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シナリオ詳細

いとうつくしき、いびつのむら

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●天女と髑髏
 地を駆け、跳ねる。翼を広げ剣を抜き、襲いかかる『天女』の肉体を袈裟斬りに切断した。
 切断の威力をそのままに斜めに回転したスカイウェザー――ティスル ティル(p3p006151)は翼を大きく広げて制動をかけた。その瞬間、建物の列のひとつ先からドッと音をたてて『立ち上がる』巨体があった。
 巨体はあまりにも巨大な腕をふるいティスルを払いのけ、まともにくらったティスルは瓦屋根の列をバウンドし、そのまま通りの向こう側へと転落する。
「つつ……今のは!?」
 ティスルの美しい紫色の髪は、ひどく真っ黒に染まっている。どす黒く、粘つく泥や墨がはりついたかのように、鴉の羽根のような色になっていた。
 ばっと立ち上がったことで払われた髪が突風に靡く。いや、ただの突風ではない。先ほどの巨体が急速に接近したためにおきた風圧である。
「まずい!」
 途端。凄まじい速度で突っ込んできた大柄な男性(?)がティスルをガッと片腕で掴みかっさらっていく。
 豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)であった。
 なぜそんなことをと考える間もなく、さきほどまでいた場所が前後の建物もろとも巨大な脚によって蹴り飛ばされていくのが見える。
 そしてその時になってやっと、月明かりの中にその巨体が見えた。
「間一髪、って所だったわね」
 ティスルを解放し、身構えながら振り返る美鬼帝。
 共に見上げたのは巨大な髑髏。全長およそ10mはあろうかという巨大な骨の集合体であり、カムイグラでは主にこれを『がしゃどくろ』という妖怪として呼んでいた。
 死者の無念が寄り集まってできた骸の妖怪であり、怨念の塊だ。
「こいつは前に『ママ』の仲間達がぶっ倒したはずなんだけどね……」
 流れる汗を乱暴に拭い、いつでも迎撃できるように構えを作る美鬼帝に対して、がしゃどくろは一瞥しただけできびすを返した。
 飛び上がろうとするティスルを、美鬼帝が腕を翳しておさえる。
「追撃はナシだよ。『あれ』がいるってことは、この先は百鬼夜行だ」
「そぉゆぅことじゃな」
 周囲に赤白い狐火を浮かべた女性がふわりと姿を見せる。同じローレット・イレギュラーズのタマモ(p3p007012)だ。耳をぴこぴこと動かし、何本かにわかれた狐の尾を振る。
 獣種のたぐいかと思いきや、どうやら炎系の精霊種であるらしい。
 ということは、あの周囲に浮かんでいる狐火も身体の一部かなにかだろうか。
「『がしゃどくろ』は高天京壊滅作戦にも投入された上位の妖怪じゃ。『殺生石』との相性も良いからのう……奴らにすれば、とっておきの『めいんうぇぽん』なのじゃよ」
「奴ら……って、まさか」
 ティスルの様子に、美鬼帝とタマモが同時に頷く。
「――『羅刹十鬼衆』が纏まって動いておる」

