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シナリオ詳細

<13th retaliation>ふりかえってはいけないの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●マッチポンプ
「あーあ、めんどくさいわ……」
 雪をさくさくと踏みしめながら少女は言った。
「主上がやれというからやっているけれど、深緑ってどうしてこう隠れ里が多いのかしら。探すのも大変……」
 ひゅるりと冷たい風が吹き抜けていく。彼女の回りには雪がどっさりと降り積もっている。ところどころ塚状に膨れているところを掘り返せば、茨に包まれこんこんと眠る村人を見つけることができる。彼女は凍りついた家の扉をこじ開けた。眠りに落ちたハーモニアの男女がもつれて倒れ落ちてくる。親というものだろうと少女は推測した。ならば子どもがいるはずだ。純真無垢な絶望を持った子どもが。
 彼女は二階へあがった。寝台の奥のクローゼット。彼女はずかずかと歩いていき、クローゼットを開ければ眠るハーモニアの子どもがいた。全身を茨が包んでおり、まるで悪夢でも見ているかのように時折体をよじる。
「おいしそう……」
 彼女は子どもの額へ向けて手を伸ばし、直前で止めた。鋭い感覚が異物を感じ取ったのだ。彼女はクローゼットをしめると、窓から身を乗り出した。

●出会い
「ここもか……」
 ラウラン・コズミタイドは雪に包まれた村を回し見て弓を握りしめた。
 深緑の多くはいまだ謎の茨と冬に覆われている。ラウランは斥候として各地の村を回っているところだった。押し寄せてくるのは目に余る惨状。唯一の救いは冬に巻き取られた人々が冬眠しているかのように眠っていること。
「こりゃあ、イレギュラーズの助けがいるな」
 ふとそうこぼしたラウランは二階の窓から少女が顔を出していることに気づいた。幸薄そうな少女だった。彼女を見た瞬間、キンと耳鳴りがした。その瞬間ラウランはそれを忘れてしまった。森に生きるものが最も大事にしているものの一つ、警戒心を。
「生存者か!」
 ラウランは雪を跳ね立ててその家へ近寄った。少女は疲れたような顔でラウランを見ている。
「俺はおまえの味方だ、いま助けに行く!」
 少女は窓枠へ足をかけるとラウランへ向けて飛び降りた。ラウランはしっかりと抱きとめる。彼女の、ぞっとするほど冷たい肌。ラウランは早口で言った。
「だいじょうぶか、すぐに火を炊くから」
「ううん、いらない。冬の精霊たちが寄ってくるから……」
 それにあなた、と彼女は付け加えた。
「茨咎の呪いにやられかけているわよ」
 ラウランは絶句した。たしかにそのとおりで、彼の身体は冷気ではない何かに毒されつつある。
「ねえ」
 少女は魅惑的な声を出した。毒の入った蜜のような。およそその年では出せない色香を添えて。
「私はね、聖女なの。私と契約すれば茨咎の呪いを祓うことができるわ」
 ラウランが、彼が常と同じであればそんな申し出は一笑に付しただろう。だがしかしその時既に彼は魅了されていた。自分でも気づかないうちに。とにかく彼女を守らねばならない。そんな妙な義侠心でいっぱいだった。
「わかった。契約しよう。俺はまだまだこの辺の村がどうなっているのか調べなきゃならない」
「あなたこのへんの地理にもくわしいのね」
「ああ、なにかあったら頼ってくれ」
「ええ、頼るとするわ。ええと……」
「ラウランだ、ラウラン・コズミタイド」
 少女は幸薄そうなほほ笑みを浮かべる。
「トリーシャよ……」

