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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>志士ぞ今こそ散るらむ(上)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝地下道攻略戦
 鉄帝に冬が来る。
 クリスタル・ヴァイス(水晶の白)と呼ばれる時期を前に、新皇帝派に抗する六派閥とローレットは、冬を越えるための準備を着々と進めていた。
 伝説の狼になぞらえた寒波『フローズヴィニトル』が、実際に地下の奥深くに封じられていると知らされた一同の動揺は如何ばかりか。
 そして、恐らく新皇帝派の者達、またはそれに与する勢力がそれを狙っている可能性は。
 来るべき冬への対策と、より最悪を助長する敵の動きへの牽制。考えることはあまりに多い。
「つってもまあ、アレよ。俺達はベルノ共々アンタ等ローゼンイスタフに下ったワケだから何なりとやってやるって感じだけどな」
「早々にローレットに負けて尻尾を丸めた連中が言うものだな」
「……別に、返す言葉もねえよ」
 ヴァイス=ブランデホト(p3n000300)の軽口に、しかしぴくりとも笑わずヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフは応じた。先頃、ヴァイスはイレギュラーズに敗北し、その下に(ひいては北辰連合に)ついた。
 ヴォルフは、そののちに起きた大きな戦いを経て、ノーザンキングスの長ジグバルドが暗殺に斃れたと知らされた。目の前の兎一匹が、かの強者と比べどれほどの価値があろうか。言うまでもない。
「卿はどう思う、ヴァイス。地下で何らかの収穫があると思うか」
「あるかないかで言えば『ある』。大抵の動物は土の下で冬をやり過ごすもんだ。安全が確保できれば、一般人が寒さで死なない程度には保証できるだろうよ……けど」
 ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)の問いにそう応じたヴァイスはしかし、一同に進軍を止めるよう指示する。耳が盛んに動き、何事か聞いているようにも取れる。
「奴さんも簡単じゃねえってこった。……『ローゼンイスタフ』? アンタ等の家名じゃねえのか」
「ああ、そうだな。私達を除いてその名を高らかに謳うのは一人だけだ」
 問いかけを受け、ヴォルフは眉根を寄せ、ベルフラウは絞り出すような声で応じた。その名に思い当たりある者は少なくなく、そして「ローゼンイスタフ」の名のみなら、各地で耳にしたものもいよう。
「テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ……グレイヘンガウス領に現れた彼でしたか」
 ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)にとって、北辰連合に手を貸せる状況かといえば必ずしもそうではない。されど、ローゼンイスタフ志士隊の出現が予見され、六派閥の大きな動きにテオドールが呼応しない訳がないと判断、ベルフラウ等についてきた。大当たりというわけだ。
「志士隊、って人達の元締めだったよね。正義の押し付けをしてくる彼等は、倒すべきだと私も思うよ」
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)もまた、ローゼンイスタフ志士隊の強権的すぎるやり口には嫌気が差していた。力で制圧する、改善の余地を与えず潰す。それは暴虐ではないか。新皇帝派も捨て置け無いが、テオドールはそれに『正義』を上乗せするからたちが悪い。
「ベルフラウ」
「はい」
 と、出し抜けにヴォルフが呼びかける。ベルフラウは身を固くした。
「アレが何をしようと、俺は手を出さない。『本人には』な。だが、アレはいずれ討たれねばならぬ者だ。家名を穢し、俺達が求める未来(もの)を冒涜した。最早家を継ぐ価値はない。断罪は必要だ。ではどうすればいい」
「……父上、それは」
 ヴォルフの言葉は、「テオドールを許さない、断罪する」「だがヴォルフは手をくださない」ということ。
 それらの言葉が意味するところを、理解できないベルフラウではなかった。つまり。
「私にテオドールを討てと」
「これはローゼンイスタフの名についた汚辱を雪ぎ、貴様が家名を名乗る為の通過儀礼だ。分かるな」
 ぞっとするほど、『通過儀礼』の言葉に乗った冷たさを感じ取り、ベルフラウの身は震えた。


