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シナリオ詳細

<エウロスの進撃>炎の巨人、魔種グラード

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ドシン、ドシン、ドシン。
 吹雪に覆われた街並みを、炎の巨人が闊歩する。降り注ぐ雪はその巨体に触れた瞬間蒸発し、灼熱の足跡は全てを焼き焦がす。
「寒ィ……アァ……ナンデ俺がコンナ目ニ……ブアックションッッ!!」
 炎の巨人が大きなくしゃみをすると、炎の飛沫が辺りに撒き散らされた。
「ンアァ……デモコレガ俺ノ仕事……バルナバス様ノ為……仕事ハ完璧ニ……デモ寒イ……」
 鉄帝東部に存在する小都市、レガミナ。この街に新皇帝派の軍人を引き連れてやってきたのが、この巨人。魔種グラードである。
 全長約30メートルの巨体に、全身から常に発せられる灼熱。異様な巨体を持つ魔種。それは瞬く間に街の恐怖の象徴として君臨する事となり。街の制圧を容易にさせた。
 そして街の制圧が終わった後も、魔種グラードはこうして定期的に街を練り歩き、人々にその恐怖を何度でも刻み直していたのだ。
「グラード少佐!! 頑張ってください!! もうすぐ今日のノルマは終わりですよ!! 夜の食事はシチューですよ! シチュー!!」
 グラードの足元に控えた護衛役の兵士達が、グラードに声援を送っていた。更にその近くには数体の天衝種も付き従っていた。
「アァ……飯カ……飯ハ早ク喰イタイ……」
 ドシンドシンドシン。若干早歩きになった魔種グラードは更に街を練り歩く。
「魔種グラード!! この街を恐怖で支配するのも今日で終わりだ!! 俺達はこの街の解放軍だ……!!」
 と、その時。不意に路地から複数の男たちが銃を担いでグラードの前に姿を現した。
「アァ……? アァ、敵カ」
 不意に路地から銃を構えた義勇兵達が姿を現しグラード目掛け撃ち放ったが、グラードはポリポリと銃弾が当たった箇所を掻くだけで、全く通用していなかった。
「痒イナ、ソノ銃弾……ドウシテ俺ノ邪魔ヲスル? 邪魔、邪魔――ムカツクナ、オマエラ。チビノ癖ニ」
 グラードはその大木の様な足を振り上げると、滅茶苦茶に足踏みをする。 
「コロス、コロス、コロス、コロス、コロス。歯向カウナ、逆ラウナ、邪魔スルナ」
 怒りに任せて襲撃者達も、周辺の家屋も纏めて踏み潰す。多くの人々が踏まれ焼かれ、辺り一帯が炭と化した頃。ようやくグラードは動きを止めた。
「も……申し訳ありませんグラード少佐! 我々が対処すべき連中でしたが、お手を煩わせてしまい……」
「イイヨ、ソンナノ。ソレヨリ、飯」
 護衛の兵士に軽く応えたグラードは、そのまま寝床である街の大きな公園に到達すると、用意してあった大量の料理を飲み込み、ゴロンとその場に寝転んだ。積もっていた雪が纏めて蒸発して湯気が立った。
「アァ……寒イナ……壊スダケナラコンナ街簡単ニ壊セルノニ……支配ナンテ必要ナイ……全部、ゼンブ壊して燃やせばいい……コンナ街、コンナ国……アアデモ、コレガ俺ノ仕事……仕事ハ大切……デモ壊シタイ、殺シタイ、燃ヤシタイ……」
 そしてグラードは目を閉じた。
 
 見える者は全員殺せ!! 壊せ!! 燃やせ!! 全て殺して奪い尽くせ!!
 いつかの記憶。いつかの夢。あの日の出来事を、俺は毎日夢に見る。
 昔の俺は……とても小さなガキだった。辺境の村に生まれた、何のとりえもないつまらないガキ。身体が小さくて、他のガキからいつも馬鹿にされていた。
 だけどあの日。村に大量の悪党達が押し寄せた日。大きな身体の悪党達が村人を殺し、燃やして、全てを壊すあの光景を見た時。
 俺は羨ましいと思った。俺を馬鹿にしていたガキが踏み潰され、嫌な大人たちが一方的に殺され、大嫌いなあの村を燃やし尽くすアイツらが、とても羨ましくて。俺も、嫌いなヤツを殺して、壊して、燃やして。怒りのままに気に入らない全てを踏み潰す大きな身体が欲しいと願ったんだ。その願いは俺の心の中でどんどんと膨れ上がって――。
 気ヅケバオレハ、コウナッテタンダ。


「『エウロスの進撃』。ローゼンイスタフが主導となり、ノーザンキングスからも援軍が出来ているこの作戦は、鉄帝国東部地域を新帝国から開放する為のもの。今回皆にはその作戦の一環として、小都市レガミナに行ってもらうよ。そして、レガミナを支配している魔種と戦うんだ」
『ガスマスクの情報屋』ジル・K・ガードナー(p3n000297)は、集められたイレギュラーズ達に説明を始める。
「小都市レガミナは現在、憤怒の魔種にして炎の巨人であるグラードと、彼の部下である新皇帝軍の部隊が支配しているんだ。一応グラードの階級は少佐らしいけど……あんまり知能は高くなさそうだね。実質的には指揮官というより超巨大兵器みたいな扱いをされてるみたい。事実、細々とした軍的行動は彼の部下達が行っているらしいよ……逆に言えば彼がその地位に就けた理由は『強いから』の1点だけという事でもある……そう考えると怖くもあるね」
 グラードは魔種であり、凄まじい戦闘能力と巨体を持っている。知能が高くなくとも、ただそこにいるだけで街の脅威となり得るのだ。
「今回の制圧作戦では、ローゼンイスタフの軍勢が一斉に街に侵攻を仕掛けるんだけど、彼ら一般兵士達の実力じゃあ、どうしてもグラードに太刀打ちできない。だから君たちは作戦の開始と同時にグラードに戦闘を仕掛け、ヤツを街から撃退……あるいは、その場で討伐して欲しい。討伐は……大分難しいと思うけど、出来たらとてもスゴイと思う。ローゼンイスタフの兵力は街の制圧に集中していて、キミたちへの援軍は無いしね」
 魔種グラード、並びに護衛役の兵士と天衝種達は、街の隅にある広大な敷地を持つ公園に居る。積もる筈の雪もグラードの熱によって辺り一面溶けているらしい。
「と……まぁ。私からの説明はこんな所かな。作戦内容自体はシンプル。公園に向かい、魔種に戦闘を仕掛け、全力で戦う。魔種グラードは見た目も禍々しく巨大で、全身から噴き出す炎も相まってとても威圧的だけど――実力もそれ相応か、それ以上だから。攻撃はバカみたいに強烈だし、身体は意味が分からない位に頑丈だし。ほんと、気をつけてね……あ。魔種グラードの生まれについても一応調べといたけど……要る? まあ、鉄帝の辺境の村に生まれた小さな子供が巨人になったってだけの話ではあるけど……」

