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シナリオ詳細

<Stahl Eroberung>伸ばした手は、触れ合う事は無くて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不可解な任務
 アーカーシュ。鉄帝国の前に突如現れたフロンティアは、各軍人たちの思惑こそありつつも、その地図の多くを解明の名のもとにつまびらかにしていった。
 そして今、残す未開エリアは二つ。エピトゥシ城と、ショコラ・ドングリス遺跡。この二つである。
 アーカーシュ調査チームは、全軍をあげてこの二か所の制覇作戦を決行。
 ルナリア・スターライト率いる、アーカーシュ調査チーム特務派・第13部隊も、このエピトゥシ城へと到着していた。
「雰囲気あるわね……まるで魔王の居城って感じ」
 ルナリアがそういうのへ、副隊長のニースがいう。
「実際そういう感じらしいですね。何でも、魔王イルドゼギアっていうのが作った後詰の城だとか……」
「後詰、って事は隠しダンジョンって事かしら。裏ボスとかいそうだけど……!」
 ワクワクとした表情で告げるのへ、部下のウェンディも頷く。
「だとしたら腕が鳴るね! それで、突撃命令はまだでないの?」
 尋ねる彼女に、ルナリアは頷く。部隊展開。されど別命あるまで待機――それが、パトリック・アネルより発布された、特務派への命令であった。
「……大佐、最近変なのよね。ううん、前からなんか、人に好かれるタイプじゃなかったけど。でも、確かに鉄帝のために何とかしようって気概はあったし、だからアタシも手伝う事にしたんだけど……」
 ルナリアは、特務派が戦力拡充のためにスカウトした、非軍人たちの一人だ。第十三部隊は、そう言った、非軍人だったり、非主流派故に僻地に飛ばされていた軍人たちの内、有能なものを無差別に勧誘し、作り上げた、いわば特務の外人部隊とでもいうべき集団である。
 そう言った理由から、忠誠心はさておき、パトリック・アネルに対しての恩義は強く感じていた。そう言った思いもあって、第十三部隊はここまで、特務派閥として多くの戦果を献上していたわけなのだが……。
「そうなんですよね。何か常に怒っているようで……」
「本部より連絡来ましタ!」
 通信兵のヒュウが声をあげた。
「! 読みあげて!」
 ルナリアが言うのへ、ヒュウはしかし、言いよどむ。「どうしたの?」とルナリアが尋ねるのへ、ヒュウは頭を振って、蒼い顔をしながら、こう言った。
「交戦許可。標的は、ローレット・イレギュラーズ……!」