●高天京の悲劇から明けて
 かつて、ここカムイグラは地獄に落ちかけていた。
 魔種によって政権を牛耳られ、政治中枢には無数の魔種が紛れ込み、一見平和に見えるカムイグラは徐々に蝕まれていた。それはあるとき決定的な破壊によって加速し、ついにはカムイグラ全体が魔種の遊園地か人間牧場に成り果てるところであった。
 それを救ったのは数百人というローレット・イレギュラーズたちであり、彼らの大活躍である。
 厄神は払われ、魔種は退けられ、黒幕もまた倒された。
 だが全てが解決したかといえば、決してそうではない。
 時を同じくして突如動き出した『羅刹十鬼衆』という魔種集団は、己の手勢を使い高天京を東西南北から同時に侵攻しはじめたのである。
 そのひとつをになっていたのが、羅刹十鬼衆のひとり『大叫喚地獄』豪徳寺 英雄。彼の操る百鬼夜行であった。
 『がしゃどくろ』はその中でもかなり協力な駒として使われ、多くの仲間達の協力によって倒された妖怪である。
 問題はこの妖怪が現れたことというより……現れた場所であった。
「そういえば聞いてなかったね。どうしてこの村に?」
 村というには栄えすぎたこの土地、『華盆屋村』。地図には載っていない村であり、周辺大名からはなかば放置された荒れ地であったはずの場所である。
 村から離れた森の中、キャンプテントの脇にもえるたき火を囲み、ティスルたちは向き合っている。ティスルは懐から一枚の紙を取り出した。
「私が個人的に追ってる魔種、羅刹十鬼衆『衆合地獄』華盆屋 善衛門……彼が襲撃した遊郭を辿ることで、この村の存在が明らかになったの。名前からして、ここが華盆屋 善衛門のアジトであることは間違いないはずよ」
 確信をもって語るティスルに、美鬼帝とタマモは顔を見合わせた。
 美鬼帝たちがやってきたのは、ティスルによる応援要請をうけてのことだ。『羅刹十鬼衆に連なる魔種のアジトを見つけたかも知れない』という旨の依頼書を取り出して見せる。
「それにしたって先行するのが早いね。私たちが来てからでもよかったんじゃない?」
「まあそう言うな。自分から呼びかけただけあって、気を張っておったのじゃろ」
 空振りだったらどうしようと不安になるのは分かる、とタマモは炙った油揚げをぱりぱりしながら言った。
「幸い、『当たり』だったようでなによりじゃ」
 こくり、とティスルは頷いた。
「この『華盆屋村』は魔種の作った怪物だけの村よ。この場所を制圧して、華盆屋を炙り出す」
 村全体の怪物たちと華盆屋を同時に相手にするのは難しいが、少なくとも華盆屋にこの場所を捨てて撤退させることはできるだろう。最大の根城であるこの場所を捨てるとなれば、より安全な場所を選ばなければならない。
 必然的に……。
「他の羅刹十鬼衆を頼ることになる、ってわけね」
 美鬼帝がにやりと笑った。ばしんと膝を叩いて立ち上がる。

「魔種を追い詰めるために、この怪物だらけの村を制圧する!
 わかったわ、その依頼……乗ろうじゃないの!」

GMコメント

●オーダー
 怪物の村を制圧します
 方法は『自由』です。
 片っ端から攻撃して回ってもいいし、火を放っても構いません。
 自由な方法でこの村を制圧し、主である魔種『華盆屋 善衛門』を追い詰めましょう。
 華盆屋 善衛門の撤退が確認できれば成功。こっそりと追跡し、より『王手』に近づけることができるでしょう。

●フィールド
 村は周辺地域から離れており、山に囲まれています。
 人の出入りはほとんどなく、ゼロといってもいいでしょう。
 住民らしき存在は全て怪物であり、主に『天女』という肉腫製の怪物が大半を占めています。
 村は建物が密集した作りをしており、瓦屋根の木造建築が等間隔の列を成す形で連なっています。『華盆屋 善衛門』の居場所はわかりませんが、安全性の観点からおそらく中心に近い場所だと思われます。

●エネミー
・天女
 女性の肉体を継ぎ合わせて作られた怪物たちです。腕が沢山あるムカデのような怪物や、巨大な蛇など、およそ人間の形からはかけはなれた怪物が人間を素材にして作られています。
 『華盆屋 善衛門』はこれを『美術品』と呼んでおり、この造形が美しいと本気で考えているようです。
 余談ですがティスルをこの材料にしたくて仕方ないようです。

・妖怪
 天女の他にいくつかの妖怪が混ざっています。
 というのも、天女は戦闘能力には優れますが強すぎる個体や索敵に優れた個体が生まれづらい性質があるため、それを埋め合わせるために他の羅刹十鬼衆から妖怪を派遣されているようです。
 個体戦闘能力が特に高い『がしゃどくろ』や、索敵能力の高い妖怪などが村に配置されているでしょう。
 なお、OPでも触れられたとおり『がしゃどくろ』は非常に運用コストの高い妖怪らしく村に一体しか配備されていません。
 こいつを抑えたり戦ったりするメンバーを決めておくことで、村の制圧をよりスムーズに進めることができるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • いとうつくしき、いびつのむら完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
タマモ(p3p007012)
荒ぶる燐火
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
ファニアス(p3p009405)
ハピネスデザイナー
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ


 空を飛ぶ二羽の雀が、それぞれ民家の屋根にとまる。
 こちらをじっと見つめる三本足の鴉に警戒したためだ。
 雀がちらりと振り向くと、片膝をつき背を丸めた姿勢のがしゃどくろが牛小屋を潰してできたらしい広場に鎮座しているのが見える。
 が、それまでだ。雀の頭が突如としてカラスに食いちぎられてしまった。

