PandoraPartyProject

シナリオ詳細

セイラー・ブルーの海へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 サクラメントの光はパーティクルの色彩を散らし視界を包み込んだ。
 一瞬の静寂と暗黒。
 先ほどまでとは違う空気の匂い。
 しっとりとした湿度の高い風と磯の香りが鼻腔いっぱいに広がる。
 これは、潮風だ。

「わぁ……! 海なの!」
 水色のワンピースを揺らし、白い砂浜へと走って行く少女に視線を上げる。
 サクラメントを背に一歩前へ進めば靴の底を砂が攫った。
 しゃがみ込んで、白い砂を触ってみる。
 きめ細やかな砂は太陽の熱に晒されて温かかった。
 もう少し指を砂に潜り込ませれば今度は冷たさを感じる。
 陽が当たらない所は自ずと表面より温度が下がるのだろう。
 視線を上げればセイラー・ブルーの海が彼方まで続いていた。
 遠くに行けば行くほど、水分を含み彩度を落としていく風景。
 磯の香り、砂の温かさ、どれもが――本物みたいに感じられた。

 けれど、ここはVRMMO『Rapid Origin Online』の世界だ。
 無辜なる混沌への強制召喚を打ち破り、元の世界へと帰還することを目標にしている練達の科学者達によってつくりだされた仮想環境『Rapid Origin Online』――通称『R.O.O』の中に、イレギュラーズはダイブしていた。
 事の発端は予期できないエラーによるシステムの暴走。
 フルダイブ型の仮想空間に深刻なバグが発生し、練達科学者、及びR.O.Oのゲームマスター(三塔主)の権限の一部を拒絶したのだという。
 つまり、ログイン中の『プレイヤー』が閉じ込められるという深刻な状況が発生した。
 三塔主からの依頼を受けてローレットのイレギュラーズ達は早速『R.O.O』へとプレイヤー登録をする事となった。何故エラーが起きたのかを探り、閉じ込められたプレイヤーを救い出すのがイレギュラーズの目的なのだ。

「ねぇ、今度はあっちの海の家にいってみましょ?」
 座り込んでいた顔を覗き込むように水色のワンピースを着た少女『自由に羽ばたく』アルエット(p3y000009)が優しく微笑んだ。その姿は現実世界と同じシルエットだった。


「……それでねぇ。向こうの岸壁を越えた所にある娘夫婦のところへこれを届けて欲しいのさ」
 海の家に来たイレギュラーズ達は店の前を困った顔でウロウロとしている老婆を見つけた。
 手にはバスケットを持ち、誰かが話しかけてくれるのを待っている。その様子を気にしたアルエットが老婆に話しかけたのだ。
「この通り、あたしゃ足を怪我しちまってね。本当なら付いて行きたいんだが」
「いいえ、大丈夫よ。お婆さん。しっかり娘さんの所へこのバスケットを届けるわ」
「ありがとう。お嬢ちゃん。あとね、帰りに娘夫婦からあたし宛てに荷物を持って来て欲しいのさ。そっちもお願い出来るかね」
「もちろんよ!」
 にっこりと笑ったアルエットがイレギュラーズに振り向く。
 何処からともなく、クエスト発生のシステムエフェクトが鳴り響いた。
 全ての場所で鳴るかは定かではないが、クエストが発生した事が分かりやすい。
 老婆には聞こえていないのかじっとイレギュラーズを見つめている。

 ――これは、あれだ。MMOの初期にありがちな『お使いクエスト』なのだろう。
 ゲームの中に入り込んでいるという高揚感に口の端が上がる。

「でもね、大声を出したり見つかったりするとモンスターに襲われてしまうからね。
 くれぐれも気を付けるんだよ」
 されど、心配そうにイレギュラーズ達を案じる老婆の表情は、大凡MMOのNPCだとは思えない程、人間らしい作りをしていた。練達の技術者達が作り上げた仮想世界は限りなく本物に近い。
 老婆が見せる不安げな表情。怪我をした足を庇うように歩く姿。
 嗄れたの手に触れた時の表面の冷えとその奥の体温。
 皺の刻まれた目尻にはシミや黒子があった。
 瞬きの合間に瞼の向こうで動く眼球と白髪の中に混ざる黒い髪はテクスチャを張り付けているだけなのだろうか。なまじ見た目だけなら出来るのかも知れない。
 されど、老婆から手渡されたバスケットの中から香る花とお菓子の甘く香ばしいかおりは現実世界と同じとしか思えなかった。
 どれだけの演算処理が走っているのか想像も付かない。

