PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>百合と薔薇と神は相容れない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●百合と薔薇って普通に聞けば花だよねって
 大きな湖があった。
 加えて木や花もそこかしこに点在しており、しかし、適度な密集をしているので家屋などの邪魔にもならない。
 多くは家屋が並ぶこの地であるが、湖という目玉で観光も行なえる。質の良い宿屋がこの地で人気になるのも頷ける。
 また、銀行や商人ギルドといった、経済的な意味でも循環する施設も存在しており、生活を助けてくれていた。
 整えられた水田からは食糧がとれるし、学び舎に居る騎士達は有事の際に支えてくれるだろう。
 こうした人々によって生活は成り立ち、町を発展させていくのだ。
 その日もいつものように穏やかな日となるはずだった。
 あの集団が現れるまでは。

「おい、なんだあれ?」
 それに気がついたのは騎士達が巡回時の事だった。
 定期的なパトロールで、彼らがその存在に気付いたのは湖の付近に来てからの事である。
 昨今、物騒な話を聞く為、湖は一時的に入場を制限している。だというのに、見えてきたソレはどう見ても観光客や住民の類いからは程遠い。
 簡潔に述べるなら巨大な魔物だった。
 それは牛頭人身――イレギュラーズならばミノタウロスであると分かる者が居るかもしれない――の魔物で、集団のようであった。大きさは近くの木よりも大きい。
「薔薇コソ至高トイウモノダ!」
「ナニヨ! 百合ノ方ガ最高ダワ!」
 何やらいがみ合っている。
 性別を見ると男と女に分かれるのだろうか。片方は筋肉が発達したムキムキマッチョ体型、片方は胸が大きかったり控えめだったりしつつもそれなりに筋肉がある細マッチョ体型。それが各五体ずつ。
 前者には胸に薔薇の花がつけられており、後者には頭に百合の花を冠のように被っている。
 花の事で言い争っているのか……?
 と、その場に居る騎士達は困惑したが、更に困惑したのはその後である。
 マッチョ体型の方がもう片方のマッチョ体型を抱き寄せ、百合の冠を被った牛頭人身も負けじと百合の冠を被った者同士で身を寄せ合う。
「コノ肉体! コレコソ薔薇ノ最高タルユエ!」
「野蛮ナ! 女体ニハ女体ナリノ最高ガアルワ!」
 どういう事だこれは。
 つまり、薔薇や百合はある隠語で、おそらくはどちらの愛が優れているのかという喧嘩なのだろうか……。
 一言で言えば「くだらない」に尽きるのだが、今喧嘩しているのならば丁度良い。
「この機に乗じて倒しに行くぞ!」
 騎士達の中でのリーダー格らしき者が号令を発し、討伐せんと立ち向かう。
 雄叫び上げて向かってくる彼らの声に気がついたのか、牛頭人身の魔物達が振り返る。
「フン!」
「男ガヨルナ!」
 やってきた騎士達を屈強な腕や足で薙ぎ払う牛頭人身達。
 彼らは互いに目配せをすると、頷き合う。
「決着ヲツケル前ニ!」
「邪魔者ドモヲ根絶ヤシニ!」
 かくて、魔物達は一時的に共闘を結ぶ事となったのだった。
 無論、この一件は領地の主へと報じられる事となる。

