PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>インス島の深き怪魚

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●インス島の怪異
 インス島――。
 ダガヌ海域に存在する無人島の一つだ。南国風の木々が揺れ、青い海が広がるこの島は、しかしその『表層』からイメージされるものとは違い、どこか重苦しく、じめじめとした陰湿な空気を纏っていた。
 実際、この島の付近は、腕利きの船乗りすら航行を避ける傾向にあった。海の上は孤立する状況が多く、すがるものは己の腕と、超常的な『運』のみだ。その運を引き寄せるゲンを担ぐ船乗りたちは、殊更不吉とされるこのインス島に近寄るものはいない。
 多くの船乗りたちはゲン担ぎのために近寄らないわけだが、それは重畳的な意味合いだけでなく、実際に理に語っていた。というのも、ここには悍ましき怪物たちが、集落を形成しているという可能性があったわけだ。
 『現実的な』船乗りが、この島の近くを通った時の話をしよう。天候は晴れ。海に荒れは無し。遭難や難破の可能性などゼロと言い切っても良いほどの順調な旅路の中、その船はついぞ帰らなかった。
 後日、付近を漂流していたその船を検めてみれば、内部は血にまみれ、恐ろしい戦闘が繰り広げられていたことが確認できた。奇妙なことに死体はなく、おそらく全員が何者かに連れ去られたのだろう、という事で結論がつけられた。
 というのも、内部には明らかに、人のものでは無い湿った足跡が残っていたのだ。人の足と、魚のヒレを合わせたような、奇妙な足跡。そして、生臭い、吐き気を催すようなにおい。サハギン、という魔物がいる。半人半漁の怪物だが、今回の事件はそれの仕業を彷彿とさせていた。
 ――サハギンたちはどこから現れ、そしてどこに船員たちを連れ去ったのだろうか? 答えは不明だが、予測できるのは、一つしかなかった。
 つまり、インス島。サハギンたちはそこに住み着き、そして船乗りたちを連れ去ったのだろう――。

「いぃぃぁぁぁぁ いぃぃぁぁぁぁぁ」
 奇妙な声を、サハギンたちはあげる。吐き気のする生臭い体臭。滝の近くにある自然の穴倉から、無数のサハギン……深怪魔・ディープサハギンたちがはい出し、連れてこられたばかりの新鮮な『肉』を前に、まるで神に祈りをささげるみたいにうずくまった。
「いぃぃぃぃあぁぁぁあ いぃぃいぁああああ」
 ディープサハギンたちが祈る様に声をあげる。やがて一匹のディープサハギンが、『肉』を解体しはじめた。解体した肉を、ひときわ大きな石の上に、供えるように置く。ならばこの石は、祭壇なのだろう。彼らの祭壇。なにか、自分たちを生み出した、大いなる何かに感謝を伝えるための。ならば、この『肉』は、贄なのだ。そしてその肉の出どころは、行方不明となった商船の乗組員に間違いなかった。
「おぉぉお、おぉぉおおおお」
 ディープサハギンたちが、祈る様に唸る。ディープサハギンたちに、意志を通じるほどに知能はない。だが、何か神にすがり、感謝し、繁栄を祈るような気配は、確かに感じられたのだ――。

●インス島探索
「というわけで、このインス島の調査をお願いしたいのです」
 と、フェデリア総督府に所属する職員の男は、あなた達イレギュラーズ達にそう告げた。
 ここはシレンツィオ・リゾートはフェデリア島の、ローレット支部。
 フェデリア総督府から、ダガヌ海域の調査を依頼されていたイレギュラーズ達は、早速その一環である依頼に取り組むこととなった。
「この島は、かつては何の変哲もない島だったのですが……数か月ほど前から、どうも、異形の怪物が住み着いており、すっかり雰囲気も変わってしまったようなのです」
「ディープサハギン……深怪魔(ディープ・テラーズ)、って奴か?」
 仲間の一人がそういうのへ、職員の男は頷く。
「はい。凶暴で、多少の知能は持ち合わせているようです。付近を通った船舶を襲い、食糧を奪い、船員を誘拐する――」
「何のために?」
「わかりません。が、生きてはいないでしょう。食事にされたのか……」
 そう言いながら、職員の男は口元を抑えた。想像すれば恐ろしい事態だろう。
「インス島の地図自体は存在します。広い場所なので、一度に捜索することは不可能でしょう。
 まずは、この滝のあたりを目指してください。付近を航行し、生き残った船から、その方へと移動するディープサハギンを見かけた、という報告がありました」
「ディープサハギンたちはどうすればいい?」
 イレギュラーズ達の言葉に、職員の男は頷いた。
「可能な限り殲滅してください……恐ろしい怪物です。生かしておいてはならない」
 その言葉に、イレギュラーズ達もまた頷いた。船を襲い、船員の命を奪う事を目的とした怪物たち……言葉も通じぬのならば、それを捨ておくことはできないだろう。
「インス島は危険な島です。くれぐれも、深追いはせずに、今回は近辺の調査と敵の殲滅にとどめておいてください。
 それでは、何卒宜しくお願い致します」
 そういう職員の男へ、あなた達は頷いて見せた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ダガヌ海域調査作戦。インス島の調査をお願いいたします。

