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シナリオ詳細

シャイネン・ナハトにワニ肉を。或いは、ワニの肉は加熱しろ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●丸太は持ったか? ワニを狩れ!
 遥か昔……歴史の本にも記されぬほどの大昔。
 シャイネン族とナハト族という2つの部族が、ラサの大地を支配していた。
 白きワニのシャイネン族。
 黒きワニのナハト族。
 同じ特徴を持つ2つの部族は、長きに渡って苛烈な争いを続けていたという。その戦いの歴史はあまりに長く、争っている2つの部族同士でさえ「自分たちが、何故争っているのか」を覚えていないほどだった。
 けれど、しかし、だからといって互いに矛を収めることはできない。一族の誇りと先祖たちからの教えが、部族を戦場に誘い続けた。それは、ある種の“呪い”であろう。“伝統”、“歴史”、“習慣”、という名の、知らずのうちにかけられて、そう簡単には解くことの出来ない類の呪いだ。
 けれど、ある時、天から巨大な灰色のワニが地上へと降りて来た。
 その牙は大地を砕き、その咆哮は雲を割る……まさに破壊の権化のようなワニの怪物だ。
 争っていた2つの部族は数を減らした。
 勇敢な戦士から、次々とワニに喰われてしまった。
 もはや争っている場合ではないと、この時初めて、2つの部族は手を組んだ。矛を向ける先を、互いの部族から、ワニの怪物へと変えたのだ。
 激しい戦いが繰り広げられ、ワニの怪物は2つの部族に討伐された。
 否、2つの部族は“ワニの怪物”という共通の敵を前にして、1つの部族となったのだ。
 以来、ラサではワニを討伐した記念日を“シャイネン・ナハト”と呼び、ワニの肉を焼いて喰らう宴の日と定めた。
 これがシャイネン・ナハトの期限だ。
 なお、件の“ワニの怪物”だが、シャイネン族とナハト族の信奉する神が、争い合う2族を見かねて遣わしたものとされている。

※地獄の釜出版 『月刊ヌー・シャイネンナハト増刊号』より


 ラサ南部。
 海にほど近いとある街にて流れ始めた奇妙な噂だ。
 当然、現在に広く知らせるシャイネンナハトの起源とは大きく異なる。出典も『月刊ヌー』というオカルト雑誌とあっては、信用する者などほとんどいない。
 そう。ほとんど、だ。
 ごく僅かにだが、上記の与太話を信じた者もいるのである。

 古くより、ワニの獣種の多く暮らす街である。近くには沼や川が流れており、住人たちは泳ぎに長けた血気盛んな気質であるとされていた。ラサの全体から見れば、文化の発展速度は緩やか。獣の皮で作った衣服を纏い、地面に穴を掘って作った家屋に住まう……ともすれば、原始的とも呼ばれるような暮らしをしていることで知られている。
「……それで、街をあげてワニ狩りに乗り出したっていうの? わぁ……私が言うのもどうかと思うけど、何て言うかぶっ飛んでるね?」
 ケラケラと腹を抱えて、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)は笑っていた。
 