●依頼
「冬にやられた村を解放してくれ」
 ラウランはあなたへそう頼み込んだ。
「アンテローゼ大聖堂奪還へ貢献したおまえならきっとできる」
 彼は深い信頼をあなたへ寄せているようだった。
「4つある村のうち、3つ以上解放すればこの地区の冬がおさまり、茨咎の呪いも晴れる。聖女さまがそうおっしゃってるんだ」
 聖女? 誰のことだろうか。ファルカウの巫女だろうか。あなたは疑問符をそのままぶつけてみた。
「聖女さまは聖女さまだ。俺を守ってくださってる。ただ外の存在は嫌いだということで今は別のところにいるんだ」
 あなたはいぶかしく思いながらもラウランの言葉を信じることにした。
「さて知ってのとおり、深緑はいまえらいことになってる。茨咎の呪いに覆われ、氷漬けにされちまってるんだ。それはみんなも知ってるよな」
 ラウランはざっくりとした地図をとりだし、あなたへ見せた。かろうじて村の位置関係がわかる。村は遠くはなれており、走って30分はかかる位置にある。行動中の合流は難しかろう。
「問題の地区はここ。手に入った地図は残念ながらこれだけだ。村の大きさは400~600m四方と考えてくれ、そのどこかに『村長』か『神官』と『巫女』がいる。見つけ出した彼らのうちひとりでもいい、この『聖葉』を与えてくれ。影響力を持った人物が目覚めれば呪いは解けると聖女さまはおっしゃっている」
 あなたはラウランの言葉にひっかかりながらもその聖葉を受け取った。モノは本物のようだ。ラウランの言葉も嘘ではないと感じる。だがなんだろうか、この得体の知れない不信感は。

GMコメント

みどりです。クソ暑いので深緑へ涼みにいきませんか。
「●マッチポンプ」および「●出会い」はPL情報です。

やること
1)救出対象の発見 25T以内
 雪に閉ざされた村から『村長』『神官』『巫女』のうちの誰かを探し出し『聖葉』で祈りを捧げ茨咎の呪いを解呪しましょう。
 村の数は4つ。このうち3つ以上で解呪できれば成功です。
 皆さんへ配布された聖葉の数は4枚です。

●村共通事項
 昼です。雪が降っており、非常に寒いです。視野及び各ステータスへ-20程度のデバフがかかります。
 フィールドは400m~600m四方ほどでまちまち。1つの村につき、20軒から30軒の建物がたっています。豪雪のため、ぱっと見でなんの建物かを見極めるのは困難でしょう。

・村A 低地です。井戸を中心に乱雑な円を描くように建物が建っています。
・村B 山の中です。木々を利用したビル的な建物が多く、ほとんどの住民は高層階で暮らしています。
・村C 高山です。もっとも雪が深い村です。崖から突き出すように家々が並んでいます。落ちないように注意してください。
・村D 川でふたつに分断された村です。橋がかかっているので、移動は可能ですが、すこし遠回りになるでしょう。

●エネミー
レッドキャップ
 雑魚その1。放置しておくと眠っている村民を害します。物単中の移技を使用してきます。
冬の精霊
 雑魚その2。放置しておくと雪がさらに激しくなります。神自範攻撃を使用してきます。 

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●『聖葉』
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。

●その他
ラウラン・コズミタイド
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)さんの関係者です。皆さんの指示を聞きます。弓矢による毒・混乱などのBSおよび回復ができます。またよっぽど無謀なプレを書かない限り、25T以上経過した場合、ラウランが連れ帰ってくれます。
「任せてくれ、俺には聖女さまがついてるんだ」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>ふりかえってはいけないの完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
冬越 弾正(p3p007105)
終音
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ

 空は暗く染め上げられ、灰のように雪が降ってくる。結晶が視認できるほどの大粒の雪が『闇之雲』武器商人(p3p001107)の袖を彩っていた。寒さなど感じないかのようにそのものは大股で前進する。その後ろを『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)がちょこちょこついていく。そのほうが歩きやすいのだ。
 手の中の聖葉をまじまじと眺め、アルトゥライネルは顔をしかめた。
「深緑の民の救出もこれで何度目か。しかし聖葉にそんな効果があったとは初耳だな?」
 なにかがおかしい、それが彼を始めとする全員の総意だった。そもそも聖葉に村をまるごと救済する効果があるなどというのが疑わしい。ごく一部の救出対象にだけ使ってきたことはあるものの……。
(どういうことだ? 村長や巫女の能力だと言われれば、まぁそういう村もあるだろうか。深緑には出身の俺にもまだまだ知らない面があるし、この4つの村は何か特殊な役割があるのかもしれない)
 顎に手を当てて思案するアルトゥライネル。
「ヒヒ……ま、聖葉が本物である以上は先ずは動いてみるしかないね」
 武器商人が嗤う。飄々とした声音とは裏腹に、纏う気配は凄みを増した気がする。わかるのはこの存在だけは敵に回してはならないということだ。アルトゥライネルは彼と敵対しないで済んだことをこっそりと感謝した。
「それにしても聖女、聖女ねぇ……そんなご立派な肩書きが付いているならば情報屋の誰かしらが掴んでいそうな気がするが。この依頼には不可解な点が多いぜ」
 突然現れた聖女。これまでとは桁違いの聖葉の効果。ラウランの言葉に裏はなさそうだが、だとしたらこの不信感は何なのだろう。雨露の銀糸が揺れて、鋭い紫紺の瞳がのぞいた。そのものは『残秋』冬越 弾正(p3p007105)と『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と共に行くラウランの背中を見つめた。
(……なにか悪いものが取り憑いている。うん、それはわかるけれど、この程度なら誰でも背負っている程度だ)
 そのままラウランを視つづけているうちに、武器商人は首根っこを鎌で切り飛ばされた。……かのように思えた。一瞬、足が止まり、背中にアルトゥライネルがぶつかる。
「どうした」
「ううん、ヒヒ。宣戦布告ってとこかな、今の殺気は」
 我(アタシ)の目をくらますとはやるねえ。そう武器商人は唇の端を吊り上げた。いまはまだ視通せない。いまは、まだ。
「殺気? もう敵がいるのですか?」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)がひょこりと顔を出す。
「ああ、いるねえ。どえらいのが、じったりと悪意を持って待っているよ」
「うっそ、やあねえ、なに、村の方にいるの?」
『返の風』ゼファー(p3p007625)も話しかけてきた。武器商人は首を振る。
「いいや、遠くから見ているだけだよ。何もする気はないようだね」
「あらそうですか。少し気が楽になりました、なんであれ争うのは心が痛みます」
 ライはちゃっかりと歩きやすい位置をキープし、ぺろりと舌をだして、後悔した。寒さに粘膜がやられそうになったのだ。ザクザクと雪を踏みしめながらライは頭を振った。
「正直慣れないお仕事ではありますが、人を傷つけたり殺したりしないといけないわけではありません。ええ。神のお慈悲と栄光をあまねく地にしろしめすチャンスです」
 そういうライはまさしく敬虔なシスターそのものだった。心のなかでは「明日の酒代さえ入ればいい」と思ってはいたが。
 ゼファーのほうはというと、いつまでも続く雪中行軍にうんざりしていた。
「相も変わらず辛気臭い状況。寒いし暗いし、こんなの気が滅入っちゃうのよね。というワケで? 静かにはやってらんないから、お喋りが止まんないのよねえ。それに黙ってるとよけい寒いし、はあほんとやってらんない」
 首をコキコキと鳴らしながらゼファーは話を続ける。ライは愛想よく相槌を打ちながらさりげなくゼファーを風除けにしていた。
 一方、お互いにお互いを思いやるのは『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)のふたり。手を繋いだまま歩いている。蛍が前を行き、雪を踏み固め、珠緒も蛍の背を支える。
「聖女様か、その名に相応しい人なら、ぜひ一度お会いしてみたいものだけど。何かしら、この、うーん、うまくいえないけど……あやしい」
 最後はぽそりと珠緒にだけ聞こえる声で。珠緒もそれに小さくうなずく。
「蛍さん、正式な依頼である以上否はないのですが……警戒は怠らずに参りましょう。勘程度のひっかかりでも、何らかの情報を無意識に察知している場合はあります。そういった勘は、無視してよいものではありません」
「そうね。何が起きるかわからない以上、すべてを疑っても疑い足りないということはないわね。探し人さん達を見付けて、一刻も早く呪いを解かなきゃ! ……なんでそんなことがわかるのか聖女様に訊くのは、その後でもできるわよね」
「ええ、優先順位はまず村人の解放。それから聖女の取り調べです」