GMコメント

 のらむです。炎の巨人、魔種グラードと闘りあってもらいます。

●成功条件
 魔種グラードとその配下の兵士と天衝種の撃退、または討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●戦場情報
 小都市レガミナの片隅にある巨大な公園。そのど真ん中にグラードは寝転んでいる。
 当日は大雪だが、グラードから発せられる熱によって周囲はむしろ暑く、雪も融けてしまっている。
 魔種が居る公園にわざわざ近づく一般人も居ない為、周辺地域には一般人の姿は全く見えない。

●魔種グラード
 憤怒の魔種。30メートル近い巨体を持ち、常にその全身からは超高温の炎を噴き出している。他者を踏みつけ、破壊し、燃やすことを好む残虐な巨人。
 難しい事を考えるのは苦手だが、新皇帝バルナバスに対する忠誠心は高い。
 全ての攻撃に『紅焔』『炎獄』と『乱れ系列』のBSを伴い、『必殺』や『移』や『飛』を伴う攻撃も行う。『復讐』を自身に付与する技も行使可能。また、グラード自身は『火炎系列』と『凍結系列』のBSの効果を受けない。
 殴る、蹴る、ひたすら暴れ回るといった攻撃や、激しい火炎を放出したり自身を中心に巨大な爆発を引き起こす、といった様々な距離に対応した単体、範囲両方の攻撃が確認されており、いずれの攻撃もとても強力。攻撃が1人に集中した場合、早々に戦闘不能者が出る可能性が高いと思われる。
 その巨体の為、『ブロック』『マーク』『飛』は無効化される。
 全体的に暴力的なステータスを持つが、その中でもEXAの能力が高く、それよりも更に物理・神秘両方の攻撃力が凄まじく高く、更に更にHPは信じられない程に高い。

●新皇帝軍精鋭兵士×5
 グラードの護衛役という名目で配置されている兵士達。実際は難しい事を考えるのが苦手なグラードの舵取りを行うお目付け役という側面の方が強い。
 とはいえ実力は一般兵士よりも高いため、油断は出来ない。
 銃や剣を用いた近~遠距離の『ブレイク』『出血系列のBS』を伴う物理攻撃を行う。

●天衝種ギルバディア×5
 大型のクマ型の魔物。イレギュラーズには激しい怒りの感情を向ける。
 凄まじい突進能力があり、その威力は木々程度なら軽く薙ぎ倒すほど。敵を『吹き飛ばす』様な一撃を放つ事もある。

●撤退について
 基本的に撤退の判断は、お目付け役を兼ねた護衛の兵士が行い、グラードは基本的にその指示に素直に従う。兵士達は敵味方の被害状況を比較的冷静に見定めて、撤退の可否を判断する。
 護衛の兵士が全員倒れた場合は、未知数。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上です。よろしくお願いします、お気をつけて。

  • <エウロスの進撃>炎の巨人、魔種グラードLv:35以上完了
  • GM名のらむ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年01月15日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ


「アア、サムイ寒イ……ナンナンダコノ大雪…大嫌イダコンナ国……ブアックションッ!」
 魔種グラード。全長30メートルにも達する炎の巨人にして、新皇帝軍の少佐。小都市レガミナの恐怖の象徴として君臨している怪物。
 グラードは少しでも寒さを和らげようと公園内で身体を動かしたり飛び跳ねたりと落ち着きなく動き回っていたが、その度にレガミナの地面が揺れていた。
 そしてそんなグラードの様子はその巨体故、大雪の中でも遠くから視認する事が出来ていた。公園に向かう、イレギュラーズ達からも。
「ふぅむ、いやまぁすごい魔種もいたもんです。アレじゃあ流石の私も相手できないわね……『死体』と媾う趣味はないけど。何したらあんなデカくなるやら……クーア。あの燃え盛る巨人を見てどう思います?」
 呆れるほどに巨大なグラードの巨体を眺め、『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)は呟き、チラリと視線を隣に向ける。
「ええ、なかなか興味の惹かれる代物であるのは認めましょう。ですがそのリカ、私にも悪食の趣味はないというか、その」
『雨宿りのこげねこメイド』クーア・M・サキュバス(p3p003529)は僅かに困惑気味にそう返した。燃えてはいるし、魔種だが。だから満足できるという訳ではなかった。
「炎の巨人、か。いつぞやの大樹の嘆きを思い出す、な。思えばあれも、冠位が元凶だった、か。全くもって、はた迷惑な兄妹、だ」
 再びドシンと地面が揺れた。『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は少し呆れる様に言い、かつて見えた巨人の事を思い返していた。
「確か30メートルの背丈だったかい? 何とも欲張ったものだねぇ……でも、そういうのは嫌いじゃあない。むしろ好ましい」
 誰よりも大きな身体を求め、そしてそれを手に入れた。『闇之雲』武器商人(p3p001107)はそんなグラードの在り様を悪く思ってはいなかった。
「膨れ上がった憤怒をそのまま顕した巨躯、という事かしら。ここまで伝わる程の熱気も、グラードの憤怒の程を示しているのかもしれないわね」
『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は呟く。グラードに近づけば近づくほど熱気は強まり、その異様な力を嫌でも感じる事が出来た。
「唯の子供が成長して巨人に……サラッと凄い事を聞いた気がしますが、今はそこをツッコんでいる場合では無いですね。これ以上被害が広がらない様、早急に対処しなくては」
 戦いの時は近づいている。『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は気を引き締め直した。
「どうであれ、苛烈な戦闘が予想されるわ……危険な仕事だけれども。汝(あなた)を危険に晒さないよう、我(わたし)も立ち回るわ。よろしく」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が魔女――【占導の魔女】ウィッチ・オヴ・アストラークに呼びかけると、アストラークは微笑みを湛えて頷いた。
「もちろん! レジーナちゃん達は私が守るわ! ……今のちょっと格好よく無かった? レジーナちゃん!」
「かもね」

