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シナリオ詳細

<フィンブルの春>N=N、N≠N

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●████=████=███
N=N(NはNである)
であると同時に、
N≠N(NはNではない)
は成り立つ。

N = これは、段落の1行目である。

●████は見た!
「読むかい?」
 一般人『N』が████に文字を与える。
 惜しみなく文章を与えた。段落を与えた。
 だから、████は読んだ。呼んだ。むさぼるように書物を詠んだ。
 そして見た。見続けてしまった。
 ゆえに理解する。
 この世界が記述された行を理解する。
『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は、この物語を”読んで”いた。

●名推理
 狂信者たちの騒ぎがあった(前シナリオ:<ヴァーリの裁決>What are little girls made of?)。
 その狂騒の背後に、とある悪徳貴族の暗躍があったのを諸君はご存じだろうか?
『ミラジューは辺境の地の領主の次男として生まれた。病気がちで、右ひざには生まれつき醜いあざを――』
 ああ、いや、彼の生い立ちを知っても仕方がない。
 ページを進めよう。

舞台:~貴族の屋敷~
状況:真相解明フェイズ
探偵役:オラボナ=ヒールド=テゴス
犯人:悪徳貴族『複製屋』ミラジュー

「故に」
 オラボナ=ヒールド=テゴスは、悪徳貴族『複製屋』ミラジューへと指を突き付けた。
「貴様が犯人なのだ、ミラジュー卿。すべての証拠がそれを指し示している」
「馬鹿な。一体どうやって入った? なんだ、この状況は?」
 窓は塗りつぶしたように暗く、音はカーペットに吸い込まれていくばかりだ。
 使用人は? 集めた偽勇者たちは一体どこへ行った?
 ここはどこだ? ほんとうに、自分の屋敷なのか?
 ミラジューは狼狽し、一歩下がった。机にぶつかった。分厚い本が落っこちた。
 オラボナの指がゆっくりと上下する。ぱちん、と指を鳴らす。ページがパラパラとめくれて一行を指示した。
「貴様はケチな商売人だ。ありとあらゆるものをコピーして売る、粗製濫造屋だ。
取り扱いの商品の一つに――写本があるな? 貴様は、あの脳足らずの狂信者どもに狂奔(教本)を与えた。適度なフィクションであればよかったが、本物の魔術書だった。つまり分かりやすく言えば『狂気を売った』というところか。そしてまた、捕まえてきた巨人を売った。奴隷として。つまり分かりやすく言えば『ご神体をセットで売った』」
 ミラジューには心当たりがあった。狂信者たちを煽り、巨人の奴隷を売りつけた心当たりが。
「ずいぶんとケチをつけてくるようだが、証拠があるというのかね?」
「ホイップクリームだ」
「は?」
 オラボナは額を揉んだ。
「ホイップクリームとベーコンの調和がそれを告げている。にくは、「ブライン液」につけるとにくはやわらかくなるし皮までパリッと仕上がるぞ」
 言っていることがめちゃくちゃだった。それなのに……どうして悪事を知っている?
「ふざけるな。こんな道理が通ると思うのか、貴様。めちゃくちゃだ! お前は狂っている!」
「ふむ、私に異議を申し立てるのか?」
 オラボナは笑った。
「そうだ。確かにおかしい。なぜならば私は今、ギルドで依頼を受けているところだからな。ならば、私がどうしてここにいられようか?
基本的な生物の特性として、2か所に存在することはできない。致命的な矛盾だ。これはおかしい。道理に合わない。なかなか的を得ているな」
「……」
「この矛盾をどうやって解消するか? 簡単なことだ。観測者がいなければいい。ではこの段落はまるきり、なかったことにしよう……――Nyahahahaha!!!」
 ぱちんと時空がはじけ、巻き戻った。

 これは、「なかった」ことになった。
 ミラジューは哀れな巨人を売り飛ばした犯人であり、告発されておらず。罰を受けていない。のうのうと、コインを数えているだろう。薬をかがされた偽勇者たちを護衛にして、メダリオンを造る。