 背後からくる足音を聞きながら、弾正は思った。
(宗教とは、信じれば万事うまくいく物ではない。何故なら神は人を試すからだ。そうでなければ、俺がイーゼラー教に入信した後、重ねてきた絶望は……弟の死とは、何だったのか。ゆえに俺はラウラン殿ではなく、ラウラン殿の慢心を疑う事にする。三人無事なまま、村を救える様に努めよう)
 隣りにいる彼をちらりと眺め、弾正は偽物の太陽石を取り出した。
「寒くないかアーマデル」
「防寒対策は万全だ」
「……そうか」
 ちょっぴりさみしそうな弾正の声に、アーマデルはふとその手の太陽石へ気づいた。そして自らその手を取り、太陽石を頬へ押し当てた。
「……温かいな」
「そうか」
 うれしげに微笑む弾正に、にこりともせずアーマデルは首肯した。温め合う恋人同士、そんなふりをして、ラウランを見やる。
(聖女が善人とは限らんのだ)
 そもアーマデルは「聖女」なる呼称をあまり信用していない。飲んべえのあまり身を持ち崩した「酒蔵の聖女」の影響もある。
(ラウラン殿は、地に足つけたタイプに見えるが……。そんなものに傾倒するとは)
 ためしに聖女について話題を振ってみたが、気になる返答はなかった。ラウラン自身、聖女とはそういうものと受け入れている節があるようだった。

●村B
「森と木と暮らす、ってのは幻想種らしくて結構ですけど、何もこんな高いところにばっかりねえ」
 量産型ハイペリオンの背に座ったまま、ふよーっと上昇していくゼファー。ライのジェットパックがその隣を並走する。
 ふたりはライの温度視覚で場の雰囲気を探っていた。エネミーサーチは己に敵対心を持つものしか捉えられない、生存者の捜索はライの温度視覚が頼りだった。
「なんというか、ほんとう、死の村って感じよねえ」
「お静かに、足場もないし簡易飛行中は戦えませんので。この寒さです、ちんたらしてはいられません」
「そうね……」
 ゼファーはごくりと喉を鳴らし見上げた。雪をかぶった木々のビル群は幻想的で美しいが、同時に踏み入るものを食らわんとする怪物のアギトだ。
「五分も動けないものね……」
 ぴりと全身に茨の気配を感じ、あわてて肩を撫でさすった。いつこの身が動かなくなるかわからない。やがてふたりはビル群の上層部へやってきた。
「熱源を感じます、複数」
「さあ、敵かしら味方かしら」
 ゼファーは窓を突き破り、室内へ踊るように飛び込んだ。茨に包まれた平民らしき幻創種が数人。家族だろう、抱き合ったまま眠りに落ちている。そこへレッドキャップが忍び寄っていた。
「お食事タイムだった? 残念! これがあなたたちの見る最後の光景よ、飢えに苦しんで逝きなさい!」
 挑発に乗ったレッドキャップがゼファーへ飛びかかる。
 ライが前へ出た。レッドキャップの鋭い爪がライを傷つける。
「大丈夫大丈夫、もう一発くらいなら食らってもいけますって!」
 聖職者の仮面を放り捨て、ロザリオと名付けた魔銃を掲げる。放たれた魔弾は確実にレッドキャップのこめかみを貫通した。ゼファーもまた槍でもって無数の突きを放つ。穴まみれになったレッドキャップが地面に倒れ込む。
「この家族、救出したいけど、無理なのよね」
「救うべき人を救えばこの村の冬は解除されると聞きました。今はそれを信じましょう」
 皆から崇められる存在と言えば、やはり最上階ではないか。ふたりはその結論にたどりつき、上昇を続けた。まるで生きているかのように動く茨に包まれた一角がある。
「あそこね、きっと」
「ええ」
 聖葉を捧げると、茨はどろりと融けた。中から恰幅のいい男が姿を表す。ゼファーが応急処置を施している間に、ライは外を見た。空は晴れ上がり、青く澄んでいる。不気味なほどに。