「アァ……寒イ……ツマラナイ……壊シタイ……燃ヤシタイ……」
「お気持ちは分かりますが頑張ってくださいグラード少佐! これもバルナバス様の為ですよ!」
「アァ……ソウダッタ……バルナバス様ノ為……ソウダッタソウダッタ……デモ嫌ダ……」
 納得したような事を言いつつも、ゴロゴロと公園を転げまわるグラード。護衛兵士達は慣れた様子でサッと避け、地面が焼け焦げ木々がなぎ倒された。
「おいおい、これ以上暴れてくれるなよ。せっかくの公園が台無しだ。そうだろう? 今すぐにでもどいてほしいものだ」
「アァ?」
 不意にそんな声をかけられ、グラードは寝転んだまま声の主――『不運《ハードラック》超越』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)、イレギュラーズ達に視線を向ける。
「なっ……誰だ、貴様ら!!」
 護衛の兵士達も一斉に武器を構え、クマ型の魔物、天衝種ギルバディア達も怒りを滲ませた様子でイレギュラーズ達を睨む。
「お前たちの様な奴らを街にのさばらせるわけにはいかない。恐怖で支配するなど、許してはならない……この街は解放させて貰う」
 そう言い放つ『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)を、グラードは表情の読めない顔でじっと見つめ。そしてゆっくりと立ち上がった。
「アァ……ツマリ……俺ノ邪魔スルノカ……邪魔……邪魔……邪魔ハ許サナイ……」
 立ち上がったグラードの圧倒的な巨体を前に、イレギュラーズ達は立っていた。
「コワス、コロス、燃ヤス……俺ノ邪魔スルヤツ、ゼンブコロス……グァアアアアアア!!」
 グラードが雄たけびを上げると、全身に纏った炎が更に激しく燃え盛る。しかしその様子を、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は冷静に見つめていた。
「気に入らない事があったら癇癪を起して暴れ回って、ご飯を食べてお腹いっぱいになったら眠る……魔種になって、見た目がどれだけ大きくなっても、中身はきっと子供のままなのね……始めましょうか」
「ゼンブコワスッッ!!」
 そして戦いが始まった。


