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シナリオ詳細

Backdoor - Lost Garden:revenant

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――電脳廃棄都市ORphan(Other R.O.O phantom)。

 積み上げられたバグはR.O.Oの底にこびり付くようにして溜まり続けた。本来ならば存在し得ない消去されるはずであったそれは無数に積み重なりバグによるコミュニティを形成した。
 ある者に言わせれば無法地帯。またある者に言わせれば救いの地。サイバー九龍城の名をほしい儘にしたデータの蓄積廃棄場。因果も謂れも存在せず、どうしたことか蓄積されてR.O.O世界には存在し得ぬ住民達の巣窟となっていた。
 フィールド設定の際に使用されたテストデータ。テストサーバで稼働していたワールド設定。其れ等は一度はサーバー上から消去されネクストによって上書きされた筈であった――だが、それはマザーも観測し得ない領域に残ってしまったのだ。
 斯うして積み重なったデータは『電脳廃棄都市』と呼ばれるに相応しいだけの量を誇る。
 冷蔵庫の扉から、地底遺跡から、ダンジョンの宝箱から。何処からともなく此の土地に入り込む事の出来る者達は知るだろう。
『ゲーム仕掛け』の『Project:IDEA』Rapid Origin Onlineにも別の顔があることを。

「ご機嫌よう」
 一方はアーモンドのように細められた、非常に『日本人』を思わせる黒曜の瞳を、そしてもう一方は蠱惑的に光る紅玉の瞳を持った女がイレギュラーズの前に立っていた。
 そのかんばせには肌色が覗いている。彼女の姿に見覚えがある者はその名を呼ぶことだろう。
 ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)――それが『その姿』を有する者の名前であった。
 だが、ここはR.O.Oだ。現実世界の人間が存在して居るわけがない。そして、本来のヴァイオレットとは幾らか外見的要素が違っている部分さえある。
 彼女は天国篇(パラディーゾ)と呼ばれたバグだ。それは現実の『冠位魔種』に相応するバグエネミー達の私兵である。
 通常はR.O.Oのデータを取得して形作られるパラディーゾであったが、ヴァイオレットの場合は奇異なる切欠で外見データをサルベージされたために現実世界の姿をしているらしい。
 分かり易く言えばHadesの『想像するヴァイオレット』そのままが取り込まれた事で、彼女は共にある筈の混ざり込んでいた『邪神』と別たれてしまったのだ。彼女の足元の影は沈黙し、潜むべき存在はORphanで活動をしている。
「またワタクシ達に逢いに来てくれて良かったです。
 一度相まみえた『邪神』――それが少しばかり動きを見せましたから……ええ、其れを倒しきるのが目的だったのですけれど」
 状況が変わったのですか、と固い声音で問い掛けたのは『himechan』空梅雨(p3x007470)であった。
 空色の髪を揺らがせた空梅雨はパラディーゾ『影歩き』――ヴァイオレットを元にしたパラディーゾはそう名乗っている――を疑うように睨め付ける。
 共に活動をしているギルドチーム『ロストガーデン』の『雷陣を纏い』桃花(p3x000016)と『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)は影歩きの言葉を待つように息を呑んだ。
「パラディーゾ『星巫女』はご存じですか?」
 それは小金井・正純(p3p008000)を元にしたパラディーゾである。彼女や影歩きは『Hades(ゲームマスター)』の手が直接加わっているために通常のパラディーゾとは別種の存在だ。特に、星巫女はORphan外部に位置している特異なデータ領域での活動をイレギュラーズに依頼してきたのだ。
「彼女が調査を行っている列星十二宮(サイン・エレメント)に『邪神』も合流しようとしていたのですよ」
「……そうなる可能性を知っていて見逃した、という事はありませんね?」
 空梅雨の言葉を影歩きは敢えて否定しなかった。「ヒメ」と呼ぶ桃花は彼女が底まで警戒する理由を察している。
 恐らく空梅雨は『影歩き』を信頼し切れては居ない。桃花は『ヴィオは優しいカラなー』と軽く考えることも出来たが空梅雨は善性をこれっぽっちも信用していないのだろう。
「『影歩き(ヴァイオレット)』さん。邪神が其方に逃げた、と言うことは追掛けるという認識で相違ありませんか?」
「ええ。ワタクシ達は星巫女と共に『双児宮』へ。
 列星十二宮(サイン・エレメント)の三つ目の場所となりましょう。クヒヒッ――『長い後日談』とは良く言ったものですね」
 影歩きはくすりと笑った。
 まるで、全ての話が其方へと傾いていくように、登場人物を集めて行くように。全員の歩が向いて行く。
「『邪神』はその場所に居るのですか?」
 桜陽炎の問いかけへ、影歩きは首を振った。そこまでは分かりかねるのだ、と。だが、確かに分かって居ることがある。