「……ふう」
 強いショックに呼吸を乱しかけた『銀雀』ティスル ティル(p3p006151)だが、胸に手を当てて気持ちを整え直す。
「がしゃどくろの位置はわかったわ。けど、警備は厳重みたい」
「そのようであります……というより、入り込めたティスルさんのほうが凄いのであります」
 『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)が同じように息を荒げ、深呼吸で気持ちを落ち着けている。
 ネズミを使役して村に入らせたはいいものの、奇妙な妖怪に見つかって食い殺されてしまったようだ。自分が死ぬわけではないとはいえ、五感を共有した生き物が死ぬ瞬間というのはなかなかえげつないショックがあるものだ。
 空は先ほどのカラスが飛び回り、ファミリアーで使役した動物が不自然に入り込まないように警戒しているように見える。まあ、あんな生き物が周回していたら小鳥はおろかネズミ一匹近づかないだろうから、それでも入ってくるのは使役動物くらいなものだろう。
 ちなみに暗殺を警戒する貴族なんかもハーブやら何やらを用いてこういうファミリアー対策術をとっていたりする。
 逆に言えば、この『華盆屋村』は相応のセキュリティが敷かれているということになる。
「強引に突入するなら、一人でもできたわ。ステルスミッションは難しそうだけど」
「なるほどな。話だけ聞くなら、単純でよさそうじゃあないか」
 大きな石に腰掛けて突入を待っていた『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)が、剣を手に立ち上がる。
 頭の片隅で今回の依頼書や、これまでの経緯をおさらいしてみる。
 『天女』。華盆屋 善衛門が作り出した美術品であり、女性の人体を継ぎ合わせたグロテスクな怪物である。魔種らしい歪みととらえるべきか、魔種になってしまったから歪んだととらえるべきか。少なくとも元からそんな人物ではなかったはずだと……ティスルは報告書に残していたが。
(久方ぶりに来てみれば、随分とやらかしてくれた阿呆がいるみたいだな。ちーっとばっかお仕置きが必要なようで……)
 ミーナは仲間の顔ぶれを確かめてみる。例えば『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)だ。
 見るからに奇妙な人物ではあるが、顔には不安や決意、あるいは愛情のようなものが浮かんでいる。母性と言い換えてもいい。
「羅刹十鬼衆の一人、華盆屋を追い詰められるまたとないチャンス。
 この機会をいかさない手はないわよね!
 ママ、頑張っちゃうわ!」
 屈強な腕に力こぶを作り、ゴチンと拳で叩いてみせる美鬼帝。
 『荒ぶる燐火』タマモ(p3p007012)が大石に腰掛けたまま、組んだ足をぷらぷらとやっている。
「天女だけでなく妖怪もじゃろお? ということは……防衛戦の時にいたあやつらも絡んで折るのかのォ」
 頬に手を当て、なにかを考え込むタマモ。
 それが自らの身内のことなのだろうと判断した美鬼帝は小さくだけ頷いた。
「かも、しれないね」
 村のほうをじっと見つめる美鬼帝。
 だがタマモの考え事は、そことは少し違っていた。
(がしゃどくろを始めとした妖怪達……それに殺生石……何か、引っかかる。
 まるで大切なナニカを感じさせるような)
 どさりという、鞄を下ろすおとで意識が戻る。
 見れば『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が袋に詰めていたライフルを取り出し、山を歩くための装備一式を鞄に詰めておろした所だった。
「華盆屋善衛門、そして羅刹十鬼衆。カムイグラの人たちを苦しめる魔種たち。
その居場所を掴むためにも、ここは負けられない。
 人がいないなら遠慮はいらないね。奴らの企みごと、この怪物の村を破壊する」
 登山装備から戦闘装備に切り替えたのだろうが、ぱっと見るといきなり薄着になってライフル一丁だけを装備したように見える。
 まあ世の中いろんなイレギュラーズがいる。きっと何か仕掛けがあるんだろう。
「ファニーも物作り人形だからね、美しいものに拘りたい気持ちは分かるわ。
 だからって他人に迷惑かけるのは良くないんだよ」
 同意するように、『洋服屋』ファニアス(p3p009405)が両手の指を胸の前であわせた。
 ぱちくりとまばたきをすれば、瞳として埋め込まれたシトリンクォーツが月光にきらめいた。
 村の方を向いて、おそらく華盆屋 善衛門へ向けたであろう言葉を呟いた。
「それに、貴方の『美しい』を他人に強要するのって美しくないって思うよ」
「なんと、まあ」
 『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)は開いていた扇子をぱちぱちとゆっくり一段ずつ閉じていくと、最後にぎゅっと握りしめた。
「未だ蔓延る邪悪ども、村諸共にこの国より祓って差し上げましょう」
 扇子をしまい、代わりに取り出したのは月光を、あるいは星の光を放つかのようにきらめく霊刀であった。
「作戦は、皆一丸となって中心へ近づいていくということで? がしゃどくろの目は避けますのかしら?」
「この警戒網なら、むしろ直接向かっていって倒してしまったほうが楽になりそう。前回追い返された原因はがしゃどくろの出現を読めなかったことだから」
 ティスルの言葉に玉兎は頷き、ルートの策定を始めた。