「邪魔、邪魔……俺ノ敵、敵カ? 敵ハコワス、燃ヤス!!」
 グラードが大腕を突き出す。瞬間、その掌から火炎の奔流が溢れ出し、イレギュラーズ達を襲った。
「ええ、敵さんです。ちょっぴり強いだけのね!」
 迫る奔流。リカは黒の魔剣を構え軽い動作でクルクルと振るうと、炎は裂かれ、弾かれて。リカには傷一つ付かなかった。
「さて、コレで痺れてくれるかしら?」
 そのままリカは魔眼をグラードに向ける。黒き瞳がグラードの魂を覗き込み、そして縛り付けた。すぐさま、リカは仲間達と若干離れた位置に移動し、グラードの様子を注意深く観察する。
「ナンダコレ、嫌ナ感ジダ……チビの癖ニ、チビの癖ニ!!」
「通った……けど、念には念を」
 リカが静かに呟いた直後、グラードはリカ目掛けて大岩の様な拳を振り下ろしていた。リカは地を踏みしめてそれを受ける。凄まじい衝撃が全身に伝わったが、リカは踏み留まっていた。
「チビチビって、チビはあんたよ。体だけ大きくて小さくてみみっちい奴! そんなんだから魔種になるのよ、チビのクソガキ!」
「ンナ……!!」
 魔種になってから、自分に正面切って刃向かってくる奴などいなかった。いや、正確にはそれを出来るヤツなどいなかった。だからグラードは怒りを覚えるよりも先に、唯々その言葉に驚いていた。
 が、それも一瞬の事。
「コノ……俺ヲ見下スナァ!!」
 再度振り下ろされる拳。しかしその先にはリカはおらず、余裕をもって退避していた。
「挑発は思ったより通る……あとはどこまで続けられるか、ね」
 一瞬の油断も出来ない。リカはグラードの動きを更に注視していた。
「グラード様の一撃を受け止めるとは……油断ならない相手だ、焦らず攻め落とせ!」
 護衛の兵士の1人がそう言って。天衝種達は凄まじい勢いでイレギュラーズ達に突進する。イレギュラーズ達は各々の得物を構え、次々と反撃の攻撃を繰り出していた。
「兵士も天衝種も、随分広がって布陣してるねぇ……まぁ、我(アタシ)のやる事が変わる訳ではないけれど、ね」
 武器商人はたるべく多数の兵士と天衝種を巻き込めるような位置に移動。そして周囲の敵を静かに見回し、薄く微笑んだ。
「キミ達が視るべき相手は誰か。考えなくても分かるだろう?」
 そして小さく呟いた。その声は敵の耳に届いていなかったが、しかし何故かその心の中から怒りが沸き上がり、武器商人に視線が向けられた。『アレ』を存在させてはいけないと、何かが心の中で囁いた。
「反逆者共が……死に晒せェ!!」
「危ないじゃないか」
 兵士の1人が武器商人に接近し、近距離から銃を乱射した。しかし武器商人は表情を変えずチラリと視線を向けると、軽い動作で腕を振るった。
「あんまりそういう物騒なモノを人に向けるもんじゃないよ? ほら、返すよ」
 ジャラジャラと掴み上げたソレ――残さず空中で掴み取った弾丸を兵士の足元に放り投げると、兵士は更に怒りを滲ませて武器商人を睨む。
「馬鹿にしてるのか貴様ぁ!」
「あぁ、馬鹿にしてるよ? なんて、冗談冗談。冗談に決まってるじゃないか、ヒヒ!」
 武器商人は愉し気に笑みを浮かべるのだった。
「さて……と。視てみるとしようか」
 戦闘が本格的に始まり、マッダラーは上空からの第二の視線を使って戦場を見渡し。
「確かに広く展開してるな、兵士も熊も。特に熊は……その狙いが露骨な位だ。グラードの攻撃に巻き込むように吹き飛ばそうって算段なんだろうが……そうはいかないな」
 武器商人とほぼ同時のタイミングで敵の惹きつけを行っていたマッダラーは、盾役として敵の攻撃を受け止めていた。
「グァアアアアア!」
「そう怒るなよ。だがどうしても暴れたいというなら……俺が相手だ」
 マッダラーがそう告げた瞬間、天衝種は凄まじい勢いでマッダラーに突撃した。速度と重量を兼ね備えた突進が、マッダラーの身体に直撃する。
「…………」
 直撃はした。が、マッダラーは一歩も動かずその表情も僅かにも変化していなかった。
「……どうした、そんなもんで俺は倒れんぞ。泥人形は頑丈なんだ。それだけ覚えておくんだな」
「グルググ……」
 天衝種が鋭い爪をマッダラーに突き立てる。しかしやはり微動だにせず、マッダラーは静かに天衝種の身体に掌を当てた。
「しつこいぞ」
 ドン、とその掌から闘気が放たれ、天衝種の身体と魂を打つ。
「これでも俺は急いでいるんだ。だから早々に沈んでくれ、頼むよ」
 よろめく天衝種に、マッダラーは小さくそう言った。
「ガァアア!!」
「あれをまともに喰らう訳にはいかないですね……斬らせて貰いますよ」
 惹きつけを逃れた天衝種の一体が、叫びを上げ、真正面から突撃してくる。ルーキスは刀を構え、タイミングを見計らう。
「…………今!」
 ルーキスは強く地を蹴った。勢いよく横に跳ぶと、間合いを取りながら一瞬にして天衝種の側面に回り込み、そしてすぐさま間合いを詰める。
「この巨人も天衝種も、無尽蔵に湧き出る憤怒に塗れた存在……その憤怒ごと、斬る」
『瑠璃雛菊』と『白百合』。二振りの刀でその巨体に十字の斬撃を刻み込む。斬撃と共に打ち込まれた神経毒が、天衝種の全身を蝕んだ。
「グァアアアアア!!」
 天衝種は更なる怒りを滲ませながらルーキスに向き直り、喉元目掛けて両腕を、鋭い爪を振り下ろす。
「遅い」
 爪が直撃する寸前。ルーキスは両腕を広げる様に二連の斬撃を放った。一太刀目が右腕を。二太刀目が左腕を切り落とし、宙を舞った。
「ガァッ……!!」
「…………」
 ルーキスは無言のまま刃の向きを変えて跳び、広げた大腕を閉じる様に刀を振る。斬首の一撃が天衝種の首を刎ね飛ばし、地面を転がった
「まずは一体、ですね」
 刀に付いた血を振り払うと、すぐにルーキスは仲間の援護に向かった。
「コワス、コワス、コワス!!」
 天衝種や兵士達が応戦するその最中も、グラードは怒声を上げながら暴威を撒き散らしていた。
「本当に、騒がしい奴、だ。攻撃も全て、感情任せ。力任せ。だからこそ、嫌になる位強烈、だ」
 エクスマリアは仲間の回復を中心に立ち回っていた。グラードの攻撃の威力も半端ではなく、天衝種や兵士も決して油断できる相手ではない。
「やらねばならない仕事が多い、な。少しでも隙が生まれればいいの、だが」
 エクスマリアは呟きながら、魔力を込めた手袋『黒金絲雀』を掲げる。込められた魔力はすぐさま癒しの力へと変わり、そして柔らかな光へと変じて、前線に立つ味方達の傷を癒していった。
「グァアアアア!! 邪魔ヲ、邪魔ヲ、邪魔ヲスルナ!!」
「本当に子ども、だな。中身が伴わない巨体は、逆に哀れにすら、見える」
 どうであれ迷惑には違いないが、とエクスマリアは心の中で付け足した。そしてエクスマリアは拳を握りしめ、魔力を込めていく。怒りに任せてグラードが攻撃を外した一瞬の隙を、エクスマリアは見逃していなかった。
「巻き込まない様に善処する。が、上方注意、だ」
 そしてエクスマリアが拳を開いて魔力を解放すると、突如として空から降り注いだ鉄の流星群が、兵士達と天衝種たちを巻き込み次々と爆風を上げていった。
「クッ……狙いは俺達か……だがそう易々と倒せると思うなよ!」