「テオドール様、敵襲です」
「そのようだな。おそらく、私の肉親達だろう」
 テオドールは、補佐官として傍らについたシージア・セーヴの声に頷く。彼女はセフィロト側が監視と支援を目的としてつけた者。同行してからずっと思考に、発声に、心をなでつけるような憤怒の匂いを感じ取っている。……だが弱い。仮に彼女が魔種だとしても、テオドールの正気を失わせることは出来ないだろう。正義のために常識を踏み越えても、道を外すのは彼の道義ではないからだ。
「この国は変わらなければならない。それが新皇帝派の強引なやり方であれ、肥え太った現状を切り離す為には必要な措置であったのだ。急激な変化に抗うだけのやり方は看過できない」
 国だけではない。世界が変わらねばならない。彼はセフィロトの教義に触れ同意を得た。『イェソド』とは少々歩調が合わぬが、已む無きことだ。
 ベルフラウは知れば妨害するだろう。わかっていた。ヴォルフは北辰連合としてかの地を護りつつ、我々が在れば妨害に走ったはずだ。
「全軍迎撃体制。姉上は極力捕縛、できなければ殺さず撤退させよ。……父上、否、ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフは生死を問わない。正義に反する者に鉄槌を下せ」

GMコメント

●成功条件
・テオドールの撤退
・臨時補佐官『シージア・セーヴ』撃破
・ローゼンイスタフ志士隊の全滅
・上記達成まで『友軍のローゼンイスタフ』の無事(重傷までは許容)

●失敗条件
・『友軍のローゼンイスタフ』の死亡or不明(捕縛)

●『黄金の双頭鷲』テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ
 ベルフラウさんの弟で、ローゼンイスタフ家次代投手となる人物でした。『ローゼンイスタフ志士隊』を主導し各地でテロまがいの行動を起こしていたのは間違いなく彼の指示によるものです。
 反転はしていません(仮に憤怒の呼び声が聞こえても『正義を為すのに魔の手を借りる外道はしない』と突っぱねるでしょう)。
 魔種達による国家転覆の末の弱肉強食に正義の一端を感じては居ますが、結末までは肯定していません。偶然同道して、その威を借りて寝首をかこうとしているだけなのです。
 ……因みにベルフラウさんに対して非常に強い執着を持ちます。あわよくば捕縛しようとも考えているように見受けられます。
・指揮統制能力が極めて高く、居るだけで自分からレンジ3圏内に強烈なバフがかかります(EXF爆増、FB減(中)など)
・次期当主の名に恥じぬ剣技を多数備えています。『剣技は』レンジ3までの技が主体。ただ、ローゼンイスタフから出奔する以前から持つ剣とは違うものを佩いている模様。
・謎の手段による自動防御を備え、神秘に強い耐性、ダメージ発生系BSに対する【緩和2】と【棘】を有します。繰り返し攻撃することで、自動防御の正体を明らかにできます。
・戦闘中一度きり、『EX 我が栄光』を使用可能。詳細不明ながら攻撃スキルではないことだけはっきりしています。
・撤退条件は志士隊の2/3撃退orシージアの死亡、またはその両方。

●シージア・セーヴ
 テオドールの補佐官としてセフィロトから押し付ける形で派遣された女性……なのだが、その正体は憤怒の魔種で死霊術師。
 テオドールに呼び声が全く通用しないことを察し、であればその家族を反転させればどうだろう? と考え、前線に出てきた。
 補佐官タイプで治癒術に長け、いざ戦闘となれば全身に纏った死霊を伸ばしたり飛ばしたりして【不吉系列】のBSと【Mアタック(大)】を叩き込んできます。
 魔種としては平均値で、基礎値がやたら高いタイプ。HPが減るほど強くなるし【復讐(大)】とか持ってる。
 ここにさらにテオドールのバフが加わり……。

●ローゼンイスタフ志士隊最精鋭×20
 テオドールの指揮するローゼンイスタフ志士隊の精鋭陣。基本的に銃剣と、天義聖職者然とした者達は神秘術式を駆使します。
 精鋭というだけあって攻撃には多彩さが生まれ、【飛】や【移】で戦場をかき回す者、至近からの攻撃特化で【怒り】を食らってもビタイチ問題ない者など様々。
 条件があったりしつつ【必殺】にも対応できる優れた軍人です。

●ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフ
 友軍その1。
 自衛レベルでありますが剣をとって戦います。場合によっては過去シナリオでちょっと見せた「なんかすごい剣術(仮称)」を抜く可能性もあります。
 ただし、テオドールとの決着はベルフラウさんにとってのイニシエーション(通過儀礼)だと思っている為、決して手を出しません。ここに弱みがあります。
 皆さんで相談して「お願い」する形で誘導しましょう。今時作戦の指揮官なので上から目線はダメ、ゼッタイ。

●ヴァイス・ブランデホト+『白兎』5名
 友軍その2。
 銃撃による後方支援が主です。戦力はそれなりですが過信はできません。
●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <クリスタル・ヴァイス>志士ぞ今こそ散るらむ(上)Lv:40以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年02月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ


「父上、一つだけ我儘を聞いて頂けないでしょうか」
「構わん。言ってみろ」
 『戦旗の乙女』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は、父にして戦場指揮官であるヴォルフに頭を下げ、願い出た。戦場において親子の情に期待する娘ではなく、情けを采配に用いる父ではない。その呼び方の重みは重々承知していた。
「テオドール……テオとの別れに。邪魔が入らない様にご助力を頂きたい」
「私からも、重ねてお願い申し上げます。我々の『旗』の為、かの精鋭達との分断、それのみ手伝っていただければ」
「貴様達の心意気、聞き届けた。邪魔立てはさせん。疾く終わらせよ」
 ベルフラウの言葉に合わせるように前に出た『厄斬奉演』蓮杖 綾姫(p3p008658)は、北辰連合のひとりとしてヴォルフの存在の重さ、そして願い出ることの意味の重みを承知していた。だからこそ、返ってきた言葉への安堵がある。彼の言葉への圧倒的な謝意と重みをその身に感じた。
(通過儀礼……所謂、御家騒動、というもの、か?)
(私にとってはお礼参りのようなものですが、お2人にとっては血を分けた間柄ですから……)
(美少女的感覚で言えば、身内との戦いは至上のものの一つとされているが……喜んで戦うフリをしなければならなかった者の方が多かったろうな)
 両者の短い、しかし厳かなやり取りを見て、『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は想像以上に『重い』話であることを察する。多少なりテオドールに『思う所』のある『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)にとっても、その会話の重みは十二分に伝わるものであった。彼等の重苦しくも決然としたやり取りを見守った『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が『美少女』としての過去の己を思い返すに、肉親を手に掛けることの重みを改めて思い知る。それを嬉々として勧めていたであろう過去も合わせて。
「ベルフラウの家もイロイロとタイヘンなんだね。魔種まで居るし本当に凄いことになってるんだねぇ」
「志士隊のやってきたことは許せることではないし、家族間の話に口出しはできない。だから、ベルフラウ君の意志を私は邪魔するつもりはないよ。だから、同じくお邪魔虫にはどいておいてもらいましょう!」
 敵に魔種が混じっている。その事実に『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は呆れたように首を振り、この戦いの厳しさを理解した。『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は仲間のおかれた状況の過酷さに情を移しこそすれ、邪魔立てするつもりは微塵も無い様子。過去に志士隊のやり方を知っていようと、これから起こりうるのは家族の対話である。それを余人が口出しすることの愚かしさを、彼女が知らぬ道理はないのだ。
「遅かった。待ちくたびれたよ、姉上、『ヴォルフ卿』、そして招かれざる方々」
「わーはっはっは! 音に聞こえしローゼンイスタフ志士隊とやり合えるのはおもしれーのだ! お前だな、ヘルちゃんを差し置いて死霊術師を名乗る不届き者は!」
 『凶狼』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)は、待ち受けたテオドールの言葉を遮るように声を張り上げ、テオドール……ではなくシージアを指差す。思いがけぬアプローチに、しかしシージアは眉一つ動かさず「でしたら?」と問い返す。声には明らかに不快感が滲んでいるが、誰に話しかけられてもこうなるだろう、と周囲は理解していた。
「夢物語はあくまで夢物語でしかないと――あなたにも思い知っていただければと、ただそれだけですね」
「それを決めるのは卿ではなく私だ」
「テオドール様のご意向に否を唱える者を、我々は容赦しない」
 ヴィクトールの強い視線を受け、テオドールはそれでもなお主張を斬って捨てた。彼を守るように前進した志士達は、なるほど最精鋭の名を恣にするだけの覇気はある。
「前進せよ、蹂躙せよ。栄光のために、全て己が希望を捨てよ」
「「「御意」」」
 敵を倒す。ただそれだけのために、志士隊は、そしてシージアは前進する。命を擲つ覚悟などとうにできているといわんばかりに。
 弟を止め、志士隊を制し、この茶番を終わらせる。ベルフラウ達は、『その先』も見て戦いに挑む。