 瓦屋根の家屋が等間隔に並ぶ村。よくよく考えれば、山に囲まれ畑も牧場もないこんな場所に家屋だけが密集するというのは不自然極まりない。猟師の里にしては整然としすぎているし、自給自足をするにしては生活感がなさすぎる。まるでいつか使うために予め立てておいたハコにも見える。
 なんにせよ、考えるのは後でいい。
「今はこの場所を落とすのみ……!」
 建物の影にかくれギリギリまで近づいていた玉兎はサッと飛び出し、道をあてどなくうろうろとしていた天女の一体に剣を突き立てた。
 刺したところから光が溢れ、爆発したように天女を吹き飛ばしていく。
「今ですわ!」
 物音に対して周囲が感づいたのだろう。玉兎へ突き刺さる無数の敵意を感知した。
 あちこちの家屋の扉が開き、人間とは似ても似つかない歪な物体が大量に現れた。
 肉の球体から腕が何十本も生えたものや、顎からはえた指を虫のようにうごかしてはしる生首や、人間の足を四本くっつけてジタバタと走る怪物。そのどれもが明確な敵意をもって集合した。
 したところを――。
「『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート」
 ライフルを天に向けトリガーをひくオニキス。すると身体がマジカルセーフティヴェールに包まれ衣服が戦闘用マジカルドレスへ交換され、どこからともなく現れたミニ戦車型ドローンが分解。オニキスの各所に装着され、ライフルは大口径魔力砲マジカルアハトアハトとなった。
 三脚を展開し、天女の群れへと向ける。
「起動、完了。『120mmマジカル迫撃砲凍結弾』――」
 すかさず発射された弾が炸裂。天女達を光が包み氷結の魔術が荒れ狂う。
「はっはっはっ!妖怪天女が何するものぞ!妾は邪精霊のタマモじゃぞ!」
 勢いをおとすことなく突き進むタマモ。
 ポポポッと浮きあがらせた狐火たちを一斉に放つと、展開した天女達を次々に燃やしていく。
 いや、炎ではない。大量の彼岸花が狂い咲き、それによって張り巡らされた結界によって天女たちの力をタマモが一気に吸い取ったのだ。
「ママのキツイお仕置きよん♪ ビリビリしちゃいなさいな!」
 直後、飛びかかる美鬼帝。
 雷を纏った拳が天女の一体にめり込み、そこを中心にはげしいスパークが迸る。
 放射状に走った衝撃が地面にその痕跡を刻み、家屋を勢いよく吹き飛ばした。
 開けた視界に見えたのは、やはり無数の妖怪達。そして強力にカスタマイズされた天女たちだ。
「全部倒して突破するってのは……やっぱり難しそうね」
 そう言いつつも、全員相手にしてやるぞという不敵な笑みを浮かべる美鬼帝。
 希紗良が剣をすらりと抜き、牛の頭をした巨漢の妖怪へと走った。
「そこを、どくであります!」
 勢いよく突撃した希紗良の顔面めがけ、金属製の頑丈そうな棍棒が振り込まれる――が、希紗良は身をより低くかがめるとその下をくぐり抜け、妖怪の足を刀で深く斬り付けた。
 がくんと体勢が崩れた瞬間、ミーナが大きく飛び上がる。
「こういうときはな、いかにも頑丈そうなやつを潰すんだ。圧になるぞ」
 いつのまにか……そう、本当にいつの間にか妖怪の額に武器を突きつけていたミーナが、自らの魔力を思い切り送り込む。空気を送りすぎた風船のごとくぶくっと頭を膨らませると、妖怪の首から上が破裂してなくなった。
 周囲の妖怪たちがザワッと声らしきものをあげ、距離を取る。
 ファニアスはその隙を見事について駆け抜けた。
「ぃえーーーい!!!!! ファニーの可愛いパンチをくらえーーーー!!!!!!!」
 ぱこんと手首を取り外すと、ワイヤーで繋がったそれを思い切り振り回す。
 魔法のこもった手と金色のワイヤーが周囲の妖怪たちを打ち払い、そして仲間達に道を開く。
 糸を体内のリールで巻き戻したのか、手はすぐに手首にすぽんと戻り、調子を確かるように手をぐーぱーした。
 そして――。
「リベンジに来たわ」
 ティスルがきりもみ回転をかけながら妖怪達の間を飛行し、ゆっくりと立ち上がるがしゃどくろをにらみ付ける。
 振り払おうと繰り出した手に、ティスルは腕輪をしたままの拳を叩きつけることで対抗した。
 ゴズンというはげしい音と衝撃。ティスルの黒く染まった髪を大きくなびかせるに充分な風圧がおきた直後、がしゃどくろは僅かに身体を震わせた。
 強力な個体といっても戦って勝てないほどではないはずだ。
 そして『いる』と分かれば……。
「速攻で片付けられるのよ!」