●ラサのシャーマン『紫の花』
「さて、件の街の近くには大きな沼地があるんだって。そこには大量のワニが住み着いていて、時々、街の家畜を襲うらしいんだけど……まぁ、ワニ肉を沢山狩れるよねっていうことで、街の若い男たちは武器を手にして沼に狩りに行ったそうだよ」
 結果は惨敗。
 圧倒的なまでの惨敗。
 相手は野生のワニである。1匹や2匹ならともかく、その数は100を悠に超えている。それほどに膨大な量のワニを相手に、武器を持った人間が20人か30人ほど挑んだところで結果は見えていた。
 幸いにして、死人は1人も出なかった。
 だが、大怪我を負った者は1人や2人ではない。
「【失血】【窒息】【重圧】を受けて、今もベッドから起き上がれないでいるそうだよ。でも、彼らは“古き時代のシャイネンナハトを復活させるんだ”って、ワニ狩りに意欲的みたいでさ」
 是が非でも、ワニを狩ってワニ肉を確保したいらしい。
 何でも街では、遥か昔から“祝いの席ではワニの刺身”という風習があるそうだ。自分たちもワニの獣種なのだが、果たしてそれは共食いに近いのではないか。
「それで、なぜ私を呼んだ?」
 エントマから渡された依頼書に視線を落としてリースヒース(p3p009207)はそう問うた。元より表情の変化に乏しいリースヒースではあるが、この時ばかりは困惑が隠しきれていなかったという。
 エントマはひらひらと顔の横で手を振りながら、にぃと口角を歪めて笑った。
「乗りかかった船って言うでしょ? 正式な依頼だし、私はワニを相手に戦ったりできないもん」
 他にも仕事があるしね、と。
 つまり、エントマはリースヒースに依頼を丸っと投げ渡そうとしているのだ。
「依頼の内容は、ワニを30匹ばかり狩って来ること。狩り場となるのは、件の街からほど近い位置にある“大沼池”と呼ばれる沼だね」
 沼の半径はおよそ100メートル。時期によって、数十メートルほど広がったり、狭くなったりするらしい。そして、沼地を進む者には【泥沼】の状態異常が付与されるという特徴がある。
 一説では底なし沼だという話もあり、街の住人が沼に近寄ることは無い。そのため、沼はワニにとっての楽園のようになっている。
「ワニの数は100以上。そこから30匹ほど狩って来てちょうだいね。ワニの運搬用に大型の砂上船を借りているから」
 なお、砂上船を利用すれば【泥沼】を受けず、沼地を移動することも可能だ。もっとも、海を行く船と違って強度に難があるし、ワニを30匹も乗せると、人員は3名ほどしか乗れなくなるという問題がある。
「ワニ狩りか……それは随分と危険そうだな」
「臆するな、ラサのシャーマン『紫の花』よ! 古き時代のシャイネンナハトを復活させるためにも、今こそ奮起する時だ!」
 大仰に両手を広げてエントマは叫ぶ。
 リースヒースは肩を竦めて溜め息を零した。
「作り話だろうに……どこにでも、数奇者はいるものだ」
 それから。
 そっと部屋を出て行こうとしたエントマを、縄で縛りあげたのだった。

GMコメント

※こちらのシナリオは「古い時代の歴史を作ろう。或いは、“地獄の釜”は開かれた…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8738

●ミッション
ワニ×30匹を持ち帰る

●ターゲット
・ワニ×100~
爬虫綱ワニ目。
体長1メートル~3メートルほどのワニの群れ。
皮膚は硬く、非常に狂暴。1、2メートル程度ならジャンプも出来るらしい。
獲物を見つけると噛み付く、尾で殴るといった方法で仕留めにかかる。射程は短いが【失血】【窒息】【重圧】の状態異常が付与される。

●サポート
・エントマ・ヴィーヴィー
練達出身の配信者。
刹那的で、何よりも動画の再生数を優先する。
依頼を受けた張本人。リースヒースに丸投げして逃げ出そうとしたが、捕縛されて強制的に連れて来られた。隙があれば逃げ出そうと考えている。

・大型砂上船
風の力で砂の上を走る船。沼地も走行可能。
大型のためか速度は遅い。また、軽量化のためか装甲は脆い。
通常時は9人ほどの人員が搭乗できるが、ワニを30匹も乗せると人の乗るスペースが失われる。
最終的に乗っていられるのは3人までとなる。

●フィールド
大沼池。
沼の半径はおよそ100メートル。時期によって、数十メートルほど広がったり、狭くなったりするらしい。
沼の中には大量のワニが蠢いている。
沼地を進む者には【泥沼】の状態異常が付与される

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • シャイネン・ナハトにワニ肉を。或いは、ワニの肉は加熱しろ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月24日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)
島風の伝令

