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シナリオ詳細

再現性東京202X:恋は狂い、死へ至る病

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●飛び降り成就
 R.O.O内での最終決戦後。
 練達は決して少なくはない被害に見舞われながらも、復興の道を歩みつつあった。
 再現性東京202X地区でも、人々は彼らの望む『日常』へと――

「知ってる? 4時44分44秒きっかりに屋上から飛び降りると、死なないどころか願いが叶うって話」
「今時ナニソレー、ちょっとでもずれたら死んじゃうじゃん! 普通に神社とかでお願いするし!」
「でも、最近色々あったじゃん? その後くらいから、死なずに願いが叶うようになったって」
「マジ? そう言えばSNSのトレンドに一瞬出てた『飛び降り成就』ってそれ?」
「一瞬で消えたのは、実は『飛び降り成就』がガチで、願いが叶いすぎたら困る奴の陰謀だーって奴めっちゃバズってたよ。逆にマジっぽくない?」
 希望ヶ浜のインターネット界隈でにわかに噂になり、学園でも一部で話題になる程度には学生達の関心を引いていた『飛び降り成就』。
 教師陣も噂は知るところとなり、当面の間屋上への通路を封鎖するなどの対応をとっていた。

 ――なのに、小さな『彼女』は飛び降りたのだ。

●ドッペル退治
「飛び降りた方は亡くなられたようで。まだお若かったそうですよ。初等部だとか」
 眉尻を下げて紹介するチャンドラに、ノリアも悲しげに肩を落とす。
「叶えたいお願いが、あったんですの……?」
 問うノリアに、チャンドラは薄らと笑む。
「これは、単純な興味でお尋ねしたいのですが。
 絶対に報われると保証されるのであれば。拒絶されることが死ぬより恐ろしいならば。
 恋の成就に命を懸けてもいいと思いますか?」
 問いへの答えは今は求めないのか、チャンドラはノリアの反応を待たずに次の説明へと移った。
「五十鈴遥香(いすず・はるか)。初等部の四年生。
 ご友人曰く、もうすぐ引っ越してしまう子に想いを告げたかったそうです。勇気が欲しくて、別の勇気を振り絞ってしまったのでしょうね。
 それもまた、熱烈なアイですが……彼女が亡くなって終わり、とはならなかったようで」
 『大災害』後に急に広まった『飛び降り成就』の都市伝説。全ての元凶であるこの話の真相は、『飛び降りた者の記憶を引き継いだドッペルゲンガーが日常に紛れ込むようになる』というものだ。
 他の飛び降り案件は既に個別に対応されているが、遥香の場合はまだドッペルゲンガーが発見されていないらしい。
「我(わたし)達の仕事としては、偽の遥香が日常に紛れてしまう前に発見、討伐、となるでしょう」
「ひとつ……聞いておきたいですの」
 それまで話を聞いていたノリアが、ぽつりと口にする。
「遥香さんの気持ちは……もう、伝えられないんですの……?」
 嫌われたくなくて、死ぬかもしれない都市伝説に頼ってまで、想いを通じさせようとした。
 それほどの想いを、無かったことにしていいのだろうか。
「……お任せしますよ。イレギュラーズとしては、偽の遥香さえ討伐できれば関係の無いことですので」
 貴方の心の向くままに、と。
 チャンドラは肯定も否定もしなかった。

●ずっとみてる
 春が来れば、小林圭太は別の地区へ引っ越す。
 年が明けてじきにクラスメイトの遥香が亡くなった時はショックを覚えたが、最近は身の回りでやけに事件が頻発して落ち着かない。
 誰もいないのに視線を感じたり。
 テレビや動画サイトを見ていると突然画面にノイズが入って見えなくなったり。
 『飛び降り成就』の話が気になって、友達と連れ立って屋上へ行こうとしたら階段でこけたり。
 常に監視されているようで、怖かった。
「はるかのユーレーとか?」
「や、やめろって! ユーレーとか信じてんのお前!?」
 人の気も知らない友達と喧嘩になると、他に誰もいないのに本棚から本が落ちる。
 流石に怖くなって、皆で走って帰った。

『…………』
 本棚の影から、圭太を名残惜しそうに見送る姿がある。
 人型だが、足元は朧で形がない。
 人影はしばらく見送った後、溶けるように消えた。

GMコメント

旭吉です。
今回は少し前に頂いていたアフターアクションからの派生シナリオとなっておりますが、以前のシナリオを読んでいなくても全く問題ないです。
リプレイとしては心情寄りの予定ですが、プレイング次第でバランスは変わります。