 ティスルは宙返りをかけてがしゃどくろの手首に乗ると、そのまま勢いよく走り出した。
 両サイドからカーブを描いて回り込むミーナとファニアス。
「そっこー? ヒールは?」
「今はまだいい! ぶっ込め!」
 ミーナは先ほど牛頭の妖怪にたたき込んだものと同じ魔法をがしゃどくろの側頭部に、その反対側からはファニアスがぐるぐるまわした腕での人形のようなパンチをたたき込む。
 直後、オニキスが民家の屋根へとフライトユニットを使って飛び乗ると――。
「どれだけ図体が大きくても、フルパワーで撃ち抜く。マジカル☆アハトアハト、発射!」
 必殺の魔法を解き放った。
「人々を苦しめ、傷つけるお前たちの野望は、私たちが打ち砕く。どこに逃げようとも、必ず」
 がしゃどくろの胸を魔法が突き抜け、崩れたボディをかばうようにしてがしゃどくろがオニキスの立っていた場所を家屋ごと蹴りつけた。
 吹き飛ぶ家屋。まき散らされる残骸。
 が、美鬼帝がオニキスを抱えて飛ぶことで直撃を回避し、かわりとばかりにタマモが無数の狐火を解き放った。
 ファニアスやミーナたちのダメージが出たのだろう、がしゃどくろの頭がぐらつき、びきびきとヒビがはしっていく。
 というより、崩れ始めている。よく見れば無数の誰かの骨の集合体であるようだ。
「……」
 玉兎が襲いかかってくる天女を切り払いながら、すこしだけ悲しい目をした。
「あとで、弔いはしておきます。この村ごと、すべて」
 どこからか火の手があがったのだろうか、家屋が次々に燃え始める。
 火にまかれたらしい天女が地べたを転がり回っているのも見えた。
 が、いまは目の前に集中すべきだ。
 玉兎が剣をライフルのように構え、宿した光を発射する。
 と同時に、ティスルの斬撃ががしゃどくろの脳天に直撃。二人の攻撃は重なり、がしゃどくろの全身がぼろぼろと崩れ去って行った。
 そして。
 村の中心にあった家屋へ降り注ぎ、瓦屋根もろとも破壊していく。
「おやおや、これは困ったなあ……」
 声と共に翼がひろがった。肉でできたいびつな翼だが、それは確かに翼であるらしく背に乗せた『華盆屋 善衛門』をそのままに空へと舞い上がる。
 みすみす逃がすティスルではない。近くの屋根を足場にはねるように飛ぶと、華盆屋めがけて刀を放った。
 首すれすれの位置。翳したそろばんが、あろうことかティスルの刀を止めている。
「次に会った時、絶対に止めてみせるから」
「スズメちゃんそれは――」
「雀芽さんにも『兄さんを止めてあげて』ってお願いされているもの」
 次に続いた言葉に、華盆屋が目を見開いた。動揺が、確かにあった。
「うそだ」
「そう思いたければ思えばいいわ」
 と、そこへ。
「華盆屋さん? お遊びはほどほどにしませんと」
 穏やかな声共に、青い炎が燃え上がった。
 そして炎の中に、空中に、二人の魔種が現れた。
 『無間地獄』天神山 葛葉。
 『大叫喚地獄』豪徳寺 英雄。
 いずれも羅刹十鬼衆のメンバーである。
「英雄!」
 吠えるように叫んだのは美鬼帝だった。
「何を企んでるの! ママに教えて!」
 英雄は目を細め、なにも言わない。応えないだろうと分かっていても、美鬼帝は心の内を叫ばずにはいられなかったのだ。
 彼が抱く、この国を潰すという目的を止めるために。そうに至るだけの理由が、わかってしまうだけに。
「何が目的でも、止めてみせるであります!」
「そういうこと。みんな困ってるんだよ?」
 希紗良やファニアスたちが身構えるなか、しかし声をあげたのは隣の精霊種、天神山 葛葉であった。
 頬に手を当て、くすくすと笑う。
「タマモ様。やっとお会いする準備が整いました」
「…………」
 声を出せず、口を開いては閉じるタマモ。
「この国をちゃんと壊して、タマモ様の楽園にしましょうね。タマモ様もこの力が手に入ればきっと、おわかりになりますよ」
 あまりにも優しく問いかけられ、タマモはなにも言えなかった。
 ミーナとオニキスが鋭い視線を向けてくる。
「知り合いか?」
「これから仲良く出来そうにはみえないけれどね」
 一方で、葛葉はふわりと手を振り周囲を炎で包んでしまった。それだけだ。それだけで、炎が晴れたあとには何ものこっていなかった。
 どこかへ去ってしまったのだろう。
 瓦礫のみが残る場所へとはいり、玉兎は地面に落ちていた木札を拾いあげる。
 そこには、ある神社の名が書かれていた。
「次に行く場所は、どうやら決まったようですわね」