「分かったわ! 任せて! じゃあ、アルエット達行ってくるね。待っててね」
 アルエットの元気な声にイレギュラーズは思考の海から浮上する。
 フルダイブ型の仮想空間。中々どうして面白いでは無いか。
 無辜なる混沌で空中神殿からローレットへと降り立った日の事を思い出す。
 似たような景色の中に、違いはあるのだろう。
『お使いクエスト』を熟しながら、それを見つけてみるのも悪く無い。

 R.O.Oの世界は――此処からスタートだ!

GMコメント

 もみじです。ようこそ! R.O.Oの世界へ。
 まずは簡単なクエストから始めてみましょう!

●目的
・荷物交換のお使いクエストをクリアする
・R.O.Oの世界を探索する

●ロケーション
 広い海岸です。白い砂浜が広がり、パライバトルマリンの海があります。
 海岸の反対には鬱蒼とした森が続いています。
 森の中には凶暴なモンスターが居るでしょう。
 砂浜にも時折、海のモンスターが現われて襲いかかってきます。気を付けましょう。

●敵
○シーニッパ
 砂浜に生息する青い甲殻を持ったカニのモンスターです。
 普段は大人しいですが、攻撃を仕掛けると襲いかかってきます。
 そこそこの強さです。気を付けましょう。

○トリリニア
 サーモンピンクの羽毛が綺麗な鳥形のモンスターです。
 縄張り意識が強く、卵を守る為に近づくものを追い払おうとします。
 娘の住む岸壁の向こう側へ続く道近辺に生息しています。
 そこそこの強さです。森側へ迂回すると回避できます。

○ヴァンベア
 ヴァンダイク・ブラウンの毛皮に覆われた大きな熊です。
 森に生息しています。とても凶悪なモンスターです。
 とても強力なモンスターです。
 出会わないように気を付けましょう。

●NPC
『自由に羽ばたく』アルエット(p3y000009)
 普段と変わらない姿です。
 簡単な遠距離攻撃や回復が使えます。

※重要な備考

 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • セイラー・ブルーの海へ完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

那由他(p3x000375)
nayunayu
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
神谷マリア(p3x001254)
夢見リカ家
エイル・サカヅキ(p3x004400)
???のアバター
吹雪(p3x004727)
氷神
ミーナ・シルバー(p3x005003)
死神の過去
リセリア(p3x005056)
紫の閃光
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)
蛮族女帝

リプレイ


 アジュール・ブルーの空は何処までも続き、潮風の吹く砂浜は照り返す陽光の温かさを孕む。
「青い海、白い砂浜、そして磯の香り。ここが疑似世界とは思えない作りですね」
 ウィスタリアの長い髪を揺らし、カーマインの瞳を細めた『nayunayu』那由他(p3x000375)は手の平に感じる情報の渦に感心していた。
「練達の技術力は凄いんですねー。あっ、アルエットちゃんこんにちわ!」
「あ、えっと。アルエットを知ってるの? 本物の?」
 こてりと那由他に向かって小首を傾げた『自由に羽ばたく』アルエット(p3y000009)はエメラルドの瞳を照れくさそうに揺らす。
「こっちでも仲良くしてくださいね? うふふふー」
「もしかして……四音さん?」
「いえいえ。その様な名前ではありません。此処R.O.Oの世界では、私は那由他ですよ。ほら、姿形もまるで違うでしょう?」
 アルエットに近づき、少女の唇に人差し指を当てる那由他。少女の白いかんばせに指先を這わせれば、何処か懐かしき郷愁の想いが過る様な気がする。海の傍だからだろうか。渚音が耳を擽るからだろうか。
「そうね。那由他さん。こっちでも仲良くしてね」
 手を繋ぎ、白い砂浜へ歩みを進める那由他とアルエット。
 リセリア(p3x005056)の薄く紫を孕んだポニーテールが潮風に揺れる。
 つり目勝ちの切れ長の瞳は深紫を讃え、彼女の姿もまた那由他と同様に郷愁の彼方に儚く消えたものなのだろうか。
 目の前の老婆へ視線を向けるリセリア。
「荷物配達のお使いクエスト……」
 確かによくあるお馴染みのものだけれどとリセリアは指を顎に乗せる。それをこんな風に実体験として経験するのは、何とも不思議な感覚だ。フルダイブ型の仮想空間というものの違和感に眉を寄せるリセリア。
 その表情に気付いた老婆が「大丈夫かい? 何処か具合でも悪いのかい?」と尋ねてくる。
「ええ。大丈夫。問題無いわ」
 老婆はリセリアの異変に気付き話しかけてきた。そして、娘宛ての荷物は香る花とお菓子の甘く香ばしいかおりがしている。娘の好物なのかもしれない。仮想世界だというのにあたかも其処に命が存在し、自分で考え動いているかのような錯覚に陥ってしまう。それ程までに高度な演算処理の集合体。
 だから――不気味の谷に足を踏み入れてしまったような違和感に苛まれるのだ。それは余りにも『似すぎた異物』を排斥しようとする遺伝子の言葉なのかもしれない。
「この様子だと、他の全てが同様の感触になるのなら、心してかからないと……」
 老婆に笑顔を返し、リセリアは波打ち際に視線を流す。

