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シナリオ詳細

死にぞこないものどものためのかけっこ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●不戦敗、不戦勝
 小鳥が囀り始めるよりも早く、朝焼けがほんのすこしかかるばかり――。
 それは、今からはずいぶん遠い昔。聖教国ネメシス――天義の国でのことである。
 修道士たちが冷たい水を浴びて身を清め、熱心に武器をとり、鍛錬に励んでいた。
「ううっ、さむい」
「大丈夫ですか、マルクル修道士」
「はい、ずっびばぜん、寒さにはどうにも……くしゅん!」
 聖アマランサス修道会。
 彼らは、もともとは小さな落ちぶれ騎士たちの集まりだった。聖騎士アマランサスの乙女の名のもとに集い、身を寄せ合って、人民のため、魔物退治に精を出し……。
 あぶれものを快く迎えているうちにずいぶんと大きくなったものだ。
「よっ、はっ!」
「剣の振りが遅いですよ! そんなものでは正義は為せません」
「はい! すみません、修道士長!」
「みなさん、すごいですね。僕はパンを焼くくらいしか脳がなくて」
「それだってちゃんとした役割ですよ、ヨハン」
「ああ……もっとお祈りしたら、癒しの力は強まるでしょうか」

 彼らの熱心さに、修道士長はわずかに微笑んだ。このひたむきで素朴な姿こそ、かくあるべしである。
 しかし、その表情は愁いを帯びている。
「修道士長、少々よろしいでしょうか」
「はい。春の聖戦に向けて、ですね」
「はい。春の聖戦です」

 彼らは、春に聖戦を控えていた。聖戦――というよりも、決闘といった方が近いかもしれない。それも、相手は個人ではない。鉄帝の軍隊との戦いである。
 舞台は、入り組んだ地下迷宮である。
 副修道士長のバランが地図を広げた。
「あちらから攻めてきたくせに、『迷宮の踏破のタイムで競おう。我らに勝てば、戦士の名誉にかけて、そこで手を引こう』とは……ほんとうにあの人たちの考えることはわかりません……」
 そのころの天義と鉄帝の境界に位置する地下迷宮である。あろうことに、鉄帝の軍人は「この迷宮を先に攻略したもの」を勝者とし、場合によっては停戦しようとようともちかけてきたのだった。
 最初は、レースならば勝ち目があるかと思った。だが、調べれば調べるほど、絶望的だった。入り組んでいるばかりではなく、魔物がはびこり罠もてんこ盛りと言うおそろしい迷宮だった。
「けれど、ここで決着をつければ……彼らは戦士です。約束は守るでしょう。ここの住民は安全です」
「その通りです。わたしたちの背には多くのひとたちがおります。飢えているにもかかわらず、彼らが差し出してくれたスープのあたたかさ、忘れてはなりません。負けられないのです」
「……では、勝てますか」
 単刀直入なものいいに、修道士長は押し黙った。
 みな、力をつけてきている。
 けれども、どう考えても、鉄帝軍人に勝つのは絶望的だった。優れた騎士だっている。だが、戦争においてものをいうのは数なのだ。戦力差にして数倍……。天義のトップも、大きい声ではいえないが……この辺境の領土を、あまり重要視してはいない。
「修道士長。あの、僕、思うんです。もし勝てなくても……」
「ヨハン、そんなこと言うんじゃない」
「すみません、でも思うんです。すごく一生懸命に、命も惜しまないくらいに戦ったら、もし戦士として認めてくれたとしたら、僕らの領地の人たちは助かるかもしれません」
「……」
「修道士長。大丈夫です。この身、すでに神にささげたものとしております! 僕たち、……死ぬのは、怖くありません」
「そもそも、負けると決まったものじゃねえですしね」
 バランが言う。
「……そうですね。励みましょうか。もうこの土地には戻っては来ない。そのつもりで」
「でもでも、絶対、勝つぞー!」

 だが。
 彼らは武器を振るうことは一度もなかった。
 春を目前にして、聖堂は土砂崩れに見舞われたのだった。
 幸いなのは、災害への対応で鉄帝もそれどころではなくなり、手を引いたことか――。