●ギルド「ローレット」
「証拠は、ないのですね」
 フルール プリュニエ(p3p002501)が気にかかっていたのは巨人がどうしてそこにいたのか。ずっと考えている。燃え盛る巨人のことを。
 悪徳貴族、『複製屋』ミラジューが、狂信者どもに「巨人を売りつけた」という情報が入ってきたのは、そんなときのことだった。
「そう、証拠はない。サインが出てきたけれども、いくらでも偽装と言い切れるのさ」
 情報屋、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はにたりとわらう。
「ふむ。なるほど、しかし、後ろ暗いところはあるようだな?」
 当たり前のようにローレットにいるオラボナが頷いた。ショウがなにか、円盤をはじいた。
「……メダリオン偽造……」
「そう。ミラジューは「メダリオン」を偽装して、「偽勇者」をあつめてる。その件でうまく屋敷に潜り込むことができれば、証拠にはことかかないだろう」

GMコメント

布川です。
冒頭のあれそれはフレーバーです。特になんか、こう、深く考えることはありません。
悪徳貴族の館に乗り込んで、偽勇者を倒しつつ。偽物のメダリオンを回収しておいてください。

●目標
『複製屋』ミラジューの討伐
偽造品のメダリオンの破壊または押収など

●敵
『複製屋』ミラジュー
 幻想の悪徳貴族です。
 奥の書斎で、偽装メダリオンを彫っています。大量の偽装メダリオンがあります。
 別件ですが、前シナリオ:『<ヴァーリの裁決>What are little girls made of?』の黒幕的な位置づけです。奴隷として捕まえてきた巨人を、狂信者たちに売り払いました。

偽勇者たち × 15
 勇者に仕立て上げられた奴隷たちです。ミラジューに薬をかがされているようで、ラリっています。侵入者にぼんやりとした表情で攻撃を仕掛けてきます。
「勇者にならなくちゃ」「ご褒美にメダルをもらうの」「(狂気じみた笑い)」といったような狂い方をしています。
 助けてあげようと思えば助けてあげられるかもしれません。助ける方が少し大変です。

●場所
ミラジューの屋敷
 巨大なアトリエとなっています。絵や美術品などが多くあります。精巧な偽物もあります。使用人たちもいますが、戦闘能力を持ちません。忍び込むのはそれなりに容易でしょう。気が付かれたときに、偽勇者たちだけが厄介です。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <フィンブルの春>N=N、N≠N完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月28日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)
ゲーミングしゅぴちゃん
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)
ローゼニアの騎士
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

●狂気
 千々になった物語。バラバラになった段落。
 叙述が始まる。
 イレギュラーズたちの基本的なプロフィール。
 段落は『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の参照で止まった。
 ■■■■■■旅人■■■――。
【その情報はあなたのセキュリティ・クリアランスには開示されていません。】

「Nyahahahahahahahaha!!!」
『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の哄笑が響き渡る。
「我等『物語』が我等『物語』よりも真っ黒いのは成功例だろう。されど「段落を消す」とは何事か。矛盾を『なおした』時点で問題なのだよ」
「何方も存在しなければならない――ならば、今回『演ずる』のは我等『わたし』と謂うべきか」
 カスタードクリームとハムの混濁が塑を告げている。にくは『ペンキ』に漬けると柔らかく成り、皮は最初から存在しない。
「協力ではない。敵対の可能性はあるが。ただ在るだけで我等『物語』は【同じ】なのだ」
 無数に砕かれた段落が、一つの文字を帰結する。
 章のタイトルは、そう。『いびつなメダリオン』

●いびつなメダリオン
「読書の時間を妨げるのは人間として如何なものか。兎角、物語を巻き戻すのは改め給えよ。何よりも要なのはノイズの酷さなのだ。何かが『起きた』のに違いはない。Nyahahahaha!!!」
 オラボナは、ごく当たり前のように第四の壁に触れた。
 同一奇譚。
『ノイズがいつもよりヒドイ』。
(何か『上位存在』が読み解いたのだ。栞を挟み忘れるとは莫迦々々しい奴め)