「列星十二宮(サイン・エレメント)を追掛けて行く内に――邪神はワタクシ達にコンタクトを取ってくることでしょうね。
 星巫女の言うとおり『ワタクシ達の産み出された意味』を探すのです。
 マザーを『破壊する為のウイルス』でしかなかったのか。それとも、こんな身でも意味があったのか。
 邪神はこの世界に取り込まれて長い。その存在が変貌し、あの場所へと逃れ落ちたとするならば……」
 現実世界からどうしたことか取り込まれた『境界世界』
 その場所に逃げ果せた邪神が何らかの答えを教えてくれる可能性を否定は出来まい。
「準備は良いですか? 『影歩き』」
「ええ。『星巫女』――次の機会には彼女達も呼びましょう。ええ、相応の準備を整える必要がありそうですが」

●双子の宮
「ねえ、ポルックス」
「なあに、カストル」
 双子は対になる宮殿で向かい合わせに座っていた。決して触れ合えない場所、隔たれた壁は双子が共にあることを赦しはしなかった。
 一方は転落の座に。もう一方は高揚の座に。
 金色の髪と銀色の髪。赤い瞳に青い瞳。二人は対である。
「誰かが来たよ」
「危ない人でしょう? 追い出しましょうよ」
「ううん――この人を追掛けて、誰かが来るかも知れない。
 この人だって『ほしのまもの』を食べてくれるかもよ。僕達の世界が壊れてしまう前に」
「それならいいね。
 わたしたちの世界が壊れてしまう前に『ほしのまもの』を食べてしまって、それからあなたは倒されるの。御伽噺のように」
 双子は同じタイミングで来訪者の顔を見た。
 足元から漂った黒き影、星の世界には似合わぬ全てを喰らうような濃い夜の気配を身に纏った女。
 ――『邪神』は笑う。
「ええ、『ほしのまもの』は食べましょう。
 キヒッ――美味しく美味しく丁寧に啜り上げてから、ワタクシは『最後の役目』を果たさなくては……」

GMコメント

 夏あかねです。ORphan『パラディーゾ』の前段調査です。
 次回からは長編に切り替わり『列星十二宮(サイン・エレメント)』をパラディーゾ達と辿り………そして。
 それでは、皆様。先ずは準備を。

●目的
 ・双児宮の先へ進む切符を手に入れる
 ・邪神とコンタクトを取ること

●境界世界『列星十二宮(サイン・エレメント)』
 境界案内人(ホライゾンシーカー)であるポルックス・ジェミニ&カストル・ジェミニの故郷。
 現実世界ではイレギュラーズが境界世界で活動することで世界に蓄積する境界深度が高まった結果、クレカと協力することで『混沌に影響を与える異世界』に干渉することができたそうです。R.O.Oはその結果を集積し、ORphanから異世界として渡ることが出来たようですが……。
 皓い星々が瞬く世界。宇宙空間を思わせます。中央には白いタワーが、そして移動は列車で行われます。
 その名前の通り十二の宮がタワーの周囲には連なっており、それぞれの探索を行う事ができそうです。今回の目的地は『双児宮』です。

 ・星詠人(テトラビブロス)
 境界案内人(ホライゾンシーカー)であるポルックス・ジェミニ&カストル・ジェミニの正確な種族。

●フィールド『双児宮』
 宇宙空間を思わせる場所に鎮座している宮殿。鮮やかな陽の光の下、左右が対となった二つの宮殿が存在して居ます。
『高揚の座』と『転落の座』と呼ばれる場所がそれぞれに存在しています。