●村D
「来るなら来い! ボクは逃げも隠れもしない!」
 橋のたもとで蛍のスピーカーボムが響き渡る。反応した雑魚が雪の上をかけずり近寄ってくる。
「珠緒さんには指一本触れさせないんだから!」
 攻撃を一手に引き受けた蛍が決意もあらわに叫ぶ。そんな恋人へふっと笑みを見せ、珠緒は片足で地を踏みしめた。光翼乱破の閃光が雑魚をなぎ倒す。それを数度くりかえし、あたりが静かになってきた頃、珠緒はファミリアーを召喚した。6体のナキウサギがばらばらに分かれて周辺の捜索をはじめた。早い足を活かし、次々と建物を透視してまわる。薄くまぶたを閉じ、ファミリアーたちを制御する珠緒の姿は神秘的で、蛍の胸が場違いに高鳴る。
(こら、任務中! しっかりしろボク!)
「蛍さん」
「ひゃい!」
「南西の方角に神殿があるようです。行ってみましょう」
 次々と雑魚を倒し、時間との勝負をしながらふたりは進軍する。珠緒の言う通り、木造の神殿があった。こじんまりとしているが、大切にされていることが伝わってくる。
「おじゃましますね」
 珠緒が扉をすり抜け、内側から鍵を開ける。蛍の手をしっかりと握って奥へと進んでいく。奥の小部屋にはみっちりと茨がつまっていた。
「珠緒さん」
「ええ、ここでまちがいありません」
 透視した珠緒が深くうなずく。蛍が聖葉を使うと、封印が融けたように茨は消えた。あとに残されたのは、壁へもたれかかる神官らしき装束のハーモニア。
 蛍は神官へ活を入れてたずねた。
「あなた『聖女』についてなにかご存知?」
「ファルカウの巫女のことでしょうか」
 当惑している様子の神官に、珠緒は不信感を増していく。
(現地の人が名前も知らない『聖女』とは)
 黙ってしまった珠緒の代わりに、蛍がこれまでの経過をかいつまんで説明した。神官は口元を抑え、戸惑いもあらわに。
「私さえ助かれば村ごと救える? なにかの間違いでしょう。私にそんな権能はありません……」

●村A
「中央にある井戸が生活の中心だとして、その付近が濃厚か?」
「そして立派で頑丈な建物であればその可能性はさらに増すねぇ」
 アルトゥライネルと武器商人、ふたりの予想は当たっていた。だがその前に村に跋扈する雑魚どもを始末しなくてはならなかった。
「くそったれ、こっちは早く目的地へいきたいのによ!」
 アルトゥライネルがレッドキャップを殴り倒す。悲鳴をあげてバウンドしたレッドキャップが体勢を整えて再度襲いかかってくる。アルトゥライネルは体を捻り、絶妙なタイミングで回し蹴りをいれた。首の骨が折れる不快な感触。地に沈んだレッドキャップはもう二度と動かなかった。
 逆に武器商人の方は静かな戦いをしていた。
 精霊のほうへ進み、力を流し込む。それだけで精霊であったものは雲散霧消する。時折目の前が吹雪くがものともしない。その身に傷を負えば負うほど力は高まっていくのだ。歩く要塞と呼ぶにはあまりにあえかであるが、武器商人は集中攻撃を物ともせず進んでいく。
 ある程度雑魚の数を減らしたふたりは、村の中で一番大きな建物の扉を踏み壊した。どっと冷たい風が建物内を吹き荒れる。そこここに茨に包まれて眠っている姿がある。武器商人はそれを一つ一つ丁寧に見て回った。
「待っていてくれ。すぐに助け出すから」
 アルトゥライネルは油断せずに前へ進む。建物は三階建てだった。一階がエントランスホールになっていることから、ここに探し人はいないと知れた。階段を駆け上がり、二階へ到達する。そこには厳かな祈祷室があった。寒さのせいだろうか、祭壇の花がしおれてしまっている。その前でうごめく茨の塊。
『アルトゥライネルの旦那、その娘に聖葉をつかっておやりよ』
 言われた通り聖葉を使うと、茨が溶け落ちて床に突っ伏す巫女が現れた。
「う……私、は……」
 村の巫女だと確信を持ったアルトゥライネルは、彼女を助け起こした。外を見やればさっきまでの悪天候が嘘のように空はきれいに晴れている。
「撤退しよう。この村から」
 しばらくして村の全員が井戸端へ集められた。そのとき、武器商人はそれに気づいた。今では我が子すらもったからこそ気づけたのかもしれない。
「この村に子どもはいないのかい?」