「その言葉はそのまま返すよ。俺達も、半端な気持ちで来ている訳じゃない」
 歯噛みする兵士に言い放ち、イズマは魔導銃『スタッカート・マエストロ』を構える。銃身に込めたるは黒い魔力。どこからか、神秘的な音色が響いてきた。
「魔種だとうと天衝種だろうと兵士だろうと。全員纏めて、満足に動けない様にしてやるよ。沈め……!」
 引き金を何度も引く。放たれた魔力が敵の足元に着弾したかと思うと、一気に拡がる。漆黒の魔力はその上に立つ彼らの運命を飲み込み、塗り替えていく。
 イズマの言葉通り、敵の動きが目に見えて鈍っていくのが分かった。
「まだ終わりじゃない……これで仕留める」
 イズマは魔術を詠唱する。『音』を中心に据えたその魔法術式は高らかな音色と共に大きく展開し、魔法陣となって天衝種の足元に顕れた。
「容赦はしない……お前はここで終わりだ……!!」
 呟いた瞬間、旋律と共に魔法陣から放たれた無数の槍。それは天衝種の全身を一瞬にして串刺しにすると、魔法陣の中に呑み込み、そして消滅させたのだった。
「この街に、お前たちの居場所は存在しない」
 イレギュラーズ達は、明確な気温の上昇を感じ取っていた。グラードから放たれる熱は際限を知らず、真夏の様な熱気が戦場には漂っていた。
「確かにこの熱気はそれなりのものではあると思うのですが……正直、竜種だの冠位だの精霊だの、上には上がいると知った今となっては、この程度の紅蓮で満足する気は起きないというか」
 魔種グラードは確かに大きな力を持っている。が、クーアの言う通り上には上がいるというのもまた確かな事実であった。
「少なくとも今の私よりは格段に強いのですが、それでも」
 グラードが全身から火炎を撒き散らした。その火炎が軽くクーアの腕に浴びせかかったが、クーアはその火炎を静かに見下ろすだけだった。
「それでも……この程度なのですものね。確かに強力。でも……足りない」
 グラードがどれだけ怒り狂い、どれだけ強烈な炎を放ったとしても。それはクーアを満足させるには決して至らないのだろう。
「ま、それはそれとして。仕事をこなさないとならないですね」
 リカは戦場を見渡し、敵と仲間の配置を素早く確認する。
「この配置なら……これですかね」
 クーアは天衝種と兵士を多く巻き込める地点を素早く見定めると、軽く地を蹴りその脚先に魔力を込めていく。
「知性が希薄な相手である以上、やはり兵士を全滅させるのは危険なのです。けど……全滅させなければ問題ないのです」
 呟き、クーアは虚空に鋭い蹴りを放つ。次の瞬間、兵士達の周囲にの空間が歪み、次元を断ち切る斬撃に1人の兵士が斬り伏せられた。
「ねこを噛む類の窮鼠であることは明白。今日の所は、大人しく帰ってもらうのです!」
「死ナナイ、死ナナイ。死ナナイ。俺ガデカクテ。コイツラチビナノニ。ナンデ大人シク死ナナインダ」
 中々倒れないイレギュラーズ。倒れる兵士や天衝種。グラードは地団太を踏み、苛立ちを隠そうともしない。
「戸惑う気持ちは分かるわ……怯えるのもね。だけどお願い。アンタ達の力が必要なの」
 ジルーシャは竪琴から奏でる音色とその香りと共に、付近に漂う精霊たちに呼びかける。精霊達は魔種の力に怯えていたが、それでも街を守るためにジルーシャに力を分け与える。
「ありがとう。本当にね……さて、問題はコイツね」
 暴れ狂うグラード。その様子を見据えながら、ジルーシャは静かに堅琴を奏でる。
 精霊の力が込められ魔力を帯びた音色が力となり。虚空から現れ出た赤い大爪が、グラードの膝を大きく抉った。
「ナンダ、ナンナンダ……オマエモ俺の邪魔、スルノカ……?」
「まあ、それなりにはね。事細かにその理由を説明してあげてもいいけど、きっとアンタはそれを理解しようともしないでしょうね」
「俺ノ、邪魔ヲ、スルナ!」
「ほら、聞こうともしない」
 グラードが大きく腕を広げて拳と拳を激しく叩き合わせると、グラードを中心とした巨大な爆発が巻き起こった。
「その爆発、ここまで届くわけ……? また助けられたわね」
 爆発に巻き込まれれる寸前。堅琴の音色に呼応して精霊たちが生み出した結界が、その爆発からジルーシャの身を守ったのだった。
「ホント、ゾッとする様な威力だったわね……尚更、アイツらに好き勝手させつ訳にはいかないわ」
 燦火は敵兵士と天衝種達に目を向ける。未だ残ってはいるが、その数を着実に減らしていた。
「数が減って、抑え役もいるおかげで、グラードの火力圏内に吹き飛ばそうとする天衝種の目論見はほとんど効果を発揮していない……なら、とりあえずはあっちね」
 燦火は両手に魔力を集束させ、神聖な輝きを纏った魔力の双剣を手にすると、それは兵士との間合いを一気に詰める。
「貴様らが誰だか知らないが……グラード少佐に逆らうな!!」
「……お目付け役だか何だか知らないけどね。アンタ達が甘やかすから、グラードが更に付け上がるんじゃない?」
 兵士が剣を振るう。燦火は左右への小さなステップを駆使してフェイント、攻撃の軌道を誘導。そして兵士の斬撃が空を切った直後その腕に軽く蹴りを入れて剣を叩き落す。
 そして至近距離から魔力の双剣を駆使した無数の斬撃を放ち、剣士を一瞬にして切り伏せた。
「もしそれを最初から分かってるっていうなら……これは子供を利用する大人っていう構図とも言えるかもしれないわね。だから何かが変わるという訳ではないけど、ね」
 魔種グラード。中身の伴わない憤怒の巨人を、燦火は改めて見上げるのだった。
「ガァアアアアアア!! ツブレロ、ツブレロ、ツブレロ!!」
 地団太を踏み、炎を撒き散らし、暴れ回るグラード。広範囲に及ぶ攻撃を多く持つグラードの攻撃が、イレギュラーズを襲う。
「話に聞いてた通り、中々強い相手ですね……! レジーナちゃん、みんな! 私も支援するから頑張って!」
 アストラークは強力な効果が込められた回復薬を駆使し、イレギュラーズ達の支援を行っていた。
「助かるわ……でも、残る兵士は1人、天衝種も1体……狙うべきねは天衝種ね。こっちを早く終わらせないと、前線が崩壊してしまうわ……という訳で、そろそろ消えて貰いましょう」
 レジーナは最後に残った天衝種の前に進み出ると、すぐさま魔術を詠唱する。
「モエロ、モエロ、焼ク、焼ク」
 グラードが掌から火炎の奔流を滅茶苦茶に撒き散らす。レジーナは迫る火炎をチラリと確認し、人差し指で指差した。
 すると虚空から黒き大顎が現れて。火炎を丸ごと呑み込んで掻き消えた。
「仲間がいるから躊躇するとかいう概念も無いのね。とんだ邪魔が入ったわ……で、何だったかしら」
「ガァアアアアア!!」
「お答えいただきありがとう」
 天衝種が爪を振り上げた。直後、レジーナの魔術詠唱が完了。雷を纏った斬撃が出現、天衝種を袈裟斬りに切り伏せて。天衝種の巨体はドサリと地面に倒れた。
「さて、と。ここまでは悪くない流れだけど……この様子だと、すぐに大人しく帰ってくれる、という訳でもなさそうね」
「ツブレロ、ツブレロ、ツブレロ……!!」
 苛立たし気に地団太を踏むグラードに、レジーナは目を向けるのだった。


