PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>疑心、悪鬼とともに

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝国の皇位が入れ替わった――口さがない者、納得行かぬ者、そして新皇帝の実情を知る者はそれを『簒奪』と呼び、知っていて尚従う不埒者はそれを『正当なる交代』と呼んだ。
 新皇帝を称する冠位憤怒、バルナバス・スティージレッドは「警察機構の解体」と「完全なる弱肉強食の許容」を宣言。
 それに伴い、鉄帝は嘗て無い混乱へと巻き込まれていくこととなる。
 それは、帝都から遠く離れた辺境領地の領主についても例外ではなく。今までヴェルスの統治下に置かれていたことで平穏を甘受していた一人の領主に対しても、ひとつの決断を迫ることとなった。
「……攻めるぞ、デシェル」
「なんですって?!」
「攻める、と言っている。今、我らの領地は近隣地で比較的大きく、強い。私はこの近辺に於いて、新皇帝に阿る選択を許すことはできない。せめて、私の目が届く範囲だけでも民からは何も奪わせず、民らには何かを奪う選択を与えたくないんだ。小規模な領主達はこぞって併呑を企み、何れ此方に牙を剥くぞ」
 帝都より大きく東に逸れた、天義との国境付近の所領。その領主ガドレー・ハルキエフは側近たるデシェルへ出兵を命じた。目指すは小領地、うち新皇帝派の以降を臆面もなく標榜する者達だ。
 領民はできるだけ殺さず電撃的に領主と私兵の首を刈り取り、以て領地の占領を宣言、そのうえで、独自に治安維持を命じ無用な略奪を防ぎたい……と、いうのがガドレーの主張であった。
 無論、そんな夢物語が無理であることをデシェルは理解している。おそらく他の領地は領主が私兵による強権で自分の身を守りつつ、他者の略奪の連鎖など止められてはいないだろう。
「聡明なあなたなら、無法地帯と化した他領地を改めて法治の下に置く難しさくらいはご存知でしょう。我々が出張ればあなたを守る盾も薄い。そんな状況で同じ領地の者達として遇するのはさらなる混乱です、ご再考を!」
「しかし、それでも――私には暴力『のみ』を由とする領民が、他領であろうと目の届くうちで跋扈するのは耐えられん。何れ我々のもとに辿り着く『飢えた弱者』の群れを防ぐためにも、今飢えさせぬ決断が要る……!」
 ガドレーの言い分は、理想論で且つ傲慢である。領民を愛し良政を敷く彼だからこそ、見えぬ物があるのだろうとは思う。
「話は聞きましたぞ、参りましょう!」
「メイヤ、貴様には話を聞いていないは――」
 ず、と続けようとしたデシェルは、しかし咄嗟に前方に飛んだ。いきなりの闖入者は、全く躊躇なく自分にウォーハンマーを振り下ろしてきたのだ。
「貴殿の惰弱な言い分など不要! 力無き者を纏めるなれば、拙速そして決断ができる強者の仕事よ!」
「そういうわけだ、デシェル。私はお前に信頼を置いている、いるが……この決断も致し方なしと思っている」
「気でも狂われたのか!?」
 デシェルはメイヤが屋敷の破壊を気にもせず襲いかかってくる状況に叫び、それを黙認するガドレーの姿に、賢君たる資質があった嘗ての領主の姿がそこにないことを悟った。
 しかし、反転はしていない……おそらくメイヤも。
 だとすれば、とデシェルが思案した頃には、既に全ては遅きに失したことを彼は理解する。配下の兵たちの姿が■■■■■たことで、もうこの領地に於ける『平和的な統治』の称号は地に落ちたということを。


「……それで、アンタはなんとか逃げ延びたのか」
「そうだ。ガドレー殿も、メイヤも。魔種と成った訳ではない。だが、かの領地の私兵達は皆『成り代わっている』。激しい怒りを湛えた魔物を駆って新皇帝派の領地を攻め落としたところで、あの方がいうような統治の前に魔物がすべてを均して終いだ。彼らも魔物の持つ狂気に呑まれ、いつ反転するやもわからん。今まさに、侵略は始まっているだろう」
 あちこちの混乱が始まっていることを受け、地方へと向かったイレギュラーズの前に現れたのは、ガドレー所領の兵士長、デシェルであった。『なんとか逃げ延びた』などとはいうまい。既に彼は、両足を膝の下から失っているし、肩に大きな咬み傷を受けている。
 そこは、『新皇帝派』だとガドレーが目した所領の一つだが……実態はガドレーと何ら変わらぬ『帝政派』であったのだ。違う点があるとすれば、早々に罪人たちを処刑し、万が一を防いだ『別の狂気』があったことだが、統治者として当然の判断だったことを言い添えておく。
「あの方は生かしておいても反転しかねない。メイヤは……私の見立てでは『まだ』だった筈だがかなり不味い。反転している前提で当たるべきだ。だから」
 おわらせてほしい。
 そう、声にならずともクチを動かしデシェルは息を引き取った。
 眼の前には彼を殺したであろう巨狼――グルゥイグダロスと、機械の馬の下半身を持つ歪なケンタウロス様の兵士、そして少し離れたところにガドレーとメイヤの姿がある。
 ガドレーは『殺す分にはまだ間に合う』。そう見立てたイレギュラーズは、一刻も早く状況を収めるため走り出した。