●標的はイレギュラーズ
「魔王城、でありますか」
 ムサシ・セルブライト(p3p010126)がそういうこの場所は、エピトゥシ城の第34番回廊と呼ばれるエリアだ。ここにはトラップの類はほとんどなく、広い回廊が続く。
「ええ、魔王イルドゼギアの作った城だといいます」
 仲間のイレギュラーズが言うのへ、ムサシは頷いた。
「まさにファンタジーの世界観でありますな……いえ、確かに自分の世界にも、銀河魔王とか宇宙ギャング皇帝とか名乗る悪党はおりましたが……」
「どこの世界にも、そういうの名乗りたがる奴はいるんだろうさ。再現性東京で聞いたことあるぜ。中二病って奴だろ?」
 仲間がそういうのへ、ムサシは苦笑した。
「まぁ、実害はあるので中二病だったらどれだけ可愛かったか。
 さておき、妙な魔物や、自称四天王だの、危険なことは確かであります。
 皆様も、どうかお気をつけて」
 そう言った刹那――後方より、複数の足音が聞こえてきた。仲間の一人が頷くのへ、ムサシもまた頷く。手に武器をやりながら、ゆっくりと振り向いたムサシ達は、すぐにその緊張を解くこととなる。
「人です。確か、特務派の――」
 仲間が言う刹那。ムサシは目を丸くした。
「ルナリアさん!?」
 その声に驚いたのは、あらわれた人影――ルナリアも同じだ。
「ムサシ……!? 貴方、どうして!?」
「その様子だと、ルナリアさんも召喚されていたのですね! すれ違っていたのでありますか!
 いやぁ、こうしてお会いできるとは――」
 ゆっくりと歩き出したムサシを、しかしとどめたのはレーザーガンの銃口だった。
「ルナリアさん?」
 困惑した様子でムサシが尋ねる。しかし、ルナリアはひどく悲し気に、震えるように、声をあげた。
「ローレット・イレギュラーズ! 貴方たちが、鉄帝国に無断でアーカーシュを占拠し、その技術を独占しようとしていることは、特務部隊によって調べはついているわ!」
「ちょっとまて、何の事だ!?」
 仲間が叫ぶのへ、第十三部隊のヒュウが叫ぶ。
「と、特務の調査で調べがついてまス! 言い逃れはききませン!」
「誤解です! 何かの間違いでは!?」
「あ、アタシだって、そう思ってたわ! でも、でも……!
 特務大佐は、あれでも国のためを思って行動しているひとよ! それがつまらない嘘をつくとは思えない……!」
 ルナリアは、動揺して、震えるような声色で言う。信じられない。だが、パトリック・アネルが無意味な悪意を振りまく無能な男だとは、決して思えない。だが、ローレット・イレギュラーズが謀反を考えているなどもまた、にわかに信じがたい。
「……昔から、ルナリアさんは真面目でしたからね。ルナリアさんがそういうなら、パトリックさんにも、きっと事情があるのでしょう」
 ムサシが言う。
「ですが……それ故に言います! その命令は間違っている……!」
「ムサシ……!」
 ルナリアが、その目じりに涙を浮かべた。
「こんな形で、戦いたくない……! おねがい、投降して! 何とかうまくとりなしてあげるから……!」
「自分たちは、ここで立ち止まる気はありません!」
「そういう事だ。
 ……ムサシ、やれるか?」
 仲間がそういうのへ、ムサシは頷く。
「はい! ですが、出来れば傷つけず取り押さえたい……!」
「任せろ。こんな所で殺し合いとは、此方も寝ざめが悪いからな」
 仲間達が頷き、武器を構えた。第十三部隊の面々も、武器を構える。
「……警告はしたわ。此方は加減はしない」
 ルナリア率いる第十三部隊たちもまた、敵意と共に武器を手に取った。

 魔王城の回廊で、悲しい衝突が発生しようとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 特務派の調査チーム、第十三部隊。それを率いる少女、ルナリア。
 事情はあれど、しかし今は捕まるわけにはいきません。
 どうにか無力化してください。

●成功条件
 第十三部隊全員を無力化する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 イレギュラーズ達は、アーカーシュ完全制覇を目的として、エピトゥシ城の攻略に着手していました。
 その第34番回廊を攻略中だった皆さんは、背後より迫る気配を察知。
 そこには特務派の調査チーム第十三部隊、そしてルナリア・スターライトという少女がいたのです。
 ルナリアは言います。「特務派に命令が下された。ローレット・イレギュラーズの排除が目的だ」と。
 特務派に下された命令は不可解なもので、おそらくは魔種とかしたパトリック・アネルによる、イレギュラーズ達の妨害が目的でしょう。
 しかし、現時点でそれを指す証拠がない以上、特務派軍人たちへの説得は難しい。
 結局は、実力で無力化するしかないのです……。
 皆さんは、第十三部隊、そしてルナリアと戦い、これを無力化してください。
 なお、このシナリオにおいては、不殺がなくとも、手加減を宣言すれば、多少の与ダメージ減と共に、不殺と同等の効果を得られるものとします。(不殺属性を持った攻撃の方が、ずっと効率はいいです)。
 作戦エリアは、魔王城第34回廊。戦闘ペナルティなどは発生しません。

