PandoraPartyProject

シナリオ詳細

盗まれた涙

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある少女の話
「お母さん、今日も見守っててね」
 海洋のとある田舎町。母親の墓に祈りを捧げた少女は今日も自身が織りあげた布を市場に降ろす為支度を始めた。
 少女は母親と二人暮らし、貧しいけれど支えあって生きてきた。母親が病に倒れ、天の国へ昇ったのは半年ほど前の事である。
「これを付けていると、お母さんが傍に居てくれる気がしてとても安心するんだ」
 首から下げた深い青色のサファイアをはめ込んだペンダント、母親の形見で少女の宝物だった。
 その輝きに元気を貰い、少女は日々を過ごしていた。
 
 ある日少女がいつも通り身支度をしていると、呼び鈴がなった。少女が出てみると見知らぬ男が何人かの男を引き連れて立っていた。
 身体の至る所に宝石のついた指輪やブローチを付けており裕福で在ることは間違いない。
「いや、急に押し掛けて申し訳ございません。私、様々な商いを生業としている者でございまして」
「いえ……こんな田舎までいかがなさいましたか? うちには高級な商品を買うお金なんて……」
「いえいえ! 今回は商売の御話ではございません!! 私個人として貴女にお願いしたいことが在り馳せ参じた次第でございます」
「私に?」
 合点がいかない少女は首を傾げ、その動きに合わせて首から下げたペンダントが陽光に煌めく。
 それをねっとりと見つめた男はうんうんと頷き、やはり本物だ。素晴らしい、などと独り言をつぶやいた後襟を正し少女に向き直った。

「お嬢さん、そちらは私が長年求めていた宝石なのです。是非お譲りいただきたい、勿論ただとはいいませんぞ」
 男が片手を挙げると後ろに控えていた黒いスーツの男が、ばっとアタッシュケースを開く。
 其処には眩い黄金色の輝きを放つ延べ棒がこんもりと積まれていた。余りの大金に少女は目を瞬かせることしかできなかった。
「その宝石は『人魚の涙玉(マーメイド・ドロップ)』といって、とても貴重なサファイアなのです」
「はぁ……」
「ああ、失礼。その宝石の価値を考えれば到底足りませぬな。ここにはございませんが……もしお譲りいただけるなら金庫からさらに引き出してきましょう、私が所有している物件のいくつかを譲渡しても構わないし、あなた専用の豪邸を差しあげてもいい。ああ、それともほしい物があるならそれとの取引でも……」
 少女を置き去りにして一方的に話す男の頭の中には、彼女の返事が「はい、勿論です」という未来の先しか無かった。
 手に入れたあの美しい深い青色のサファイアをどこに飾ろうか。そのことでいっぱいなのであった。
 だから、彼は彼女の返事を理解するのに数秒ほど時間がかかってしまったのだった。

●『人魚の涙玉(マーメイド・ドロップ)』
「――その子は母親の形見だから売れない、って断ったんだよ。それなら貧しいままでいいってね」
 待ち合わせに指定された海洋のとある橋の上。真白の衣に身を包んだ霧裂 魁真(p3p008124)とあなたは話していた。  
 此処で金持ちが大人しく引き下がるか彼女の清らかな心に感動すれば良かったのだが、そう美談にはなる筈もない。
 そして、信じられない手段をもって無理やりその宝石を手に入れることになる。
「金持ちからすれば、喉から手が出るほど欲しい……全財産叩いてでも欲しい宝石だ。そこで金持ちは金で雇った浮浪者にその子の家からそのペンダントを盗ませたってワケ」
 殺して奪うよりましだけどね、と魁真は溜息を吐き、沖合の一点を指さした。指先を追うとその先には一隻の豪華客船が止まっている。
「あれ見える? あそこにペンダントがあるんだ。嫌味な成金ばっか集めた趣味の悪いパーティさ。そこでお披露目するらしいよ
 まぁ、あの手の金持ちはお披露目前に一人で楽しんでると思うけどね」
 人から奪っておいて何がお披露目か、とわかりやすく顔を顰めたあなたに魁真はくすりと笑い指を立てた。