●というあらすじ
 それが――イレギュラーズたちがアンデッドのひしめく迷宮にいるあらすじの前半部分である。
 迷宮のように入り組んだ広大な地下納骨堂である。地盤の沈下により埋もれていたが、最近発見された迷宮、といっていいだろう。
「彼らの戦いは、まだ終わっていないのです」
『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は、アンデッドたちに取り囲まれている。すでに首からホイッスルを下げている。
「死者には眠っていただかねばなりません。そのためには、お分かりですね。彼らが待ち望んでいた聖戦を、今ここに開催する必要があります……」
「ふむ」
『納骨堂杯』と書かれた優勝カップから、『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)はするすると紙を引っ張った。緑色に燃え上がる紙には――単に「ホイップクリーム」と書かれていた。
「地下には様々なトラップが眠っているようです。そちらは借り物競争のデモ用ですね……」
「豪華賞品が出るって聞いたんだけどなァ!? こいつら引き連れて運動会かよ」
『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)の助けを得て、死者たちはかなり元気になっているようだ。もうすぐ聖戦だ、と沸き立っている。
「指定ジャージはお持ちですか? お持ちでなければ支給いたしますが」
「オーダーは?」
「『全力で』、彼らに安らぎを」

GMコメント

すっかり雪が降ってきてしまった。すみません。
冬タイヤの準備はお済みですか!

●目標
思い切り競い、アンデッドを昇天させてやる。
要するに思いっきり運動会してさしあげたらよろしかろうと思います。

●場所
天義、とある地下大聖堂(だったダンジョン)。

●状況
大義のために死ねなかった死者たちが集まっています。
彼らを率いたり、応援されたり競ったりしてみましょう。

●登場
天義・アマランサス修道会のみなさん(故)
「これが神への献身になるのですね!?」
「神よ、感謝いたします」
 大昔の修道会の修道士たち(故人)です。
「100年に一度の聖戦のため」に集まっています。その日が来るのを待ちわびていました。
 戦いのための訓練を積み、殉教する覚悟がありながら、迷宮の崩落のため、戦いに出ることなく亡くなった者たちです。全てがアンデッドで構成されており、ゾンビ、スケルトン、レイス(霊魂)など形態はさまざまです。

 彼らはとても純粋で素朴です。正義やスローガンが大好きで、「こういうことです」と言われたことを頭から信じる傾向があります。神のために生き神のために死ぬことを善しとしています。
 そうできなかったために天の国に迎えられずにいるのです。自分たちがアンデッドであるということにはあまり気づいていないようです。
 彼らの教えは極めてあいまいで、時に野蛮です。迷宮の中には正気を失った仲間たちがひしめいています。
 野生のアンデッドは攻撃的ですが、熱き闘争の魂に触れたり、その他の何らかのアクションがあれば運動会に参加してくれるかもしれません。

●プログラム(量子的揺らぎあり)
・開会の辞
・なんらかの斉唱
・障害物競争
・障害物競争
・お弁当タイム
・障害物競争
……。

●迷宮の障害物(一例)
・罠
昔の罠があちこちに残っているようです。鉄槍や落とし穴、あからさまな宝箱など。
・借り物競争
「友人」などとまともなものから「愛」「魂」など不可思議なものまである。
・玉入れコーナー
扉が閉まっていて、あきらかに玉を入れるかごがあるのですが、しかし玉がありません。どうすれば開いてくれるのでしょう。え、物質透過? 可能です……。
・クイズ大会
「パンはパンでも食べられないパンは?」みたいなしょうもないクイズから「卵と鶏どっちが先か」みたいな哲学的な問までで、喧々諤々アンデッドどもが争っています。正解の通路は片方だけ……!

●どうすればいい?
 アンデッドたちに交じり、運動会に参加してください。
 プログラムは極めて流動的で聖典によって解釈されたもののようです。全てを踏襲する必要はありません。導いてあげましょう。
 彼らにとっては、どんな結末だろうと、勝とうと、負けようと、イレギュラーズたちがズルしようと、本気であれば今の「停滞」よりはじゅうぶんに満足のいくものです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • 死にぞこないものどものためのかけっこ完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年12月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
※参加確定済み※
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
イズマ・トーティス(p3p009471)
誠の鋼に至る者
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
※参加確定済み※
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
※参加確定済み※
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