●エネミーデータ
 ルナリア・スターライト
  第十三部隊の隊長にして、ムサシ・セルブライト(p3p010126)さんの関係者さんです。
  なんでもこなせる遠近両対応のユニットで、レーザーブレードとレーザーガンが得手。しかし、元世界では、レーザーガンの腕は、ムサシさんに唯一敗北を喫したとか……。
  第十三部隊の最大戦力になります。いわゆるボス級の相手です。『復讐』を持つ攻撃に注意。逆境こそに彼女は燃えるのです。

 ニース
  第十三部隊の副隊長にして、割と歴戦の鉄帝軍人です。
  鉄帝にしては知恵派で、ともすれば突っ走りがちなルナリアをサポートします。
  銃による攻撃を得意とする援護タイプで、彼がいる限り、第十三部隊に全体に、命中アップのバフがかかり続けます。

 ウェンディ
  第十三部隊隊員。ラドバウファイターで、ルナリアとはちょくちょく当たっていた仲だそうです。
  近接特化型で、回避命中重視の軽量ファイターになります。体力面は少し低めなので、そこを狙うと良いかもしれません。

 ヒュウ
  第十三部隊の通信兵。元々は機械いじりの得意な一般人だったようです。
  最新の鉄帝マシーンで、皆をサポートします。各種バフスキル、回復スキル等が担当です。

 第十三部隊隊員 ×16
  第十三部隊の隊員たちです。個性は様々ですが、特務派に拾われたため、ある程度の恩義を感じていることは同一。
  基本的に鉄帝ファイターなので、守りというよりは攻めに特化した構成。
  防御面が怪しいので、此方も正面から衝突してやるといいかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <Stahl Eroberung>伸ばした手は、触れ合う事は無くて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者