GMコメント

 <総軍鏖殺>、盛り上がってますね。
 でも悪名が上がらないのはちょっとという皆さん、お元気ですか?
 私はまっさきに考えたケースを書いたら悪依頼になっちゃいました☆
 あと全く予定外でしたがHARDになってしまいました☆
 そんな訳で諸君、斬首の時間だぞ。

●成功条件
・帝政派領主・ガドレーの反転前の殺害
・『怒衝天』メイヤの撤退or撃破or足止め
・魔物兵の全滅

●ガドレー
 帝政派の領主です(でした)。
 ですが、周囲の領地から漏れ聞こえる噂を真に受け疑心暗鬼を生じた末に狂気に呑まれかかっていたメイヤの言葉を鵜呑みにし、魔物達も「手なづけた優秀な手駒」と思い手勢に加えたようです。
 まあそのせいで兵士達の大半が咥えられてもぐもぐされちゃったんですよねハハハ。
 本人は卓越した剣技を用いる戦士タイプですし簡単に死ぬ人じゃないですが、真価は統率力にあります。何故か魔物達は統率に従います。
 メイヤからレンジ1以内に長時間留め置くと反転します(エグいほどタイトではないですが、それなりシビアな範疇です)。
 当然ですが魔物やメイヤは必死に守りにきます。

●『怒衝天』メイヤ
 憤怒の魔種。怒髪衝天ではないのは、彼はスキンヘッドだからです。
 OPでも分かる通りの純粋なパワータイプで、爪のついたウォーハンマーを用います。【高速詠唱1】持ちで、【溜1】の伴う防御不可の単体攻撃、ハンマー振り回しによる『自分中心にレンジ1』の範囲攻撃、【溜2】必要なめちゃくちゃ強力ハンマースロー(遠扇)などがあります。殺意が高いタイプです。また、攻撃を空振った際、至近距離内で地面に立っているイレギュラーズは【麻痺】の抵抗判定が入ります。揺れるからね、地面。
 防技はそこそこ、物理攻撃力は警戒レベル。HPと抵抗はかなり高いです。
 正直こいつを倒すことは考えないほうが無難でしょう。

●グルゥイグダロス×10
 天衝種(アンチ・ヘイヴン)と呼ばれる憤怒の魔種に従う魔物の一種です。
 画像の通りの頭2つある狼です。牙が鋭く、【出血系統】は免れないでしょう。
 機動力は普通ですが反応は高く、不意打ちが通用しません。また、爪には【出血系統】に加え【乱れ系統】のBSがついてきます。

●マシーナ・タウロス×10
 天衝種の一種。恐らく戦いに悔いのあった兵士の憤怒の感情と古代遺跡の鉄馬が噛み合って発生した感じのやつです。
 機動力が極めて高い上に弓を操るやつと槍を操る奴とがいます。
 弓は命中精度が高い上に曲射(不意打ち扱い)も駆使してくるまあまあイカれた奴です。
 矢は爆発性のもの(【火炎系統】【呪殺】)など複数使ってきます。
 槍は【移】【飛】つきの強烈な戦技となっています。

●戦場
 帝政派の所領市街地。
 人々は逃げ惑っていますが、今回は生死を問いません。
 だからといって死体から色んな意味で追い剥ぎするのは推奨しませんし殺せとも言ってないからな。
 できれば間違った帝政派を討ち取って魔種を追い返した功労は見ている人が多い方がいいぞ。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『鉄帝』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <総軍鏖殺>疑心、悪鬼とともにLv:30以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月07日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
玖珂・深白(p3p009715)
キリングガール
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ユー・コンレイ(p3p010183)
雷龍
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ


 燃え上がる炎のなか、逃げ惑う人々を弄ぶように天衝種が暴れまわる。その姿を見ていたガドレーは、然し不思議と助けてやらねば、とか、民として迎えねば、という嘗ての彼が想起する感情が欠落していた。
 こんなものか、争いというものは。彼らは新皇帝派であったのか。それとも……そう考えたのも束の間、突如として炎を割って突っ込んできた影があった。『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)の駆る中古トラックだ。ふらふらとよろめきながら横転したそれは横滑りしながら敵陣に突っ込み掻き回す。それが幾らの手傷にも感じられぬのだから口惜しいが、さりとて初っ端の奇襲としては十分か。デシェルと人々を隠すように滑り込んだ車両は、しかし僅かな暇を開けず爆散した。
 『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)はうつ伏せに倒れ、息を止めたデシェルを抱えて仰向けにする。瞼を下ろしてなお、口元に残る苦悶の色は消すことが出来ず、それが尚の事、無力感を増大させる。
「こんな化け物達が帝政派なわけないじゃないっすかバーカ! バーカ! そちらのほうこそ新皇帝派に寝返った逆賊っす!」
「化け物? 異なことを。意思を同じくし、正しい国へと導く心の動きこそが今求められているのだ! 外見なぞ!」
「民を守るために、自ら暴力を由とするか? お前が正しいというなら、俺がここで叩き潰す! 鉄帝は、強者こそが正義なのだろう!」
「平穏を貪ってた小心者なら、それらしく民を守るのに腐心してりゃまだマシだったろうよ」
 レッドの宣言に口角泡を飛ばし反論するガドレーの姿は、もはや何がおかしいのか、を腑分けできていない哀れさすら感じる。その姿に、そしてデシェルの末路に思うところある『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)はグローブを一際きつく引き絞り、拳を握る。臨戦態勢に入った彼とは対象的に、『雷龍』ユー・コンレイ(p3p010183)は相手に対し義憤ではなく純粋な不快感でもって対峙していた。国家が大きく割れる事態は恐らく、『サヨナキドリ』にとっても望ましくない。どころかこのような無法がまかり通ったとなれば尚更だ。
「良き領主であった方が消えてしまうのは残念ではありますが、これを放置して悲しみと災いを振り撒くわけには参りません。デシェル殿の願い通り、終わらせるといたしましょう……その首、頂戴いたします!」
「デシェルの願いを徒に代弁するなッ! 我等の想いについてこれなかった惰弱な男に、最早……最早……!」
「そこまで。我等の誠意を汲み取れぬ者達に、これ以上の問答が必要でありましょうか」
 先にも増して苛立ちを募らせるガドレーの姿に、あろうことか『憤怒』の魔種たるメイヤが冷静に止めに入った。この状況は、想定の外だ。
「……殺しに来ましたよガドレー、あなたが他に牙を向け食い荒らし、私の仕事を増やす前に。だからメイヤ、そこをどくっスよ」
「ならぬ。この方にはなんとしてでも成ってもらわねばならぬ。統治者としての正しき道を往く魔種(もの)に」
 美咲はメイヤの回答にこの上ない怒りを覚えた。死ぬのなら、まだ許容できる。鉄帝人は得てして放っておけば死ぬのだ。早めにそれを与えるだけだと思えばいい。だが、反転だけは許せない。領地ごと心中するのは我慢ならない。
「向こうの目ェキマっちまってんじゃん。こっちもそれなりに覚悟決めとかねーとヤバそーだ」
「上層部の権力争いで紛争続きだったアタシの世界を思い出させて、ノスタルジーに浸れ……浸……れないわ、無法の下の群雄割拠なんて面白くないわ」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は周囲の混乱を見て火事場泥棒に勤しめないかと考え、しかし即座にその思考を否定した。ローレットは恐らく、この難題を解決できるならそれくらい目溢しするだろう。だが状況が許さない。『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)もまたこの状況を楽しく感じている一人だが、さりとて法の秩序なく人を殺すことには愉悦を感じないのも確かだ。
「此処は危険っすから後のことはボク達に任せて逃げるっす!」
 美咲のトラックが完全に粉砕し、人々と天衝種とを隔てる壁がなくなった現状、イレギュラーズにできるのは足止めと避難誘導のみだ。レッドは咄嗟に声を張り上げ、その威厳でもって人々の足を地面から切り離す。
 やはり、イレギュラーズは人らしく、人を守る。その事実に破顔したメイヤはしかし、自らの間合いに入ってきた影に瞠目し、鎚でもってその一撃を受け止める。……代償は、状況を飲み込めず棒立ちとなったガドレーだ。
 メイヤを弾き飛ばした影――迅はすかさずガドレーにも同様の一撃を見舞い、残心。続けざまに突っ込んできた美咲はメイヤへの一撃を見舞い飛び退る。狙えるなら、二人同時が望ましかったが……。
(切り離すことで目算を見誤ったっスか……不覚……!)
「こっちに付き合えよ、ハゲ野郎。お前の装備でも売っぱらって足しにしてやる」
「……幻惑を向けたか。だが、その程度!」
 ことほぎは監獄魔術の一撃を以て機先を制し、メイヤの行動を封じるべく手を打った。命中精度もその結果も、決して悪いものではなかった――相手が強大な魔種でさえなければ、そうでなくても頑健さが取り柄でなければ、その初手は有効だった筈だ。『効いていなくても驚異を嗅ぎつけた』彼は、今の一合でことほぎを油断ならぬと定義する。
「ガドレー、高みの見物をして過ごせると思ったか? ワンコロと得体の知れない機械に頼らないと戦えぬとは」
「吐かせ! 我々の精鋭は! 私の願いは! ここで阻まれるものではない!! 総員……捻り潰せ!」
 ジョージの言葉は、その誘いは、間違いなくガドレーの神経を逆撫でした。剣を抜いた彼が刃を振るい、ジョージ目掛け声を張れば、すなわちそれは獣の一団を一塊の波濤として差し向けることに繋がり、そして過密状態となった状況は、それだけでガドレーをジョージ本人から遠ざける。
 ……そしてその波は、治療を企図し身構えた『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)を飲み込んでいく。容赦なく。