●前奏~準備運動~
「うん、大丈夫、落ち着いて……音楽に合わせて」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、青い指定ジャージを着て準備体操をしている。
「服が果たして私の巨躯に合うのか否か」
「いっちに、さんしー……」
『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の横で、ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)が大きく伸びる。ボーンとチャックがはじけ飛んでちょうど『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)に当たる。
「いてっ、なんだこりゃ」
「っと、申し訳ないのだ!」
 ナイスチャックボーン。
「おっと、ホイップクリームが」
「そりゃあほんとに何なんだよ」
『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は死者の名簿を作って参加者全てを把握しているようである。
「ありがとうなのだ!」
 そしてまたチャックがはじける。
「Uhー、Un!」
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はもたもたとジャージを着ていた。すぽん、と首が通るとぷるぷると頭を振る。ぶかぶか気味に袖を余している。
「ひっかけて転びそうだな。どれ」
『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)がリュコスの袖をまくる。
「なら、髪の毛は……はい、どうかな?」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がリュコスのほわほわの髪の毛をくくる。
「ありがとう……」
「ふむ。ヘルちゃんもポニーテールだから、得意なのだ! くくってもいいのだ」
 くくられる側なのか。
「できるかなぁ……Uhー! がんばる、よ」
「で、準備運動だな」
 モカが身体をよじると、恵まれた肢体が強調される。体操服とブルマーといった出で立ちである。
 ナイスボーン。
 ブライアンが口笛を吹いた。
「敬虔なる天義修道士のお坊ちゃんたちには刺激が強すぎるかな?」
「はいそこ、昇天しない。本番はまだですよ」
 ホーが死者たちをステイステイしている。

「未練が残ってアンデッドになるか……」
「なるほど、死者の無念を晴らすために運動会しろという事か。面白い」
「じょうぶつしてもらうために運動会……よくわかんないけどわかった!
いっぱい運動したらすっきりするよね。そんな感じかな?」
「お墓で運動会は聞いたことあるけど、迷宮で運動会とか初めて聞いたのだ! 頑張るのだ!」
「皆さん見てくれ、聖戦のプログラムを作ったぞ」
 真剣に何かを書き留めていたイズマに、ワアアとゴーストたちが群がった。
「ええっ……何、免罪符に見える? いやいや、ちゃんと聖典に則って(?)組んだプログラムだぞ?」
 ネメシス正教会の文字が懐かしいのだろうか。オオオオオ、という鬨の声に、リュコスが身を縮こませる。
(……元は悪い人たちじゃない、目的を達成できないまま死んでしまった無念の人たちというのはわかるけど……見た目、こわい)
 幽霊やら骨やらゾンビやら。
「Uhー、Un! でもいっしょに運動会すればなれるはず……なれてくれる、よね?)
「君達霊になってもアグレッシブ過ぎなのだ!
悪霊になられるよりは断然マシだけど……」
「そうだね。無理やり浄化もできなくもないと思うけど」
「随分とブッ飛んだイベントだがよォ、本当にこんなんで弔いになるのかねェ?」
 ブライアンが首をひねるが、すぐに気持ちの良い笑みを浮かべた。
「……ま、いいか!
何を未練に感じるのかも、何に満足して逝くのかも、そのくらいはテメーで決めるモノだ」
「とにかく全力で挑んで成仏してもらうのだ!」
「うん、どうせなら楽しんで貰えるように頑張るね!」
 スティアの祈りは、生前を思い起こさせたのだろうか。一瞬だけ静寂が訪れた。誰かが跪き、ほかがそれに続いた。あれほど騒がしかった霊たちが、一斉に。
「私はこう見えても聖職者だしね
立派にお勤めを果たして見せるよ」
「ああ。全力で、正々堂々と勝負しよう」
「嗚呼。兎も角、霊魂の芯まで慄える『おもい』を我等に魅せ給え。最初から最後まで全力の競争よ」
 この者たちならば、彼らを送りとどけることが出来るだろう。
……ホーは、人選に深く頷いた。

