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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>疾風の赤

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●冬が来る
 鉄帝は非常に過酷な環境だ。振り続ける雪に絶対零度の気候が実りを遠ざけ、いつだって鉄帝には困窮の文字が付きまとう。故に過酷な環境への適応力を持つ機械生命体の末裔――鉄騎種が主な人口を占めているのは納得の理由であろう。
 けれど果たしてこの先、彼らですらも耐えうることができるのか。そう問いたくなるような『冬』がやってくる。
 それはただの冬ではない。皇帝が倒れ、新皇帝による政を冬と称するわけでもない。まさに鉄帝の冬とも言うべき大寒波、伝説の狼になぞらえて『フローズヴィニトル』と呼ばれるそれがやってくるのだ。
 これに対し、各国が動き始めている。避難の有無を問わずして、先に述べた通り困窮という2文字は常に付きまとっている。支援物資の調達、必要に応じて避難誘導、魔物や新皇帝派との戦いなど、各地で忙しない日々が続いているのだ。
 加えて、近頃はイレギュラーズや鉄帝にて名のある闘士などが指名手配され、懸賞金をかけられている。困窮する一般市民、そして亡命したい囚人たちがその懸賞金を狙って襲撃を行うという事態も散見されていた。
「俺たちも懸賞金がかかってるの、知ってるか?」
「……ミロン」
 ラド・バウの一角にて、中世的な顔立ちの青年が男の声に振り返る。ミロン・ウェスカー――その本名は『ミロン・ヴィクトロヴィチ・ウェスカー』と言う。
「通りで仕掛けてくる奴らが絶えないわけだ」
「なんだ、知らなかったのか」
「……金がどうだの、言っていた気はする」
 肩を竦める青年。彼は相手の事に興味がなかったようで、その詳しい話が聞ける前に相手を叩きのめしたと推測される。
 やれやれと苦笑いを浮かべたミロンは数枚の羊皮紙を彼へと差し出した。それへ彼は視線を落とし、多いなと呟く。
「これでも無理ない方だろ」
 そこに書き連ねてあるのは、避難を求める者が存在する村、街、シェルターの場所。それから釈放された囚人の拠点など。鉄帝国中全ての避難民を受け入れることはできないが、少しでも保護すべくミロン率いるウェスカー傭兵団は動いている。有志を募り、人命救助や敵勢力の討伐を行い、その行動によってまた傭兵団への入団者が増えていく――その繰り返しだ。
 今、イレギュラーズたちが地下道攻略作戦を開始しようとしている。なれば、その間は地上も手薄になり、魔物や囚人たちが力なき者たちを蹂躙しやすい状況にもなろう。また、地下道に近い場所であれば、侵略の勢いをそのままにイレギュラーズへ襲い掛かり、作戦を阻害しないとも限らないのだ。
 青年はミロンの差し出した羊皮紙を一瞥して、そこから1枚を抜き取る。そこに記載された場所へ向かってくれるらしい。
「スカルレッド」
「……何だ」
「注意しろよ。狙われるのは一般人だけじゃない」
 青年――スカルレッドはその言葉に小さく頷き、踵を返したのだった。


●地下道の先
「地下道の攻略、ですか」
 ローレットに並んだ依頼の数々へ目を通したヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はそう小さく呟いた。
 鉄帝は相変わらず混迷の中にある。魔物や囚人たちに蹂躙され、混沌中を覆う大寒波の影響を例外なく受けていた。このままでは春を迎える前に、鉄帝という国自体が完全に崩壊してしまう可能性もあるだろう。一刻も国を取り戻し、安定させるために各派閥が目を向けたのがこの地下道である。
 この地下道を使う事が出来れば、外の影響を受けることなく物資の輸送や人の移送も行えるだろう。きっと考えれば用途はもっと出てくるはずだ。そのためにも、先ずはこの地下道から危険を排除する必要がある。
 しかして、この地下道には新皇帝派組織『アラクラン』などの姿もあると言う。油断はできないだろう。
「この辺りは囚人の姿も見られるみたいで、鉄帝の自警団や傭兵団も一部動いているみたいなのです。もしかしたら地下道で共闘することになるかもしれないですね」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がこの辺りなのです、と依頼書に丸を付けていく。それが共闘者がいるかも、というマークのようだ。
(共闘者が居るならば、そこまで大変な戦いにはならないでしょうか)
 そう考えかけて、いいや、と脳内で頭を振る。いつ何時なにが起こるかなどわからない――気を引き締めなければ。