リプレイ

●一触・即発
 魔王城第34回廊。長く続くこの果てなくすら感じる回廊にて、イレギュラーズと特務派軍人で構成される第十三部隊は、まさに一触即発の状況にてにらみ合っていた。
 特務派閥第十三部隊――ルナリア・スターライトという少女率いるこの部隊は、特務派の戦力として、確かに赫々たる戦果を挙げていたチームである。そして同時に、今この瞬間までは、共にアーカーシュを踏破する仲間でありライバルであったはずだったのだが……。
「投降しなさい。これが最後の通告よ」
 ルナリアがそういう。ルナリアが言うには、特務派にはローレット・イレギュラーズとの交戦と無力化が命令されている。その理由は様々で情報は錯そうしている様だが、ルナリアたち第十三部隊が受け取った命令には、『ローレットは鉄帝を出し抜き、アーカーシュを私物化しようとしている』というようなものであった。
「もー! どうしてわたしたち悪いことしてないのに狙われなきゃいけないのー!
 こっちの話も聞いてよー!」
 むぅ、と頬を膨らませるように言うのは、『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)だ。当然、そのようなことはユウェルはもちろん、他の仲間にとっても寝耳に水の話だ。ローレット全体としての指針としても、当然のことだがそのような作戦は実行されていない。
「だからー! わたしたちはそんなことしてないの! パトリック、っていう人が嘘をついてるんだよ!」
 ユウェルの言葉に、第十三部隊の副隊長、ニースが頭を振った。
「……確かに、命令は不可解です。ですが――我々特務は確かに、強引な所と秘密主義的な所はあります。それでも、くだらない嘘で鉄帝の国益に損なうようなことはしてこなかった。もし、この命令が嘘であるとするならば――」
 ニースはそう言って、しかし頭を振る。言葉は飲み込んだ。あるとするならば、パトリックが『壊れて』いる場合。例えば、魔種の呼び声でも食らい、狂気に陥ったか、あるいは魔種そのものになってしまったとか。
 だが、それも確証のない憶測に過ぎない。
「申し訳ありませんが、此方の確証がない以上、我々としては上層部に従うほかありません。
 此方も妥協案は提示しています。戦闘を停止し、我々とともに来ていただきたい」
「こう言っては何だけど、そちらの指示に従い、此方が無事に帰れるという裏付けが取れていない」
 静かにそういうのは、『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)だ。
「それに、此処には魔王なるものが復活しているとか。速やかにこれを排除しなければ、復活した魔王とやらがどう動くか、予測がつきません」
 それは、ニースにもわかっていたことだった。だが、ニースは本流から外れたとはいえ、軍人である。混乱した状況下において、上司の命令という指針に従わなければ、最悪を踏む可能性も、多く経験してきたのだ。この状況の兵士にとって、イレギュラーズに従うか、上司に従うか、それを即座に正しい方を察して決めろ、とは酷な話であろう。もちろん、この場合正義はイレギュラーズにあるのだが、それでも、神ならぬ身の彼らには、それを知るすべはないのだ。
「ふん……『アイツは良い奴だ』とか、『きっと何か考えがある』とか、そんなヤツに裏切られることなんて、あたしはよくよく聞いたことがあるぜ」
 挑発するように、『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)が言う。
「ま、あたしは『どっちもでいい』んだ。アンタたち鉄帝側がケンカを売って来るなら、喜んで買ってやるよ!」
 ぐるる、と唸るように言ってみせるシオン。表情こそは極端な変化はなかったが、攻撃意志だけは確かに存在するのを、第十三部隊の面々は受け取っていただろう。
「交戦するなら、手加減はしないよ?」
 第十三部隊のウェンディがそういうのへ、答えたのは『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)だ。
「手加減しないっすかそうっすか、イレギュラーズの敵になるっすか……」
 手にした魔封石を、手でぱきり、と砕く。脅しの意味もあったが、この魔力を発動するためのスターターの意味もある。
「コチラの敵になるという意味を十分理解しての事っすか?」
 ドスのきいた声で言うレッドに、通信兵のヒュウが、ひエ、と悲鳴を上げる。その迫力は相当なもののようだ。