 魔種グラードの護衛に付いていた5名の兵士の内4人が倒れ、天衝種はその全てが倒れた。残るはグラードと、兵士が1人。
「ク……護衛役が真っ先に倒れるとは情けない……だが、どうだ……? グラード少佐は本当に強い。この方だけでも奴らを倒せる……か……? いやしかし、例え倒せるとしてもこんな場所で大きな傷を負わせる訳にも……」
 最後に残った兵士は思考を巡らせる。最後に残った自分に一切攻撃が来ない事から、イレギュラーズ達の意図を読み取る事は難しくなかった。
 撤退すべきか、そうでないか。その判断が出来るのは自分のみ。
 この名も知れぬ兵士が、戦いの行く末を大きく左右するキーマンとなっていたのは間違いがないだろう。
「……なるほどね。最後に残った彼は、グラードの力にかなりの信頼を置いている……けど、大傷を負わせるのを嫌がってもいる……なら、やぱり我(アタシ)も攻撃に回るべきだねぇ」
 最後に残った兵士の様子を『視た』武器商人は、その内容をハイテレパスを介して仲間達に伝える。やる事自体は変わらないが、それが勝利に繋がるとはっきりしたのは間違いない。
「ググ……チビ共ガワラワラト……邪魔ダ……!!」
「まあまあ、そう毛嫌いしないで頂戴よ、炎の巨人さん。我(アタシ)も煮え火を借りてるもんだから妙に親近感が湧いてるんだよねぇ」
「俺ト、オマエヲ、一緒ニスルナ……!」
「嫌われたものだねぇ。悲しくて悲しくて、思わず涙が出ちゃうかも。ヒヒ!」
 グラードが不意に右足を上げ、武器商人目掛けて一気に振り下ろす。ドシン、と地面が大きく揺れた。
「潰レタカ、チビガ……ア?」
「"火を熾せ、エイリス"」
 不意にグラードの足の下から蒼い炎が噴き出した。
「ア……アツイ……?」
 炎の巨人グラードは、思わずそう呟いた。そして右足が勢いよく持ち上げられ、グラードは思わずドシンと尻もちをついた。
「いやぁ、意外と持ち上げられるもんだねぇ。我(アタシ)の火事場の馬鹿力って奴も捨てたものじゃないみたいだ、そう思わないかい?」
「ナニヲ……」
「返事は別にいらないよ」
 グラードの足に激痛が奔る。蒼い炎を纏った武器商人の魔剣が、グラードの足を深く斬りつけていたからだ。
「グ……!」
 グラードはすぐに立ち上がり、憤怒の瞳で武器商人を見下ろす。
「コロス……!!」
「随分盛り上がってるようですけれど。私(わたし)の事を忘れてもらっては困りますよ?」
 リカはギフトによって生み出した甘い香りのエキスを溜めた小瓶を投げ放ち、更に魔眼の力を放ってグラードの注意を惹きつける。
「未だに私(わたし)一人倒せないなんて。その図体は見せかけみたいね」
 そして雷を纏った斬撃をグラードに刻み込み、そう言い放った。
 リカは既に瀕死と呼べる程の大傷を負っていたが、それでも退く事無くグラードの前に立ち続けていた。
「イイカゲンニシロ……チビノクセニ俺ノ」
「だからチビはあんたの方だって言ってるでしょ、クソガキ。まだ分からないのかしら?」
「俺ヲ……チビト……言ウナァアアア!!」
 グラードが掌をリカに向け、そこから巨大なの火炎の渦を放出し、リカの全身を吞み込んで焼いた。
「ゼエ……ゼエ……流石ニ……モウ……死ンダダロ……」
 怒りのあまり息を切らし、足元を見下ろす。そこには焼け焦げたリカの死体がある筈、そうグラードは確信していたが。
 どこからか、笑い声が聞こえてきた。
「……はは、この程度の炎……クーアとの打ち合いで慣れっこですよ!」
 そこにはリカが立ち続けていた。確かにグラードの炎はリカに致命傷を与えていた。が、自らのパンドラ、そして持てる道具と技を駆使したリカは、一気に活力を取り戻していたのだ。
「グ……」
 グラードは自らの腕を見る。その腕は纏わりついたリカの瘴気により、ジワジワと蝕まれていた。
「それじゃあ、続けましょうか? おチビちゃん? ……紫炎が1人、雨宮利香。あなたに悪夢をお見せ致しましょう……」
 リカは何度でも立ち上がり、挑発的な笑みをグラードに向けるのだった。
「紫炎を創るは紫電と紅炎、紫電がリカなら紅炎が私……」
 そしてグラードがリカに気を取られているその隙に、クーアは攻撃を仕掛けようと接近する。
「利香があのデカブツを抑えている限り、この戦場は私の独壇場なのです!」
 言い放った次の瞬間、グラードの全身に無数の傷が刻み込まれた。流れ出す血はすぐさま自らの熱で蒸発し、辺り一面に血の霧が立ち込める。
「ドイツモコイツモ……!! 邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔!!」
 グラードの全身の炎が激しく激しく燃え上がる。受けた苦痛に呼応して、グラードは更なる力を得る。
「邪魔ァアア!!」
 グラードは激しく地を踏み鳴らす。しかし徹底的なヒットアンドアウェイを繰り返していたクーアには掠りもしない。
「これはラド・バウを渡り歩いてきた私の得意分野なのですよ……知性の無いあなた相手なら、尚の事有効でしょう」
「知性……知性……ソンナ物ガ何の役ニ立ツ、大キクテ、強イ奴ガ、最後ハ勝ツンダッ!!」
「それを願うのでしたら。せめてその復讐の紅蓮を、外付けでなく己の内で燃せるようになってから出直すのです!」
 クーアの腕に纏った魔力が黒く巨大な大顎を為すと、グラードの腹に喰らいついた。
「グ……ググ……」
 そして後ずさるグラードをクーアは一瞥し、
「やっぱり……見れば見るほど、大した紅蓮ではないと分かってしまうのです」
 静かに呟くのだった。
「痛イ……許サナイ……絶対ニ……許サナイ……!!」
 グラードは拳を握りしめ、大きく腕を広げる。
「……ッ! 爆発が来る! 全員離れて!!」
 燦火が仲間達に警告を放ちながら、自らも退避する。
 その直後、グラードは勢いよく拳を叩き合わせると、再び巨大な爆発が巻き起こった。
「範囲も威力も桁違いね……炎が効かない相手でも、その威力そのもので叩き潰せるって? 冗談はその体躯だけにしてくれない!?」
 寸での所で爆発を回避した燦火。巻き起こった爆炎に紛れ、一気にグラードの死角まで移動する。
「グラードは爆発の直後、大きな隙が出来る! 一斉攻撃よ! 脚を狙って!!」
 グラードの動きを念入りに観察していた燦火が仲間達に呼びかけ、イレギュラーズ達が一斉にグラードに攻撃を叩き込む。燦火もそれに続くようにグラードの足元に接近する。
「これだけの巨体を支える脚は、どれだ頑丈だとしてもその負担はかなり大きい筈……例えここで倒せないとしても、タダじゃ返さないわ……!」
 燦火は手元に魔力の刃を生成。更にその刃に竜の因子を重ねて転写。強度を増した刃をグラードの脚、アキレス腱目掛けて薙ぎ払う。