リプレイ

●ワニ肉を求めて
 砂上を滑る船が1隻。
 進行方向には淀んだ沼と、ワニの群れ。
「ラサって砂漠ばかりだと思いましたが、ワニいたんですねえ本当に……」
 ぼんやりとワニの群れを眺める『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が、感心した風な声を零した。
「そうね。いたね。沢山ね……死ぬってこれぇ」
 船首に縄で固定されたエントマ・ヴィーヴィーはすっかり疲れた顔をして、沼をじぃと見下ろしている。
 撮れ高があれば危険な場所にも進んで跳び込む性質だが、今回のワニ肉確保という依頼に関してはあまり気乗りがしないらしい。なぜなら此度の騒動の発端となった「シャイネン・ナハトにはワニを食え」という古い伝承は、エントマおよび出版社・地獄の釜の仕込んだやらせなのだから。
「だって言うのにこの有様……どこにもよく踊る輩ってのはいるもんだね」
「口から出したことは戻せず、吐いた与太の責任は取らねばならぬ。人が死ぬところであったのだから、なおさらだ」
 シャラン、と金属の擦れる音がした。
 暗い色のドレスに身を包んだ『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)は頭にワニの頭蓋を被り、香壺を手に船首に並ぶ。
「今から私はラサのシャーマン『紫の花』……っ!」
 “シャイネン・ナハトにはワニを食え”。古い伝承を語り継ぐラサのシャーマン、しばらくぶりの再登場である。なお出版社・地獄の釜の発行書籍『月刊“ヌー”』シャイネン・ナハト増刊号に登場した折に人気を博し、いつか特集コーナーを設けるという話も出ているが、それはまた別の話。
 それはともかく……。
「これ、そろそろ沼に着くけど縄は解いてもらえるんだよね? じゃないとワニに食べられちゃうんもんね?」
「敵前逃亡 重罪 磔刑 b」
「逃亡したくもなるでしょ、これ。やべーって。こえーって」
 淡々と告げる『島風の伝令』島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)に、エントマは沈んだ声を返した。エントマを船首に縛り付けたのが島風である。なぜなら逃げようとしたので。
「ワニさんっておいしいのですか? ニルは食べたことがないのです」
「いや、ワニを食べるっていうか、ワニに食べられそうだって話を……」
「ワニ肉か。低脂肪・高タンパク・低カロリーでいて上質なコラーゲンもある女性に嬉しい食材だ。尻尾肉はジューシーな鶏胸肉、身体肉はそれに加えて豚肉に近い触感で味が濃いが意外とクセは少ないぜ」
「あーじゃあレシピとか調理風景は配信しましょうか。狩りの様子はどうしよっかな……下手すりゃ凄惨な映像が」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)を横目で見やって、エントマは動画の企画を思案する。縄で縛られていようとも、いかに乗り気がしないとはいえども、彼女の本質はどこまで行っても配信者。
 撮れ高に勝るものはない。
「だったら、がんばっていっぱいいっぱい捕まえないとですね! 頑張りましょうね、エントマ様! ニルもとってもとってもがんばります!」
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)の笑顔が眩しい。
 守りたいその笑顔。守れるかは、イレギュラーズの活躍にかかっているが。
 さて、視線の先にはワニがいる。目算で30匹ほど。見えない範囲には、もっと多くが生息しているという噂だが、無警戒のまま沼に近づけば『突撃! 私が晩御飯』の始まりである。
「と、いうわけで! 今回イルミナたちはここ、ラサ南部のとある街近くの沼に来ていまーす!」
 だというのに『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)はワニを挑発するような真似をしているではないか。エントマの自立型浮遊カメラを巧みに操り、船上に並ぶイレギュラーズと、ワニの群れを撮影していた。
「いくら危険だったからといっても、こういうのは自分たちでやらなければ意味がないのではないでしょうか……せめて一緒についてくるとか!」
 甲板の端で柔軟体操をしつつ『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はそう言った。とはいえ仕方がない話だ。依頼人は近くの街に住む者たちだが、大挙してワニ狩りに繰り出した結果、少なくない数の怪我人が出ている。
 血気盛んな若者たちを中心に、今頃はベッドの上で療養生活を強いられているのだ。あぁ、無常。

「おーっと! さっそくワニと戦いを繰り広げている美少女がいるッスね!」
 エントマのカメラを操作しながら、イルミナが軽快な声をあげる。カメラのレンズに映されているのは、今まさにワニを相手に徒手空拳で張り合っている『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の姿である。
 カメラに向かって手を振って、ばっちり視線も寄越しているのだが、その全身は泥まみれ。だがしかし、彼女はどこまでも美しく、泥程度ではその可憐は損なわれない。
 例え肩をワニに噛まれていようとも。
 お返しとばかりに、ワニの首に己の歯を喰い込ませていようとも。
「ワニの皮って分厚いはずなんッスけどね」
「百合子は踊り食いしてるが、まぁ、ポン酢でいただくのが美味いな」
 イルミナとゴリョウがそんな会話をしている間も、ワニと百合子の激闘は続く。