「うろたえないで、アタシたちなら負けないはずよ!」
 ルナリアが勇気づけるようにそういう。レッドが胸中で感心した。
(中々肝はすわってるみたいっすね。とはいえ、それでこちらも収まるわけにはいかないんっすけどね!)
 さぁて、こうなると『脅し』で退かせるのは不可能……ならば。
(やれやれ、こっちも本気でやるかね)
 胸中でそう呟きつつ、『グリムの友達』ヨハン=レーム(p3p001117)は大げさにその両手を広げて見せた。
「そう、その通り。特務大佐の読みどおりアーカーシュを占拠して? 技術を独占して?
 キミと二人でデートしようと思ってた所なんだよねぇ。
 ええと、ルナリアくんだっけ? キミ一人なら投降も考えるのだけど困ったものだなあ。
 十三部隊を全て撤退させてくれない? 二人きりでイチャイチャしようよ。一緒にお城に住まない?」
「ふぇ?」
 と、きょとん、とルナリアが目を丸くする――その一瞬後に、わかりやすくむっとした表情を向けた。
「ば、馬鹿にしてるの!?」
「馬鹿にしてるのはキミだ」
 ヨハンがそういう。
「はあ、くだらん。この僕に、イレギュラーズに本気で勝てると思っているのかね!
 良いかね? 敵に対して投降しろだの取りなすだの迷ってる時点でもうダメ。
 僕はキミとデートするその一点のみに集中している。取ってつけたような覚悟でこの差が埋まると思うか小娘!
 お前はなぁ……闘争に失礼なんだよ!!」
 その言葉に、レッドが反応する! 隙をつくように放たれた魔砲が、ヒュウを狙った!
「ひぇぇ!」
 悲鳴をあげながら、ヒュウが防御態勢をとる。貫く閃光が、ヒュウの身体を叩いた。
「ヒュウ!」
 ルナリアが叫ぶ!
「奇襲攻撃!? ず、ずるくない!」
「先手必勝は低さの華だぜ、お嬢さん!
 ムサシ! しょうがないからデートの相手は譲ってあげるよ!」
「了解であります!」
 ヨハンの叫びに、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が跳躍。ルナリアにレーザーブレードで斬りかかった! ルナリアは、即座に対応、レーザーブレードを取り出し、斬り上げるように迎撃! 二つの光剣が、バチバチとスパークを噴き上げる!
「あなたの相手は、自分でありますっ!」
「ムサシ! あなた、ほんとに……!」
 辛そうな顔をするルナリアに、刹那の罪悪感を覚えつつも、その手に力を込めた。ルナリアを抑えるように振るうレーザーブレード、その隙をついて、『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は治療術式を編み上げ始める。
「ルナリアさん達は、悪くないみたいだけど……!
 今ここにいない、嘘をついて僕等に濡れ衣着せた悪い奴を嘲笑わせるだけだから。
 投降なんてできない……それから、誰も死なせない!」
「総員、隊長の援護を! 残ったメンバーは彼を狙いなさい! おそらく、彼と先ほどの鉄騎種の彼が向こうの生命線です!」
 ニースが言うのへ、兵士たちが動き始める。
「狙ってくるなら、それなら僕にだって、反撃できることがあるんだから!」
 祝音が術式を転換、閃光術式に切り替える。聖光のプレッシャーが、迫る兵士たちを圧しとどめる! 『Immortalizer』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)の放つ黒の閃雷が、兵士たちを貫いた! その閃光の先に、フレイがいる。堂々と宣言するだろう。俺はここにいるぞ、と。
「が、黙って生命線を斬らせてやるつもりもなくてな」
 フレイが言う。
「いずれにせよ、問答だけでは平行線だ。己が信念が交わらないなら、力で押し通せ。勝者が正義だ、ってやつだ。
 シンプルで、好きだろう? 鉄帝のは、そういうのが」
「上等だ!」
 叫ぶ、ウェンディ! 飛び込んできたまま、巨大な斧を振り下ろす彼女を、フレイはルーンの盾を展開! その打撃を受け止める!
「ちぃ、殴って効かない奴は苦手だねぇ!」
「おっと、デートの相手としては失格か。それは残念」
 フレイが籠手で殴りつける。ウェンディは斧の腹でそれを受け止めて、後方へと跳躍。
「例えボクの好きな鉄帝民のひとつといえど!
 世界を見る歩みを阻むなら容赦はしないっす!!」
 レッドが叫び、再び魔力を充填、その手を掲げるや、生じた魔法陣が強烈な砲撃を撃ち放つ! それを合図にしたように、激戦はここに幕をあげた。