 ――なるほど、ゲームでいうチュートリアルの様な感じなのかな?
『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)は黒い歪なアバターの手を動かして上部に持って行く。自分の身体では無い様な、不思議な感覚。広がり縮小し、解け結び。
 言葉にする事は大凡出来ない感覚に、にんまりと笑って見せる。されど、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の表情は真っ黒な質感に消えて認識出来ない。
(しかし、この姿でもなんとか依頼を受けられたのは行幸だったね)
 目の前の老婆も縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の姿を見て驚かない様子から、恐らくこの化物の様なアバターは『認識の外』にあるのかもしれなかった。老婆は縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を『人』と認識するけれど、摩訶不思議な見た目をその通りに受け取っているかは疑問が残る。あるいは、NPCがそれを認識できたのであれば、それこそ『ネクスト』にとってのバグなのかもしれなかった。
 この世界は興味深い事が多いと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は口の端を上げる。
 そうは見えないかも知れないが口の端を上げる。
(そのためにも資金が欲しいし、キリキリと働くとしようね。ヒヒヒヒヒ……!)
『頑張る ろ?』
 仲間の脳内に直接ノイズの混ざった声が響いた。

「怪盗の道も一歩から、初めは一般人のフリして依頼をこなしていくにゃ」
 ふくよかなボディを揺らす『怪盗見習い』神谷マリア(p3x001254)は白い砂浜に足を潜り込ませ、ひんやりとした砂の感触を楽しんでいる。
「マリアさんもおばあさんのクエスト?」
 こてりと小首を傾げたアルエットがマリアと一緒になって砂に足を潜り込ませた。
「そうにゃ! えっと、レベリングっていうのかにゃ、そういうやつにゃ!」
「にゃ! っていうの可愛いね。アルエットもまねしようかにゃ?」
 両手を顔の横に持って来て、猫のポーズをしたアルエット。
「にゃにおう! 私の方が可愛いにゃー! 勝負にゃー!」
 アルエットに対抗するように手をぎゅっと握って顔の横に持ってくるマリア。
 その様子を『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)が目を細め口元を緩ませた。
「もうひとつの混沌世界、って言っても過言ではねーな。この光景は」
 R.O.Oは練達の研究者によって作り出された仮想世界である。歪にコピーされた国や人々。似ているものもあれば全く違う部分に違和感を感じる者も居るだろう。
 ミーナは波打ち際まで歩いて行き、波が手を攫って行く慣性に身を任せる。それは現実世界で感じる感覚と同じ物だった。けれど、自分の身体はアバターとなっている。そこに違和感を感じるのは道理だろう。
「さておき、身体慣らしといきますかね。どこまでやれるかはわからねーけど。もともと海洋には詳しかった……詳しくなったというべきか。だけども、本当にどこまでも一緒なんだな」
 波から手を引いたミーナは伸びをして、いつの間にか転がって行ったマリアとアルエットを追いかける。