●目標
 五十鈴遥香のドッペルゲンガーを討伐する

●状況
 再現性東京202X街・希望ヶ浜学園。
 都市伝説『飛び降り成就』を信じて、伝説通りの時刻に学校の屋上から飛び降り亡くなった五十鈴遥香のドッペルゲンガー(以下:偽遥香)がどこかにいます。
 偽遥香はどこかのタイミングで圭太達と接触し、次の被害者として屋上へ連れていくでしょう。
 偽遥香が本物として皆に受け入れられる前に発見し、討伐してください。

●情報
 ドッペルゲンガー(偽遥香)×1
  本物の遥香と寸分違わぬ姿と声、記憶、性格を持つため、外見のみでの区別は不可能。
  『飛び降り成就』が成功したように振る舞い、圭太を屋上へ連れていこうとする。
  戦闘では仲間の悪霊を複数呼び出す他、中距離単体に【ショック】【呪殺】の衝撃波を飛ばす。

 悪霊×複数
  偽遥香が戦闘で呼び出す悪霊達。
  デフォルトで物理無効、【狂気】の噛み付きをしてくる。
  偽遥香を倒せば消える。

 五十鈴遥香
  初等部四年生の女子(故人)
  春には引っ越してしまう小林圭太に想いを伝えようとするも勇気が足りず、『飛び降り成就』に頼った結果死んでしまった。
  未練はとてもあったでしょう。

 小林圭太
  遥香のクラスメイト。遥香の気持ちは知らない。
  最近身の回りでポルターガイストじみた事件が頻発しているので怖い。ノイローゼぎりぎり手前。
  幽霊は信じてない。怖いし。

●NPC
 チャンドラ
  戦闘は回復メイン
  オープニングの問いに答えてくれる方がいれば、どのような内容であれ喜ぶでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京202X:恋は狂い、死へ至る病完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月23日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
冬越 弾正(p3p007105)
終音
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
鏡(p3p008705)
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

●恋とは愚直にして盲なるもの
 イレギュラーズ達が集合した授業前の屋上からは、平和で青い空が見える。
 少女一人の命が消えても、この世界は今日も回り続けていた。
「『飛び降り成就』ねぇ……私、ここでの顔はスクールカウンセラーとかしてるんですけどぉ。確かにそんな噂話を交えて恋愛相談する子もいましたねぇ」  
「恋は盲目とはよく言ったものだ」
 しみじみと生徒の様子を語った『幻灯奇怪』鏡(p3p008705)に、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は軽く肩を竦めた。

 そもそも、この事件は不可解な点が多すぎる。
 根も葉もないまじないやら占やらを信じるのは勝手だ。その多くはリターンも望めないだろうが、リスクもまず無い。初等部の生徒が「遊びの延長」で手を出しても問題ない範囲だろう。
 なのに何故、失敗したら死ぬと分かりそうな方法を試したのか。世界には到底理解できない心理だった。

