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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>強襲のオークション

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●イレーヌの思惑
 幻想中央協会。己の執務室で大量の書類に囲まれながら、イレーヌ・アルエはその身体を深く椅子へ預けた。
 その顔に浮かぶ疲労の色は濃い。というのも、日々の雑務に追われていたのはもちろん、ここ数日幻想で暗躍していた大奴隷市についての対応が山のように積み重なっていたからだ。
 幻想において、奴隷売買は明確に罪といわけではない。法に反しているわけではないのだ。イレーヌはこれを制度上の欠陥(バグ)だと考えていたが、しかして相手は腐りきった貴族たちである。奴隷売買に関し、積極的に法整備しようとはすまい。奴隷を買って、いいように使っているのは間違いなく貴族たちなのだ。イレーヌは嘆息した。結局、『人道に悖る』というお題目を掲げ、良心と倫理観に訴えるしかない。
 良心と倫理観? イレーヌは自嘲気味に笑った。そんなものが貴族たちにあったならば、とうにこの国はもっとまともになっているだろう。そうでないから仕事が増える。救うべき民が増える。自分など、閑職であると叩かれるくらいが丁度いいのだ。聖職者が表に裏に、あれやこれやと政治的活躍をすることの、何たる異常さか。聖職者が宗教活動以外の事をしなければならぬほどに、この国は歪んでいるのである。
 イレーヌはぬるくなった紅茶を飲み干す――とはいえ、と呟く。結局、教会として頼ることができるのは、ローレットのイレギュラーズ達だ。教会としてもやれることに限界がある、といくら言い訳をしたところで、結局は厄介ごとを押し付けているに過ぎない。
 申し訳ないな、とは思う。が、教会が力を持ちすぎるのもよくはない。幻想は危ういバランスの上に成り立っている。そのギリギリの綱引きに参加しているのは、イレーヌとて例外ではないのだ。
 さておき。イレーヌは渋面した。結局今回も、特大の厄介ごとをローレットの彼らに押し付けることになるのだ。イレーヌの手の中には、一枚の紙がある。それは今回の大奴隷市に関する調査書類のうち一枚で、今回の大奴隷市の『主幹』ともいえる男の調査書類であった。

 後日。イレーヌは、8名のイレギュラーズを、己の執務室へと呼び出していた。もちろん、仕事の依頼のためである。

●奴隷市・主幹強襲
「ご足労、誠に感謝いたします」
 イレギュラーズ達を呼び出した幻想中央教会の大司教、イレーヌ・アルエは、にこやかに微笑みながら一礼した。イレギュラーズ達に、席に着くことを勧める。その言葉に従って、イレギュラーズ達は応接机に着座した。
 緊急の仕事がある。そのように呼び出されたイレギュラーズ達である。些か緊張を抱いていたかもしれない。そんなイレギュラーズ達の前に、傍仕えのシスターが紅茶を差し出した。
「さて……昨今幻想を騒がせている、大奴隷市はご存じですね?」
 イレーヌが口を開く。大奴隷市。つい先日、幻想の各地にて大規模な奴隷売買が行われていた。元はファルベライズ事件の影響で、ラサのブラックマーケットから幻想へと移動してきた奴隷商人たちの暗躍だと思われていたそれは、イレーヌによればどうも違うらしい。
「如何にラサで商売がやりづらくなったとはいえ、その多くが突然、示し合わせたように幻想へとやってくることはあり得ないと思いませんか? つまり、大奴隷市を主導したものがいるのです」
 イレーヌは、一枚の調査書類を、テーブルの上へと置いた。練達製のカメラで盗撮されたと思わしき、初老の男の顔が、そこにあった。
「ニューグ・ゼオン。幻想を『縄張り』とする奴隷商です。彼が今回の大奴隷市の主幹であると、調査により発覚しました」
 イレーヌはゆっくりと紅茶を一口すすり、続ける。
「もちろん、今の奴隷商たちは多頭蛇(ハイドラ)のようなもの。ニューグという頭を潰したとて、次なる頭が指揮を執るでしょう。奴隷市場そのものを、根絶するには至りません」
 ですが、とイレーヌは続ける。
「ニューグは『大奴隷市を主催した頭』であることに違いはありません。つまり、この頭を抑えれば、『なぜ大奴隷市を開催したか』が分かる――ひいては、その背後にいるものの正体もつかめるかもしれません」
 背後にいるモノ、とイレーヌは言った。ニューグもまた、何者かの傀儡であることに違いは無いのだ……となれば、その背後にいるものは、相応の権力を持つもの。それも、幻想でこれほど大規模の市を開くことのできる権力がある。つまり、幻想貴族である可能性が高い。
「嘆かわしい事に、現在の幻想には、奴隷市場そのものを規制する法はありません。ですが、これほど大騒ぎとなり、街の治安にも影響を与えるような催し。反逆罪。騒乱罪。罪に問う事は可能ですし、まぁ、このような催しをたくらむ者です。叩けば埃も出てくるものかと」
 イレーヌはにこりと笑った。
 つまり――イレギュラーズ達の今回のミッションは、ニューグの確保だ。もちろん、生かしたまま捕らえる。生かしたままニューグを捕えれば、そこから背後関係が洗えるわけだ。
「ニューグの居場所は割れています。近日中に奴隷のオークション開催されますが、そこに出品者として参加しています」
 イレギュラーズ達には、このオークションに潜入し、ニューグの身柄を確認し次第、確保してほしいという事だ。
 もちろん、会場内には警備の傭兵たちが存在するし、ニューグも戦闘用に鍛えた奴隷を放ってくるだろう。戦闘は免れまい。
「危険な作戦となり、皆様には申し訳なく思います。しかし、私達が頼れるのは、ローレットのイレギュラーズの皆様だけ……どうぞ、よろしくお願いいたします」
 イレーヌが頭を下げる。
 イレギュラーズ達は頷き、作戦を練り始めた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 大奴隷市を主導した奴隷商人、ニューグ・ゼオン。
 彼を確保するのが、今回の任務です。