「やることはいたってシンプルだ」

 一つ、厳重な警備を掻い潜りペンダントの元までたどり着き奪還する。
 二つ、追ってから逃亡し、船から脱出する。
「逃亡用に水上を移動できる物とか準備しておいたらいいんじゃない? 多分そういうの好きだろ、あんたら」
 そういって魁真はあなた方の手にチケットを押し付けた。
 
 

NMコメント

 初めましての方は初めまして、そうでない方は今回もよろしくお願いします。
 豪華客船に潜入して、宝石奪還して、逃亡。
 こういうの好きでしょ?? 好きって言え。

●目標
・豪華客船に潜入し、警備を掻い潜り『人魚の涙玉(マーメイド・ドロップ)』の奪還
・奪還後、船からの逃亡


●舞台
 豪華客船『クイーン・レインボー号』
 金持ちの男が所有する豪華客船です。
 今回は長年探し求めていた『人魚の涙玉(マーメイド・ドロップ)』が手に入ったという事でお披露目パーティをしています。
 各国から宝石マニアや金持ちたちが集まっており、船内は割と混雑しています。
 各所に警備員が配置され、ウエイターたちがゲストに甲斐甲斐しく給仕をしています。ご馳走も沢山あります。
 あなた方は魁真の協力で、フォーマルな衣装に身を包んでゲストとして搭乗しています。

●敵
 金持ちの男
 めっちゃ金持ちです(雑)宝石に目が無く、少女から『人魚の涙玉(マーメイド・ドロップ)』を高額で買い取ろうとしましたが断られ、諦めきれず浮浪者に盗ませました。クズですね。戦闘能力は皆無ですが、執着が凄く何があっても人魚の涙玉を手放そうとしません。不利や異変を悟ると人魚の涙玉をもって逃亡しようとします。太っているくせに逃げ足の速さは一級品です。
 現在は人魚の涙玉を船内にある自室にて一人でじっくりと愛でているご様子です。

 警備員たち(なんかいっぱい)
 屈強な男達ですがパーティの雰囲気を損なわない為という事でスーツに身を包んでいます。
 また6発まで撃てる拳銃を全員携帯している様子です。
 非戦で彼らの目を盗んで潜入するもよし、なんかいい感じに誤魔化すもよし、物で釣ってみるのも良し。
 最悪、暴力で解決するもよしです。気絶させたら服を剥いで着てみても面白そうですね。
 怪しい行動を見かけると無線機で仲間に連絡をします。
 男の船室の前には二人配置されています。

●味方
 霧裂 魁真
 プレイングで指示が無ければ万が一の時の為に待機しています。
 戦闘スタイルとしては物陰に潜んで、奇襲で落とすタイプですがどちらかといえば非戦重視で本人の性格的に戦闘は好みません。
 ちなみに余談ですがチケットはお上品なマダムや可憐なご令嬢を『誘惑』してお譲りいただいたらしいです。
 
●備考
 『人魚の涙玉(マーメイド・ドロップ)』とは
 世界に数個しかないと言われる程貴重なサファイアです。他のサファイアよりも鮮やかで、深い青色をしており光を反射して美しく輝きます。
 少女の母親の形見のペンダントに嵌め込まれています。
 
 OPに出てきた少女はプレイングで指示がなければ奪還後、魁真の手から彼女に返されることになります。
 もし自分で渡してあげたいなどあればその旨を記載してください。

●サンプルプレイング
 警備員をどつくやんか、ほんでみぐるみはいで私が警備員になるねんな。

 こんな感じです、それでは行ってらっしゃい。

  • 盗まれた涙完了
  • NM名
  • 種別カジュアル
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月31日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱

リプレイ

●潜入一時間前
「宝石コレクターか。商人の間でもその手の情報は流れてくるが、こういう手段を取る人間はいい噂をきかんな」
 声の変化具合を確かめつつ『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は言った。同意するように『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が頷く。
「金で手に入らねぇなら盗むってのは、どう考えてもそっちの方が高くつく気がするんだがね」
 現にこうして特異運命座標(おっかないやつら)が勢ぞろいしてしまっているのだから。
 海洋名声二位の『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)にその妻である『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)。特異運命座標屈指の俊足を誇る『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)に今回の依頼で一番怒りの表情を見せていた『恋(故意)のお呪い』瀬能・詩織(p3p010861)。