●成功条件
 すべてのディープサハギンの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 インス島。それはダガヌ海域に存在する、大きめの無人島です。
 近頃、付近を航行する船が何者かに襲われ、船員のことごとくが誘拐・行方不明となるという事案が多発。
 その犯人と思わしきが、インス島に住まうというディープサハギンという深怪魔(ディープ・テラーズ)です。
 みなさんは実際にインス島に向かい、行方不明者の遺品(おそらくもう死んでいるでしょう)の捜索と、ディープサハギンの排除を目指してもらいます。
 今回捜索するのは、インス島の滝の近辺。どうやらこの辺りには、ディープサハギンの集落らしきものがあるようです。
 作戦決行タイミングは昼。密林をすすみ、やや開けた滝のあたりに到着することになります。
 道中も警戒を怠らず。不用意に進めば、ディープサハギンの奇襲を受ける可能性があります。

●エネミーデータ
 ディープサハギン ×28
  深怪魔(ディープ・テラーズ)が一つです。サハギン、という半人半魚の怪物が、何者かの手によって変質したもののようです。
  まるで神を崇めるような、独特の行動を行いますが、知能のほどは高くなく、意志疎通は不可能です。
  手にした汚いトライデントは、貫いた相手に『毒系列』を与えるでしょう。また、簡単な魔術を使用する個体もおり、その呪いには『不調系列』を付与するものがあります。
  単体ではさほど脅威とは言えない個体ですが、数が多いことに注意してください。速やかに対処していかなければ、数の暴力ですりつぶされる可能性があります。
  順調に、見つからずに滝にまで到着出来れば、最初に遭遇するのは10体。そこから3ターンごとに5体追加され、最終的に28体になります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <光芒パルティーレ>インス島の深き怪魚完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
アンリ・マレー(p3p010423)
亜竜祓い
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ

●インスの魔
 南国の無人島は、何処か蒸し暑い。熱帯雨林のような木々の自生する森の奥は、何故だろうか、酷く恐ろしい、何か怪物のようなものが潜んでいるように思える。
 それは実際のところ事実で、この無人島には、ディープ・サハギンなる怪物たちが跋扈しているのである。その事実を知っているから、この島に不穏なそれを感じるのだろうか? いや、それを知らなかったとしても、この重苦しい、息苦しいような雰囲気を、きっと感じ取れたかもしれない。
 何か邪悪な……恐ろしいものが、この地にいたような、そんな気配。
「うへー、シレンツィオ・リゾートの近くにある海域だってのに、めちゃくちゃ辛気臭いなぁ」
 『鮪導弾』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)がそういう。前述したとおり、重苦しい空気があたりには立ち込めている。
「で……依頼もなんか、暗いんだよなぁ。助けられるやつは……」
「その望みは薄そうですわね」
 神妙な顔で言うのは、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)だ。胸元に、祈るように手を当てる。依頼主の話によれば、被害者が生きて帰ってきた例はない。そして、直前の被害者が発生したのも、少し前になる。
「……何を目的としているのかはわかりませんが。許しては置けないのは事実のようですわね」
 ヴァレーリヤがそういうのへ、仲間達は頷いた。
「人に仇なす連中ですし、許す理由もありませんしねぇ……」
 ふむふむ、と唸りつつ、『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がそういう。
「さておき、地図がありましたよね。ディープ・サハギンたちの住処は、滝の方にあるとか……」
「たしか、そのはずだね」
 うん、と頷くのは『亜竜祓い』アンリ・マレー(p3p010423)だ。アンリは地図を広げながら、
「この先の森を進んでいくみたい」
「森、ですか。少し不安ですね」
 『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)がそう言った。
「この辺りは、サハギンのテリトリーだと考えてもよさそうです。
 知能は低い……ようですが、簡単とは言え、魔術を使えるのは、少し、あやしいです」
「そうだねぇ。一応、気をそらすためのアイテムはたくさん用意したけれどぉ」
 そう言いながらバッグの中身を確認する、『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)。
「うん。敵の陣地の中を進む……そう思った方が、よさそうだねぇ」
「思ったより、面倒そうな仕事なんだなぁ」
 ワモンが嘆息する。
「元より敵地の探索です。シンプルに大暴れ……とはいかないですね」
 むぅ、とベークが唸った。
「私が先行して偵察いたしますわ」
 ヴァレーリヤが言う。
「こう見えても、気配遮断の心得はありますの。こう、官憲から逃げる時とかによく使いましたわ……」
「いや……その、なんというか……」
 遠い目をするヴァレーリヤに、アンリが困ったような顔で口ごもった。それを見たヴァレーリヤが、クスクスと笑う
「もう、冗談ですわ! 官憲から逃げる時は、もっとこう、アグレッシブに酒瓶で」
「まぁ、それはいいのですけど」
 これ以上はヤバい犯罪告白がとんできそうだったので、ハインが止めた。
「とにかく、気をつけてくださいね、ヴァレーリヤさん」
「もちろんですわ!」
 安心させるように、ヴァレーリヤが笑う。
「珠緒も、ファミリアーを先行させるのです」
 そう言ったのは、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)だ。傍らの『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が、頷く。
「あたりの捜索はボクに任せて。
 ……その。痕跡が残ってるなら、ちゃんと探してあげたいから」
 蛍がそういうのへ、シルキィが頷いた。
「……そうだねぇ。お願いね?
 ちゃんと、連れて帰ってあげたいからねぇ」
 こくり、と蛍は頷く。助けられるものがいれば、助けることのできなかったものも居る。イレギュラーズ達は、決して悲観的な思考をしているわけではないが、過度に楽観的に過ぎるほど、これまでの戦いで楽をしてきたわけではない。現実は良く知っている。時に、避けられないものがある事も。
「それじゃあ、ヴァレーリヤさん。先行をお願いするのです。
 珠緒のファミリアーはこの子」
 と、小さな子ザルのファミリアーを、ヴァレーリヤへと託した。
「何かあった時には、この子にサインを。すぐに駆け付けるのです」
「了解ですわ! では、参りましょう!」 
 ヴァレーリヤの言葉に、仲間達は頷いた。かくしてイレギュラーズは、うっそうと生い茂るジャングルへと侵入する。木々のあちこちから、邪悪な何かが此方を覗いているような、そんな錯覚を覚えた。それが錯覚であることを祈りつつ、ヴァレーリヤ、そして後続の仲間達は、熱帯の草木と湿った土をゆっくりと踏みしめた。