GMコメント

●成功条件
 敵勢力の殲滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●敵勢力
・『熱鉄線』ギオーヴ
 釈放された囚人の1人であり、快楽殺人鬼の鉄騎種。禿げた筋肉質の大男で、四肢が機械の体です。
 釈放後も町一つを壊滅させるなど、自らの欲を第一として動いています。強奪の面では生きて人殺しを行うために必要な物質しか持っていかないため、余った物資を狙う他の囚人が取り巻きのようについてきたようです。
 金を隠し持っていたということもなく、他の囚人に漏れず指名手配者を殺して亡命のための金を得ようとしています。そのため、スカルレッドとの交戦もそこそこに地下道へ撤退しました。
 反応・攻撃力に優れています。どのような武器でも扱いますが、好みは近接武器、トドメを刺す時は殺した感触を得るために素手が多いです。

・囚人×10
 ギオーヴの実力の恩恵に預かろうとした囚人たち。実際、ギオーヴの壊滅させた町から武防具や食糧などを強奪しています。彼らの罪状は窃盗、殺人、密輸など様々です。
 強奪の結果あって、ギオーヴより実力は劣るものの、装備は良質です。近接武器ないしは魔導書を持っています。暗闇もものともしない頭装備を持っているようです。
 防御力・回避力に優れています。また、彼らも鉄帝人のため、他国の一般人よりよほど強いです。

・ラタヴィカ×4
 天衝種(アンチ・ヘイヴン)の一種で、流れ星のように光の尾を引く亡霊のような怪物。意思のようなものは感じ取れません。
 俊敏性・機動力に優れており、飛ぶことが可能です。
 高威力の物超貫移による体当たりの他、【怒り】を誘発する神秘範囲攻撃が想定されます。

●フィールド
 地下道の横穴の一角。壁から地下水が流れ出し、地面を濡らしています。
 暫く進んでも行き止まりにしかならず、通路も広かったり狭かったり幅は安定しません。大した分岐もなく、迷うことは無いでしょう。横穴に入る前より気温が下がってる気がします。
 灯りはありません。

●NPC
・スカルレッド
 朝焼けのような赤髪と新緑を思わせる緑の瞳、中性的な顔立ちが特徴的な青年。ひょろりと長身で、比較的細身。ラド・バウC級闘士かつウェスカー傭兵団の一員で、鉄帝の住民保護のため動いています。比較的脳筋なので口より拳が早いことは多いです。
 今回は囚人(敵勢力)の撃破のためやってきており、地下道へ逃げ込んだ囚人を追ってきています。
 反応と回避力を生かした短期戦を得意としています。小型~中型の武器を得意とし、色々武器を仕込んでいますが、いざとなれば素手でも戦います。
 放っておいても死にません。イレギュラーズからの指示があれば従います。

●ご挨拶
 愁と申します。鉄帝です。
 ラド・バウC級闘士、スカルレッドとの共闘になります。
 それでは、よろしくお願い致します。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <クリスタル・ヴァイス>疾風の赤完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月04日 23時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ


 冷えるな、と小さな声が反響して消える。『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が放った神炎の温もりに小さく息をついた。
 大寒波の襲う鉄帝で、猛吹雪に当てられないだけ良しとすべきか。濡れた地面で滑らぬよう低空飛行しながらエレンシアは心の中で独りごつ。地下ということで光源はなかったが、それも仲間のおかげで確保できているし最悪暗視もある。寒さばかりはどうにかして――例えば、戦って体を動かすだとかで――紛らわせるしかなさそうだが。
「囚人がこんなところまで入ってくるなんてね……」
「まあぁ、やべぇ囚人を外に出しちまうなんて状況自体が想定外だ」
 炎を壁や地面に散らしながら進む焔に、『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はやれやれと言うように肩をすくめる。元々不安定な情勢とはいえ、厄介ごとに事欠かない国である。
「新皇帝派の姿もあるのでしたか。嫌なものしか連れてこないですね、彼らは」
 地下道の攻略となれば、避けては通れないだろうが。今最もきらいになりつつあるものともなれば、忌避する思いは否めない。思わず『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はため息を落とした。
(どこに行っても嫌なものにおおよそついてくる名前ですし、実際そうですしね……)
「囚人も、新皇帝派もこのままにしておいたらラド・バウの方まで来ちゃうよね?」
「可能性はある。兎に角、早急に対処しないといけねぇな」
 エイヴァンの言葉に焔はもちろん! と頷いて、先へと一歩を進める。ラド・バウには避難している人々がいるのだ。頼もしい闘士たちがいる以上、そう簡単に突破されないとは思えども、早いうちに憂いを消し去っておくべきだろう。
(なんつーか囚人の思想が透けて見えるよなぁ)
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は少しは分からせなければなるまいと片目をすがめる。彼らに降り掛かっているものはいずれも降り掛かるべき道理であろう。
 地下道を見回した『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)と『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は、ここに関わった時のことを思い出す。あれから多少の時間は経ったのだが、もっと最近のような、あるいは大分前のような錯覚を覚える。
「隠れ潜んで悪巧み、には確かに合う場所かも」
「ええ。ここに巣食うネズミをどうにかするのもまた急務……か」
 そのネズミを追う者もまたいるようだが、話を聞く限り多数での援軍というわけではないだろう。ルトヴィリアはエコーロケーションで音の少ない方を探る。チチチ、とセレナの放った鼠がそちらへ向かっていった。
「共闘できるならしたいものだけれど」
 ほんわりとセレナが発光し、人助けセンサーも張り巡らせる。この地下道でそう簡単に助けを求める声があるとは思えないが、万が一共闘者たりえる者が劣勢であったなら、それを拾い上げられるかもしれない。
「焔ちゃん、セレナちゃん、灯りありがとうなのだわー!」
 助かるのだわ、とニコニコする『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)。彼女もまた優れた五感とエネミーサーチで敵影を探し、罠があれば仲間たちに止まるよう告げて解除する。
「囚人がいるかもって言ってたのは、この辺りのはずだよね?」
「ええ。共闘者も居るとするならば、ですね」
 一段と冷えてきた気がする。焔はヴィクトールの返事を聞きながら小さく息を吐く。武器についた神炎を先へ掲げるが、まだまだ道は続いているようだ。
(寒いのは壁から水が漏れているから? それとも――)
「――あ! 待って!」
 一瞬見えた赤に焔が声を上げる。そこに敵意が含まれないのは見かけたことのある顔だからだ。
 相手――スカルレッドもまた、足を止めて。焔の姿を見たことがあったようで、一瞬だけ感じた敵意もすぐ霧散する。
「君もここに来てたんだね」
「ウェスカー傭兵団としてであって、闘士としてじゃない」
 何にせよ、味方側であることは変わりない。しかしヴィクトールだけはその言葉にピクリと小さく反応した。
「ラド・バウの闘士でウェスカー傭兵団のスカルレッド様、ですか。私の名前はヴィクトールと申します」
「――ヴィクトール?」
「ええ。目的が同じであれば、手伝っては頂けませんか?」
 視線と視線が混じり合う。そこへ焔が「そうだよ!」と大きく頷いた。
「一緒に向かってくれるなら心強いし、お互いに戦力としては安心できると思うんだけど、とうかな?」
「……イレギュラーズと共闘であれば異論はない」
 ルトヴィリアは良かったと胸中で安堵する。ラド・バウ独立区の勢力には属しているものの、居候のような状況だったのできっと焔などに比べたら知られていない。彼女たちに交渉を任せて正解だろうと。
「さて、それなら行きましょうか」
「ああ。いつ襲われてもおかしくない状況だ、慎重にいこう」
 エイヴァンの言葉に皆が表情を引き締め、周囲に気を配りながら進む。慎重に、真剣に。しかし、不意にガイアドニスがふうとため息をつく。
「私、疲れたのだわー!」
「随分進んできたもんね」
 焔がそう言葉を返す間に、ヴィクトールが短くスカルレッドへ何かを耳打つ。そして次の瞬間――暗闇に光が満ちた。
「うわっ!?」
「なんだこれは!」
「ふふふ、光っちゃうのだわああああああ!!」
 ガイアドニスの光が止めば暗闇が押し戻ってくるが、暗闇に慣れていた相手の視界はそう簡単に戻らない。すかさずルドヴィリアのシムーンケイジが相手に襲い掛かり、次いで目を開けた焔が裁きの炎を放つ。今度は温かいではなく熱く、燃えるべきものを燃やす炎だ。
「皆、神域展開したから周りの事は気にしないで!」
「――てめェら、怯んでる場合か?」