●神は言った。我こそがゴッドであると!
 届けられた一報により、御堂・D・豪斗(p3p001181)はすぐに領地へと駆けつけた。彼の要請により、イレギュラーズも共に駆けつけてくれている。
 学者の執政官より届けられた報には、「牛頭人身の男女五体が手を組んで湖周辺で暴れている。騎士達でも対処出来ませんでした。早急に討伐をお願いいたします。このままでは湖の観光に来た者達にも被害が及びかねません」と書かれていた。
「騎士達も居るというのに歯が立たぬとは……。余程の敵なのであろう」
 となれば、彼を含むイレギュラーズの出番である。
 湖周辺を荒らし回っているという事で、音が聞こえる辺りへと向かう。
 執政官からの手紙には、「最初、彼らは喧嘩をしていたようです」とあった。なんでも、薔薇がいいとか百合が最高だとか。
 それだけ聞けば何の事なのかさっぱりだが、よく聞けば男同士の愛、女同士の愛について競い合っているらしい。
 しかし、そんな事は豪斗には関係なかった。
「領地を荒らす者共は、このゴッドが成敗してくれよう!」
 なぎ倒されている木々の間を抜けて、一行が目にしたのは湖のほとりで睨み合う牛頭人身達十体。
 周囲はなぎ倒された木々の他は草むらだけだ。視界は良好。戦闘するにも落ちている木々にさえ気をつければ大丈夫そうだ。
「そこの者達!」
 豪斗が呼びかける。振り返った牛頭人身の魔物達は怒りに満ちた目でイレギュラーズへと振り返った。
 堂々と立ちながら、豪斗は言葉の続きを発する。
「どちらの愛が優れているのかとな! 愛に優劣など皆無! どちらも至高の愛であるぞ!」
「ナンダ貴様ハ!」
「ソウヨ! 名乗リナサイヨ!」
 三流悪役のような台詞を吐く魔物達へと、豪斗は思いっきり声を上げた。
「我こそがゴッドである!!」
 彼の背後に謎の文様と共に神々しい光が現れる。
 三者は睨み合う。
 そう、薔薇と百合と神は相容れぬものなのだ。

GMコメント

 そんなわけで、薔薇と百合に割り込むイレギュラーズとなりました。
 彼らを討伐し、領地に平和を取り戻してください。
 なんでこんな薔薇とか百合の亜種が出たんでしょうねえ……。

●達成条件
・バラノタウロスとユリノタウロスの討伐

●フィールドデータ
 湖のほとり。辺りには木々が転がっており、足場に注意が必要です。
 敵は転がっている木々を使って攻撃する事があります。
 倒れている木は太く、人ではなかなか持ち上げられない重量です。

●敵情報
・バラノタウロス
 牛頭人身――ミノタウロスの亜種。男性型。ムキムキマッチョ体型。
 胸に薔薇をあしらっており、男同士の恋愛こそ至高と謳う種族。ユリノタウロスとはいがみ合う仲だが、イレギュラーズを前に共闘となる。
 主に物理系の攻撃を得意とするが、神秘系の攻撃も若干使用する模様。
 薔薇の息吹(神・近・域):男性相手に【魅了】の息を吹きかける。
 薔薇の豪腕(物・至・単):【体勢不利】を伴う。マッチョな腕から重量の伴ったパンチを繰り出す。速度はユリノタウロスの技より劣ります。
 薔薇の足踏み(物・近・範):【足止】を伴う。マッチョな足が地面を思いっきり踏鳴らし、周囲に衝撃を与える。
 その他注意事項:落ちている木々を使用する事があります。その場合、主に振り回し(物・近・範)で攻撃します。

・ユリノタウロス
 牛頭人身――ミノタウロスの亜種。女性型。細マッチョ体型。
 頭に百合の花の冠を被り、女同士の恋愛こそ最高と謳う種族。バラノタウロスとはいがみ合う仲だが、イレギュラーズを前に共闘となる。
 主に神秘系の攻撃を得意とするが、物理系の攻撃も若干使用する模様。
 百合の波動(神・遠・範):女性相手に【魅了】の空気波を打ち出す。
 百合の祈り(神・近・域):主にHPを回復させます。今回の共闘相手であるバラノタウロスにも仕方なく使用します。
 百合の旋風(物・至・単):【崩れ】を伴う蹴りを繰り出します。重みはバラノタウロスより軽いですが、速度はバラノタウロスより速いです。
 その他注意事項:落ちている木々を使用する事があります。その場合、主に投擲(物・近・単)で攻撃します。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <ヴァーリの裁決>百合と薔薇と神は相容れない完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
蘭 彩華(p3p006927)
力いっぱいウォークライ
ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
セレーネ=フォン=シルヴァラント(p3p009331)
正剣
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り