●ディープ・フォレスト
 むしむしとした、熱い空気を感じる。南国のそれは、シレンツィオ・リゾートの、何処かさわやかさを感じるそれとは違う、何か重くのしかかる、息苦しいような重さだ。
 それが、この地に潜む、何か邪悪な気配のもののせいなのか、それは分からない。
 ただ現実として、不安と、重苦しさがのしかかってくるのは事実だ。それは、イレギュラーズ達が臆病だったから、等という理由では決してない。むしろ彼らが優秀な探索者であるからこそ感じるような類のものだった。
「……足跡が残ってる。魚のヒレみたいな……」
 蛍がそういうのへ、ワモンが頷いた。
「間違いなくディープ・サハギンって奴だろうなぁ。ここを通り道にしてるのか?」
「その可能性はありそうですよ。他の所に比べて、草木の生え方がまばらです。踏み散らかされたり、刈り払われたりしたんでしょうね」
 ベークが言うのへ、仲間達は頷く。このルートは、他の道に比べて、言われてみればいくばくか『歩き易い』。という事は、『ここを頻繁に何かが通っている』と言えるだろう。
「なにも通るものがいなければ、草木は生え放題だからね」
 アンリがいうのへ、ハインが頷いた。
「……そうですね。もしかしたら、この道は避けた方がいいかもしれません。
 一度、外れた方がいいかも……」
「そうですね」
 珠緒が頷く。
「ヴァレーリヤさんが先行してくれていても、もしかしたら、サハギンたちと鉢合わせになってしまう可能性はありますから」
「向こうもこの道、通ってるかもしれないもんねぇ。それに、このルートを通るなら、ヴァレーリヤちゃんの危険度も増しちゃうからねぇ」
 シルキィが、ふむふむ、と頷きつつ、言う。この状況下で、真っ先に敵にカチあうとしたら、先行しているヴァレーリヤだろう。
「珠緒ちゃん、ヴァレーリヤちゃんに、ルートの変更を伝えられる?」
「はい、もう一体の、小鳥のファミリアーにメモを持たせて先行させるのです。その間、監視の目が少し狭まりますから……」
「おう、任せてくれ! その分、オイラも目を皿のようにするぜ!」
 ワモンの言葉に、珠緒は頷いた。珠緒が小鳥にメモを飛ばしてヴァレーリヤに連絡を送る。その間に、蛍は何かを見つけたらしく、足下にかがみこんだ。
「……メモ帳だね。連れ去られたって言う、船員さんのかも……」
 呟きながら開いてみると、練達製のカメラで撮られたのだろう、女性の写真が、手帳の最初のページに張り付けられていた。家族なのだろうか? 或いは、恋人か。わからない。ただ、何となく、蛍の思考の『シビアな部分』が、もうこの持ち主にそれを尋ねることはできないのだ、と囁いていた。
「……」
 蛍が押し黙るのへ、ベークが声をかけた。
「大丈夫ですか? こう言っては冷たいですが、あまり背負いこまない方がいいですよ」
 仕方のない事だったのだ、と、イレギュラーズ達はそう考える。自分達では、手の出せない所で、既に事件は起きていたのだ。その責任を問われるいわれはないし、その責任を背負っては、きっと心が壊れてしまうだろう。
「うん、うん……わかってる、よ」
 蛍は、その手帳を大切にカバンにしまい込む。痕跡を回収するための、カバン。
「蛍さん……」
 珠緒が心配そうに言うのへ、蛍は微笑んだ。
「大丈夫。ちょっと、悔しいだけ」
 そういう蛍に、珠緒はその想いを抱きしめるように、優しく頷いた。