「小説のような推理の披露の場と云うのは一度見てみたいものですが。現実的には証拠不十分で追い詰めきれないものなのですよね」
 ヘイゼルは資料をボードにピンで刺し、屋敷の位置を示した。片手には虫眼鏡、なんたってヘイゼルは、出身世界では名探偵として名高く――。
「ですのでそういった場合に行うのが、別件逮捕!
証拠隠滅されない為と云う名目で一切合切を押収すると云う寸法なのです。
別件逮捕など通常は執行できませんから楽しくなってきますね!」
「そうですか。メダリオンの偽造を……」
『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)はしげしげと偽造メダリオンを眺めた。蛇の瞳が細められ、表面に刻まれた模様を見ている。
「個人的にはあまり興味をそそりませんが、良いでしょう。その方が、人の子のためになるというのであれば」
「偽物のメダル……手が込んだことするね。リスクだけが増えてくのに」
『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)は、ホンモノだろうとメダリオンに興味は無かった。
 これほどまでに欲深い、人の性とは、と、すこし嫌気がさしてくるくらいだ。
「まったく。通貨にも言える事だが、価値が出るとこう言う良からぬ考えを持つ輩が出てくるのは世も末だな……」
『新たな可能性』久泉 清鷹(p3p008726)は眉間にしわを寄せる。
「……メダリオンの偽装はいい。私が許せぬのは奴隷を駒のように扱う輩だ」
 どれい、と、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は繰り返した。夢見るような声。そこに、軽蔑の温度はなく、かといって復讐に燃える使命感のようなものもなく。
 ただ、事実を繰りかえしただけ。
「巨人をあの信者達に売り飛ばしたのは、このにいるミラジューおにーさんなのね」
「はい、そのようですね! まあ、確たる証拠はありませんが」
 ヘイゼルが追加で資料を貼ると、フルールが物思いに沈んだ。
「悪魔に魂を売ったとはこの事ですね」
『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)の分析は、ヘイゼルの解説に補足を加えた。
「しかし戦場において鎮静剤にて恐怖を和らげるのは常道
怯まないという一点において厄介と言えるでしょう。されどそれが不幸に繋がらないと良いのですが」
「薬で無理矢理意のままにしようなどと下劣な。命をなんだと心得て居るのか……!」
 清鷹は怒りに燃えた。
「どうやって彼ら巨人を捕まえたのかしら? 信者にも手に余るようや存在を、普通の人であるミラジューおにーさんがどうこうできるとは思わないけれど」
「フム。それこそ物語の力学であろう、否」
 オラボナはゆるりと首を振った。
「連綿と連なる伏線のようなモノ。糸はつながった」
「メダルー……わたしは貰ったのは全部他の人にあげちゃったから、その大切さについてはピンと来ないけど。
それを集めて、勇者を目指してる人達の頑張りは良く見てるつもり」
『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は頷いた。
「それなんですよね!」
「だから……その人達がガッカリする様な事をする人は、懲らしめておかないとね!」
「そうだよね。ちゃちゃっと片付けて本物貰おうっと。私自身は別にだけど、ほしい友達は居るし」
 その方が世のためだもんね、とイルリカは言った。

●囮と潜入
「アトリエですからね。客人もいるわけで。場所は聞くことが出来ましたよ」
 目指すはこのあたり、とヘイゼルは指示棒の先で示す。
「ふむ。どこからとみる?」
「玄関があるのですから、玄関からでいいですよね?」
「承知」
「此方は囮です。派手に行きましょう」
 というわけで、である。囮である4人は堂々と玄関の呼び鈴を鳴らす。

「ドーモ、初めまして、偽勇者の皆さん。イレギュラーズです」
 奥ゆかしく挨拶をするヘイゼル。
 身分を偽る必要はない。正面から堂々と、である。
「偽造メダリオンの押収に参りました」
 ずばりと、一言から言ってのける。
「抵抗は御控えください、我々は何をするか分りませんよ」
「…………さて、なんのことやらわからないな」
 ミラジューの合図によって、物々しく、武器を持った偽勇者たちが集まってきた。
「お分かりいただけるかな? その件に関しては、私が自ら説明しに行こうじゃないか。それでいいだろう?」
「どうでしょうか?」
 膠着状態のさなか、ふらり、と、敵が一歩踏み出したのはどうしてだったか。まだ都合よく追い返せるはずであったのに。
 暗く輝く、泥に似た光輪。フラフラと揺れるその光に、抗えぬという衝動が生まれた。
「どうされました? 盗賊でも見るような目をして。……ああ、それとも、勇者様」
 サルヴェナーズはしれっと手を伸ばす。もともと勇者たちは正気ではない。武器をとって、一撃。
「戦闘動作、確認」
 その瞬間、展開する。