リプレイ

●薔薇と百合とイレギュラーズの三角関係
 バラノタウロスとユリノタウロス。
 計十体は居るその怪王種を前にして、イレギュラーズの反応は様々だ。
「百合と薔薇の優劣ですか? 永遠に決着がつきそうにない勝負ですね……」
 『力いっぱいウォークライ』蘭 彩華(p3p006927)の溜息交じりの言葉に同意した者は胸中で頷くばかり。
 バラノタウロスとユリノタウロスの主張に対し、『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)もまた己の見解を述べる。
「愛に優劣はないというのは全く同意いたしますし広く受け入れられるでしょうけれど」
 「でも、これは傍迷惑ですよね」という続く言葉はかろうじて飲み込んだ。
 逆にどういう事なのか首を傾げているのが一名。『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)である。
「揉めているのは恋愛? のことなのですか?」
 え、そこから?!
 この発言には流石にバラノタウロスやユリノタウロスも困惑した様子を見せた。
 ニルは更に疑問をぶつけてくる。
「男の人と男の人、女の人と女の人、男の人と女の人。
 誰かを愛する? 好きになる? のに関係あるのでしょうか?
 ニルにはよくわからないのです」
 性別というものを持っていないニルにとって、彼らの争う理由はよく分からないものであった。
 質問をされて、困惑気味のバラノタウロスとユリノタウロスは何も返せない。
 バラノタウロスが逆にイレギュラーズに質問する。
「オ前達、ソノ子ノ環境ドウナッテルンダ?」
 こっちが聞きたい!
 胸中でのみ叫ぶイレギュラーズの内数名。
「と、とにかく!」
 『見たからハムにされた』エル・ウッドランド(p3p006713)は、気を取り直して叫ぶ。
「例え……どんなに良い物、尊い事だとしても……それに対して興味を持たない人達? に無理矢理、押し付けるような事は駄目なんです!
 相手の好きな物……例えば性癖とかを尊重しないと駄目なんですよ!」
 言っていることは尤もだが、それが通じる相手ではないのが今回の敵である。
 そもそも、相手のすきな物を尊重できたら喧嘩していないのだ。
 頭を掻きながら、『ドラゴンスマッシャー』郷田 貴道(p3p000401)がエルに同意するような言葉を呟く。
「いやまあ……他人の愛の形に文句なんて別に無いんだが、強制は良くねーよな、強制は。
 みんな違ってみんな良いじゃねえか、なあ?」
「ム……」
 ユリノタウロスの眉間に皺が寄ったように見えた。
 気付かない貴道はそのまま言葉を続ける。
「あとユー達どっちも同性同士でくっつくんだろ?
 ……どうやって増えるんだ、それともこのまま緩やかに滅ぶのか?」
 至極当然の疑問に対し、バラノタウロスとユリノタウロスは動揺も見せずに返す。
「繁殖ト愛ハ別物」
「ソシテ産マレタ子ノ性別ニヨッテ、ソレゾレノ所デ育ツノヨ」
 どうやら繁殖となると互いに手を組む事はあるらしい。彼らが共闘できるのもその辺が関係しているのか。
 答えを聞いて、『旋律が覚えてる』ガヴィ コレット(p3p006928)はどこか複雑な顔を浮かべている。
「はあ、ミノタウロスにも色々とあるのですね」
 亜種とはいえ、まさかの行動理念と繁殖への理解を持つ怪王種に困惑を覚えるが、それでも一つだけ確かに言えるとするならば。
「あなた方、愛は競うものでも見せつけるものでもありませんよ」
 この一点に尽きる。
 彼女の言葉に、「大いに同意だ!」と叫ぶのは、この領地の主である『例のゴッド』御堂・D・豪斗(p3p001181)だ。
「諸君! ゴッドである!」
 あ、はい。そうですね。
 視線を集め、彼は言葉を続ける。
「在り方としては否定はせんのだ。
 バッドなのはそれをスプレッドし、強制すること!
 やむを得ずとはいえユー達は協力してバトルすることもできるというのに!」
 否定しないのが神の器というか何というか。
 彼は言葉を続ける。ここからは神ではなくこの地の領主としての言である。
「ゴッドは全てを愛するが、故にローズもリリーもフレンドシップを持てぬというのならば仕方がない!
 この地に住まうフレンズを、ワールドをセイヴする為には時にバトルも必要なのだ!
 悲しいことだが、怪王種はデストロイ!」
 敵対宣言を受けて、双方に緊張が走る。
 『正剣』セレーネ=フォン=シルヴァラント(p3p009331)は剣を構えて、呟いた。
「このままでは被害も大きくなってしまいそうですし、勝手ながら乱入させて頂きましょう。お覚悟」
 彼女に続くように、イレギュラーズもそれぞれが戦闘の構えを取る。
 そして、戦いの火蓋は切って落とされた。