「我は竜、刃は牙。斬りて喰らい、抉りて貪る暴虐也!」
「グゥ……!!」
 グラードが纏う炎ごとその肉を斬り、直ちに霊力へと変換されたそれを吸収する。
「で……いつになったら帰ってくれるのかしら? あたし達がアンタを生かしている理由は理解できている筈」
「くっ……」
 燦火は兵士に目を向けて、問いかける。兵士は、未だ撤退するか否かの判断を遅らせていた。
「まあ、分かりやすく言って欲しいならそうするけど……ここで撤退するなら、命までは取らないわ。最後まで続けようって言うのなら容赦はしないけどね?」
「…………」
 最後に残った精鋭兵士は燦火の言葉に返さなかったものの。グラードの爆発に巻き込まれない位置から銃を撃ちながら、必死に考えを巡らせていた。
 その力と分かりやすい見た目の威圧感から、グラードは真正面から敵と戦った経験は少ない。敵が勝手に降伏するか、あるいは簡単に戦いが終わるからだ。
 グラードはイレギュラーズの攻撃に苦しんでいる様子を見ているが、実の所まだまだ余力を残しているのは間違いがない。
 だがグラードとここまで渡り合っている以上、彼らもまた実力者である事は疑いようがないのだ。
「どうする……?」
「グォオオオオオオ!! ツブレロツブレロツブレロォオオオオオ!!」
 そんな兵士の苦悩などいざ知らず、グラードは感情のままに狂い叫ぶ。
「さっきの爆発を、誰も喰らわなかったおかげで、余裕が出来た、な」
 ここまでほぼ全ての時間を仲間の回復に費やしていたエクスマリア。魔力も徐々に少なくなっていたが、まだ余力は残している。
「長期戦が、こちらの有利になるとは、考えにくい。マリアも、攻めに転じよう」
 エクスマリアは再び手袋に魔力を集束させながら、グラードの全身を見る。
「攻撃の多くは、やはり脚に集中している、な。右脚、それも関節狙いで叩けば動きも鈍り、撤退しやすなる筈、だ」
 エクスマリアがピッとグラードの右膝を指差した。すると空から鋭い鉄の彗星が顕れる。
「指を指すまでも無かったかも、な。的も大きく狙いやすいから、な」
「ホシ……?」
 彗星は落下と共にドンドンと加速し、グラードがその存在に気付いた直後には。その右膝を貫いていた。
「グォオオオオ……!!」
 ドン、と大きくグラードの巨体が揺らめいた。その膝からは凄まじい量の血が吹き出しては蒸発していく。
「チビノ、チビガ、チビ如キガ……!!」
「そう言われてもあまりピンとは来ない、な。身体の大きさよりも大事な事など、幾らでも、ある。お前の心は、その大きな身体に囚われ、故に前に進むことが出来ないの、だ」
「黙レ……黙レ黙レ……!!」
 グラードの炎は燃え滾る。戦場は最早真夏を通り越し、酷暑と呼べる程の熱気に包まれていた。
「息を吸うだけで肺が焼かれる様だ……だが、止まる訳にはいかない……!」
 ルーキスは刀を構え直し、グラードを見据える。ぐらぐらと燃え滾る炎に、見上げる程の巨体。
「如何に身体が大きかろうと、如何に凄まじい生命力を持っていたとしても。強毒に晒され続けれは無事では済むまい……!」
 ルーキスはグラードの脚元に素早く突進し、その勢いのままに刀を振るった。それは精確な軌道でグラードの脚の腱を抉り、刃に込められた猛毒がグラードを襲う。
「ウ……グウ……!! ガァアアアアア!!」
 グラードは叫ぶ。右腕を大きく振り上げて、ハンマーの様に振り下ろす。
「……」
 ルーキスは息を止め、その動きを視る。極限まで集中が研ぎ澄まされ、その動きがまるでスローモーションの様に見えた。
「怒りだけの拳、怒りだけの炎。斬れない道理はない」
 呟いたルーキス。構えた二振りの刀には鬼の力が宿り、そしてその過剰な力はルーキス自身をも蝕んだ。
「グラァアアアアアア!!」
「斬る」
 振り下ろされた拳に、ルーキスは静かに刀を振るった。グラードの小指と薬指がその一太刀で斬り飛ばされ、宙を舞う。
「ガッ……!! 馬鹿ナ……」
 グラードの拳に激痛が奔る。拳は逸れ、落ちた2本の指はドン、と地面に落下した。
「憤怒を抱くに至った境遇には共感すれど……破壊行動の免罪符には成り得ない!」
 驚愕するグラードに刀を突き付け、ルーキスは強く言い放った。
「免罪符……許サレルカ……許サレナイカ……ソレハ強イ奴ガ決メル……俺ハツヨイ……ツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイ!!」
「……大きさを求めるのは、大きいヤツが強いから。つまりは……誰よりも強くなりたいって事なのね、アンタは」
 ジルージャはまるで子供に言い聞かせるような口調で語り掛ける。
「ソウダ……強ケレバ誰ニモ負ケナイ……負ケナケレバ誰ニモ虐メラレナイ……ダカラ、俺ハ、強クナケレバナラナインダァアア!!」
 グラードは叫ぶ。感情に呼応するように炎が吹き荒れる。
「それ自体を。アンタが力を追い求めて魔種になる道を選んだことを、アタシは否定しない――」
 ジルーシャは精霊の竪琴を鳴らす。ジルーシャの周囲に漂う精霊たちが、再びジルーシャに力を貸す。
「結局俺ノ邪魔ヲスル、俺ヲ否定シテイルジャナイカァアア!!」
「……そうね。結局アタシはアンタの邪魔をしている。それでも……アンタと同じ理不尽を味わう人が、一人でも少なくなる様に戦うのよ」
 そしてジルーシャが音を奏でると。雪と氷を司る精霊が音色に呼応し、ジルーシャの周囲に無数の氷の槍を生み出し、そして一斉に射出。グラードの右足に次々と突き刺さった。
「グ、グゥウウ……痛イ……痛イ……!!」
「刺されれば痛いし、殴られても痛いし、焼かれたら苦しいものよ……爪で裂かれてもね。それはとても単純な話だけど。アンタはそれをすっかり忘れちゃったのね」
 痛みに思わず膝を付いたグラードに、ジルーシャは更に追撃を仕掛ける。旋律と共に生み出した魔力の爪が、グラードの脚を更に抉った。
「痛イ……許サナイ……痛イ……痛イ……許サナイィイイイイ!!」
 更なる気温の上昇。ただそこに立っているだけで、じわじわと全身が干からびていく様な熱さ。
 だが、そんな環境でも涼しい顔を保っているイズマは、静かに口を開いた。
「……俺は、大きくなりたいという願いが暴走して巨大になりすぎた者と対面した事がある。お前も、ある意味ではきっと同じなんだろう」
 イズマは膝を付いたグラードの頭部に魔導銃の銃口を向ける。魔力を込め、魔弾を装填する。
「同情……同情ナド、何ノ役ニモ立タナイ」
「同情なんてするか。お前はそこで虐げる側を望んだ。故にお前は救えない……過ぎた行為は、止めさせて貰う……!」
 イズマは引き金を引く。放たれた魔弾は音色によってその威力を増し、グラードの額に突き刺さる。
「そしてこの街から出ていけ。居座るつもりなら容赦しない」