●ワニを狩れ
 百合子の肩に噛みついたまま、ワニが身体を回転させた。
 デスロール。
 獲物の肉を噛み千切るための行動だ。
 だが、百合子は沼地に両足を突き刺し堪えて見せた。肩の肉が裂け血が飛沫くがおかまいなしに、ワニの上顎に手をかける。
 百合子はワニの首に噛みついたままだ。
 上顎にかけた手は、ワニが顎を開かないようしっかりと押さえ込んでいる。
「どちらが食糧か分からせる!」
 そして、百合子のデスロール。
 まさかの、人の身で放つ、デスロール!
 百合子が身体を回転させるのに合わせ、ワニの巨体が宙に浮いた。その白く、きれいに並んだ歯でもって百合子はワニの首の肉を食いちぎったのである。

「わぁ、すごいです!」
 百合子が運んで来たワニを、ニルが笑顔で受け取った。
「うむ、当然であるな! 美少女の歯はワニより強いゆえ!」
 泥と血に濡れた百合子を見て、エントマは若干引いている。イレギュラーズであればワニを仕留めることも可能と思っていたが、まさかワニの方に戦法を寄せるとは予想外だったのだ。

 デスロールは
 人が
 使う技では
 ない!

 虚空を歩く百合子の頭上へ、ニルが燐光を投げた。それは宙で弾けると、温かな光を降り注がせる。百合子の傷が癒えたのを確認すると、甲板に置かれたワニの尾を掴んで奥へと引き摺っていった。
 それを見送り、百合子は沼へと引き返していく。
 虚空を歩く彼女の足元には、淡く光る白百合が咲き誇っては、消えていく。
「いやぁ……不思議な人しかいないなぁ」
 なんて。
 甲板から身を乗り出して、エントマは百合子の後ろ姿を眺めた。
 と、その時だ。
 船の真下で、泥の跳ねる音がした。
「……え?」
 ワニだ。
 沼に潜って、船に近づいてきたのだろうか。
 長く太い尾で沼を叩くと、ワニは巨体を宙へ浮かせた。跳びはねたのだ。
「ひぇっ!?」
 転がるようにエントマが慌てて後方へ下がった。さっきまでエントマの頭があった位置で、バクンとワニが口を閉じる。逃げ遅れれば、頭を噛まれていただろう。
 ワニは虚空で体を捻じると、器用に虚空で体勢を変える。甲板へと乗り込むつもりなのだろうが……。
 疾走したニルの手の平が、ワニの顔面に押し当てられる。
 ズドン、と放たれた魔力の渦がワニの巨体を飲み込んだ。
「危なかった……船の安全第一に考えておかなきゃ、船が潰れちゃったら困りますもの」
 ワニが甲板に転がった。前歯は何本か折れているが、未だに息絶えてはいない。
 ニルの展開した【保護結界】が船を守るが、ワニが意識して船の破壊を試みたのなら意味が無い。
 装甲の薄い砂上船が壊れる前に、ワニを仕留めるか追い出さなければならないか。
 そして、その役目は空を駆ける瑠璃が担った。
「わざわざ牙の届くところまで近づかなくても狩れるのであれば、そうすべきでしょう」
 ワニの背後から前方へ向け駆け抜ける。
 それと同時に、黒い刀を振り抜いた。
 一閃。
 ワニの背から眉間にかけて裂傷が刻まれる。鮮血が噴き出す中、瑠璃はその場で体を反転。
「長く苦しむと味が落ちる、と聞いたような気もしましたので」
 首筋の傷口へと向け、瑠璃が刀を突き刺した。
 一瞬、ワニは大きく身体を震わせ、それっきり身動きを止める。
「……個人的にはワニの刺身というのが気になります。爬虫類の肉は鶏に近い味わいと聞きますが、実際どうなのでしょう」
「生のままだと、少し硬く感じたな。噛み応えがあった」
 ワニの遺体を見下ろす瑠璃のすぐ後ろ、肩にワニを担いだ百合子が立っていた。