 焔の炎をものともせず、1人の男が飛び出してくる。その横合いからカイトが奇襲をかます。
「そう簡単にはいかないか」
「そうみたいだわね!」
 発光による目つぶしも聞かなかったらしい。そこへセレナが道を阻むように立ちはだかった。
(殺人鬼相手なんて、正直まだ足は竦むけど……大丈夫、負けやしないわ!)
 仲間の力を信じて、リリカルスターが舞う。ガイアドニスはセレナの姿を認めると、視線をぼんやり光るものへ視線を向けた。あれはガイアドニスが生んだ産物ではなく、アンチ・ヘイヴンと呼ばれる怪物だ。流れ星のように光の尾を引くそれは、それこそ星のようにあっという間に移動してしまう。
「他の奴らは俺が相手だ!」
 エイヴァンの声が洞窟内に響く。囚人たちが一斉に彼を向いた。ガイアドニスとセレナの発光によって全くの暗闇ではない。エレンシアがエイヴァンに群がって来た敵影へと飛び込む。
「セレナ、その禿野郎はしばらく任せたぜ!」
「ええ!」
 この広くもない場所で数の利を取られてはこちらもやりづらい。まずは周りから叩き潰していかなければ。ガイアドニスもまたラタヴィカを引き付けてセレナへ向かないようにする。敵を一網打尽にせんと、ヴィクトールもまた敵の群れへ飛び込んでいった。
「動けば冷えも多少は良くなるでしょう。熱い方が得意ではありますがね」
 鉄騎種の身体は多少の冷えも熱さもものともしない。ヴィクトールの蹂躙に確かな手ごたえが走る。ルトヴィリアはラタヴィカを殲滅せんと魔力を練り上げ、ラサを思わせる熱砂の嵐を顕現させた。
 奇襲せんとしたはずが、逆に奇襲された敵陣は多少の混乱を抱えながらもイレギュラーズの猛攻を耐え凌ぐ。それはこれまで略奪してきた防具などのおかげだろう。
「1人ずつだ!」
「おうよ」
「指図するんじゃねえ!」
 ――若干統率の取れていないような言は見られるものの、彼らはイレギュラーズを、スカルレッドを倒さんと視線を向ける。そこには様々な欲が見て取れた。
「話し合いの余地もないな」
「あればこのような状況には陥ってないでしょうね」
 スカルレッドの乱撃に続くヴィクトールは、息を切らせず彼の言葉に返す。どちらもその攻撃に容赦はなく、1人、2人と囚人たちが倒れていくのを横目にしながらも手は止まらない。
 ルトヴィリアの流した血が鞭のようにしなり、敵を縛って切り裂いていく。血走った目を向けた囚人は、『地面から雨が降る』のを見た。
「なん――」
「――さぁ、命運ごと『裏返れ』」
 カイトの作り出した舞台演出が囚人やラタヴィカたちをも飲み込むように動き出す。運命を強調へと捻じ曲げる黒き雨は、相手に思い通りを許さない。出鼻をくじかれた彼らの中へ飛び込んで、焔は圧倒的な速力で全てを奪いつくさんと炎を向けた。
「まずはこっちからだよ!」
 ラタヴィカの光が炎に包まれ、焼き尽くされる。中にはそれすらも飛び出して、勢いよくぶつかってくるものもあったが容易に崩されるイレギュラーズではない。エイヴァンは自身の可能性を高めながら、敵をより不利へと追い込んでいく。
「怯むな、あのスカルレッドと炎堂焔がいるんだ!」
「そうだ! それ以外の奴らも倒せばいい金だぜ……!」
 金の言葉に劣勢となっていた囚人たちの士気が上がる。エレンシアは彼らへ肉薄しながらああ、と思い出したように呟いた。
「そういやアタシ等イレギュラーズは賞金首だったっけか」
「囚人たちにはかなり情報が出回ってるみたいだよね……!」
「まあまあまあまあ! 指名手配、大変ね!」
 焔の言葉にガイアドニスは楽しそうに笑う。だってこれだけ沢山の敵に囲まれるか弱い仲間たちは、おねーさんが守ってあげなくちゃ!
 ガイアドニスに庇われながら、セレナはギオーヴへ衝撃波を叩きつける。気に喰わないと言わんげな顔に向けて、セレナは敢えて挑発的に笑ってみせた。
「たかが小娘ひとり放って行こうだなんて、殺人鬼が聞いてあきれるわよね? ――ほら、か弱い女の子ひとりくらい、殺してみなさいよ」
「アマ、口の利き方にゃ気をつけるべきだぜ」
 そう告げる男の圧力は、ここにいる囚人の誰よりも強いのだと知らしめている。けれど負けるものか。セレナは独りじゃないのだから。
「囚人どもならぶっ飛ばすのに躊躇するこたぁないな! 強い奴に寄生して旨い汁を吸おうなんざ、いけ好かねぇカスの所業だぜ!」
 エレンシアはその言葉通りに囚人をぶっ飛ばし、焔がグラン・リヴァーレで攻勢に乗っていく。すでに短期戦と呼べる戦いではなく、方々にダメージが見られるが、誰もかけられた賞金をくれてやるつもりなどさらさらない。
 ルトヴィリアの回復を受けながらスカルレッドが短剣で囚人の1人を制し、エイヴァンはここで倒れる者かとパンドラの可能性を強く受けながら絶気昂で自らを癒す。あともう少し。あともう少しで決着がつくのだ。
「まだよ、倒れてなんてあげない。トドメがわたしに届くことはないわ……!」
 セレナの結界がずっと庇ってくれているガイアドニスを守るように展開される。仲間たちの援護が近づいてくるのを感じるから、あとはこの禿げ頭を倒すだけだ!
「後はてめぇだけだ! 泣こうが喚こうがその首跳ね飛ばすぜ!」
 エレンシアの攻撃がギオーヴの首を掠め、辛うじて避けたギオーヴにエイヴァンが肉薄する。
「ちっ、さっさと死ねよ……!」
「死ぬものか」
 死ねるものか、とエイヴァンは瞳に力を入れる。先ほど受けた傷は決して軽くないが、それでもここで膝をつくわけにはいかない。
「スカルレッド様、コレが終わったのち――少しだけ話をしても?」
「……終わったらな」
 ギオーヴに武器を弾き飛ばされたスカルレッドは短く返すと、拳を握りしめてその横っ面を殴りつける。すかさずヴィクトールが強烈な一撃を叩きつければ、その巨体がぐらりと崩れた。
「いいじゃねーか。その顔。上手く蹂躙できなくて気持ちよくなれないか? なぁ?」
 カイトはにたりと笑って追撃をかける。ああ、そうとも。囚人に情けを掛ける必要性なんざ全くないのだから。
「地下とラド・バウの安全の為に――ここで倒れて貰うよ!」
 終わりだと焔が究極の一撃を放つ。神々の加護を得た槍の穂先は、迷うことなくギオーヴへと吸い込まれていった。