「本当におっかないこったね……」
 可哀想な気もするが、奴のしたことを思えば遠慮なく殴っても許されるだろう。そう思い直し、縁は愛用の煙管に火を入れた。
「断られたから奪っちゃったんだね、大事な宝石を……諦めも時には肝心だよね」
 『妻さんことカンちゃん』を諦めきれなかった俺が言えたことではないが、と史之は自嘲した。そんな夫の隣で睦月は魁真と話している。
「はじめまして、ふふ、本日は正義の味方ごっことしゃれこみましょうね」
「俺は正義の味方とは真逆だけどね」
「冬宮の者です。睦月とお呼びください。どうぞよろしくお願いします」
「よろしく、睦月」
 二人のやり取りをじっと史之が見つめている。その視線に気が付いた魁真は肩を竦める。
「アンタの奥さん取って食おうなんて考えてないから安心しなよ」
「そうだよ。私が愛しているのは、しーちゃんだけだからね」
「それより潜入はどうするの? アンタ名声凄いじゃん」
 魁真の問いかけに史之は得意げに珊瑚のネクタイピン、それから史之専用イザベラ派バッジなどを見せた。
「俺のイザベラ女王陛下秘蔵品を堂々とお披露目しようと思って」
「浮気!?」
「いや、浮気じゃないよ、カンちゃん、崇敬してるの。愛してるのはカンちゃんだよ」
「イチャイチャすんのは終わった後でね。それよりも、チケット無くしてないよね?」
 魁真の確認に全員頷き、豪華客船『クイーン・レインボー号』に乗り込んだ。

●眩い二人
 オーケストラの生演奏が優雅な雰囲気を作り出す船内。
 世間話に花を咲かせていた貴婦人たちが乗船してきた二人を見てまぁ! と歓喜の声を上げた。
「あちらの殿方は十夜様じゃありませんこと?」
「お隣の方は寒櫻院様ですわ! お二人とも素敵ねぇ」
 圧倒的なカリスマを持つ二人に人々はどよめき、是非お近づきになりたいと彼らの周りに集まってきた。
(作戦通りにな)
(わかってる)
 密かに縁と史之はアイコンタクトを交わした。二人の作戦はその高い地位を生かし、観客達の目を引き付けつつ宝石の噂を広めることで標的を釣ろうというのだ。周囲に集まりだした人々を見まわしてから、縁は鞄からシュペルのクリスタルを取り出した。食いつきは悪くない様だ。さらに縁は嘯いた。
「ここだけの話なんだが……俺もひとつ、自慢の品を持ってきているのさ……おっと、こいつはそう簡単には見せられねぇよ。
 何せ俺たちイレギュラーズでさえ手に入れるのに苦労した――件の『人魚の涙玉』なんて目じゃねぇほどのモンなんでな」
 人魚の涙玉の価値は此処に招待されたものなら誰でも知っている。現に今日はそのお披露目パーティなのだから。それを上回る品とは何なのか、ゲストたちの興味はそちらに傾いた。
 一方史之は自分がいかにイザベラ女王陛下を崇敬しているかを語っていた。愛しい妻には理解してもらえない反動からか、ここぞとばかりに語っていた。勿論本来の目的も忘れてはいない。
「色といい艶といい……見事な珊瑚ですな」
「そうでしょ? 女王陛下から賜ったんだ。俺の大切な心の支えさ」
「お胸に付けていらっしゃるバッジは?」
「俺専用のイザベラ派バッジだよ。世界に一つだけの品なんだ」
 縁と史之の話術と持ち込まれた数々の希少な輝きに人々の視線はすっかり釘付けになった。