 まるで海を泳ぐみたいだ。
 半透明の尾をくねらせて、ノリアが虚空を漂っている。ワニたちが次々とノリアを追って飛び上がるが、その牙が彼女の身体を捕えることは無かった。
 牙が尾を捕えても、つるりと滑って噛み付けないのだ。そうなってしまえば、ワニにもはや成す術はない。
「ワニたちの興味をわたしにひけば、他のかたがより安全になるでしょう」
 そう呟いて、ノリアは尾に塩をふりかける。
 ミネラルも満点であった。
 ワニたちの目には、ノリアの姿が大きな魚のように見えているのかもしれない。ノリアを喰らおうと宙へ跳びはね、哀れにも泥に落ちていく姿はいっそ滑稽でさえあった。
 落下し、姿勢を崩したワニの背後にイルミナが駆け寄っていく。
 その手には1本のレーザーブレード。
 ブォン、と奇妙な音を響かせ、ブレードがワニの首を裂いた。
 肉の焼ける臭いがした。
 辺りの温度が、ほんの僅かに上昇する。
 分厚い皮の抵抗なども感じさせない、まるで豆腐を斬るかのように流れる一斬。
「つい最近ゴリョウさんとご一緒したチキン狩りに比べると随分とワイルドみが増したッスね……!」
 ノリアの付与を受けているおかげか、イルミナの身体には泥汚れも付いていない。
 足場の悪い沼地であっても、まるで泳ぐみたいに自在に移動しては、隙だらけになったワニを1体ずつ仕留めていった。
「わたしのしっぽに興味を持ってくれないワニもいるでしょうけれど……そちらはゴリョウさんにおまかせしますの」
 沼地の端を泳ぎ回ってワニを引き付け、それをイルミナが狩っていく。そんなことを何度繰り返しただろう。
 怯えたワニは逃げていき、後には10匹に迫るワニの遺体が残る。中には沼に沈んだワニもいるけれど、数としては申し分ない。
 当然、無傷とはいかないが……イルミナの腹部や肩にはワニの歯型や、尾で殴られた傷が幾つか残っていた。
「ゴリョウさん+食材=おいしいものが食べられる、とイルミナのパーフェクトなコンピューターがはじき出してますからね! 気合い入れてお肉を仕入れるッスよ!」
 ノリアとイルミナは、ワニの尾を掴むと泥の上を引き摺って行く。
 
 泥水を盛大に跳ね上げながら、ワニがゴリョウに飛びかかる。
 ゴリョウは籠手を付けた腕をワニの口腔へと突き出した。その牙が籠手に突き刺さり、腕の肉に食い込むが、筋肉を貫くまでには至らない。
 肉を食いちぎり、骨を噛み砕くなんて夢のまた夢。
 浮き輪とロープで船に牽引されているため移動範囲は限られているが、その状態でも数体のワニを相手取る程度のことは出来る。
「ぶはははは! どうしたどうした! そんなもんか!」
 ゴリョウの挑発に乗って、ワニたちが一斉に駆け出した。
 その直後だ。
 ワニの頭上へ、1匹のワイバーンが降下した。
「視野が狭く、横方向に目があるため視野の重なりが少ない……だったか」
 ワイバーンの背でそう呟いたリースヒースが、ワニへ向かって手を翳す。
 渦を巻く禍々しき呪力。解き放たれた影色の鎖が、ワニの首を締め上げた。
 さらに、仰け反ったワニの腹部あたりで数度の爆発。
 島風の射出した魚雷が、皮膚の薄い箇所へと着弾したのである。
「島風 出港!」
 仕留めたワニをリースヒースが回収していく。
 それと交代するように、砂上船の後方から島風が沼地へ駆け出した。まるで水上を滑るかのような疾走で、ゴリョウが引き付けているワニたちの背後へ回り込む。
 けれど、しかし……。
「っ!? 誤算……っ!」
 ガクン、と島風の速度が鈍る。
 見ればその足首に、ワニが食らいついていた。どうやら沼に潜ったまま移動していたワニがいたのだ。
 砕けた足首の装甲が沼に飛び散る。
 さらに、島風の左右から都合2匹のワニが迫った。
 島風は僅かに思案すると、その場で肩の装備を展開。それは5つの砲身が並ぶ魚雷発射管だ。それが合計3門。
 砲身はゴリョウの背後に回り込んだワニの方に向いている。
 発射。
 轟音に空気が激しく震えた。
 泥沼が波打ち、空気の壁を打ち破り、放たれた砲弾はまっすぐワニの頭部を抉る。
 否、吹き飛ばしたといった方が近いだろうか。
「当方 狙撃 完璧…!」
 煙を上げる砲身を下げ、島風は言った。
 その左右から、2匹のワニが大口を開け跳びかかる。