●信じるモノ
「ひえェ、た、大変ダ……!」
 ヒュウがカタカタとハンドベルとコンピュータを操作する。一斉号令が兵士たちにもたらされ、士気の上がった兵士たちが突撃してきた!
「やるぞ! 今はとにかく、命令を遂行するんだ!」
 兵士たちが叫ぶ。それを受け止めるように、シオンは利刃を煌かせた。
「まずはまとめて足を止める! あの通信兵を狙うんだ!」
 放たれた利刃は、空中で無数の刃の雨と化して降り注ぐ。思わず足を止めた兵士たちの間隙を縫って、ユウェル、雲雀が突撃した。
「もう! 人の話はちゃんと聞きなさーい! わたしたちはなんにも悪いことしてないでしょー!」
 ユウェルがぷんぷんと怒った様子を見せながら、斧槍を激しく振るった! ポールの部分で、兵士たちを薙ぎ払う!
「つ、強い!」
「ヒュウ曹長が狙われるぞ! 守り通せ!」
 兵士たちが叫ぶのへ、ユウェルは再度斧槍を振り回す。悲鳴をあげつつ、兵士たちが吹き飛ばされるなか、むぅ、とユウェルは頬を膨らませる。
「すぐには近づけない……けど!」
「こっちも、一人じゃないんだ」
 雲雀が回り込んでの攻撃! ヒュウにその掌打を当てると、そこから発生した術式のインパクトが、ヒュウを吹き飛ばした!
「いつの間ニ……!?」
 ヒュウが悲鳴をあげつつ、床を転がる。
「まずいですね、此方の補給線を断たれては……!」
 ニースが声をあげるのへ、シオンが短剣を振るい接敵する。ニースは銃剣でそれを受け止める。甲高い金属音が、接触を知らせていた。
「あんたが一番冷静そうだ。何かおかしいってわかってんだろ?」
 シオンが声をあげる。
「あんたらみたとこ根っからの軍人ってわけじゃなさそうだ。
 なんで従ってるかはしらねーが、生命を懸けるべき場所かどうかは考えたほうが良いぜ」
「そう、なのですがね。此方としても戸惑っているのは事実ですが……!」
 ニースが銃剣を振るい、近接用の拳銃を取り出して、シオンを振り払った。たたん、と放たれた銃弾を、シオンが切り伏せる。
「ちっ、これだから……!」
 シオンがニースと短剣で切り結ぶ。一方、ポーカーフェイスによる脅しをかけつつ、
「楽に死ねるなんて思わないほうがいいっす……ひひっ」
 レッドが放つ狂気の終焉術式が、紫の帳の下に兵士たちを沈めている。兵士たちはパニックに陥りながら、でたらめに銃弾をばらまき始めた。
「さて、脅しはこんなもんっすかね。
 相手は確かに実力はあるみたいっすが、兵士としてまとまってるとは言い難いっす!」
「ああ、非正規部隊みたいなものだろうからね。僕もよく知らん連中だし」
 ヨハンが言う。実際のところ、十三部隊は『スカウト組』だ。正規の軍人は、精々ニースと兵隊の数名、と言った所だろう。それを率いているルナリアの指揮力の高さにはうならされる所だが――。
「肝心なところで詰めが甘いのは、非正規軍人って感じだ!」
 とはいえ、決して侮れるような相手ではない。ヨハンも実際には回復に手いっぱいで攻撃にうつるタイミングを計れずにいたし、同じく回復手の祝音も、攻撃にうつる余裕はあまりないといえる。敵の数は多く、ルナリア、ウェンディ辺りはアタッカーとしても優秀だ。
「やっぱり、通信兵の人と、副隊長の人を止めたい……!」
 祝音がそういうのへ、レッドが頷く。
「じゃあ、通信兵、狙い撃つっす!」
 掲げたレッドの手に、巨大な魔法陣が現出する。その魔法陣が激しく光を放つや、解き放たれた魔力は光の砲撃となってヒュウを貫いた!
「くっ、ごめんなさイ! もう……!」
 ヒュウが意識を失って倒れる――同時、ウェンディとフレイの決着もつこうとしていた。
「ちぃ、まるで手ごたえがない!」
「悪いな、そう簡単にはやられてはやれなくてな」
 ウェンディの攻撃は、ほとんどフレイには効かない様だが、しかしフレイ自身もさほど攻撃力では高いとは言えない。お互いに決定打を撃てない状態だったが、そこに乱入したのは、雲雀だ。掲げた手から放たれる、神聖なる光。天よりそそぐそれが、ウェンディの身体を貫く。
「くっ、しまった……!」
 悔いても遅い。ウェンディは光に打ち貫かれ、そのまま意識を手放した。
「大丈夫か?」
 尋ねる雲雀に、フレイは頷く。
「ああ。だが、まだ兵士は残っている」
「無理しないでね。僕、まだまだ回復できるから」
 祝音が言うのへ、雲雀は頷いた。
「頼りにしている。さぁ、残りを無力化しよう」
「おっけーっす! ヨハンさん、ムサシさんの後押しを!」