●その戦いに、愛はあるか
 ニルが手をかざし、周囲に保護結界を張る。半径五十メートルの空間に展開されるそれの範囲は戦いの場を考えると狭いかもしれないが、木々を含む周辺の保護としてであれば最良の手であろう。
 イレギュラーズが先に狙うのはユリノタウロス。今回のメンバーでは女性の数が多い。こちら側の女性メンバーに何かあっては戦いに支障が出る。ならばユリノタウロスの殲滅に動くのが優先。
 豪斗が貴道に英雄の鎧を纏わせる。これにより、しばらくの間彼には如何なる状態も効かなくなった。
「サンキューな!」
 そして彼は一撃を繰り出す。中距離より繰り出すは、拳から放たれる黒き稲妻。
 ユリノタウロスの一体に命中し、その体を後方へと押しやる。彼女を守るべく、別の個体がその体を受け止めた。
「ヤハリ男ハ野蛮!」
 受け止めた方のユリノタウロスが吼える。
「エエ、ソウネ!」
 別のユリノタウロスが叫び、落ちていた木を抱えて持ち上げる。投げられる前に、セレーネが加速する。
 ビートを刻むように加速して接近する姿に、そのユリノタウロスは投げるタイミングを見極められずにいた。
 懐へと入ろうとする彼女へ、バラノタウロスが横から手を出す。不意打ちの豪腕に、彼女の体が吹っ飛ぶ。地面に転がった彼女だが、すぐに体勢を立て直す。
「フン! オ礼ナド言ワナイワヨ!」
「当タリ前ダ! 共闘中ダカラシタダケダ!」
 台詞だけ聞けば普段仲が悪い者同士が助け合うようなシチュエーションである。
 しかし、これは厄介な事にもなった。ユリノタウロスの危機にバラノタウロスが駆けつけるというのならば、個々での攻撃に気をつけなければならない。
 彩華が炎をユリノタウロスの一体に当てる。
 狐火と呼ばれる魔性の炎は、ユリノタウロスに大きなダメージとまではいかないが、それなりに傷を負わせる事は出来た。彼女が放った炎に怒りを覚えたようで、当のユリノタウロスが彩華へと視線を向ける。
 怒りに満ちた表情のユリノタウロスへ挑発するように指で手招きする。
 近付いてくるユリノタウロスへ、彼女は挑発の言葉を口にした。
「さあ、お望みの女の子同士ですよ! 自慢の波動を使ってごらんなさい!」
「小癪ナ!」
 手を広げ、体の横から前へと押し出すように突き出す。その衝撃で放たれる、ユリノタウロスならではの波動。
 それをまともに食らい、後方へその体が軽く飛んだ。
 数秒の後、地面に転がっていた彩華がなんとか起き上がる。体についた草を払い落としながら、彼女はユリノタウロスへと近づいていく。
 その目に宿しているのは、魅了にかかった者特有の心酔するような目ではなく、戦う意志の目。
「何ッ?!」
 ユリノタウロスは驚愕した。コレを受けて心酔せずにいられるというのか、という驚きのようだった。
 その動揺の間に、彩華は一つ仕込みを済ませると、低空飛行で近付いていく。
 ユリノタウロスが、足下にあった木を掴もうと咄嗟にしゃがんで手を伸ばし――――空を切った。
「ナッ?!」
「かかりましたね、隙ありです!」
 剣を振る。軽く速い牽制をした後に、鋭い一撃で追撃する。見事に決まったそれは、ユリノタウロスの腕を深く切りつけた。
 近くに居た別のユリノタウロスが、それを見て祈り始めた。その邪魔をせんと、エルの放った弾丸がユリノタウロスへと撃ち込まれる。
 ユリノタウロスを狙おうとすれば、バラノタウロスが邪魔をせんがためやってくる。
 そのバラノタウロスへ、ニルの青い衝撃波が襲う。こうしたサポートをするニルをバラノタウロスが狙おうとすれば、マグタレーナの妨害が入る。
 輝く闇の月がバラノタウロスへとぶつけられた。
 そんな中、ガヴィもユリノタウロスへと狙いを定めている。
 蠱惑的に微笑む彼女に、ユリノタウロスの視線がこちらを向く。上手く乗ってくれた誘いに、ほくそ笑み、ポツリと呟く。
「ふふ、花の愛で方を教えて差し上げるわ」
 すぅ、と息を吸う。吐き出すと共に乗せた歌声が、周囲へと響く。
 絶望の海を歌う声が、複数のユリノタウロスを魅了していった。
 彼らがその状態から回復するまでには時間を要するだろう。