 ・高揚の座
 皆さんが入ることの出来る場所です。鏡写しのように『転落の座』を見ることが出来ます。
 ポルックスを名乗る金髪の少女が小さな玉座に座っています。外見は少女ですが永きを生きてきたそうです。
 果ての迷宮に居る境界案内人(ホライゾンシーカー)と同じ外見をしていますが、どうやら別人です。
 詰まらなさそうに頬杖を付いています。

 ・転落の座
 皆さんが入ることの『出来ない』場所です。鏡写しのように『高揚の座』を見ることが出来ます。
 カストルを名乗る銀髪の少年が広すぎる玉座に座っています。外見は少年ですが永きを生きてきたようです。
 果ての迷宮に居る境界案内人(ホライゾンシーカー)と同じ外見をしていますが、どうやら別人です。
『邪神』と呼ぶべき存在はヴァイオレットと瓜二つの外見をし、カストルの隣に座っています。

●登場NPC
 ・ポルックス
 星詠人(テトラビブロス)の一人。列星十二宮(サイン・エレメント)のここから先への通行止めをしている双児宮の主。
 カストルとポルックスの承認を取る事で先に進めます。彼女は問い掛けるでしょう。
 「ここから先に進んで『ほんとうのせかい』が崩れても、あなたは覚悟は出来る?」

 ・カストル
 星詠人(テトラビブロス)の一人。邪神と一緒に遊んでいます。どうやら、彼はポルックスのご機嫌をどうにかしたいようです。
 この世界は紛い物でありながら『現実にリンクしている』とでも言いたげです。イレギュラーズには協力的です。

 ・邪神
 便宜上そう呼ぶエネミーです。本来はヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)さんの一部である筈のそれはR.O.Oでは別たれて個別に行動しています。
 姿はヴァイオレットさんに酷似しているようですが、凶暴なエネミーです。どうやら『列星十二宮(サイン・エレメント)』の先に向かいたいようですが……?

 ・パラディーゾ『影歩き』
 ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)さんのパラディーゾの姿。
 クリストによるログアウト不可措置の影響を受けて生み出されたパラディーゾであったため、本来の姿で反映されています。
 性格も『クリストの思うヴァイオレットさん』が構築されているのか非常に享楽的で意地悪な蠱惑的な占い師としての側面が強いようです。同様に、『影』であった『邪神』は内容も秘匿されたエネミーであるかのように彼女と別たれて行動しているようです。
 彼女曰く、『邪神』は列星十二宮(サイン・エレメント)の最奥に何らかの秘密が隠されていると考えているようです。

 ・パラディーゾ『星巫女』
 小金井・正純(p3p008000)さんとうり二つの姿をしたパラディーゾです。彼女と比べると信仰の心を有していないことで何処か寄る辺ない印象を与えます。
 境界世界『列星十二宮(サイン・エレメント)』の案内役です。他のパラディーゾを呼び寄せる準備をしているようですが、先ずはここから先の切符を手に入れなくてはなりませんね。

●ROOとネクストとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、バグによってまるでゲームのような世界『ネクスト』を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に自分専用の『アバター』を作って活動します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline3

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。

  • Backdoor - Lost Garden:revenant完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

桃花(p3x000016)
雷陣を纏い
アイ(p3x000277)
屋上の約束
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
玲(p3x006862)
雪風
空梅雨(p3x007470)
himechan
桜陽炎(p3x007979)
夜桜華舞
入江・星(p3x008000)
根性、見せたれや
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス

リプレイ


「カストルとポルックス。確か桃花チャンの世界のロストエデン(地球)の神話の双子だったカ?
 この十二宮とイイ、再現性の街とイイ、どうにもこの世界はロストエデンに縁があるみてーだナ」
 うーんと首を捻った『雷陣を纏い』桃花(p3x000016)にサングラスの位置を正してから『根性、見せたれや』入江・星(p3x008000)は頬を掻く。
「今回は双子座、なんや見覚えのある二人組みもおるらしいやん。どうやらウチらの知る2人とはちゃうみたいやけど」
 星の識る双子は果ての迷宮で発見された境界図書館でホライゾンシーカーとして活動している幼い双子だ。
「報告書を読んで知ってはいたけど、ホントにライブノベルの世界に……。
 それもポルックスさんやカストルさんの世界に渡っていけるなんてビックリだよね」
 現実世界で二人の世界に渡る事が出来た際には『境界深度が高まったこと』で特異な立場であった二人の世界に影響が及ぼされたと聞いたけれど、と
『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は謎だらけの状況に首を捻って。
「何れにせよ、こうしてクエストを任された以上役目は確り果たしてみせるよっ! 長い後日譚、だもんね」
「――後日譚が長く続くのであれば、これは……そうですね。序曲<オーバチュア>、といったところでしょうか。
 ……私共の求める先、世界の求める先へ桜の加護があらんことを」
 願うように告げる『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)にお「オーバーチュア、良い響きじゃのう」と手を叩いて喜んだのは『雪風』玲(p3x006862)。
「にゃっはっは、面倒なことになっておるのう。妾は面倒は嫌いなのじゃが……何かの縁じゃ。解決に手を貸してやろう」
 ちら、と玲が視線を向けたのはこの先に佇んでおりコンタクトを取ることを目的とした『邪神』の素となったヴァイオレット本人――のアバター、『himechan』空梅雨(p3x007470)である。神妙な表情をしている彼女は妙な心地であった。
「邪神……」
 その名で呼ぶことにも随分と慣れてしまった。普段の自身なら絶対に信用などしない抱きすべき存在ではあるが影歩きが信用しきれない今、逆に邪神そのものも『絶対に否定すべきではない』存在だと認識していた。それはクオリア等がハデスに反旗を翻している状況を漏れ聞くだけでも『絶対』がないと思わせるのだ。
(……それに、邪神が本当に、ワタクシの想うソレであるならば。
 かの存在は狡猾で、抜け目がない。人の信じていたものを、いつだって容易く崩壊させる。
 一見正しいように見せかけて、気付けなかった者を出し抜くのです……まさか、ね。『逆なんてことはない』でしょうか)
 桃花や桜陽炎が『影歩き』に信頼を寄せたとして、その後に簡単に掌をくるりと翻す可能性――それも選択肢として捨てきれないのだ。
「『邪神』ねぇ。何考えてんのかイマイチ分からねぇ所はあるが、コンタクトを取る価値は十分にあるだろうさ。
 ――まぁ、まずは目の前のコイツからだがな?」
 行くか、と双児宮を指差す『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)に『屋上の約束』アイ(p3x000277)は小さく頷いた。
「いやぁまさかこーゆう場所があるとはネ! 話には聞いていたけれド、実際に来るとちょっとそわそわしちゃうよネェ……。
 目的は把握していル。切符を手に入れる事。邪神とコンタクトを取る事。
 敵対せずにパラディーゾの人らと会えるのは不思議な気分だけれド……まぁいっカ、影歩きも星巫女もよろしくネ」
「ええ、宜しくお願いします」
「キヒヒッ、違和感はありますでしょう。何せワタクシ達は敵であるはずですから」
 双方の様子を眺めてからアイは笑みを深めた。アイの魔眼は情報を読み取れる。影歩きと星巫女の『本来の名前』は簡単に読み取ることが出来た。
「君達は意味を探していル、と言うけれド……破壊する以外の意味もあるかもネ。
 だって君達には意思があル。なラ、仮に無くても君らが真に望ム、欲しい意味が創り出せるかもしれないしサ?」
 ――けれど、彼女達はその名を捨てた。まるで一個人であるように振る舞って、そうして此処までやってきたのだ。