「わぁ! ここがR.O.Oのなかかぁ! 本当に元の世界とそっくりな感じなんだね!」
 煌めく瞳でパライバトルマリンの海を見つめた『氷神』吹雪(p3x004727)は広大なVRMMOの世界に感嘆の声を上げた。大人な見た目に反して愛らしい言葉にアルエットが目を細める。
「……はっ! けふんけふん。どうしたのかしら? 今回は荷物を届けて、また向こうで荷物を受け取って戻って来るお仕事なのでしょう? 早く出発しましょう?」
 キリリとした表情でアルエットに向き直った吹雪は白い砂浜を歩いて来る。
 手足の長くなった感覚を噛みしめるように神経を其方に集中させれば、砂に足を取られて転けた。
「ひゃわ!」
「わわ! 大丈夫? 吹雪さん」
「痛てて、うん。大丈夫だよ。アルエットちゃ……、問題ないわ。この位平気よ」
 アルエットの手を取りすっと立ち上がった吹雪は服に着いた砂を照れくさそうに払う。
「さぁてクエストスタートだ」
 海の家の老婆の前で『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)が仁王立ちしていた。
 現実の姿より大きく逞しくなったその身体は、彼女の理想のカタチなのだろう。
「トモコさんもクエスト行くのね。皆で一緒に行きましょ」
「ああ。もちろんだぜ! しかし大したもんだねぇ、ROOってのは。フィクションをマジで体験できるたぁ思わなかったぜ。ってそりゃあリアルの状況もそうか。世の中何が起こるかわかんねーもんだな」
「そうね。すごく不思議な感じよね。R.O.Oの世界って。トモコさんもすごくかっこよくなってるし!」
 白い翼をぱたぱたと広げるアルエットに照れくさそうに頭を掻くトモコ。
「そ、そうか? へへ。何だか照れんな」
「でも、そういう所は可愛いと思うの!」
「よせやい」
 理想のカタチとして強靱な肉体を手に入れたとはいえ、中身はいつも通りのトモコであるのだ。

「太陽! 海! 風! \バイブス高まる~/」
『???のアバター』エイル・サカヅキ(p3x004400)褐色の肌が陽光に照らされ、ふるりと揺れるたわわな胸が優しく流線を描く。エイルはオレンジ色のまあるい瞳を輝かせパライバトルマリンの海を見つめた。
 彼女の瞳に映るのは現実世界と変わらぬ色鮮やかな風景。
 空のアジュール・ブルー。オフホワイトの雲。ベージュがかった白い砂。波打ち際は少しだけ色が濃くなる所まで詳細に再現された世界。褐色の肌に照りつける太陽の日差しさえ感じる事が出来るのだ。
「てかR.O.O神ってない?もうこれリアルガチじゃん!
 お使いとかそこらのオタクくんに任せて海の家いこー……」
「あわわ。エイルさんダメだよお!」
 服の裾を掴んだアルエットをそのまま抱き込んで、柔らかい肌に頬ずりをするエイル。
「んふふ、アルぴー嘘ぴょん、ちゃんとやるよー」
 エイルは那由他にアルエットを渡し、集まったメンバーを振り返る。
「にしてもぴーともとかふぶまるとか、他もなんか知り合いのような……」
 見たことのある顔にエイルは首を傾げた。されど『詮索』されてしまうと困るのは自分の方だと瞳を伏せ首を振った。此処ではエイル。そうエイル・サカヅキなのだ。それ以外の存在ではない。
「うん、やめとこ。アタシは初心者ギャルのエイルちゃんでーすぴーす!」
「おー、エイルぴーすぴーす。んで今回のクエストはありきたりなお使いだぁな。ゲームの序盤にありがちなやつだ」
 エイルのぴーすに律儀に応えるトモコ。
「サービス開始前のガチャで激レア装備引けはしたが、かといってのほほんとクリアできるっつーわけでもなさそうだ。前情報をしっかり確認して慎重にいくぜ」
 質実剛健。快活な見た目に反して意外と慎重派なのだろう。
「お使いクエスト。ゲームでよくあるやつですね。これを持ってあそこに行ってって言われて行ったら
次はこれを持ってあそこにって言われる」
 アルエットの頭を撫で繰り回しながら那由他は老婆から受けたクエストの内容を確認する。
「まあ、初めて来た場所に何が有るか見て知ってもらう目的もあるんでしょうけど。とてもチュートリアルですよね。……アルエットちゃんはこっちでも良い香りがするんですねぇ」
 頭の上で那由他の唇が三日月のカタチになるのをアルエットは見た。振り向くと怖そうなのでとりあえず目の前の老婆からバスケットを受け取って挨拶をする。
「大声を出したり見つかったりするとモンスターに襲われてしまうからね。くれぐれも気を付けるんだよ」
「分かったわ! 任せて! じゃあ、アルエット達行ってくるね。待っててね」
 ぶんぶんと手を振ったアルエットの服から、砂浜を転がった時の砂がパラパラと落ちた。