●〜聖戦プログラム〜 開会の辞
 式辞用紙を懐から取り出すホーに、一斉に拍手がなされる。
「本日ここに納骨堂杯が盛大に開催されますことを心からお祝い申し上げます。幸いなことに天候に恵まれたのも、お導きでしょう。皆様がこの日を待ち望んでいたことは、とてもよく分かっています。開催に当たりましてはご協力いただいたみなさまがおりまして……」
 指をさすホーのホイッスルの音が高らかに響き渡った。
「挨拶が長い? 校長先生みたい? 何をおっしゃいます、開会の辞も立派な競技の一つ。
この程度で音を上げては、志半ばで倒れた彼等を満足させることなど到底できないでしょう。
そう、開会の辞を制す者こそが、この納骨堂杯を制すのです……そこ、お喋りしない」
「開会の辞を成すのは何者か聴いてなかったか。如何に長引こうと我が身、貧血で倒れる事はないのだよ――」
 余裕のオラボナだった。
「終々、素晴らしきかな統治(のぞ)くが好い!」
「はい、ええと、いいのかな?」
 そわそわとするスティアが、立ち上がる。歌ならばお手の物なのだ。イズマも、指でリズムをとっており。こらえきれないヘルミーネもそれに加わった。
「指揮なら任せてくれ。勇ましき聖歌を共に歌おう。
俺達もアンデッド達も、競い合う好敵手として心を一つにしようじゃないか!」
 聖騎士の高潔さと勇壮さをたたえた行軍曲である。
「ああ、知ってるぜ。たしかこんな調子の」
 ブライアンが張り上げる伸びやかな声に、修道士たちの声はだんだんと大きくなった。
 そして、次に曲調を変え、乙女の祈りの歌となる。こんどはスティアが、そしてヘルミーネが主旋律へ。
 一人の霊魂が――ゴーストが、ヘルミーネの歌声に崩れ落ちる。しかしホーは、今度は止めなかった。
「……。貴殿はいいのですね」
 なんとか身体を保っていたけれど、ようやく安心できたと。
「……ほんとうはとっくにそうなっていてもおかしくなかったのだな」
 その代わり、正気を失った派手な霊たちが流れ込む。
 ギイイイイィイイ……。
 それを押さえたのは、オラボナの不協和音――いや、違う。とある規則によって並び替えられた意味のある旋律。聞く耳を持てば美しく今まで見ていた世界が無知蒙昧なものだと
~しばらくお待ちください~
「NYAHAHAHAHA!」
 なだれ込む彼らを押さえることに成功した。
「飛び入りか、いいじゃねぇの!
どうせ演るなら一際派手にしようや!
カモン聖歌隊もしくは声に自信のある死に損ないども!」
「ウォオオオン」
「デカいイベントにゃイカした音楽が欠かせねえってなァ、手伝ってやるから一緒にビートを刻もうぜェ!」
「歌を歌うならヘルちゃんに任せろー!」
 ヘルミーネはばっと飛び上がり、完璧な振り付けを披露する。
「それじゃあ、God bless you! 聞いてくれるかな!」
 スティアの歌に、ゴーストたちがサイリウムのごとく点滅する。
「亡者の呻き? ポルターガイスト?
ハッハー! いいじゃあねえか! ゴキゲンだぜ!」
 そしてそれは、情熱は灯火のごとくに集まって、燃え上がる。最期であるということを理解するかのように。

●借り物、忘れ物はないか
「それでは既定の位置にある紙を手に取っていただきまして」
「いっちょアガるのを頼むぜ!」
「オッケー、それじゃあ、いくね」
 ブライアンのリクエストで演奏するスティア。

「フハハー! 借り物競争とかヘルちゃんの為にある競技なのだ!」
 ヘルミーネはすばやく一枚をとりに行く。うっかり網掛け罠にかかったが紙は確保した。もぞもぞと、紙を開いたそこには……。
『スイカ 4つ』
「な、なんじゃこりゃー!? なのだー!」
 イズマもまた、早い。フライングではないすれすれ、音を誰よりも敏感に察するのだ。
 イズマの引いたものはもう少しマシなものだった。『発光している何か』。ホーの爆速ディープフリーズΩが目に入った。貸してくれた。冷たい。
「……罠が多いな!」
 イズマは壁を叩き、反響で空間を把握した。飛んでくる罠。丸太の固有振動数を把握すると再び響奏撃を奏で、吹き飛ばす。
 こそこそとしていたリュコスはびし、っと手で一枚を見つける。
『愛とか希望』
 ……。
「えーと、これってそもそも持っていけるものなの……?」
「もらったァ!」
 そこへ、ブライアン。
「あ! ずるいのだ!」
「盛り上げるだけの背景に徹するつもりは毛の先ほども無いぜ。
借り物競走こそ俺が主役の舞台ってワケだ」
「『ハゲ頭の木こり』だァ?」
「『ハゲ頭の木こり』です」
 ホーがしれっと頷いた。
「これ考えたヤツすげーバカだろ! バーカ!
超絶身内ネタで誰のこと言ってんのかわっかんねーよ!
おう、怒らねーからみんなでハゲ木こりを指差してみ?」
『…………』
「おらバカども! 目線逸して無関係を装うんじゃねーよ!」
 装飾の薔薇を突き破るオラボナはけたたましく嗤う。
「嗚呼、削げるような戯れに乾杯!」
 何らかがべちゃ、と紙にくっついて読めないが、うむ。これはホイップクリームで間違いがない。
「ならば問題なく、貴様も私も何もかも泥濘なのだ。故に目の前の全てを持ち去って仕舞え――」
「ハッハー!そこに居たかァ! 大人しくお縄について俺の勝利の栄光の礎になりなァ!」
 ハゲ司祭を見つけるとどおんとこぶしで説得するブライアンはホイップクリームの群れを突き抜けていく。慌てるヘルミーネ。
「スイカスイカ……」
「私か? 悪いな、私のは少々骨がいりそうだ」
 モカが持っていた紙には、『パンはパンでも食べられないものは?』と書いてある。クイズが紛れ込んでいる。
「あったのだ! いやもうこれでいくのだ!」
「ん?」
 モカと二人三脚で走り出すヘルミーネ。豊満なバスト4つである。