●船内廊下にて
 十夜達が来客を魅了していると同時期、船内廊下ではエーレンが警備兵の注意を引いていた。
「なんだお前! 何処から入った!」
 派手に動き回るエーレンに警備兵が銃を構える。が、瞬きをした瞬間には眼前に脚が迫っており、そのまま側頭部に衝撃。エーレンが加減していなければ今頃首と胴は別れを告げていた事だろう。
 壁を走り、警備兵達を飛び越え、手すりを使って後方へ宙返り。
 何も知らない人間が視ればアクション映画の撮影かと間違えてしまいそうな程、エーレンは華やかに警備兵たちを翻弄した。
 警備兵たちがエーレンに引き付けられている間に詩織は闇の帳に身を隠した。足音も気配もない彼女は宛ら美しい幽霊の様だった。するり、と目標の部屋まで近づいていく。
「そこの女! 何をしている?」
「あら……申し訳御座いません。そこを退いてくださいますか?」
「は?」
 警備兵の一人が詩織に気が付き声を掛けた。実に運が悪かったとしか言いようが無いだろう。警備兵が、である。悪意を孕んだ毒の華に包まれた男はその場で気を失った。
「詩織嬢は上手くいったようだな」
 一部始終を見ていたジョージは品の良い宝石商に変装していた。視線を詩織から反対方向に向けると若い警備員が一人立っている。
 真面目ではないのか、呑気に欠伸をしている彼は応援要請にも「面倒だ」と愚痴を零していた。
(彼なら、やりやすそうだな)
 柔和な笑みを浮かべジョージは警備兵に近づいた。
「すみません。この船のオーナー様はどちらにいらっしゃいますでしょうか」
「あんた誰だ?」
「申し遅れました、私は宝石商をしておりまして。是非オーナー様と商談をさせていただきたいと思いましてね」
 そういうとジョージはアタッシュケースからディープ・グリーンを取り出した。
「此方ディープ・グリーンと申しまして透き通った深い翠の輝きを放つ大変貴重なエメラルドなのです。是非オーナー様にお見せしたく」
「はぁ……宝石商ってのは間違いは無さそうだな。ちょっと待ってろ」
 男がジョージから少し離れ、後ろを向いた。
(彼は警備兵には向いていないな)
 そう思いつつ、アタッシュケースで一撃。
 警備兵はその場に崩れ落ち頭上に星を散らしている。
「悪いが、これも仕事なんでな」
 警備兵の服を剝ぎ取り、無線機と拳銃も拝借すれば温厚な宝石商から屈強な警備兵に早変わりだ。
 その様子を見ていた白いタキシードと赤いカクテルドレスの女性が居た。
 魁真と睦月である。
「うわぁ、可哀想」
「仕方ないですよ、彼らに罪はありませんが彼らの主に罪はありますから」
 ジョージの「OKだ」というハンドサインを確認した二人は頷き、標的の元へ向かう。地図を事前に叩き込んでいたことと、仲間の陽動もあり予想よりも早く辿り着くことが出来た。先に待機していた詩織が二人に気が付き、物陰へ手招きする。
「来られましたね。お疲れ様です」
「お疲れ様です。様子はどうですか?」
「はい、情報通り警備兵が二人貼り付いてます」
 詩織が指を指すと、二人の警備兵が雑談を交わしつつ、しっかりと主人の部屋の前を護っていた。
「あの二人をどかさないと中に入るのは難しそうですね」
「どうするの?」
「ふふん、こうするんですよ。魁真さん、詩織さん合わせてもらっていいですか?」
 睦月が右手に魔力を集中させる。段々大きくなる赤黒い光に詩織は短く「嗚呼」と応え、仮面をつけ素顔を覆い隠した。詩織の影が長く伸びて壁を這い始めたのを見て魁真は心の底から警備兵に同情した。
「ま、止めてあげる気はないけどね」
 闇の月に、踊る影。そして宙から振ってきた黒い綺羅星。
 三つの黒が合わさり一瞬で警備兵の意識を刈り取った。