「荷物を受け取ったら早速出発しましょう」
 吹雪が長い髪を掻き上げ振り返る。
「人の住んでいる辺りならそうそう魔物も出ないでしょうし、周りを見渡しながら進みましょうか」
 それにしてもと吹雪は視界いっぱいに広がる色彩、そして足を攫う波の感触を興味深そうに眺めていた。
「本当に現実みたいね、見た目だけじゃなくて触った感覚まで再現されているわ」
 指先を水面に浸し、それから舌に乗せてみる。塩分濃度の高い塩水が味覚を刺激する。
「しょっぱい!」
「行くぞー! 吹雪!」
「あ、はーい! 待ってー!」
 吹雪の足跡が砂浜を辿っていく。

「さしあたって、危険なヴァンベアの居る森は避け、道中のシーニッパには手を出さずですかね」
 那由他の言葉に縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がこくりと頷いた。
「そだね。ダベりながら行きたいけど、見つかりたくないしお口チャック……そうなるとほにゃっちの脳内会話鬼ヤバ。いやルックスも鬼ヤバだけど」
 エイルは横目で縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を見遣る。脳内に何かが聞こえてきた様な、気がする!
「アタシはイカしたアクセでハーブと喋れるみたいだし、一番森沿い歩いて「熊接近注意報発令よろー」って頼んどこ」
 口の中にハーブを詰め込んだエイルの絵面は、現実世界ではかなりヤバい部類に入るが。
 ここはR.O.O。――何も問題は無い!
「御届け物が壊れないようになるべく戦闘は最低限にしていかないとにゃ」
 マリアはバスケットを大事そうに抱える。

「――まって、あれって……シーニッパ?」
 ミーナの声にトモコが視線を上げた。遠足気分だったアルエットの顔に緊張が走る。
 砂浜の波打ち際を青い甲羅を持ったシーニッパが歩いていた。
「ほんとだな。シーニッパっぽい……まあ、こちらから手出ししなけりゃ無害だから心配はねぇ。うっかり蹴飛ばしたりしないよう注意しとくくらいか」
「そうですね。目的は依頼品の配達であって戦闘ではありませんからね」
 トモコとミーナにリセリアが頷き、シーニッパから離れてゆっくりと歩いて行くイレギュラーズ。
 手出ししてこないとはいえ、不測の事故が起こらないとも限らない。
「君子危うきに近寄らずってやつね」
 吹雪が得意げにたわわな胸を張った。

 ――――
 ――

 ヴァンベアとの交戦は避けるべきである。
 森の中に入らない。ならば、トリリニアの縄張りに足を踏み入れる他無いとイレギュラーズは決心する。
「こいつのせいでトリリニアの縄張りを突っ切る羽目になってんだよな。
 まぁでもこいつに関しては逃げ一択だ。そもそも遭遇しないよう森に踏み入らないルートだな」
 森を警戒しながらトモコは足音を立てないようにトリリニアの縄張りに入って行く。
「可能な限りトリリニアの巣からも距離を取りたい所ですが……」
 那由他はそれが不可能そうだと首を振った。
「うーん、結構いっぱい居るわね。トリリニア」
「戦闘は避け得ませんか。戦って切り抜けるしかありませんね。からあげに料理してあげますよ」
 空を飛んでいるトリリニアにいち早く気付いたのは吹雪だ。
 あっという間に集まってきたトリリニアにイレギュラーズは囲まれる。