装甲、展開(スクリプト、オーバーライド)
戦闘機動構築開始(システムセットアップ)
動作正常(ステータスグリーン)
「いくよSpiegel」
『Jawohl(了解)』

「これは宣戦布告とみてよろしいですね?」
 戦鬼暴風陣が迎え撃った。サルヴェナーズの傷口を見て、勇者はうろたえる。
「?」
「な、何が見える!?」
 トカゲが。小さな蛇が、這い出すような幻覚を引き起こした。
 これで、建前はなった。『偽勇者達が侵入者に十分な対応をしなかった』。
「どうやら思ったより防備が整っているようですね。皆さん、ここはいったん退きましょう。アジトに戻って十分な準備を整えれば、必ずや打ち破れるはずです」
 サルヴェナーズは危機感を誘った。
「ええ」
「ふふ、良い子ですね。そうやって夢を見て、私達を追いかけて来て……」
「私がお相手しよう! かかってこられよ!」
  清鷹が偽刀『大通連紫式』を構えた。偽勇者たちの目に正気はない。
 なるべく傷つけたくはない。防ぐほどでもあるまい、と判断した。振りかざされた武器をかわして、清鷹は当て身を食らわせた。
「確かに勇者は立派な者だか、メダリオンを集めても。お前達の本当に望むものは手に入るまいよ……」

●SHHHHHH!
「あれ、お手伝いさんの入口だよね」
 クルルはめざとく勝手口を見つける。
「そうみたい」
 と、フルールが言った。
「でも、さすがに見張りがいるね」
「今回面倒くさいところは相手の勇者の個々の能力がわかってないこと……かな」
 イルリカの幻影が、茂みを鳴らした。……フラフラとそちらの方に引かれていく。
「成功したよ」
「ありがとう、イルリカちゃん」
「クルルさん、開けられるかしら?」
「うん、大丈夫そう!」
 つめたい金属。フルールはおそらくは罪のない巨人の、嫌な感触を少しだけ思い出す。
「……これが初めて、になるかもね?」
 フルールは後ろ手に扉を閉める。
「始まったようだ」
 Yuggothより、オラボナがゆるゆると手を振ると、練達製の小さな監視カメラは爆発した。あるいは溶け、あるいは奇妙にぐるりと向きを変えて必死にそれを見まいとする。
 ここには、直視するべきではないものが多すぎる。
「ご苦労」
 オラボナはすいすいと罠を設置していく。
 いかにして生きるかは深刻に痛烈な問題である。
 にくを加工し、タイルの色につくりかえた。つんのめって昏倒する。
「しかし『好い趣味』を抱いたな。芸術家としては絵具呑む所業よ」
 メダリオンはかなり精巧なもの。
「誰だ!」
「最も、発見されたとして為すべきは変わらないが」

●A:正面から
 さて。
 ここからは、時間稼ぎである。
 逃げていたかに思われるイレギュラーズたちは足を止めた。
 コード:VOB(ヴァンガードオーバーブレイド)。
 シュピーゲルの入力に従い、DexM001型 7810番機 SpiegelⅡは起動した。
『Warnung(警告)。Unbekannt Einheit(不明ユニット)の接続を確認。ナノユニットの異常放出発生。機体維持に深刻な障害。直ちに使用を停止シテクダサイ』
「撃鉄は上がりました。死にたく無ければ降伏しなさい」
 ソニックエッジが空間を切り裂いた。
「積極的な殺害は行いません。しかしながら、命の保証は致しかねます」
「とっとっと」
 ヘイゼルは破壊され、【ユニットカード】ヘイゼルを場に提示する。ノーコスト、すなわち辻褄は合う。
 気を取り直しての、BlessOfRedMagic。指輪から紡がれる青い糸はどうしたって視界に入ってくる。
 結界術式は視線を誘導し、かごの中に閉じ込めていった。
「……」
 五月雨が降り注ぐ。
 清鷹の繰り出す、刺突と斬撃の繰り返し。最初の斬撃は偽勇者は見切ったものの、続く刺突は見えない、追いつくことができなかった。
 差し出したのはがむしゃらの殺意。受け止めたのは、衝撃を殺す峰打ちである。
「無傷とは行かぬ故、許せ」
 戦線から離脱したものを、巻き込まぬように外へと突き飛ばす。たとえ、隙を作ったとしても構わない。
「ええ、分かりました」
 恐れ。畏怖。敬い。いずれにしよ、――そこにあるサルヴェナーズを無視することはできない。
 サルヴェナーズは悠々と自らを晒す。
「どうしましたか。私達を討伐して勇者になるのでは?」
 サルヴェナーズに武器を振るうたびに、針鼠が身を傷つけていく。不可侵だったのだ。手を出してはいけなかった。
「ちょっとだけ、痛いですよ……!」
 命まで奪う気は毛頭ない。組技で意識を失わせる。