「あなた達志士は、此方でお相手します。好きなように振る舞った罪、思い知らせてあげましょう」
「てめーらに悪狼の力をみせつけてやるのだ!」
 ヴィクトールは志士隊へ向け挑発を仕掛け、狙いを自分へと集中させんとする。先んじて放たれたヘルミーネの冷気は彼等へ猛然たる勢いで襲いかかり、動きを鈍らせんとする。
 志士達の目に迷いはなかった。挑発を受け、ヴィクトールを狙う剣にも、怒りによる濁りがない。ただ目前の敵を沈黙させんとする勢い。冷気を軽やかに避け、反撃にうつる者すらもいる。
「一人でも、ふたりでも、纏まってくれたならそれで構いません。斬ります」
 綾姫はヴィクトールに迫った数名を纏めて切り裂き、残身する。油断なき構えの背後では、強烈な一撃を食らってなお足を踏みしめ立つ姿があった。固い守りや、催眠に近い指揮をまとめて無力化され、それでも尚彼等は、テオドールのカリスマの下に剣を握っている。
「勇ましい名を掲げるだけあって、烏合の衆ではないよう、だ」
「だが、下らぬ忠信だ」
 エクスマリアは彼等の姿を見て、実力の程を理解した。名ばかりの精鋭ではなく、仮初を剥がされてなお忠義を貫く姿に感銘を受けた。だからこそ、倒さねばと言う意思が強くなる。……その姿は、ヴォルフからすれば鼻で笑うほどに『下らぬ』ものではある。だからこそ、綾姫に斬られたうちのひとりは、彼の追撃の下に倒れ伏した。
「まだまだ行くよ! 次はキミだ!」
 そしてこの状況、ノリにノった時のイグナートほど怖い相手もない。仲間の奮戦に笑みを深めた彼の拳は、一撃必殺には至らぬまでも、志士隊の歩みを鈍らせるには十分すぎる破壊力を秘めていた。
「おのれ、好きにはさせ――」
「あなたの相手は私!じっくりお相手してちょうだいな!」
 シージアは志士のひとりが早々に倒れたのに瞠目し、怒りを露わに攻撃術式を編もうとした。成程、魔種相応の詠唱速度、精度であったのだろう。だが、冠位魔種と鎬を削ったローレットの最精鋭たる魔女の手から逃れる術は、持ち合わせていなかった。精度を高め、ただ引き付けることを前提としたアレクシアの魔術を前に、感情を揺らさぬ努力は無に帰した。
「そこまで宣うのであれば、その素首落してからあの老兵を討つ!」
 果たして、その怒りがどこから生まれたものかを自覚することなく。シージアは生み出した魔力をアレクシアへと叩き込む。
 傷が生まれる。魔力を削り取る。悪意が己に叩きつけられる。されど、アレクシアは微動だにせず。
「それで、その程度で」
 己の『栄光』を受けた兵達が、一人とはいえたやすく斬り伏せられる。その惨状はテオドールをして苛立ちを禁じ得ぬものだった。だが、それ以上に注目すべき相手は他にいる。
「テオ……お前にはこのやり方しかなかったのか」
 そう、目の前に。ベルフラウの問いかけに、彼は「このやり方が全てなのです」と断じると、剣を鞘から振り抜く。間合いには遠かった筈だというのに、鞭のごとく届く。まるで刀身が別のものに置き換わったかのようだ。
「面白い飛び道具を使うではないか! 吾とも存分に遊んでもらおうか!」
「行くぞ百合子。やり過ぎて削がれ切られるなよ? 目標は、ひとまずその護りの種明かしだ」
「応とも。だが、倒してはいかん、殺せぬという甘え込みでは止められぬようでな!」
 文字通り飛ぶように迫った斬撃を叩き落とした百合子は、ベルフラウとともにテオドールの間合いに入り、腰を撓めた。猛然たる連撃の始まりは、果たしてどれほど通じるか。どれほど彼を削り取れるか。
 獣のようなその眼差しは、テオドールの冷たい瞳を見据えている。