「学校には分厚く柔らかいマットとかあるし、あれを自分が落ちる所に置いとけば助かる可能性もあっただろうに……」
 柵の上から軽く下を覗き込んで、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は思う。これは亡くなった彼女の落ち度だと。
「年齢が年齢だから仕方ない面もあるか。ガキの頃は失敗して色々と学ぶものだし。
 もっとも、件の彼女は学ぶ機会ももうないだろうが」
「そもそも、4時なんかに屋上に忍び込む度胸があるなら、別の方法がいくらでもあるだろう、って……あったでしょうにねぇ」
 口にしてしまってから世界は沈黙し、鏡は諦めるように眉尻を落とした。
「……あの。皆さんにお聞きしたいことがありますの」
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はイレギュラーズ達を見回して尋ねた。
 ずばり、今回の発端であるところの――五十鈴遥香の、小林圭太への気持ちについてだ。
「わたしは……つたえないことに、しておきますの。
 気持ちを伝えられなかったこと……遥香さんも、とてもつらかったとは思います。
 でも……死後に、他人にあばかれてでも伝えたいか、というと」
「既に死んでいる以上、伝えずに諦めさせた方がいいだろう。俺にできる未練の断ち方はそれだけだ」
 悲恋の呪いの妖精鎌であるサイズは己の性から、想いを伝えないノリアに賛同する。
「確かに、伝えることで却って後悔の念が生じるのはよくない。
 俺は、五十鈴殿の霊も探して意思を確認してみよう。……ただ」
 『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)にとって、死者との意思疎通自体は難しいことではない。
 問題は、『伝えられる側』の気持ちだ。
「五十鈴殿と小林殿は家族でもなく、特別に親しいという訳でも……無かったのだよな?
 そんな小林殿には命を懸けた想いは重いだろうとも思う。ましてや、まだ子供だし……いや、大人でも重いぞこれ」
 言ってしまえば、今回の事は全て「遥香の勝手」が招いた結果なのだ。
 それを突然、しかも死後という取り返しの付かない状態で押し付けられるのは、あまりにも重い。
「しかしその重さが、結果的に今小林を助けているのかもしれないと思うとな……」
「だろうな。それなら、この失敗から五十鈴遥香もいくらかは学べたと言えるか」
 『長頼の兄』冬越 弾正(p3p007105)と世界は、圭太の身の回りで起きている事件――まるで屋上へ行こうとするのを阻止しているような――を、死んだ遥香の霊によるものと推測していた。
 だから、その努力だけは労いたい。それが弾正の。
 なんであれ、関係なく仕事をするだけ。それが世界の、それぞれの受け止め方だ。
「マリカちゃん的には、二人がどうしたいかは自由でいいカナー? って感じ。
 お手伝いはいくらでもできるし!」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)は、心からそう思っていた。彼女の右眼のギフトを以てすれば、死霊に違いない今の遥香にはいくらでも選択肢を用意できる。
 朽ちるまで寄り添う肉体を用意するでも、霊のまま取り憑かせるでも。いっそ『お友達』として自分についてくるでも、成仏するでも。
「成仏はしてもらった方がいいと思うけどねぇ」
「……未練を残して悪霊化、なんてことだけは。死出の番人(ニヴルヘイム)としては絶対に見過ごせないのだ」
 ちらりと鏡が溢す傍ら、それまで頑なに口を閉ざしていた『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)が小さく、しかし強い意志で答えた。
 皆の意思を聞くと、ノリアも意を決したように頷く。

 登校した生徒も増え、校舎が賑わってくる。
 集合の合図を定めると、イレギュラーズは各自の持ち場へ向かうのだった。

●はるかがそこにいる
 その日の放課後、「希望する生徒の自由参加」という条件で交流会が催されることになった。非常勤とは言えイレギュラーズの教師である弾正の申し出ということで学園側も融通を利かせてくれたらしい。
 交流会の真の目的は、ドッペルゲンガーの次の目標であろう小林圭太の保護にある。ゆえに、彼には絶対に参加してもらう必要があるのだが。

「つまり……遥香さんは、生きてますのね?」
 交流会の少し前から、死んだはずの遥香と話をしたという生徒が現れていた。
 ノリアが同じ初等部の生徒として話を聞いたその生徒は、交流会の会場へ行く前に向かった圭太の教室にいた。
「遥香さんが自殺なんてするはず、ありませんの。きっと『飛び降り成就』を試して、成功したんですの」
「本当にあれ、はるかなのかな……先生は死んじゃったって」
「屋上から飛び降りたと聞いたら、普通はそう思いますの。でも、遥香さんの死体、見ましたの?」
 聞けば、話をしていた生徒は首を横に振る。
「わたしも、『飛び降り成就』で生き残る方法を、遥香さんに聞いてみたいですの」
「でも、はるかのユーレーもいるって……圭太の周りにいて、いたずらしてるって……」
「それはきっと、生き霊ですの。どうしてそんな事になったのかも、直接聞いてみたいですの」
 生き霊が何かについても説明してやると、生徒は気味悪がったものの、話をしたという『遥香』についていくらか教えてくれた。
 一方、圭太本人は当初交流会に消極的だった。
 教室に残っていた彼を見つけたのは、遥香の中等部の友人ということで交流会に参加予定だったヘルミーネだ。
「君は行かないのだ?」
 圭太は初めこそ見知らぬ中学生に言葉を失ったものの、その強烈なカリスマから放たれる頼もしさに無意識に警戒を解いていた。
「交流会ではるかと会ったら……どうしよう……喋った奴もいるって……」
「なら、ヘルちゃんが一緒にいてあげるのだ。遥香とは友達だったから、もしいたらヘルちゃんが話をしてやろう。それなら、怖くないだろう?」
 頼もしい中学生が一緒にいてくれる。その事に安心したのか、圭太は少し迷って腰を上げた。