 しばし進むと、大きな水音が聞こえてくる。付近には水の流れる音もした。川と、滝があるのだろう。大きそうだ。
「途中、ひやひやすることはあったねぇ」
 シルキィが言う。道中、敵が近くを通り過ぎることはあった。が、それもヴァレーリヤからもたらされた情報と、速やかに対応したイレギュラーズ達の行動によって、接触は避けられていた。シルキィは何度か『花火』を打ち上げ敵をそらすことを覚悟したが、どうやらギリギリ、そこまでの事態には至らなかったようだ。冒険に手慣れたものは多かったし、そうでなくても幸運や、天恵(オラクル)による助けも重なった。
 なんにしても、ここまで実に順調に、イレギュラーズ達は歩を進められた、という事だ。ヴァレーリヤが、ととと、と小走りでこちらに戻ってくる。
「いましたわ……岩陰が、住処のようです」
 その言葉に頷いて、共に進む。木陰に隠れながら先を覗いてみれば、滝の岩陰、10匹ほどのディープ・サハギンたちが、生活しているのが見える。生活と言っても、文明的なそれではないし、果たして何をやっているのかまでは分からない。ただ、あちこちをうろうろとし、時折川の中に身を鎮めて水分を摂取するような、そんな行動をしている。
「……!」
 蛍が息をのんだ。住処の近く、森に近い薄暗い場所に、カバンとか、衣服のようなものが、無造作に投げ捨てられているのが見えた。そのまま視線を滝に映すと、滝の前にある、大きな台のような岩場が、赤黒い、何か液体がしみているのが見えた。
「……あそこで」
 ハインが口ごもった。それ以降のことは、何も言わなくてもわかった。何か、儀式のようなものが行われたのであろう。生贄、という言葉が頭に浮かぶ。サハギンたちは、単純な魔術のようなものを行使するという。ならば、知能は低いとはいえ、何かを崇める程度の知恵はあるのだろうことは想像できた。例えば本能的に、強大な何かに付き従うような、そう言ったものだ。
「……これ以上は、看過できません……」
 ハインの言葉に、仲間達は頷いた。
「オイラと珠緒、それから蛍で先に突っ込むぜ」
 ワモンが言った。
「あいつら、絶対許さねーぞ! それから、こんな辛気臭いところはさっさとおさらばして、イカの寿司を食うんだ! ……死んじまった奴らの分まで!」
「お願いします。此方は増援にも警戒しますよ」
 ベークが言うのへ、仲間達は頷く。果たしてワモン、そして珠緒と蛍が、一気に駆けだした!
「うおおお、いくぜ!
 半径十メートル・海豹牙斗燐具素符羅朱(アザラシガトリングスプラッシュ)!」
 ワモンが跳躍し、眼下のサハギンたちに向って強烈なガトリング射撃を撃ち放つ! 驟雨のごとくうち放たれる弾丸が、サハギンたちを貫いた! ぎゃぎゅ、と悲鳴を上げるサハギンたち。ワモンが着地すると同時、光の翼がワモンの頭上を駆け抜ける。共に手をつなぎ、戦場をかける珠緒と蛍。その珠緒から伸びた光の翼が、乱破の翼を以って、サハギンたちを切り裂いた!
「蛍さん、まだ敵はいます!」
「任せて! 引き付けるよ!」
 ぱっ、と手を離しつつ、蛍は跳躍。その軌跡を追うように、桜花の花びらが美しく舞い踊る! 魅せられたサハギンたちが、薄汚いトライデントを片手に、ぎゅあ、ぎゅあと声をあげて蛍へと襲い掛かった! トライデントが、蛍の身体を傷つける。ぎゅぎゅ、と何かを唱えたサハギンの、悍ましい呪文が戦場を飛び交った。受けたものに不調をきたす、呪いの術式だ。
「くっ……ボクが抑えるから、止めをお願い!」
 蛍の言葉に、ヴァレーリヤが吠える!
「どっせええええい!」
 シンプルな、炎のメイスを抱えての突撃! 聖女の咆哮と突撃に、ディープサハギンがぶっ飛んで、木にたたきつけられて動かなくなった。
「あら、柔いですわね! お日様に当たらないからですわよ、もやしっこ!」
 ヴァレーリヤが、メイスをすぐ近くにいたサハギンにたたきつける。ぎゃ、と悲鳴を上げたサハギンが倒れ伏した。
「待ってて、一網打尽の必殺技、準備してるからねぇ!」
 シルキィが強力な術式を編み始める。その身体にまとわりつくのは、糸。意図。絃。或いは愛(いと)か。紡がれる蚕の糸が、願いの言の葉を紡いで、繭を作り上げる。
 一方、クロスボウから放たれるオーラの矢が、サハギンの頭に突き刺さり、絶命させた。
「んー……気配が。増援がくるみたい」
 アンリが声をあげる。その言葉に応じるように、森の奥から三体のサハギンが登場する。
「オッケーです、あっちは僕が抑えます。
 さて、あなたたちの相手はこちらですよ……えーと。魚っぽいなにかさん……?」
 ベークが増援へと立ちはだかる。一方、ハインの力ある言葉による号令が、仲間達の態勢を立て直させ、傷を癒している。
「報告より数が少ないです。たぶん、まだ増援は来ます」
「了解です。僕と蛍君で敵は抑えますから、順次撃破を。
 ハイン君、敵の数は多いうちは、少しの傷も命取りになります」
 ベークの言葉に、ハインは頷いた。
「はい! 回復支援に徹します!」
 響く号令が、仲間達の背中を押す。同時、新たなサハギンたちが姿を現し、戦場は混戦の様相を呈し始めていた。

