くした恩義も忘れて」
 ヴィルヘルムが興奮して語ると、鉄心にも殺気が伝わる。──来る。鉄心は刀に手をかけ。鯉口を切った。
「──死ね」
 ヴィルヘルムが言い放った瞬間、斬撃は鉄心の刀へと届いていた。
「速い──!」
 ヴィルヘルムは重そうな甲冑姿からは想像も付かない速さで間合いを詰めていた。二人は鍔を競り合う。ヴィルヘルムは鉄心の愛刀・虎徹ごと叩き切る気だ。このままでは競り負ける。単純な力勝負ではヴィルヘルムの軍配が上がった。鉄心は渾身の力で剣を跳ね除け、間合いを取る。
「……やるね」
「俺を落胆させるな、青年」
 鉄心は頭で戦いの演算をしてみせる。……が、どう考えても自分が叩き切られる未来が見える。ならば、
「肉を切らせて、骨を断つ!ってね!」
 真正面からヴィルヘルムへと突っ込む鉄心。鉄心は刀による突きを繰り出そうとするが、ヴィルヘルムの剣戟が鉄心の頬を裂く。鉄心は痛みに目をしかめるが、決してまぶたを閉じない。瞬きの瞬間にでも、ヴィルヘルムの死の一閃が自分に降りかかるからだ。鉄心の刀のひと突きがヴィルヘルムの腕に届く。愛刀・虎徹を引いた先から血のしぶきが舞った。
「貴様……!」
 ヴィルヘルムの顔が歪む。鎧を着た相手への対処方法は、『鎧を着ていない部分を突く』のがセオリーだ。魔剣の斬撃が鉄心をひとつ、またひとつと切り刻む。しかし、鉄心を切り裂くたびにヴィルヘルムの負傷も増える。既に鉄心は傷だらけで血塗れだ。
「強かったよ、あんた……!」
 鉄心は笑う。致命的な一撃──ヴィルヘルムの魔剣を完全に避け、甲冑の脇を虎徹が刺す。とたんにヴィルヘルムは動きがにぶり、口から血を吐くとぐらりと倒れた。鉄心は刀の血を振り払うと納刀し、大きく息を吐いた。一息つき、アイシャたちを迎えに行こうと引き返そうとするのだったが……、
「おお……?!」
 彼もまたその場に倒れてしまう。
「……ちょっと血、流し過ぎたかな……」
 鉄心へも確実にダメージが蓄積していた。帰りのことを考えずに戦ってしまった。それだけ今回の戦いには余裕がなかったということだ。
「でも……楽しかったぁ!」
 鉄心は青空の元、ぐうぐうと寝息を立てはじめた。

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