 会場は会議室だった。ホワイトボードが飾られ、整えられた長机には軽い茶菓子が用意されている。
 初等部の生徒はその多くが茶菓子に気を良くしたものの、圭太はやはりどこか落ち着かない様子だ。
「あ。冬越先生」
 圭太に同行していたヘルミーネが少し大きめの声で呼ぶと、気付いた弾正が軽く手を上げて近寄ってくる。
「この子、初等部の圭太。クラスメイトが亡くなったらしいのだ」
「大変だったな。それで元気が無いのか」
 圭太にとっては弾正も初対面であるが、大柄な彼が目の前で屈み持参した箱から何かを差し出すと、興味深そうに見つめていた。
「俺の"とくべつ"を分けてやろう。ハーブバタークッキーだ。騙されたと思って食ってみろ。元気になる魔法をかけておいたから」
「魔法とか、今時誰も……」
 言いながらクッキーを受け取ろうとした圭太の手が小さく跳ねる。
「先生……魔法って、本当にある? 魔法があるなら、ユーレーもいる……? はるかもまだいる?」
「それは……」
 答えようとして、弾正が圭太を正視したその先。

『……』
 そこに、いた。疎通できなくともわかる。
 触りたくてもできなくて、ただ眼差しに熱を込めるしかできなくて。
 圭太の肩越しにそんな視線を送る、彼と同年代の少女で、生きている人間に認識されない存在など。

 『五十鈴遥香の幽霊』でなければ、何だというのだ。

●後ろの正面
 交流会が開かれている最中、ドッペルゲンガーの偽遥香捜索も同時に行われていた。
「ふーん。もう偽物と話した生徒はいるんだね」
 屋上でサイズがaPhone越しに連絡を受けたのは世界だった。捜索前に「学園内のコネは無い」と言っていたはずの世界だが、依頼の数をこなしていると情報の方から舞い込んでくるのだとか。
 実際はオカルト界隈で『飛び降り成就』がちょっとしたトレンドになっていた影響で、学内からそういうコミュニティに垂れ込みをする関係者がいたらしい。
『今のところ五十鈴遥香の直接の知り合いが中心だが、交流会で話題になったら小林圭太も安全じゃなくなる』
 その為に会場にもイレギュラーズがいるのだが、影響は小規模な内がいい。マリカにも連絡をするという世界と通話を切ると、サイズは元の体勢へと戻る。
 屋上の柵を越え、外へ。軽く背中を押してくれるだけで宙へ飛び立てるーーそんな誰かを待っていた。
(まあ、妖精の俺は押されても飛べるけど)
「ねぇサイズ君。そこってどんな気分なんでしょう?」
 それまで同じ屋上で気配を殺して隠密していた鏡が親しげに歩み寄る。
 死ぬためにここから飛ぶ、という人間は。いったい何を考えてここに立つのだろう。最期に、この遮蔽物のない空を見て落ちたのだろうか。
「立ってみる? マットとか無いけど」
「危なそうなので遠慮しておきますぅ。ところで」

 ーー既にどこかで戦闘中とか、あると思います?

 *

 同じ頃、マリカは交流会へ急いでいるという女生徒を渡り廊下で呼び止めていた。
「ハーもカーもそっくり一緒。だったら何がその本人との同一性を証明するのカナ?
 物質世界に囚われていると答えの出ない難しい問題だねぇ」
「なんの話……?」
 初対面の相手に意味不明な話をされ、戸惑いを隠せない生徒。外見年齢はマリカよりも幼いように見える。
 マリカは構わずにっこりと笑った。
「でも、よーするに偽物でしょ? 厳密にはハーも本物と違うし。
 バーだってたった今から刻み始めたばっかりだし、そもそもあなたにバーがあるのかもわからないもの」
「偽物って……? あの、わたし早く行かないと」
「行かなくていいよ。あなたはここでおしまいだから」
 突然突きつけられた終わりに、生徒が後ずさる。空いた距離をマリカが詰める。
 その表情は微塵も変わらずにこやかなまま、その手には屍の鎌を持って。
「あ、もしかして本当にマリカちゃんのお話わかんなかった? ごめんね!
 ハーは肉体で、カーは精神、バーは魂とか個性って意味。覚えなくていいよ、偽物さん」
「や、やだ……助けて、誰か」
「どうしても『偽物』が嫌なら、『別物』って呼んであげる。今のあなたは本物とカーが一緒でも、そうやって別のものに引っ張られちゃってるんだもん♪」
 震える生徒が見上げる先、屍の鎌が振り上げられる。やがて生徒は耐えきれないように目を閉じ叫んだ。