 どうして産み出されたのか。彼女達曰く、パラディーゾの一人であるクオリアはこういった。「あの馬鹿野郎が寝返った」と。
 確かに母であるように感じるのはジェーン・ドゥではあったがクオリアや影歩き、星巫女のデータを呼び寄せたのはHades-EXであった。
「……産み出された意味を探す、ね。なんや写しのデータでも、自分の意味を探してるのは同じなんやな。
 その取っ掛りとして手伝えってんなら引き続き手を貸したるわ。見知った顔ばかりでかなりやりにくいけど!」
 星は肩を竦めてから「ま、思うトコがあるんは皆揃ってお互い様やろ?」とからからと笑った。ゆっくりと踏み入れたのは高揚の座。長い金髪をだらりと垂らして玉座に座っている少女は来客が来たことに気づき長い睫を震わせる。
「忙しいのね」
「まあ、そう言わないでよ、ポルックス。どうやら彼女の言う通りだもの」
 ねえ、と銀髪の少年――カストルが横を向けば影歩きと瓜二つのかんばせをした女がその長い足を投げ出すように腰掛けていた。
「お久しぶり、と申しましょうか」
 穏やかに微笑んだ桜陽炎は空梅雨と邪神の間に割って入るように立った。まるで騎士のように庇い立つ桜陽炎は「その前に、この座の方々にご挨拶をしても?」と邪神の動きを牽制する。
「こんにちは。私は桜陽炎――失った庭園を探す一人です。
 どうか、この場所がどういうものか……何へ至るものなのか。進む先に何があるのか、少しだけでも教えていただけないでしょうか」
 膝を折った桜陽炎にポルックスは唇をつんと尖らせた。
「ハロー、双子の片割れポルックス。ご機嫌ナナメみてーじゃネーカ!」
 桃花にとってはポルックスのご機嫌などはどうでも良かった。気になるのは対となる座で邪神と親しげに話しているカストルだ。
 玲の目で視ても協力的にも見えるカストルは邪神と中が良さそうにも振る舞っている。影歩きの言葉を信じるならば邪神は唾棄すべき存在、つまりは敵だ。「情報が少なすぎてナントモだナ」とぼやいた桃花の傍で玲は「ううむ」と唸った。
「行儀悪いなぁ、頬杖ついて。ほら、しゃんとしいや。女の子がはしたない。それは置いといて、ここを通して欲しいんやけど、どう?」
 にこりと微笑んだ星にポルックスは不機嫌そうに彼を見詰めてからはあと大きく息を吐いた。
「……ここから先に進んで『ほんとうのせかい』が崩れても、あなたは覚悟は出来る? あのひとみたいに刹那的じゃないでしょう?」
 あの人、と指されたのは邪神である事に星は気付く。ネイコはその問い掛けに「そう、だね」と唇を震わせた。
「ほんとうが何か分からないけど……この世界は紛い物でありながら『現実にリンクしている』……だっけ?」
「この世界と現実が結びついている――つまる所、何らかの影響を及ぼしかねない。
 この先に進んだ先で何が起こったとして『現実』含め、それを受け入れる覚悟があるかみたいな事なんかな」
 質問の真意を教えてくれと星は問うた。緊張し、青ざめたネイコは『ポルックスがその問い掛けに頷くこと』に気付いて居る。
「星クンも言ったガ、行儀がワリーぜ、ポルックス。テメーの態度は気に食わネーけど質問には答えてやるヨ」
 桃花は『ほんとうのせかい』が何かを彼女が答える前に堂々と言い放った。
「シラネーよバーカ! ナニが起こるか、その時自分がどうなってるかもワカラネーのに軽々にンナ事言えるかヨ。
 未来なんざワカラネー。後悔なんていつだって何度だってして来たサ。それでもその時正しいと思った事をするしかネー。それしか出来ネー」
 だから、どう答えられようと。質問の意図を更に細かく示唆されようと桃花は惑うわけがないと胸を張った。
 その堂々とした態度に笑ったのは邪神であったか。ぴくりと影歩きの肩が揺らぎ、僅かな苛立ちを滲ませている。
「そう、みんなのいう通り『ここがゲーム』だって識っているあなたたちにとっての『本当の世界』のはなしよ。
 わたしたちはね、此処ではイレギュラーなの。ここが『つくりもの』だってしっているんですもの!」
 ポルックスの言葉にアイはからからと笑った。ほんとうの世界、と言われればR.O.Oだってアイにとっては本物であると。
「僕にとってこのROOも本物だ。
 この世界ハ、大事な友人……イデアやエイス達に会えた大切な場所、八界巡りの果てに通じた世界ダ。だからこソ、やれる限りをやりたくてネ!
 ……ア、でも本当にそうなったなら、その時は僕ノ住まう世界(混沌)が崩れるのも防ぎつつ先に進みたいってのもあるかナ!
 だってこーゆうのは妥協しちゃ意味が無イ! 下手に遠慮しちゃ手に入るものも手に入らなイ! 僕はそう思うのサ!
 多分より困難な道に成りそうだけれド、此れガ、僕の正直な気持ちサ。他の皆は違うかもだけれどネ?」
 そう、とポルックスはアイの傍に立っていたTethと玲を眺め遣った。