 書かれているのは、『青龍神社』。
 カムイグラ首都高天京を守る四神結界――それを司る四神のひと柱が祀られた場所である。

 飛行し周囲を観察するミーナ。先ほどまで大量にいた天女や妖怪たちが消えている。一緒にどこかへ転移したのだろう。
「この村は、天女とやらを作るための工場……といった所か。潰された今、これ以上増やすことは難しくなるだろうがな」
「…………」
 同じく飛行していたファニアスが、ちらりと見下ろす。タマモが見えた。
 ショックから解放されてか、がくりと膝から崩れ落ちるタマモ。
「あれは……妾の巫女じゃ。そうだった、者じゃ。いつの間にかいなくなってしまったと、思っておった……」
 地に手をつけ、震えるタマモ。
 変身を解いたオニキスが歩み寄り、手をかざし……そして下ろした。
 言うべき言葉は、今はない。かわりに別の事を言うことにした。
「口ぶりからして、彼女の目的は君の反転だ。耳を貸してはいけないよ」
「…………」
 黙るタマモの代わりに、美鬼帝が話を続けた。
「あの子の持っていた石。あれで妖怪を操っていたのね。あの力を使って次に、青龍神社を襲うつもりなのかしら」
「おそらくは」
 玉兎が木札を翳して振り返る。
 希紗良がそれを受け取り、まじまじと見つめた。
「いま高天京の結界が壊されたら、大変なことになるであります。折角、立て直し始めていたのに」
「そうはさせない」
 ティスルがゆっくりと降下し、地面に立った。
 スゥッと髪色が元に戻っていく。
「羅刹十鬼衆。皆、憎しみや怒りにとらわれてカムイグラを潰そうとしている。けれどそんなのは……本当に望んだことじゃなかったはずよ」
 反転。それは世界の何かがもたらした歪みだ。
 願いを歪め呪いに変え、祝福を悪夢に変える。
 反転した者は引き返すこともできず、ただ世界の破滅に向けて突き進むのだ。
 それは死と同義であり、同時に死(人生)への冒涜でもあった。
 だからこそ。
「生きている私達が、止めなきゃいけないのよ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 ――羅刹十鬼衆の次なる狙いが判明しました

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