●障害物競走(ランチ付き)
 借り物競争を超えた先には、障害物があふれている。
「ま、そう簡単にはクリアってことはないよな」
「あ、じゃ、参加しようかな!」
 と、演奏をやめたスティアがぐいーと背伸びをする。
「おや、棘やら槍やら騒々しい」
「オラボナさん、どっち行く?」
「ふむ」
「それじゃあ、逆の方にしようっと。参加するなら全力でー!」
 幻想的な風が吹き、それが過ぎ去ればスティアは瞬く間に傷一つ負っていないように見える。一方でオラボナのほうはダメージを受け、受けるたびに姿を変え……自身がすでに「障害物」と化していた。宝箱を開けては突き出す槍を四捨五入して無効化する。
「――美しき球体の魔障!」
 オラボナの方に立ち入り禁止の看板を立てたホーであった。
「Uhー……こっちなら安全だね! 走る!」
 リュコスが鉢巻を巻いて、ひた走る。運動会は再現性東京で履修済みである。……けっこう好きだ。この、ちょっとせまくて落ち着く瓦礫とか。せっせと乗り越えて先に行く。
「でもこのプログラム……なにか足りない気がするな……」
 くう、とお腹が鳴った。

 ランチタイムである。
「ひ、ひどい目にあったのだ……何なのだこのヤベー運動会……」
 うっかり間違ってオラボナの空けた通路に進んだヘルミーネがとぼとぼと帰ってきた。ヴォードリエ・ワインを空ける。
 成人済み。コンプラヨシ。ホーが頷く。
「まあ待て、腹に何か入れたらどうだ」
 と、モカ。
「この私、シェフ・ビアンキーニが全員分の弁当を作ってきた。ぜひ食べて、後半も頑張ってくれ」
「プロの料理だ……Uhh……」
 モカのお弁当にじん、と感動するリュコスだ。
「涙出るくらいおいしい……わかった。足りないの、パン食い競争だ」
「……そういうと思ってな」
「え」
「パンは、私が友人の店の窯でたくさん焼いてきた」
「わあ!」
「お弁当、私も作ってきたよー! 交換しよう」
「デザートか。いいな」
 スティアは星形に切ったフルーツをピックに刺す。ぎゃうううう、と何かの吠え声が聞こえた。
「いっぱい作ってきたけど食べる?」
 と、差し出してみる。
 最後の晩餐ならぬ、昼餐である。
 先ほどまで暴れていた、話の通じない野良犬霊が、うつらうつらとして、ごろんと寝た。ゆっくりと薄くなって消えていく。

●魂投げつけIQ5億!
「昼食後、ずいぶんと眠たげにも見えますが、クイズ大会を執り行います」
「はい! 正解の音と失敗の音を務めます!」
「俺も自分じゃない時なら、演奏するよ」
 ドラララララ・ジャンとイズマがドラムロールを鳴らす。

「私と問答がしたいと。随分と楽しげな面だが、成程、答えなど一切無意味と言う事か。シュークリームの外側だけ食したら汚れるだろう。Nyahahahaha!!!」
 頷くオラボナ。
「では、次の4つのうち」
 ピコーン、とリュコスの被った帽子のランプが光った。
「それでは、リュコス様」
「わかんない!! B」
 野生の勘はとりあえず当たったらしい。通路の先はふわっとしたクッションだ。
「おお、やるな。まあ、クイズなら博識の私に任せろ」
 腕をまくるモカ。
(モカさんは、クイズが得意なのか……)
 これは負けてはいられないと気合を入れるイズマ。
【持つだけで手が震える家具って何?】
(なぞなぞか? 手が震え……あ、テーブルか。こっちだ!)
(! マッサージ器だな、間違いない)
 正反対の方向にいくモカとイズマ。
「ふむ、(意味不明な文字列)か!」
 第三の道……あきらかに罠だらけな方に突撃していくオラボナ。
「貴様、其処の貴様等は野良アストラルか。私の言の葉に耳を傾け給え――腹拵えの為に用意した肉片を頬に詰め、更なる熱狂に非物質を捧ぐのだよ」
 罠を破k……味わいつくしている音がする。
「やはり正解だった」
「そうなんだ(そうなのか?)」
 モカはちょっと水をかぶったらしい。セクシー度が増している。
【せたたいかいたはみたぎ】
 狸の絵が描いてある石板。
(何なんだこの迷宮?)
「一文字ずつずらして……ふむ」
 真面目に読解するモカであった。