「決意がキマってるやばかりじゃお前も困っちまうだろうが……答えは『出来る』だ。
 より正確に言うなら、『ほんとうのせかい』とやらが崩れて云々以外の事も含めての覚悟が、だけどな」
 Tethはがりがちと頭を掻いた。
「ぶっちゃけ言って、アンタの言う『ほんとうのせかい』ってのが何なのかは、俺様には分からねぇ。
 それどころか。この世界の全てが、俺様にとっちゃ未知の塊だ。そんな所へ、自らの意思で踏み込んだ俺様がキめられる覚悟つったら、一つしかねぇだろ?
『自らの意思で踏み込んだ以上、何が起きても全てを受け入れ。その全てに身命を賭してぶつかる覚悟をキめている』
 ――何が起きても逃げねぇ、投げ出さねぇ。全て解決するまで、きっちり面倒見切ってやる……この答えで満足か?」
 それが現実にリンクするというならば現実からもアプローチをかけて解決してやるとTethはそう言った。
 慎重にポルックスを満足させるヒントを探っていた玲は「と、言うわけでのう」と口にした後、格好いいポーズを取ってみせる。
「クククッ、世界の崩壊は我が眼の力の一端にすぎぬ――故に、覚悟など、崩壊の先に真なる世界を妾が創造した後にすればよいのだ!」
「あはは」
 笑ったのは誰だったか。玲はポルックスではないと事を確認しカストルと――その隣の邪神を眺めた。
「イイではないですか。ねェ?」
「そうだね。ポルックスは心配性だよ」
 ポルックスが心配性だという言葉が妙にひかっかる桜陽炎は「ツユ」と呼びかける。空梅雨は邪神の様子を確認してからはあ、と息を吐いた。
「正直な話『何がほんとう』かなんて解りません。だけど、『ほんとうじゃないせかい』なら崩れてもいい……なんて事も言えはしないでしょう。
 わたしは元々、別世界に居たのですから。どちらも本当で、どちらにも息づくものがある。
 ――ならば、憂うべきは世界が崩れる事ではなく『その線引き』です」
「線引き?」
「ええ。私もツユと同じ。旅人である私には……『ほんとうのせかい』がどこであるかは、わかりません。
 ですが、それがこの世界の外――あの世界のことすら含んでいるのならば、私は信じています。どう崩れても、どう混ざったとしても」
 混沌世界に『飲み込まれた』少女を識っている。それがジェーン・ドゥの世界のように飲み込まれ消えゆく運命を指しているとしても、だ。
「あの世界は、あの世界に生きる人たちは必ず乗り越えると、私のような異分子すら取り込んで進んでいるのです。
 そう簡単に壊せるわけはない、と信じています。もし危険が及ぶのならば――それならば、守り抜くだけです。
 人を信じ、守り抜く。選択に覚悟を問うのならば、これが返答です」
「……世界に偽物があるような物言いでの謎掛けは不要です。
 例えこの先がどうなろうと、わたしの居るこの全てが『せかい』です! だったら……こんな所で立ち止まっている訳にはいかないでしょう!」
 叱り付けるような空梅雨の声音に桜陽炎は頷いた。星は「匙を投げてるわけやないし、皆恰好良いからなあ」とからからと笑う。
「ほんと、そう。皆格好いいよね。そう言われると少し……じゃないね。凄く、怖いよ。
 だって、私のこの手はこんなにも小さいんだもん。手を伸ばして、掴めるモノだって限られてる。
 けど、それでも……その先に貴女や皆を助けられる可能性があるって言うのなら、『覚悟』だってしてみせるよ」
 それじゃ、ダメかなとネイコが問い掛けた頭をぐりぐりと撫でてから星はにんまりと笑う。
「どうにかなったなら、どうにかするしかないやろ。んなもん、始める前からひよってられるかい。
 ……諦めるのは得意やけど、それは自分のことだけに限るんでね。それで応えになるやろか? どうや? ポルックス」
 金髪の少女は嘆息してから「チケットをあげるわ。何が起ったって私は責任を取らないんだから」と外方を向いた。