●祈っていたもの
 サハギンを撃滅し続ける。順調に数は減らせていたものの、次々と投入される増援は、流石にほうっては置けない。
「まったく、こんな大漁は嬉しくありませんわよ!」
 サハギンの頭をメイスで勝ち割ったヴァレーリヤが叫ぶ。一方、神秘を帯びた血の刃が、サハギンの首を飛ばす。珠緒の一撃だ。蛍の桜花は、自身に敵の注意を引き付けると同時に、敵に強烈な隙を晒させる。その隙をついての必殺の一撃。
「蛍さん、ご無理はなさらないで」
「大丈夫! ベーク君も請け負ってくれてるし、ハイン君の回復もあるから……!」
 蛍の言葉に、ハインが頷く。
「大丈夫です、これ以上、この地で人の命を失わせたりはしません」
 ハインの号令が、蛍に立ち上がる力を与える。ベークは再生プロトコルを起動しつつ、サハギンの攻撃を受け止めた。
「……けど、向こうも増援は終わりのようですね。敵の気配が薄れています」
「なら、さっさと決着をつけよう! オイラに続けーい!」
 ワモンがガトリング砲を打ち鳴らす。ダダダダダ! 雷のような砲音と共に、サハギンがハチの巣となって倒れた。アンリのクロスボウがサハギンを撃ち抜き、ぎゅお、という悲鳴と共にサハギンが倒れ込む。
「一気にやっつけよう!」
「なら、必殺タイムだよぉ!」
 シルキィが編み上げた術式、それは言の葉に込めた糸。紡いだ繭。それは空にあがって、願い星に。
「皆、退いて! おっきいの、落とすからねぇ!」
 シルキィが手を掲げると同時に、仲間達が一斉に距離をとる。
 天に輝く願い星。想いは星に。物語は永遠に。廻る月日の祝福が、きっと皆にありますように――。
「いっけぇ!」
 両手を勢いよく振り下ろす――同時、空より星が降った。願い星は、不浄なるものを滅ぼす光に。落着した刹那、暖かな光が、あたりを包み込む。仇なすものには苦痛となる、優しき正しき光。願いと思いの天紡星。果たしてその光がすっかりと去った後には、不浄なるものは跡形も残らない。光の内に消えた深海のサハギンたちは、そのまま光の内へと消え去ったのである――。

「やっぱり。遺品……だね」
 蛍が悲しげに言った。森の入り口に無造作に捨てられていたそれは、被害者たちの持ち物なのだろう。サハギンたちはそれには興味がなく、ただ無為に捨てるだけだったのだ。
「あの台の上の黒いしみ。やはり、血でした」
 珠緒が言うのへ、蛍が頷く。死体の多くは、川に投げ込まれていた。まるで、何者かに捧げるかのように。
「生贄、のようでしたわね……」
 ヴァレーリヤが、口元を抑えつつ言う。あまりにも、非道な行いに感じられた。
「滝裏に洞窟があったぜー!」
 ワモンが声をあげる。
「居住区ですか?」
 ベークの言葉に、ワモンは頭を振った。
「いや、人が住んでるような所じゃない。ただ……」
「変な、絵が」
 アンリの言葉に、仲間達は小首をかしげた。滝裏の洞窟は、じめじめして、何か生臭いにおいが漂っていた。奥の方に目を凝らすと、僅かな光の中に、巨大な壁画のようなものが見えた。
「……神、ですか? サハギンたちが……深怪魔が、崇めている?」
 ハインがいう。そこにうつっていたのは、酷く抽象的な存在だ。魚類、甲殻類、海生軟体動物、そう言ったものの特徴をごちゃ混ぜにしたような、奇妙で吐き気を催すような、生命体。
「……彼らは、これを崇めていた……?」
 ハインの言葉に、シルキィが頷いた。
「……きもち、悪いねぇ。いい神様じゃなさそうなのだけは、わかるよぉ」
 その言葉に、仲間達は頷く。
「ひとまず、これ以上の探索はむずかしいでしょう」
 ハインが言った。
「可能な限り遺品を回収して、帰りましょう」
 ヴァレーリヤの言葉に、仲間達は頷いた。

 この日、この島で無念を残した者たちの想いは、故郷へと帰ることができたのだった。

成否

成功

MVP

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 死した者達も、浮かばれたことでしょう……。

PAGETOPPAGEBOTTOM