 引き金を引く、引く。引く。銃声は引き金を引くたびに大きく響き、重なる音色もまたそれに呼応するかのように洗練される。
 魔弾はグラードの右目を抉り、歯を吹き飛ばし、喉仏を貫いた。そして最後に放った実弾が、アキレス腱に風穴を開けた。
「ッ…………!!」
「小さきものの反抗って奴だよ……もう一度言う。この街から出ていけ!!」
 言い放ち、イズマは更に兵士に銃口を向ける。
「今の言葉はあんたにも言ったんだよ、兵士さん。この戦況をどう見ているかは知らないけど。撤退を勧めるよ」
「クッ……!!」
 兵士は苦々し気に歯を食いしばる。
 グラードは、まだまだ戦える。それは間違いがない。痛みに慣れていないだけだ。むしろその痛みはグラードを更に強くする。
 だが、イレギュラーズ達の底も見えない。こいつらはどこまで粘る気だ? どこまで戦えるんだ?
 先の見えない戦いに固執する事で、果たして良い結果が得られるのか?
「俺ハ……戦エル……俺ハ……コイツラヲ……許サナイ!!」
 グラードは立ち上がった。抉れた右目に憤怒の炎を宿し、イレギュラーズ達を睨みつける。
「流石にアストラークの魔力も尽きてきたみたいね……そろそろ、決着を付けないとマズいわ」
「う、うん……そろそろ。回復できなくなっちゃうかも……!」
 レジーナは呟き、アストラークは小さく頷いた。イレギュラーズ達はここまで長時間に渡る戦いを続けてきたが、そろそろ体力の限界も近づいてきた。
 だが、それを兵士に悟られる訳にはいかない。それを悟られるよりも早く、撤退を決めさせなければならないのだ。
「許サナイ……許サナイ……俺ヲ傷ツケル奴、俺ノ邪魔スル奴……全員、ツブス!!」
「……ほんと、魔種とは言っても大きな子供ね……だけど子供はそろそろ帰って寝る時間よ」
 レジーナは小さくため息を吐くと、その掌に闘気を集束させていく。
「俺ハお前ラヲ」
「黙りなさい!」
 グラードの言葉を遮ったレジーナの声に、グラードは思わず動きを止めた。レジーナはそんな事は構わずに言葉を続ける。
「いい、よく聞きなさい。自分がやられて嫌な事は止めなさい! 汝(あなた)の母親がなんて言うかは知らないけれども。悪い子にはお仕置きが待っているものだもの」
「俺ニ母親ナンテ」
「居るかどうかは聞いてないわ! 大事な事は唯一つ!」
 レジーナは掌をグラードに向ける。
「私が汝(あなた)に、強めのお仕置きをして上げるわ!」
 瞬間、戦場をあまりにも眩い光が包み込んだ。レジーナが放出した凄まじい光の塊が、グラードの顎先を勢いよく打ち付けた。
「ガ……ア……?」
 その衝撃にグラードの身体は、浮いていた。その衝撃にほんの一瞬意識が飛んだグラードは、気づいた時には仰向けになった地面に倒れていた。
「汝(あなた)にとってはせいぜい強めのビンタ位の威力でしょうけど。少しは反省するがいいのだわ!」
「……俺ガ、ブットバサレタ……」
 グラードは怒りよりも困惑と驚きに満ちた様子で、よろよろと立ち上がる。
「なんなんだこいつら……」
 兵士も、流石にイレギュラーズ達の実力は確かなものだと確信していた。
 それでも撤退の号令を出さないのは、それだけグラードの力にも信頼を置いているという事だろう。
「だが……それでも奴には大きな迷いが見える。後一押し、といった所か……それにしては少しだけ刺激が強いかもしれないが……悪夢を見せてやるとしようか。それで、この戦いは終わりだ」
 マッダラーは冷静に兵士の様子を観察して、そう呟いた。その身体は他のイレギュラーズの例に漏れずいくつもの傷を受けていたが、あえてグラードと近い位置を保ち続けた。
「俺ハ強インダ……俺ハツヨイ、ツヨイ……全部フミツブス、ゼンブ燃ヤス……全部、フキトバス!!」
 グラードは拳を握りしめ、大きく腕を開いた。それは、この戦いで何度も見た爆発の前兆。
「その攻撃は他のどの攻撃よりも厄介だと言えるだろう。だが……死ぬにはうってつけだ……今のは中々洒落た表現だったな」
 マッドラーは避けなかった。あえてグラードの至近距離に留まり、そして爆発。凄まじい爆炎に、マッドラーは呑み込まれた。
「…………死んだか」
 その様子を兵士は見ていた。間違いなく、あのぼさぼさ頭の男は巻き込まれた。奴が負った傷を鑑みれば、無事でいられる筈もない。
 そう思った。そして、爆炎と煙が消えた頃、そこには黒焦げになったマッドラーが倒れていた。
 それは当然の結果。当然の結末。当然の描写。
「ふ…………」
 だが、その時、焼け焦げたマッドラーの身体がグズグズと不定形に歪んだ。歪み、収縮し、肥大化し。肉体の境目が分からなくなっていく。
「な……んだ……?」
 兵士が呟いた次の瞬間、不定形の『ソレ』は分裂した。そしてその片割れは元のマッダラー=マッド=マッダラーの姿を為し、もう片方は黒い怪物と成った。
「……」
 その光景を理解できない兵士の前で、彼らはゆっくりと同じ動作で立ち上がり、そして不敵な笑みを兵士に向けるのだった。
「生き返った……分裂……? なんだそれは、なんだ……ふざけるなよ、クソッ!!」
 兵士は頭をかきむしった。それが苛立ちからか、恐怖によるものかは分からない。
 だがそれが、引き金となったのは間違いない。
「…………グラード様!! そろそろ頃合いです! 撤退しましょう!!」
「ア……? 撤退……? マダ俺、コイツラ潰シテ……」
「これもバルナバス様の為です! ここで無駄に時間をかけたら、バルナバス様の迷惑になってしまいます!!」
「バルナバス様ノ為……メイワク……ソレハ駄目ダ……帰ロウ……」
 グラードは驚くほどあっさりと兵士の言う事を聞き、足を引き摺りながらイレギュラーズ達に背を向ける。
「オマエラ……嫌イダ……」
 最後にそれだけ言い残すと、グラードと兵士は去っていく。
「なんだ。もう少し悪夢を見せてやろうと思ったんだが……」
 マッドラーと分裂体が顔を見合わせ、2人はやれやれと肩を竦める。
 異常な熱気はすぐさま鳴りを潜め。凍える冷気と大雪が、すぐに公園を覆ったのだった。
 こうして、小都市レガミナ大公園での戦いは終わりを迎えたのだった。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。魔種グラードの猛攻を耐えきり、撃退する事が出来ました。小都市レガミナも無事解放されました。
 グラードが毎日練り歩いていたせいで街の各地が荒れていた様ですが、徐々に復旧が進められていくでしょう。
 MVPは不屈の戦いでグラードを惹きつけ、天衝種と兵士達を制圧する時間を稼いだあなたに差し上げます。

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