 レッドがそういうのへ、ヨハンが頷く。
「しょうがないね。じゃあ、フルコースと行くか」
 ヨハンが静かに目を閉じ、聖句を唱えた。祈り、神聖なる力を降ろす、その術式。
「さぁ行けムサシ! 男女平等パンチだ! ぶっ飛ばしてこい!!」
 その光を背に受けて、ムサシは跳んだ。レーザーブレードが、交差する。ルナリアの瞳に、涙がこぼれる。
「こんな再会なんて、したくなかったわよ……!」
「自分もであります……!」
 実力は伯仲――いや、ルナリアがわずかに圧していたかもしれない。それでも、ムサシは立ち上がった。スーツの内側にたぎる、焔。その熱に負けないように。心を、燃やす。
「自分は、貴女に憧れていた。
 勝てるのは銃の腕だけ。格闘術や剣術は勿論、戦術論や学問でも貴女は一番で、揺ぎ無くあり続けた貴女が眩しかった……!」
 レーザーブレードを振るう。上段からの一撃――ルナリアは、それを受け止めることはなかった。受け流す。つるり、と滑る様に、ムサシのレーザーブレードが床を抉った。その隙をついて、ルナリアの蹴りが飛ぶ。瞬間的に周囲をエネルギーの力場で覆うシューズの蹴りが、スーツ越しにムサシの身体を抉る。
「やはり、一枚上手……!」
「けど、銃の腕だけは、アタシだって勝てなかった」
 ルナリアが言う。
「悔しかった……アタシはずっと、トップをとり続けてたから。傲慢さを思い知らされた、って思った。
 だから最初は、貴方を越えようと思った……!」
 かちゃり、と銃を構える。お互いに。
「銃の腕で幾度敗れても訓練を重ねて挑む貴女に、自分も負けられない、という気持ちを抱き続けられました。
 ……貴女は、本当にすごい人でした」
「貴方だってそうじゃない。アタシに他の科目で負けても、言い訳をしなかった。アタシとは違うとか、そういう言い訳をしないで、真っすぐ……!」
 だから、とルナリアは言う。
「そんな貴方が、間違ったことをしているなんて、信じられない……!」
 辛そうに、そう言った。信じたいものと、信じるべきもの。その軋轢が、彼女の心を揺らしていた。
「言葉を尽くしても、貴女を納得させることはできない……!
 でも! ここで自分を曲げるのは、嫌だ!
 自分も、貴女のように、正しく、強くあり続けたい!
 今、負けるわけにはいかないんだっ!」
 引き金を引く。お互いに。
 発射されるレーザー光。
 それが片や、ムサシの頬を擦過し。
 片や、手にしたレーザーガンを貫いた。
 この時は――迷いと、想いが、勝敗を分けた。
「やっぱり、貴方にはかなわないのね」
 ルナリアが、言った。
「いいえ。紙一重、でありましたよ」
 ムサシが、言った。
 ルナリアが、座り込む。
「……降参、するわ」
 そう言った。
 一方、シオンがニースの首筋に刃を当てる。ニースが両手をあげた。
「お見事」
「アンタもね。で、降参する?」
 シオンの言葉に、ニースは頷いた。
「もちろん。隊長が停戦を命じたのなら、逆らうわけにはいきますまい」
「というわけで、みんなもストップ、ストップ!」
 ユウェルが、わたわたと両手を振ってみせた。兵士たちが、慌てて戦闘を停止する。その様子を見て、にこり、とユウェルは笑った。
「よーし! じゃあ、今度はわたしたちの話をきいてね!」
「そうだね。あと、怪我しちゃった人は言って。僕が治せるからね」
 祝音の言葉に、ニースは頷いた。
「ありがとうございます。感謝を」
「別に、ボク達はそっちを何とかしようって気はないっすからね」
 レッドが言う。
「ま、これでめでたしめでたしだ。良いんじゃない?」
 ヨハンが肩をすくめた。
「歩けるか? いったん外に戻ろう。
 俺たちも消耗しているからな」
 フレイの言葉に、ルナリアが頷いた。
「ごめんなさい。ただ、やっぱり、特務大佐がこんな命令を下すとは思えないの……」
「事情があるのかもしれないね」
 雲雀がそういうのへ、ムサシは頷く。
「ええ。それを調べるためにも、一度戻りましょう」
 その言葉に、皆は頷いた。
 突如として起きた衝突は、最善の結果で幕を閉じたのである――。

成否

成功

MVP

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 果たして、特務部隊には一体何が起こっていたのか――。

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