 次、巨大なかごのある部屋に出た。
「赤も白も無いのか。ならば貴様の魂を投げるべきだ!」
 オラボナはひゅうひゅうと青白い何かを集めている。
 ホーはぐるりと周りを見回した。
「この玉入れ競技、確かに玉はありませんが、タマはタマでも魂ならば……後は勿論、お分かりですね?
いいですか? この競技をつつがなく執り行う為には、貴殿らの協力が必要不可欠なのです。
世の為人の為に行動することこそが、全人類……ひいては神への献身へと繋がるのです。そういうものです」
 キャンプファイアーのごとくに燃え盛る命が明滅する。
 ブライアンが手をたたいて笑った。
「なら、景気よくどーんだ! 投げてやる!」
「籠は有る、しかし玉が無い……所持アイテムにも玉っぽい物が無い……」
(……)
 モカは、ピコーンとひらめきを得た。
 籠によじ登ると、頭から突っ込んで倒立である。
 これぞ、頭入れ。
 そうか、その手があったのか、と亡霊たちはざわめいた。迷宮も納得したのか、次の部屋への扉が開いた。
「まるいもの……まるいもの、あれ、これって頭のh………」
 リュコスが悲鳴と人ごみに飲まれる。

「うおおー! 今度こそヘルちゃんの独壇場なのだー! そのパン寄越せ―なのだ!」
 迷うことなくデカいパンに食らいつくヘルミーネだった。
「それだけ美味しそうに食べてもらえると嬉しいな」
(これだけはゆずらないよ!)
 ひょい、ひょいとパンが消えている。
 リュコスが目にもとまらぬ速さで気配を消し、パンを捕食しているのだ。
 パンを分け与えたもう、我が主。
 何か、懐かしい何かを思い出したのか、霊魂が涙を流した。
「これが神への献身だ。貴様等の望んだ存在への祈りだ。我々が導きを見たように貴様等は真実を得たのだ。千切れたパンの欠片と葡萄酒の味わいを忘れず、彼方側で笑い給えよ――我等に相応しき楽園在れ!」

●終わりなき旅はなく
 ついに、ゴールだった。
 割れた遺跡の天井から、陽光が降り注ぐ。
「では、最後に閉会の辞を……やらなくてもいい? そうですか……それは残念です。では、代わりに」
「はーい」
「まかせるのだ。ニヴルヘイムの名の元に……勇敢で誠実だった汝らの死出の旅路の先に安息と救いがあらん事を」
 イズマの指揮によって、ヘルミーネとスティアの旋律が流れる。
「ほら、ぼさっとすんなよ。フィナーレだぞ。いいんだよ、音痴だって」
 ブライアンの言葉に、幽霊たちが加わる。
「豪華賞品があると言いましたね? ご安心ください、勿論用意していますとも。どうぞお納めください」
 いくらかの聖杯。それはずいぶん古い彼らの信仰を模したもの。おや、壇上には『ハゲの木こり』もいる。トロフィーを受け取り、昇天したようだ。
「さて、家に帰るまでが運動会ですからね。皆様お気をつけてお帰りください。
ああ、そうそう。ゴミは各自でお持ち帰りくださいね」
「みんな頑張ったな。楽しかったよ」
「聖戦は無事、神に捧げられた。全力で挑んだ俺達の行いは必ず認められる」

「……敬虔なる修道士たちよ、安らかに眠れ……」
「安らかに眠れますように」
 スティアとモカが、祈りをささげる。
 死者が去り、生者は残り。
 あとには静寂のみ。

成否

成功

MVP

ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

状態異常

なし

あとがき

墓場で運動会、お疲れ様でした!
幽霊騒ぎはつつがなく終わり、彼らも満足したようです。アンデッドたちのいなくなった遺跡では、時々運動会の喧騒の音や演奏が聞こえるとか……。

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