「アンタよ、このままじゃ死んでも死にきれねえんじゃねえの? まだ言いたい文句、山ほどあるだろ? 俺が力貸してやるよ」
『それは、もう私が述べていい言葉ではない。文句なら、黄泉路で語るさ』
 コンレイは、ジョージへと一気に襲いかかった個体と切り結びつつ虚空へと語りかける。そこには、死体から離れて尚揺蕩うデシェルの魂があった。コンレイの語りかけでその声を伝えられる、という事実に思い至ったデシェルであったが、ガドレーのあの様子を見てしまった彼は一刻でも早く主が死ぬことを望むのみだ。いっとき正気であった魂も、この環境では急速に濁っていくのだから。
「人を大事にしない奴なんか討ち取ってやるっす! かかって来い!」
 レッドは群れとなって襲い来る天衝種に拳を振り上げ誘いをかけ、次の瞬間には四方からの刺突に沈んでいた。だが、死なぬ。なおも狂わぬ。
 マシーナ・タウロスの弓と槍の波状攻撃をして。グルゥイグダロスに群れで噛みつかれて。なお倒れはしないのだ。
「それにしたって連携取れ過ぎじゃねえか!? たかだか犬コロ共が!」
「ガドレー、その統率力をどうして平和の為に使えなかった!」
「今まさに、平穏の為に使っているだろうが……!」
 コンレイの戸惑いの声は、そのままジョージの訴えに通じるところがある。彼にここまでの統率力が秘められているならば、血を見る選択肢は除外できた筈だ。だというのに、無闇に武力を振るう必要があったのかと。死角から振り下ろされた刃をかろうじて拳で受けた彼は、刃を手放し重心を崩そうとしたガドレーの手管に意表をつかれた。その一瞬に滑り込むマシーナ・タウロスのランス・チャージ。怒りに燃え、責め立てるだけしか能が無い指揮官の動きか、これが。
「メイヤ、こっちを見なさい! アタシが相手をしてあげるわ!」
「挑発にしては安い。俺の怒りを、魔種(おれ)の『憤怒』を、甘く見過ぎだと思わんか?」
 深白はメイヤを引き付けるべく、そうでなくともガドレーとの合流を妨げるべく挑発し、勢い彼の間合いに踏み込んでいた。だが、返ってきたのはあまりに無味乾燥なリアクションだ。それはそれとして、お前は殺す――そう言わんばかりの鎚の振り下ろしから逃れた彼女のいる場所へ、次々と矢が降る。が、二射めはなかった。弓を取ったマシーナ・タウロスへと迅が体ごとつっこみ、死力を尽くし拳を振るったからだ。
「深白殿、雑兵は僕達が片付けましょう! ……メイヤをお任せしても?!」
「別に一人で抑えろとは言わねェよ、そのハゲヅラが吠え面かくとこ、オレも見てェし?」
 迅が遊兵化した魔物たちに仕掛け、ことほぎがメイヤの選択肢を狭めるべく立ち回る。いかに魔術や不調への態勢があろうと、繰り返し狙われ正常なままでいられるわけがない。魔種であろうとも。
「お膳立てしてもらっといて、場保たせも出来ないといわれたら暗殺者としての名折れでしょう! やってあげるわよ!」
 深白の顔の横を鎚が薙ぎ払う。地面を揺らす振動が動きを止めようと荒れ狂う。だが、彼女を前にしてそれは通じない。止めるなら、中てるしかない。
「このワンコロどもは本当にお前の部下か? その節穴を直すために、深呼吸でもして落ち着いた方がいいんじゃないか?」
「デシェルが死んで、アイツの魂もアンタを見捨てたんだけどな? もう、まともな部下は居ねえんだろうな」
 グルゥイグダロスの牙を真正面から受け、拳で薙ぎ払うジョージの目はたしかな理性の光とともにガドレーを見据えた。真実を見透かすその視線は、鉄火場を乗り越えた重みがあった。コンレイは説得など無駄だと理解しているようで、しかしデシェルの最期を知ったればこそ、今のガドレーの有様に残念なものを感じていた、かもしれない。何れにせよ、死以外がガドレーを救うことはないと、全員が理解していた。
「もう聞く耳も持ってないでしょうけど、今一度周りを見て己を改めて見て無法者な略奪者は誰か? 考えてみろっす」
「……そうか、私は……」
 レッドの言葉を受け、ガドレーは身を焼く感情がすっと冷えたのを感じた。不吉の泥に塗れた自分は、最早これまでか、とも。だが、その諦めの表情に再びの光が宿ったのを、レッドは、そして一同は流石に見逃した。
 確定的に訪れるであろう死をまえに、誰がその『チャンス』を見咎めようか。賭けにしたって無謀すぎると。
 蹄の音とともに、マシーナ・タウロスの最後の一体がランス・チャージを仕掛ける。あろうことか、ガドレーに。肩口を貫かれたガドレーが吹き飛ばされた先に回り込んだメイヤは赫赫と燃える瞳を己の主君に向ける。
 それは正に、黒い奇跡のおこりであった。