「お前の死霊はヘルちゃんの――もの……、あれ?」
「何を吹き込んだのか知りませんが、私が只の死霊術師であると考えたなら大いなる勘違いだと申し上げておきましょう。魔に堕ちた時点で、最早呪いに等しいものになったこの術を阻もうなど笑止千万」
 ヘルミーネは、死霊達を成仏させる術があり、それが最大の餌となると踏んでいた。だから、シージアの能力など取るに足らぬと考えていた。アレクシアに自由を奪われていたとはいえ、一介の魔種の死霊術に対して、だ。
 だからこそ、最高のタイミングで殴れると踏んだ彼女はしかし、アレクシアごと周囲を巻き込む大術式の痛烈な反撃を受けた。その不利にあって渾身の一撃を叩き込んだ根性は、見上げたものだと誰しもが思うところではあったが。
「あなたはこれ以上前に出させない……!」
「あとちょっと……イッキに攻めきるよ! だからキミも踏ん張れよ、ヘルミーネ!」
「分かっているのだ! ちょっと失敗するくらい、ここで負けることの何百倍もマシなのだ!」
 弱るほどに、シージアの反撃は苛烈になる。イグナートの猛攻は常識の域を越えていたが、反撃を受けずに攻めきるにはほんの少しだけ遠い。なら、その一歩を埋めるポテンシャルは間違いなく、ヘルミーネには存在する。
 それまで保つ。その後も勝つまで、仲間を、自分を守り抜く。アレクシアは2人の猛攻とシージアの反撃に身を置きながら、鋼の精神と肉体を以て足を止めた。進ませぬために。この戦いの先に進むために。
「成程、成程。防御の仕組みは早々に割れたが、割れたからといって簡単には貫けぬか」
「十分だ、百合子。テオが『それ』を選んだ理由も、分かる気がする」
 何十と叩き込んだ強撃は、己に傷となって跳ね返る。百合子はその傷をも己の誇りと、拳を止めることはなかった。だからこそ、高速で拳を受け止める水銀の盾がはっきりと見える。本来なら目にも留まらぬ防御速度だろうに、圧倒的な回数の前にはその速度も意味をなさない。
「テオ、お前の栄光とはあれなのか。あの程度で、栄光を嘯くのか」
「私にとって、己の正義を貫くことこそ栄光、貫徹する力こそ我が全て。それがこの大地を血に染めることになっても、私の血が大地を染めても。栄光の名の下に、私のあとに続く者がいるならば」
「そのような――自らを擲って、他者の命も捧げて、全てなくなった大地を歩む意味が有るか! ヴィーザルを治めるローゼンイスタフの名を持ちながら、独善で以て前に進む姿が良いはずがあるか!!」
 恐らくは多大な傷を負い、今や遅しと転身を狙うテオドールの目にはしかし、その行動すらも誇りゆえの行為だと語る力があった。だがそれは『ローゼンイスタフの力』ではない。
 命を擲って力と為す指揮統制、死すら覆す生き汚さを強いる戦い。それが、誇り高き者がやることではない。死力を尽くせと旗を振る、その意気込みとは一番遠い。
 肉体に届く前に止めようとしていた水銀装甲は、しかしテオドールの傷の深さを見るやその身に張り付き、わずかばかりの止血を成した。それが、彼にとっての合図だったというように。
「逃げる、のか。姉を前にして、おめおめと」
「ああ、全く期待外れだ。シージア、卿はここで果てろ。私を巻き込むつもりなら、父上ぐらいは殺してみせよ」
 矢も盾もたまらず転身したテオドールに、エクスマリアは思わず声をかける。挑発にも至らぬそれを受けて、しかし彼は微塵も表情を変えぬまま言い切った。
 自らを、魔種を、使い捨てにするという選択。シージアはその決断に歯噛みし、ならばせめてとヴォルフを見た。だがその姿は、反転する視界の中で、だ。
「俺の息子を誑かすにしては、弱すぎる。卿が元凶ではなさそうだな」
「…………!!」
 イレギュラーズ達によって隙を生み出されたとはいえ、首を一刀にて薙ぎ払う惨劇はやはり慮外だ。失望したような言葉とともに、ヴォルフは去っていくテオドールを見た。
「魔種は倒れました! 指揮官も、もう居ません! あなた達は……ここで、終わらせます!」
「『旗印』はこちらにあり。あなた方の死に難さも、十分堪能しました。これ以上、ローゼンイスタフの名は穢させません。お覚悟を」
 状況の変化をいち早く理解したアレクシアが、高らかに声を上げる。状況は確実すぎるほどに、不利。綾姫の覚悟と怒気を孕んだ目が志士隊を射抜いた時点で、彼等の趨勢は決まったようなものだ。
 倒れる寸前まで受け止めてなお、最後の一歩を踏み外さなかったヴィクトールは、この戦場に於いて最大の功を得たといっていい。
 そして、本来のタイミングよりも確実に早く、テオドールを撤退させた百合子とベルフラウもまた大したものだ。ここで討てなかったとしても、あの傷では軽々には前に出られまい。
「オレ達の勝ちだ!」
 果たして、最後の志士の崩れ落ちる姿とともに突き上げられたイグナートの拳は、その瞬間の誰よりも高く掲げられていたのは間違いない。

成否

成功

MVP

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)[重傷]
懐中時計は動き出す
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)[重傷]
凶狼

あとがき

 お疲れさまでした。
 テオドールはかなりの重傷を負い早期撤退、敵は全滅。かなり上等な勝利と言えましょう。
 決着はすぐそこにあるのかもしれません。

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