 刈り取ったワニは32匹。
「仕留め終わったら撤収準備だ。船に積み込むぞ!」
 それを船へと運びながら、ゴリョウが大声を張り上げる。
 重傷を負った島風もリースヒースが既に回収済である。
「ワニをはこぶのもはりきりますの!」
「積み込み中、ワニの相手は引き受けますね」
 なにしろワニは重いのだ。
 ワニを運ぶノリアとイルミナの頭上を、ワイバーンに乗った瑠璃が飛んでいく。空高く、ワニの攻撃が届かない位置を旋回しながら、ワニたちの注意を引きつけているのだ。
「船に乗り切らない分は吾達がBBQにしてもよいのであるよな!」
「ワニってどうやって食べるのですか? 丸焼き? 唐揚げ? ニルはとってもとっても気になります!」
 接近して来るワニに殴り掛かるのは、泥に塗れた百合子であった。
 彼女を援護するように、ニルが甲板から身を乗り出す。

 一方、その頃。
 撤収準備が進む中、エントマとリースヒースが操舵席で会話していた。
「操舵輪を握れ。そう、そなたはシャイネン族とナハト族の末裔!」
「……はぁ?」
 何言ってんだコイツ? という感情がエントマの顔に浮いていた。
「何言ってんの?」
 そして、堪えきれずに言った。
「シャイネン族もナハト族も、ワニの化け物相手に殴り合ってた太古の蛮族でしょう! そんなの、私じゃなくって百合子さんの役じゃんね?」
 彼女はデスロールが使えるので。
 シャイネン族・ナハト族は、かつてラサの地にいたというワニの獣種たちによる部族である。争っていた2つの部族は、巨大なワニの討伐を機に手を組んだ。それがシャイネン・ナハトの始まりである……以来、シャイネン・ナハトにはワニを食うという風習がラサには根付いたのだ……という設定だ。
 だが、リースヒースはエントマの反論を聞き入れない。
 今日のリースヒースは、ラサのシャーマン『紫の花』であるため、セルフ・トランス状態なのだろう、きっと。
「祭りを蘇らせたのもそれゆえであった……な?」
「いや、ちが……それ、どちらかというとリースさん」
「違うか?」
「……っす」
 エントマは全てを諦めて、操舵輪を両手で握る。
 そもそもの話、この危険な沼地から脱出できるというのなら、何を嫌がる必要があるのか。
 降霊術の触媒にされる前に、言うとおりにした方がいい。

●シャイネン・ナハトにワニを食え
「シャイネン族とナハト族のみなさまは、どんな食べ方をしたのでしょう? なにかとっておきの料理とかがあるのでしょうか?」
「ワニ肉の文明的なお料理! 焼く時にタレとか塗っちゃったりするのであろうか? 丸焼きはふっくらふわっふわなのであろうか?」
「おお、偉大なるワニの神々の声が聞こえる! ワニ肉は……フライにしてスイートチリソースで食すと……美味と」
「美味 料理 期待!」
 ニル、百合子、リースヒース、島風が好き勝手に騒いでいた。
 調理を進めるゴリョウの手元、出来上がっていくワニ料理が気になっているのだ。
「定番はステーキや唐揚げだが、俺のお薦めはジャンバラヤ! 俺の領地の米とワニ肉、香味野菜を油と香辛料で炒め、ワニ骨スープで炊く逸品だ! 泥で冷えた身体が熱と刺激で温まるぜ!」
「はたらいて空腹になることが、ゴリョウさんの料理のおいしさを極限までひきだす、スパイスですの!」
 ゴリョウとノリアの手元には、ずらりと並んだ調味料。ワニ肉を街に届けたところ、礼として受け取ったものである。
 なお、街の住人たちは太鼓を鳴らしてワニ肉収獲を祝っていた。
「あの人たちは、随分とワニに近い容姿をしていましたね……まさか本当に、ここには古代恐竜人がいたのでは」
 月刊“ヌー”のバックナンバーに目を通し、瑠璃はそう呟いた。ワニに近い、いわばリザードマンに似た獣種たちの姿を思い出したのだ。
「……で、結局どうなんスかね?このワニ狩り・ナハトは本当に古き時代のシャイネンナハトだったりするんすか?」
 ワニの刺身を箸で摘んで、イルミナは問う。
 そんな彼女の視線を受けて、瑠璃はにやりと笑た。
 眼鏡を指で押し上げて、彼女は告げる。
「……信じるも信じないも、貴女次第ですよ」
 それは、月刊“ヌー”の常套句であった。

成否

成功

MVP

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。

状態異常

島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)[重傷]
島風の伝令

あとがき

お世話になっております。
ワニ肉の大量確保が完了し、件の街では無事に“古き時代のシャイネン・ナハト”が開かれました。
依頼は成功です。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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