「……貴方は、私を知っているのですね」
 それは疑念ではなく、ほとんど確信に近いものだった。ヴィクトールの問いかけにスカルレッドは否やを返さない。
 仲間たちの進む背を追いながら、ヴィクトールは小さく口を開く。
「もし、もしもです。貴方の知っている人が、私の知る彼であったのなら、伝えてほしい言葉があるのです」
 申し訳なかったと。
 貴方に逢う資格はないかもしれない。それでも――会いたいのだと。
「……お前が、本当に『ヴィクトール』なのか。俺には判断できない」
 それは確かにそうであろうとヴィクトールは頷き、少し考えて無造作に脚の一部を剥がす。そこへヴィクトールは『親愛なるミロンへ』と走り書いた。
「一番特徴的でしょう、コレが」
 それを受け取ったスカルレッドは、その字を見下ろして。感情の読めぬ表情のままに、それをしまい込んだ。
 そろそろ地下道の出口だ。体勢を立て直し、改めてさらに奥まで進むことになるだろう。ルトヴィリアはこれまで戻って来た道を肩越しに振り返る。
(鉄帝の地下道の広さはかなりのもの。以前見せて貰った地図からも、魔女的に嫌な予感がしたんですが……)
 胸の内にひっかかったものは、更なる探索をしなければ掴めないか。ルトヴィリアは霞の中にいるような感覚を覚えながら、仲間たちと共に外へと脱出したのだった。

成否

成功

MVP

ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

状態異常

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 地下道を進むための障害をひとつ取り除きました。

 またのご縁をお待ちしております。

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