「今ですわ」
 折角の好機を逃すまいと、周囲が動く。ユリノタウロスへの集中攻撃だ。
 バラノタウロスの妨害を、ニルやエルが抑え込む。
「ヒーローズ&エンジェルズ! ゴッドが傷を癒やそう!
 ビッグシップに乗ったつもりでファイトしたまえ!」
 前線の者達が受けた傷は、豪斗が祝福の言葉と共に癒やす。
 頼もしい言葉を受けて、イレギュラーズはユリノタウロスやバラノタウロスへ攻撃をしていく。
 落ちている木々を拾って応戦しようとする彼らだが、それは彩華の用意された幻影であった。
 虚しく空を切った手に戸惑う、バラノタウロスとユリノタウロスの二体。その隙へ斬りかかるマグタレーナとセレーナ。
 先にユリノタウロスを狙ったのが良かったか、バラノタウロスより先にユリノタウロスを地面へと沈める事が出来た。
「ユリノタウロスーー!」
 バラノタウロスの絶叫が周囲に響く。仲間を失った叫びか。
「仲間意識あるんですね」
 マグタレーナの小さな呟きは空気に溶ける。
 残ったバラノタウロスへと、改めて狙いを定めた。
「ユリノタウロスノ仇……! 薔薇ノ敵メ……!」
 そう呟いたバラノタウロスに対し、「ハッ!」と鼻で笑ったのは貴道だ。
「愛だの恋だの、正直言ってミーはあんまり分からないが、ユー達の主張に正当性が無いのは分かる!
 ただでさえおかしな生物のくせに、おかしな論理を振りかざしてんじゃねえ!
 人それぞれ、ユーはユーでミーはミーだ、みんな同じなんてことはねえんだよ!」
 吼えた言葉に、バラノタウロスが一瞬たじろいだように見える。
 別のバラノタウロス二、三体が大きく息を吸う。
 彼らが放つ息吹。その対象はニルや貴道、豪斗へ。
 だが、それらを受けても彼らに特に大きな変化は無い。
 中性的な見た目をしているニルには性別が無い為、変化が無いのは当然として、貴道や豪斗にそれが及ばないのは、彼らが対策を取っているからである。
「何故平気デイラレル?!」
「ミーの精神はそんなにヤワじゃねえのさ、HAHAHA!」
「全てを愛すると言ったが……ゴッドは惑わされぬ!
 特にマインドアタックはノープロブレム!」
 威風堂々と言い放つ二人。
 歯ぎしりするバラノタウロスへ、ガヴィや彩華が突撃する。
 ニルやエルの遠距離攻撃による援護を受けつつ、セレーネやマグタレーナもその懐へと飛び込む。
 無論、貴道も参戦しており、その腕から黒い稲妻を走らせた。
「クッ……イイ体ヲシテイルノニ……!」
「ミーはノーマルだ、女性が好きです!」
 真っ向から敵の世迷い言を切り捨てて、ボディーブローを食らわせる。
「私も一頭は仕留めてみますよ!」
 彩華が狐火で敵の注意を自分へと引きつける。怒りを持って彼女に食らわそうとした攻撃をセレーネが前に立って受け、その反動を利用して剣を振る。
「他ならぬ貴方の力を利用した攻撃です、多少は痛いでしょう?」
 苦痛に呻くバラノタウロスへ、彩華が近付く。牽制からの斬り込みに、悲鳴が上がった。
 一撃を入れては後退する、を繰り返すガヴィ。
 消耗していくのを感じながら、共に戦うマグタレーナへ治癒を施す。
「あら、ありがとうございます」
 一応自身の肉体を再生できるようにしてはいるが、こうして回復させて貰えるのはありがたい。
「でも、ガヴィさんも回復した方が良いかと」
「あ、いえ……」
「ノープロブレム! ゴッドがついている!」
 大丈夫です、と返そうとしたガヴィの言葉を遮って、豪斗がフォローし、同時にガヴィを癒やす。
 問題なさそうですね、と納得し、マグタレーナはバラノタウロスへ集中する。
「ニルも援護します!」
 青い衝撃波を放ち、イレギュラーズを狙おうとする個体の注意を逸らす。
 エルも弾丸を撃ち込み、少しずつ敵の傷を増やしていく。
 回復は豪斗が行ない、時にはガヴィも治癒に参加する。
 イレギュラーズにとって有利になっていく戦況の中、バラノタウロスの数は次第に減っていった。
「チク、ショウ……薔薇ノ愛ニ幸アレ……!」
 最後の一体が、命の灯火を消す前に呟いた。
 斃れた数を確認する。全部で十体。
 これにて討伐が完了したのだった。