「いやあ! 良き覚悟でした。クヒヒヒヒッ――実に素晴らしい」
 手を叩いた女をぎろりと睨め付けた空梅雨を護るように桜陽炎はやはり一歩前に歩み出た。
「こうして会うのは二度目だね。貴女が此処にいるって事は貴女自身も十二宮それぞれの主に許可を貰えないと先に進めないのかな?
 それとも私達に用があって待ってくれてたのかな? ……やりあう気がないのなら話してくれる? 貴女はこの先で一体何を成そうとしているの?」
 ネイコは緊張したように影歩きを眺め遣る。影歩きと邪神の様子を眺めていた星とて気の回し方や偽悪的な部分が良く似ていると感じて仕方がない。どうにも影歩きは『進みたがり』、邪神は『止めたがっている』とさえ感じられたのだ。
「教えて下さい。貴女は何を選択し、歩むのですか。"邪神"と呼ばれた貴女は」
 桜陽炎の問い掛けの答えを待つように、空梅雨は緊迫した空気を解くことが出来なかった。彼女は確かに危険極まりないエネミーだ。アイの目で視たとて分類はエネミーであろう。だが――合ってはならない存在だという認識をヴァイオレットはヴァイオレット自身にしていたのだ。
(邪神、アナタは本当に……自分でそう思っているのですか。それとも……そう在るように仕向けられている……?
 これが『世界が貴女に齎したプログラム』だというならばなんと皮肉なのでしょう――)
 空梅雨の不安を感じ取ったように桃花は「なあなあ」とカストルへと手を振った。
「邪神と仲良くしてるみてーだが、実際アイツはどんなやつダ? 桃花チャンは凶暴なエネミーって聞いてんダガ」
「ん……普通の女の子のようだと思うけれど」
「はは。しかしまぁ、随分と呑気に遊んでるもんだな。いっそ、俺様達も混ざるか?」
 そう言われれば行かぬ選択肢も無さそうだろうとTethはカストルの側の座にも踏み入れられないかと周囲を見回す。
「おーい、カストル! こいつらとも遊んでみねぇ?」
「橋を渡そうか。いいかな、ポルックス」
 ご随意に。外方を向いたポルックスにカストルはイレギュラーズが自身等の傍へと渡ってこられるようにと『橋』を渡した。足場が出来てそろそろと進みながらTethは此方を見詰めている邪神に向き直る。
「で、邪神さんよ。この先に進むって目的が同じなら、ちと共闘してみねぇ?
 途中で気に入らねぇって思ったら、そこで別れりゃいいだろ。何なら、その時点でケリ付けてもいい。
 何も、仲良くしようってんじゃねぇ。現状を鑑みるに、互いに手は多い方がいいだろって話――どうよ、空梅雨?」
「……目的を識らねばなりません」
 Tethの提案に空梅雨は唇を噛む。玲も「利害が一致すれば良いのではないか? 影歩きはどう思う」と振り返る。
「ワタクシは皆さんに従うしか選択肢はありませんでしょう」
「まあ、そうか。面倒見がいいのは知っておるからのう! にゃっはっは!
 最奥の秘密とやらもちと気になっておるし……そのあたり、腹割って互いの目的を話して協力を求めたい所じゃな」
 どうじゃ、と問うた玲に『邪神』は静かに口を開いた。

「ワタクシは列車に乗り最奥に存在する『ほしのまもの』と呼ばれた『本来のライブノベルの世界に存在するエネミー』を喰らいにいくのです」

 その為に双子に乗車チケットをもらいに来たのだという。カストルは彼女の目的に大いに反省し、ポルックスはそれが現実に影響を及ぼすことを危惧したらしい。
「それは……そうなったラ、アンタはどーなんダヨ」
 桃花の問い掛けに『邪神』はくつくつと笑った。「ワタクシはそうして皆様に倒されるのですよ。物語のように」と。
「……先に進めばパラディーゾ達が生まれた意味が知れる可能性は?」
 星が問うた言葉へと影歩きは「きっと、分かるでしょうねえ。『マザーのための世界』に生まれた皆様が『どうして案内人として星を巡るのか』――きっと其れこそがあなた方の生きる意味なのでしょう」と悪戯めいて微笑んだ。
 それ以上、彼女は答えぬまま「一度ご一緒しましょう。次の列車が来た時に」とポルックスから受け取った切符をイレギュラーズへと配った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 謎多き邪神です。彼女は此処先、『列星十二宮』に進むことで何かを得ようとしているようです。
 パラディーゾ達はこの地に集結することを目的としているようですが……。

 それはまた、別のお話にて。

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