「まあ、戦うなら戦うで。――よっしゃ、行くぞテメーら!」
 トモコの雄叫びにマリアが口の端を上げた。
「鳥さん、別にそっちに何もしないから大人しく帰って……って、そういうわけにもいかないよにゃあ!」
 マリアの両の鉤爪から放たれる真空刃。アジュール・ブルーの空を駆け抜けトリリニア一体を捉える。
 ギャっと小さく鳴いたトリリニアは浮力を失い地面へ叩きつけられ、微細なポリゴンエフェクトをまき散らしながら霧散した。
『戦闘 入った 仕方ない』
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の声がマリア達の脳内に響く。
「アルぴー荷物足元置いといて! んで回復よろ!」
「分かったの!」
 エイルはアルエットに荷物を預け、現われたトリリニアの前に立ちはだかった。
「バトルとか勘弁だけどやらなきゃ死ぬっしょ!? やばたにから( ・◡・*)ラベルのみかん酒出してイッキで……やっへやろぉりゃん! あたひの酔拳受けてみりゃぁ!」
 エイルのオレンジ色の瞳に( ・◡・*)が浮かび上がる。
「――あたひの動きはパなぁい! ホァタァ!」
 物凄い爆発音と共にエイルの攻撃がトリリニアに命中した。
 ギャアギャと翼を広げ威嚇を繰り返す鳥に那由他は三日月の唇を歪ませる。
「元気な鳥ですねー。その元気、少し分けて頂きますね?」
 ブラッディレッドの血が那由他の包丁に滴った。
「ふふふ、美味しい。アルエットちゃんは危ないから前に出ないでください。貴女を必ず守りますから」
「……那由他さん」
「彼我の戦闘力差、戦闘データバランス、相手のデータ等が全くわからない以上、慎重に慎重を期して損はないでしょう」
 リセリアの言葉にトモコも頷く。
「ゲームのように見えるけれど、そもそも異常事態で本来はゲームでは無かった……のよね。なら、その辺りも普通の予想からかけ離れていると見て備えるべきね」
 刀に陽光が煌めき、戦場を駆け抜けた。


 ボロボロと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の輪郭が曖昧になっていく。
 トリリニアの猛攻を受けて黒い巨体が弾けて霧散した。
「ホニャー!」
 仲間の死に緊張感が走る。
 いとも簡単に消えてしまった命にアルエットの身体が震える。
 R.O.Oとはかなり過酷なゲームなのかもしれない。

「ちょいとばっか足止めするぜ。危ないから近寄るなよ!」
 ミーナはマリア達の背を押し、先に行けと目配せした。
「大丈夫かにゃ!?」
「なーに、私ならすぐに追いつくさ。早く先に行きな!」
 死神の鎌を構えミーナが仲間とトリリニアの間に割って入る。
「ふふ、私も残るわよ。だって、一人は寂しいじゃない。だから、皆頼んだわよ」
 ミーナの隣に立った吹雪は彼女に視線を合わせ口の端をあげた。
「でも」
「大丈夫よ、すぐに追いつくから皆は先に行っていて頂戴」
 ミーナと吹雪の背に視線を流し、決意を固め拳を握り込んだマリア。
「分かったにゃ! みんな、ミーナと吹雪が抑えてくれてる間に行くにゃ!」
 二人は仲間を見送り、お互いを見つめ、靴底で砂浜を踏み込んだ。

 ――――
 ――

「はぁ、はぁ。ここまでくれば……あ、この家って」
 マリアとエイルが視線を上げれば岸壁に囲まれた小さな一軒家が佇んでいる。
「娘さんの家にゃ!」
「良かった、無事……とは行かないけど。とりあえずクエストは達成出来そうね」
 リセリアはマップでパーティの三人がサクラメントに戻っている事を確認して呟いた。
「まあ、後は、トリリニアの巣を迂回して、お使いがてら周囲の景色も楽しめたらいいですねー
 素敵な思い出になりますよ。きっと。そう思いませんか?」
「ええ、そうね。那由他さん」
 ほんの僅かな時間だったけれど、この世界の摂理を垣間見る事が出来たとトモコは目を細める。
 漣が静かに押して、引いて――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)[死亡]
不明なエラーを検出しました
吹雪(p3x004727)[死亡]
氷神
ミーナ・シルバー(p3x005003)[死亡]
死神の過去

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 R.O.Oの世界を楽しんで頂けたら幸いです。

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