●薔薇と百合はいつか相容れるか否か……は未来にかかっているのかもしれない?
 ニルの保護結界のおかげで周囲への被害はそこまで甚大にならなかった。
「褒めてつかわす!」
「ありがとうなのです」
 ゴッドからの賛辞で笑顔を見せるニル。
 貴道は周囲で斃れているバラノタウロスとユリノタウロスを見回し、大きな溜息をつく。
「しっかし、傍迷惑すぎる奴らだったな……。もうあんなのがこれ以上残っていないといいが」
 彼の言葉が耳に届いたセレーネが「そうですね」と返す。
「只の喧嘩であれば、他の人に迷惑が掛からない所でして欲しいですが」
「まったくだ……。おかげで巻き込まれちまったぜ」
 あー疲れた、と肩や首を回しながら彼は後片付けの為に動き始める。セレーネもそれを手伝う事にした。
 見かけた彩華やエルも手伝う。
「それにしても、変わったミノタウロスだったのです」
「そうですね。同性同士の恋愛物が好き、というのはちょっとだけ同意出来ます」
「エルもそういうのに興味あるのです?」
「ええ。因みに……私は……女の子同士の恋愛物が気になっています」
 大人向けの、というのは胸の奥にしまい込んで。
 エルの趣味を垣間見た彩華だが、特に嫌悪する様子も無く、「そうなのですね」とだけ返ってきた。
「ま、彼らの喧嘩の続きはゆっくりあの世でやればいいのですよ!」
 今度はあの世が迷惑なのではないでしょうか、と思ったが、口に出さないのが優しさというもの。
 頷くだけに留めて、後片付けの作業に勤しむ。
 後片付けの作業をしているのを見たニルが、「ニルも手伝うのですよ!」と言って参加する。
 流石に怪王種を動かすのは大変そうなので、木の破片などを拾って貰う事にした。
 文句も言わずに「わかったのです」と笑顔で協力するニル。良い子か。
 怪王種を仲間と協力して動かしながら、マグタレーナが呟く。
「百合と薔薇との事でしたが、どちらも至上の愛と言えるのは器量の大きさというものだと思います」
「そうですね。それは同意いたします」
 隣で手伝っていたガヴィも頷く。
「とはいえ愛の在り様そのものをみだりに否定するものではありません。
 此処はゴッドの器量を見習ってユリもバラも等しく受け入れましょう」
「すごいですね……」
「既婚者であり、母ですから」
 かつて居た世界では、数多の子供達に母と慕われていた彼女。バラノタウロスとユリノタウロスの事もゴッドに見習って受け入れられるのは、過去の経験による愛の在り方を学んでいたからなのかもしれない。
 それにしても、とセレーネは呟く。
「妙な魔物達でした……」
 彼女の言葉に同意する数名。
 思えば、確かに妙な魔物ではあった。
 喧嘩はすれど、一時的に共闘するような魔物である。遠慮しない友人同士のように見えなくも無かったわけだが、今となっては真実は分からない。
「また似た様な手合いが発生しないと良いのですけれど」
 セレーネさん、それはフラグって言うんですよ?
「うむ! 人の子の可能性を、フューチャーを、ライフを、パンドラを生み出せぬ世界はエンディングを迎えるだけ!
 それこそが滅びのアーク!
 よって、これにて制定となる! 礼を言うぞ!」
 言いながら謎の光を背後に発光させる豪斗。それを周りが眩しいと思ったとか思わなかったとか。
 何はともあれ、こうして無事に討伐は完了したのであった。

成否

成功

MVP

御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
なんかフラグが最後辺りに見えた気がしますが、気のせいですかね?
多分、気のせい。多分、メイビー。

PAGETOPPAGEBOTTOM