 決死の覚悟で飛び込んでくる、いや、そもそもそこまでの意志もないだろう、偽勇者。
 これは無傷では倒せないと、清鷹は構えを変えた。
 外三光。
 後の先から先を撃ち、縫い付ける刃。自らの身を賭してでも、相手の懐に飛び込む必要があった。
 勇者の振るう武器を、シュピーゲルのルーンシールドが受け止める。あいまいで苛烈な呪文を、マギ・ペンタグラムが弾き飛ばした。
「巻き込んでも問題ありませぬ。この装甲、障壁が続く限りは無効にて」
 ヘイゼルは高らかに指を鳴らす。
 クエーサーアナライズ――戦況は分析され、再構築される。ともすればとっとと向かってきて、倒れてくれる方が都合が良い。
「申し訳ありませんが、長いお付き合いになるのですよ」
 ヘイゼルの青い糸が、敵の一体に巻き付いた。ぎりぎりと引っ張り、時間を稼いだ。くるりと指を回し、仲間の前へと操る様に連れ出した。
「いかがです?」
「助かった」
 清鷹のノーギルティが、勇者を打ちのめした。これ以上逸れると、殺しかねなかった。

●B:背後から
 カメラも、映像も、音も。
 何もかもそれを形容することはできない。
 幻影が前を通り過ぎていく。
 自然と、使用人たちの視線がイルリカの影を追いかける。
 迫ってくる者たちがいた。
 精霊天花・焔。
 精霊たちと一体となるフルール。
 美しくゆらゆらと揺れる炎に、使用人たちは見入っていた。ぼんやりとこちらを見上げる偽勇者の反応は遅れる。
 なんたって殺意がなかった。
(偽勇者達は無事かしら。薬でおかしくなってるようだけど、正義のために戦いに来た人ももしかしたらいるかもしれないし、そうでなくても被害者達を殺したくないわ)
 フルールは考える。
 誰とも争いたくはない、と。心からそう思いながら、駆け抜けていく。
(きっと、おにーさん、おねーさんたちのことだから、うまくやってくれているとおもうけれど)
 神気閃光がためらいもなく敵を倒した。
「しーっ、内緒にしててね。悪いようにはしないから」
 クルルがそっと使用人を起こした。
「ミラジューだっけ? 主の居場所、教えて貰おうかな」
「ご、ご主人様ですか。それは……」
「ええと、多分奥の方……書斎? とか、アトリエ的な場所に居るとは思うんだけども」
「……仰る通りです」
 がちがちと震える使用人には、ほんとうになにもする気はなかった。仕方なく殺すことがあるかもしれないけれど、とは、イルリカは思っていたが。
「ミラジューおにーさんはこっちね?」
 巨人が純種の人でないなら、これが初めての人殺しになるだろう。炎がいつももえた。
「……本当はあまり死んでほしくはないのですけれど」
 本心だった。