「……騒がしいな」
 部屋の中で人魚の涙玉を愛でていた男が漸く外の騒ぎに気が付いた。怪訝そうに眉を潜めていた男だが、先程部下から人魚の涙玉よりも貴重な品を持ち込んだ者がいるらしいと聞いた。それも海洋という国に置いて相応の地位を持つ者達というのだから驚きを隠せなかった。
(真偽は定かではないが……確かめる価値はあるか)
 丁寧に箱に深い蒼を納めた男はゆっくりと立ち上がり、外に出る為に扉の鍵を開けようとして違和感に気が付いた。
「……開いている?」
「その宝石、素直に返して頂けましたら命までは奪いませんが、いかがなされますか?」
 突如背後から聞こえた声に男は跳びあがった。宙に放り出し掛けた箱を慌てて抱きかかえ後ろを振り返ると、仮面の奥の光を宿していない黒い眼と目が合った。
「返して頂けないなら呪殺します」
「じゅ、呪殺!?」
「詩織の嬢ちゃん。そいつぁ脅かしすぎだぜ?」
 詩織に気を取られていた男はと扉側から聞こえてきた低い声に再度振り返る。
 ゆらりと海を漂う藻の様に縁が立っていた。口調こそ詩織を宥めてはいるが、その眼は深海の様に冷え切っており詩織と同じく静かな怒りを抱いていた。
「大人しく『人魚の涙玉』を返してくれるんなら助けてやるさね。
 ――お前さんは、自分の命にいくら値段をつけるんだい?」
 暗に『死にたくはないだろう』と問いかければ、パニックを起こした男は真っ青な顔で縁の脇を潜り抜け、廊下へと猛ダッシュした。あの体型にしてあのスピード。内心縁は感心した。尊敬はしないが。
 船内を鼻水やら涙やら冷や汗やらで顔を汚しながら逃げる男に警備服の男が声をかけた。
「どうなさいましたか」
「あ、あの不審者共をどうにかしろ! 人魚の涙玉に触らせるな!!」
「承知しました」
「……ん? いや、待て。そもそも部屋の前にいた二人は」
 どうしたとは言葉にできなかった。
 男のでっぷりとした腹に深く拳がめり込んでいたからである。衝撃で気を失った男の手から箱が滑り落ちる。それをもう片方の手で受け止めたのはジョージだった。後を追いかけてきた三人に、先に脱出地点に向かわせ無線機を取り出した。
「オーナーが襲われた、船医を寄越してくれ。不審者はホールへ向かった」
 ホールに向かったというのは勿論『嘘』である。
 了解という返事の後、無線が切れたのを確かめてからジョージも集合場所へ向かった。

●水平線上の涙
「こっちこっち!」
 グレイスフルイザベラ号に既に乗り込んでいた史之が大きく手を振った。
 隣には逆波に跨ったエーレンの姿もある。
「ボートは全て落しておいた。後は脱出するだけだ……頼むぞ逆波」
 主に撫でられ機嫌をよくした逆波が可愛らしい鳴き声を上げた。
「まったく……断られたならその時点で諦めればよいものを、邪道に走るからこうなる」
「やはり呪殺しておくべきだったのではないでしょうか?」
「それは止めておけ」
「あの子は、これ以上の痛みを心に受けたのですよ? まだ生温いくらい」
 本当に詩織が男を呪殺しに行きそうだったのでエーレンは彼女の手を引いて早々に自身の後ろに乗せた。逆波が尻尾を数回振って二人が乗っても大丈夫なように姿を変える。
「大丈夫でしょ。俺のところにもエーレンさんの声聞こえてくるくらいだったし。『罪もない少女から盗んだ宝石を見せびらかすのが趣味か!』ってさ」
 実際エーレンが大声で暴露しながら船中を駆け巡った所為で、男の信用は地に墜ちることになる。噂というのはあっという間に広まるのだ。彼が人魚の涙玉どころか財産の大半を失う日もそう遠くないだろう。
「折角女王陛下の素晴らしさを語っていたのにかき消されちゃったもの」
「やっぱり浮気……!」
「カンちゃん、ふくれっつらやめて……帰ったらカンちゃんの好きなもの作るから、ね?」
 ぽこぽこ湯気を立てている睦月をなんとか史之は宥めた。
「ジョージも凄んでたしな、あの名前を聞いてまた宝石を狙おうなんて馬鹿は居ないだろうさ」
「……あの愚か者は宝石の真の価値も分からなかった。人魚の涙玉は相応しく無い」
「そうですね、じゃあ返しに行ってあげましょうか。持ち主に届けるまでが遠足ですから」
 睦月の言葉に一同が頷き、各々水面を駆け出した。気が付けば朝になっていた様で、水平線から赤々とした太陽が眩く顔をだしている。その陽光を受けながら、人魚の涙玉は煌めいていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

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