「メイヤ、私はやったのだな」
 ガドレーは、炎燃え盛る市中を見回し、しかし悲しむでもなく満足そうに口元を歪めた。
 先程までは殺すことに懸念を示し、奪うことに躊躇いがあった彼が、しかし最後の最後で『成った』ことですべてを理解したのは間違いない。彼は怒りを覚えたのだ。この地を救済しようと奔走していた自分を拒否しようとした人々に、そしてそれを邪魔しに来たイレギュラーズに。だから憤怒に身を焼かれ、それでも己の意思を保とうとして、最後の最後で理性を手放したのである。
「御意に。あなたはもう、『我々』同様に人ではありません。そして今、その胸には絶えず怒りが滾っているはず」
 自らの前に傅き、恭しく頭を下げるメイヤ。そしてその口から漏れ出た言葉。それらは非現実的でこそあれ、ガドレーにとっては何より実感の沸く言葉であった。
 自らは帝政派として、善き政に乗り出そうと思っていた。そして、こうして正しきを伝えるために打って出た。
 それらはすべてが否定された。自分に間違いがあったなどとは思いたくなく――ゆえに彼は、帝政派であることが間違いだったのだと悟ったのだ。
「我らは怒りの名を負って新皇帝の軍門に降る! 異論ある者、全て磨り潰し進め!」
 ガドレーの宣言に、メイヤは、そして今まさに生まれつつある天衝種は歓喜の雄叫びを上げた。
 そしてそれは、敗走するイレギュラーズの背を叩く。敗北の号砲を背に、今は雪辱を胸に。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

レッド(p3p000395)[重傷]
赤々靴
極楽院 ことほぎ(p3p002087)[重傷]
悪しき魔女
ジョージ・キングマン(p3p007332)[重傷]
絶海
日車・迅(p3p007500)[重傷]
疾風迅狼
玖珂・深白(p3p009715)[重傷]
キリングガール
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職
ユー・コンレイ(p3p010183)[重傷]
雷龍
浮舟 帳(p3p010344)[重傷]
今を写す撮影者

あとがき

 お疲れ様でした。帝政派から新皇帝派へ、魔種二人の出現を持って少なくない領地が移った形となります。
 結構痛手だといえますが、致し方ない経過であったとも言えます。委細リプレイをご参照ください。
 不確定要素が多い行動選択肢を頼りすぎたかな、とは思いますが、それだけの不足なら成功してたと思います。
 こればかりは最早結果は結果、と言う他はありません。次につながれば幸いです。

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