「いたね!」
「何者だ、貴様らは!」
 少しの護衛を伴って、ミラージュはアトリエにいた。
 続けて何か言おうとしたが、SHHHH、と、影が笑った。
「貴様等の目次、設定資料に興味はない。望むべきはベーコンの馥郁なのだ」
 初手、敵陣ど真ん中に混沌が突っ込む。理不尽で圧倒的な人工的なデウスエクスマキナ。
――ぽこちゃか引っ掻き廻してやろう!
 手当たり次第になんでもかんでも。本棚も、インク壺も、書類も! そしてああ、配置した覚えのないホイップクリームがきらきらと舞った。
 クルルの呼びかけに答えて、観葉植物が手に巻き付いた。
 矢に変じて力を貸した。
 ファルカウ・ボウから放たれる、一矢。風切り羽の奏でる音は、代わりに、泣き叫ぶマンドレイクの絶叫が響き渡る。
「面白くない連中だ。薬漬けなど思考が足りていない」
「逃げちゃ駄目だよ、小悪党さん。ここが年貢の納め時って奴だね!」
 ミラジューはぱくぱくと口を開け閉めした。動けない。痺れている。ドライアッドの抱擁が、あたりを埋めつくしていた。
 草木が生い茂り、アトリエは庭のような様相を呈している。
 その中を、ゆっくりとフルールが歩み出てくる。
「ずいぶんと無粋な真似をする! 割り込みはナシ。順番待ちだ」
 勇者たちの攻撃は、オラボナによって防がれる。
「そうだね。ちゃんと決着をつけないとね」
 イルリカのディアノイマンが、思考を補い、身体は自然と動いた。
 正確な魔力撃。ソファーまで吹き飛んだ偽勇者。
 ミラジューはじわじわと追い詰められていった。
「……ど、どうした?」
 身に覚えはない。けれども怒っているようだ。それなのに、口調は恐ろしいほどに静かだった。
「ミラジューおにーさんには聞きたいことがあるの」
「な、なんだ? 金なら………」
「巨人をどうやって売ったの?あの子は普通の人の手に負える存在ではないはずだけど」
「誰が」
「話してくれないなら殺すわ。情報がないなら生かす意味はないもの。私はできれば殺したくないのよ」
 他のイレギュラーズ達は知らないけどね、と振り返る。イルリカは素知らぬ顔をしていた。
 フルールの中で、精霊たちが吠えている。いつでも燃やしてしまおうか、と。やんわりと首を横に振った。
「情報をできるだけお話しして? 話してる間だけ、あなたの命はながらえる」
 クルルの植物が、辺りを覆いつくしていった。
 またしても偽勇者の割り込みだ。無粋極まる。
 ぼすん、と奇妙な手ごたえを返した。
 無窮にして無敵?
 いや、それほどに傷ついてすらいない。
「残念ながら掌に届かねば揮えないのだよ。観測を記し給え」
「――薬を」
 すう、と冷たく目を細められた。
「友好のしるしとして、薬を盛った……自由を奪って…。頼む、これでかまわないか?」
「おにーさんのお話。それで、おしまい?」

●[済]
 理不尽が去り、空からは場違いな陽光が覗いている。
「終わったみたいですね」
 討伐組がもどってきた。
「はい、おわりました」
 フルールは返り血を浴びていた。これで。きっと、ほんとうのはじめての――。

 シュピの霊子妖精が、ぱたぱたと結束バンドを持ってくる。
「なんとか、無傷ではあるようですね。彼らにとって此からが生き地獄でしょう」
「……そうだな。申し訳ないが」
 清鷹もロープで後ろ手を縛っていった。武器を取り上げたのは身を案じてだ。
「このまま生き残ったとしても、この奴隷達を。
悪徳貴族から本当の意味で救う事は私には出来ない。
それがとても心苦しい事だな」
「地獄とはいえ、……生き地獄です。助かる道もあるでしょう。そう望みたいものですね」
「必ずしも潔白の者ばかりでは無いのかも知れませんが、だからといって死んで良い理由などないはずですから」
 サルヴェナーズはゆっくりと面々を見回す。
 正気の者たちもいる。サルヴェナーズは優しく促した。
「ほら、傷が癒えたのであれば、貴方も手伝いなさい。そうすれば、きっと罪も軽くなるでしょうから」
 こんどは見入られたわけではない。そうしたい、と思った。そうしてしまいたい……。サルヴェナーズの声には奇妙にひれ伏したくなるような響きがある。
「このメダリオン、真贋を認識する事はできるんですかね?」
 シュピがばらまき、観察してみる。
「うーん、見ただけじゃわからないよね。見本もありそうなんだけど」
 コンコンとメダルを打ち鳴らしてみる。
「本格的にどうこう出来るノウハウがないから。みんながんばって?」
「取り敢えず偽造メダルをいくらか回収して……後は全部壊しちゃおう」

成否

成功

MVP

サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

状態異常

サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)[重傷]
砂漠の蛇

あとがき

偽物の栄光は、ばらばらと壊されて正しく塵となり、偽勇者たちも一応の安寧を得たようです。
奴隷商人の討伐、お疲れ様でした!

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