 *

 ーーマリカが鎌を振り下ろす少し前。
 交流会の会場では、圭太を弾正に任せたアーマデルとヘルミーネが教室の隅に移動していた。
『本物の五十鈴殿だな?』
 アーマデルが霊魂疎通の能力で問えば、圭太の傍らから連れてきた五十鈴遥香の霊は小さく頷く。ひとつの返事の間にも圭太を気にする執心ぶりだ。
『彼の周辺での物音や異変も、全て君か』
『ぜ、全部かはわからない……でも、けいたくんに、屋上はだめって教えたくて……わたし、ここだよって……』
『君は、君の偽物がいることは知っているのだ?』
 ヘルミーネが問うと、遥香はまた頷く。知っているからこそ本物の存在を主張し続けたものの、当人には逆に怖がられてしまいうまく伝わらなかったようだ。
『小林殿は俺達が必ず守る。偽物の思い通りにはさせないから安心しろ。
 ……他に何か未練はあるか』
『言っておくが、既に死んだ君をずっと現世に残す訳にはいかないのだ。
 未練を晴らす協力はするが、圭太ちゃんからは離れてもらう』
 アーマデルから暗に、ヘルミーネから直接的に成仏を伝えられると、遥香は泣きそうな顔を上げて。何も言えないまま、もう一度圭太を見ていた。

 イレギュラーズ達に「マリカと連絡が取れない」という世界からの焦った一報が入ったのは、その時だった。

●仲よく遊びましょ
「ほうら! そうやってイブが牙をむいてくるのが『本物になれない』証拠だよ♪」
 誰もいない渡り廊下で突然始まった少女達の戦いは、一方的に見えた。

 マリカが最初の鎌を振り下ろした瞬間、困惑するばかりだった女子生徒が「来ないで!」と叫ぶと、暗い靄を纏った悪霊達を呼び出したのだ。
 悪霊達は一斉にマリカを襲ったーーが、
「あ、イブが何かわかんないよね。心臓とか感情とか……とにかく、そういうハートなところ! ま、覚えなくていいよ♪」
 マリカは、ただ楽しそうにそれらをその場に留めていた。完全に動けなくなった霊は、彼女の鎌に誘われた『お友達』の魍魎達に蹂躙されていく。