●村C
 弾正の人助けセンサーは有効に働いていた。有効すぎるくらいだった。
「あっちこっちから悲鳴が聞こえてくる。頭が割れそうだ」
「大丈夫か、弾正」
 アーマデルの言葉に弾正はうなずき返す。
「問題ない。一刻も早く彼らを助け出そう」
「そうだな」
「村の外周を回るなんて、のんびりしていていいのか? この調子だと茨の呪いが発動する頃だけども」
 ラウランにうながされ、ふたりは進路を変更した。
 その前にと、アーマデルは霊魂と意識を通わせようとする。だが村は静まり返っており、反応はない。
(何かを恐れているかのようだ……)
 これはただごとではないぞとアーマデルは簡易飛行を用いたハイジャンプで次々と建物を渡り歩いていく。
「何か探しているのか、アーマデル」
「旗、だな。神殿などは有事の際、避難所を兼ねている印に旗をあげることがある。煙突なども注目してくれ」
「了解した。俺は看板も見ることにする。村の重要施設なら、看板があるかもしれないからな」
「わかった。俺もそうする」
 崩れないバベルは今日も仕事をしている。ふたりはラウランを従えて村を駆け回った。
「ん?」
 弾正が顔をあげると、レッドキャップどもが降ってきた。叫び声を上げ、アーマデルへ食いつこうとする。
「食らうならこちらにしろ! あいにくその人はおまえらが触れて良い相手じゃない!」
 挑発されたレッドキャップが弾正へ殴りかかる。数の暴力で弾正を押し込めようとする。
「俺は冬を越せる男だ、貴様らには負けん!」
 そこへアーマデルの援護射撃が炸裂した。レッドキャップどもは汚い悲鳴とともに崖下へ落ちていく。
 レッドキャップどもが来たルートを探ってみると、扉を叩き壊された家が見つかった。中は惨憺たる有様で、弾正がぐっと拳を握り込む。
「守れなかったか」
「急ごう。埋葬は後だ。放置すれば被害は加速度的に増える」
 アーマデルの言葉に冷静さを取り戻した弾正は捜索のスピードを上げた。
 やがて神殿を見つけたふたりは、神官を解呪し、村を救ったのだった。


「おーい、助かった。助かったぞ」
「イレギュラーズが来てくれた。もう安心だ」
 村人たちは口々に感謝を述べている。だがしだいに違和感がひろがっていった。
「おい、ミッシェはどこへいった?」
「アロルド? うちのアロルドはどこ?」
「チッピー! おおい、チッピー!」
 子どもを呼ぶ親たちの声が村にこだまする。
 アーマデルはゆっくりと振り返った。
「ラウラン殿」
 ラウランは黙っている。奥歯を噛み締め、なにかに怯えるように。
「村の子どもたちは、どこへ行った?」
「俺が知ってるわけないだろ」
「そうかな。そのわりには挙動不審に見えるが」
 弾正が一歩近づく。ラウランは暗い声でつぶやいた。
「……聖女さまのところだと言ったところで、もうまにあわないけどな」
「なんだと」
 弾正が目を見開く。
「どういうことだ、ラウラン殿!」
「うるさい! どうせみんなまたすぐに氷漬けになるんだ、あんたらのしたことは無駄だったんだよ!」
「ラウラン殿?」
 そのとき、冷たい風が吹き抜けた。絶対零度を思わせる風だった。あまりの寒さにアーマデルも弾正も思わず身をすくめた。
「これは……!」
 アーマデルが愕然と周りを見やる。周囲には再び茨が吹き出しており、晴れていたはずの空はどんよりと曇っていた。悲鳴が溢れ、逃げ惑う人々が雪を蹴り散らす。
「ラウラン殿、さきほどの言葉はどういう意味……」
 それ以上続けることはアーマデルにはできなかった。ラウランが弓の照準を彼に合わせていたから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

四箇所とも村を解放することができました。結果は成功です。
イレギュラーズは村人を連れて脱出。あとには雪吹きすさぶ村だけが残りました。聖葉を使えば村は解放されるはずだったのですが、なぜでしょうね。そして村から消えた子どもたち、ラウランは聖女のところにいるというのですが……。

またのご利用をお待ちしています。

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