 戦いは、一方的に見えた。

「やだ……わたし、皆と仲良くしたいだけなのに……」
「あなたと、お友達になれば……『飛び降り成就』は、成功しますの?」
 悪霊と共に片足が動かなくなってしまった少女ーー遥香の形をしたドッペルゲンガーに声をかけたのは、遅れて駆けつけたノリアだった。
「あなたと話したという人から、聞きましたの。『死んでいない遥香さん』は、外が見える場所がお好きだと。やっと、会えましたの」
 ノリアは再度尋ねる。友達になれば、成功するのかと。
 マリカと異なり攻撃してこない彼女は、偽遥香にとって救いに見えたかもしれない。それどころか、圭太といい勝負の愚かな生徒とすら映っただろう。
「そう、だよ……友達に、なってくれる……?」
 懇願のように尋ねる偽遥香にノリアが頷いた瞬間、渡り廊下のガラス張りの壁が砕け、圧倒的な力が彼女を外へ放り出した。
「や、った……やった! 新しい友達……!」
「悪いね、落とされた程度では死なんぞ」
 喜びも束の間、放り出したのとは全く違う声が返ってくる。
「どこ!?」
「カースド武器の妖精鎌ならここだよ、悪性怪異」
 答えたのは、お伽噺に出てきそうな妖精に似た姿。しかしその手から繰り出された大鎌が、容赦なく偽遥香を斬り付ける。
「やだ、もうやだ……邪魔、しないで!」
「その頼みは聞けねえよ」
 拒絶の悲鳴と共に発せられた衝撃波をやり過ごして、駆け付けた世界が答える。
「おいマリカ、連絡には出ろ。電源切れてたのか?」
「ごめんごめん! 『別物』さんのお友達と遊んでて」
 実際、マリカは通話に出られるような状態ではなかったのだが、お陰で世界は彼女の居場所を割り出すのに奔走することとなった。ノリアから『外が見える場所を好む』という情報を聞いて窓のある場所を虱潰しに探していたところ、渡り廊下の音を聞いて到着できたのだ。
「こうなったら……皆ここから落として……!」
 世界の痛みなき攻撃に気付いていないのか、呪いの白蛇に嚙まれた腕から血を流しながら偽遥香が更に悪霊を呼ぶ。
 その数はこれまでに無力化してきた比ではないが、力で及ばないそれらはいずれもイレギュラーズに蹴散らされていく。
「いい加減にしろ! 死者を愚弄するそのやり方……気に入らねーのだ!」
 声を張り上げて合流したのはヘルミーネ。しかしまず襲ったのは、悪霊を音もなく内から爆ぜさせた弾正と、英霊残響を刻んだアーマデルだった。
「お前は……小林のことはどう思っているんだ。五十鈴の偽物としてではない、お前自身は」
 突然の弾正の問いに、思わず戸惑う偽遥香。
「それは……、わたしは、けいたくんも……友達になれたらって……」
「やはり偽物だ、お前は」
 言い切ったアーマデルが弾正と共に回避すると同時、ヘルミーネの氷結死世界(ニヴルヘイム)が展開される。
「ニヴルヘイムへ送る前に教えてやる。『今の彼女』はな、『そんなものは望まなかった』ぞ」
 極寒地獄に耐えきれず姿を消していく悪霊達。最後に残った偽遥香の前に、納刀したままの断刀『鈴音』を手にした鏡が立つ。
「あんまり騒ぐと、流石に他の生徒も気になっちゃうかもなのでぇ。そろそろ、退場してくださいねぇ?」
 その刃が抜刀の音すら立てず、納刀の鍔鳴りを響かせた時。偽遥香は斬られたことすら気付いていない表情のまま、その形を薄れさせていった。

●ゆうやけこやけ、明日はこない
 放課後の教室で、イレギュラーズ達がそれぞれに見守る中。アーマデルの肉体を借りて、本物の遥香が手紙を書いた。
 正確には、手紙ですらない。『ごめんね』の四字しかないのだから。
「圭太ちゃんに会わないの?」
 サプライズを予定していたマリカが問うが、遥香は強く首を横に振る。怖がらせたくない、と。
「それがいい。会えば未練が残るからな」
 遥香の選択を肯定するサイズ。
「死んで謝るくらいなら、信用できる大人に相談しとけばいいのです。死ぬ前に」
 あなたは担当じゃないので早く消えてくださいね、と送る鏡の言葉は優しさなのかどうか。
「五十鈴。君は、小林のためによく頑張ったよ」
 遥香の頭を撫でるように手を動かす弾正の言葉をアーマデルが伝えると、遥香はこの日初めて笑って頷いた。

(正直、馬鹿じゃねーのだと思うのだ)
 手紙を預かり、渡す役目を請け負ったヘルミーネは当初、この件に嫌な印象しかなかった。恋のために命を絶つなど、愚かな母を思い出したからだ。
「恋の成就に命を懸けていいか、だったか。俺は個人の好きにすればいいと思うがね」
 思い出したようにチャンドラの問いを口にした世界が、簡単に答える。アーマデルも概ね同じ意見だった。
 ただ、と彼は付け加える。
「命を懸ければ絶対に報われる恋とは……相手にとって呪いなのではないか、とは思う」
 『絶対に報われる』結果が確定しているなら、死ぬこともない。その時点で命を賭けてもいないことになる。
 あるいは、『死ぬことで相手の心に残り続ける』ことを『恋の成就』とするのであれば。それはやはり呪いである。
 それでも、最終的に選ぶのは当人である――その上での『個人の自由』だ。
「愛する人の心を、そんな呪いで歪めたくはない。そんな成就は……自分の死より恐ろしい」
 アーマデルの答えを聞いた弾正は、噛み締めるように答えて視線を上げた。
「……では、送るのだ」
 恋の成就に命を懸けて、失ってしまった少女を。
 ニヴルヘイムの鎮魂歌が、静かに送り出した。

 そこにはもう、だれもいない。

成否

成功

MVP

冬越 弾正(p3p007105)
終音

状態異常

なし

あとがき

大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。

遥香は圭太に「ごめんね」だけを伝えて成仏することを選びました。
皆様それぞれの遥香への接し方や恋愛観に触れることができて、感慨深かったです。

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