●成功条件
 ニューグを生かしたまま捕らえる。

●失敗条件
 ニューグの逃亡
 ニューグの死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 幻想にて開かれた、奴隷商人たちの大奴隷市。その快哉を主導したと思わしき奴隷商人、ニューグ・ゼオン。
 奴隷市について追っていたイレーヌは、ニューグの存在を察知。イレギュラーズの皆さんに、確保作戦を依頼しました。
 ニューグがいるのは、地下で開かれる、奴隷オークション会場。
 皆さんは奴隷オークション会場へと侵入し、ニューグを発見、確保してください。
 会場には、警備の傭兵や、ニューグの所持する戦闘用の奴隷などが存在するはずです。戦闘は避けられません。くれぐれもご注意を。
 会場は薄暗いですが、充分に広いものとします。室内戦闘になりますので、色々と準備をしておくと有利かも知れません。

●エネミーデータ
 警備傭兵 ×7
  剣で武装した、会場警備の傭兵です。パラメータ自体は平均的な性能をしています。
  会場にいるのは7名……ですが、増援の可能性は捨てきれません。

 戦闘用奴隷 ×5
  ニューグが所持する奴隷です。戦闘用に鍛えられているほか、ニューグに苛烈にいたぶられ恐怖心を抱いているため、ニューグを裏切る事はありません。
  主に近接物理攻撃を仕掛けてきます。ニューグを守る様に行動します。

 ニューグ・ゼオン ×1
  奴隷商人にして、確保対象です。初老の男性。皆さんは、ニューグの顔などはすでに知っているものとします。
  戦闘能力はあまり高くはありませんが、護身術は身に着けています。
  とはいえ、戦闘するよりは、会場から逃げだすことを最優先に行動します。とはいえ、機動力は高くはないので、速やかに追いついて取り押さえてるのがいいでしょう。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>強襲のオークション完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
ヴェルデ・w・ヴェール(p3p009687)
月の守護者

リプレイ

●欲望渦巻く場所
 幻想、中規模都市のはずれにある、地下ホール会場。
 そこには今、多くの貴族や商人たちが、供を連れて姿を見せていた。
 幻想で開かれた大奴隷市、その最後の花火とでもいうかのような、規模の大きな奴隷売買会である。
 イレギュラーズ達は、その奴隷売買会へと潜入していた。目的は、この奴隷売買会にも参加しているとされる、ニューグ・ゼオンなる奴隷商人の確保であった。
 かくして一行は、貴族風の変装を施し、海上に降り立つ。無数の貴族たちは、仮面で顔を隠すことなく、平然と過ごしていた。そうだろう。幻想国内において、奴隷売買自体は違法ではない。つまりこれは、正当な取引の場であるわけだ……。
「……こんなに、奴隷が欲しいなんて人達がいるのだ?」
 少しだけムッとしたような表情を見せるのは、『若葉マーク』ヴェルデ・w・ヴェール(p3p009687)である。普段は活発そうな服装をしているヴェルデだが、今は洒落たドレスを着ている。些か動きづらそうだが、これも変装の一環である以上仕方あるまい。
「おっと、今は私たちもその一人ですよ、お嬢様」
 しずしずと、付き従うのはメイドの『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)だ。いつも通りのメイド服であるが、流石着慣れているだけあって違和感はない。
「むー……ちょっともやもやするのだ」
「実際に買うわけではないのですから……気持ちはわかるけどね。我慢だよ、我慢」
 メートヒェンが、傅くように言う。ヴェルデは、むぅ、と唸りつつ、しかし今は『お嬢様』という役割に甘んじる。
「所で、脱出ルートなんかはあったか?」
 『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が言う。アルヴァは、裕福そうな貴族の男、と言った様相だ。今回の変装グッズも、アルヴァが用意したものだ。「用意してきたぜ。こいつでバッチリだ!」と差し出された服や化粧用具一式、見事に役に立っているようで、イレギュラーズ達は貴族の一行にしか見えない。さて、お嬢様のヴェルデは、実際には気配を消してすでに会場内を調査しまわっていた。主に、敵の脱出ルートの確認のためだ。
「裏口が一個あったのだ。ハンスも空から確認しているのだ?」
「ええ、確かに、建物の裏手に出入口らしきものがありました。多分、地下へと通じるルートでしょう」
 『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は、事前に会場付近を上空から確認し、建物を確認している。そんなハンスの格好は、中性的な格好をした貴族と言った所だろうか。年若い男性にも見えれば、女性にも見える。不思議な魅力を醸し出していた。
「陽動部隊の皆が、入り口から入ってくるはずです。僕たちは、ニューグと接触しつつ、裏口をブロックする……ですね」
「なるほど。じゃあ、まずはニューグとの接触から始めるか」
 こほん、とアルヴァは咳払い一つ。極力『偉そうな雰囲気』を出しつつ、
「では、行こうか、皆。ついてこい、メートヒェン」
「はい、ご主人様」
 横柄そうにそう言うのへ、メートヒェンは恭しく一礼。メイド以外の全員が、慣れない役割に苦笑する中、オークション会場の探索は始まる。と言っても、ダンジョン探索や本格的な潜入捜査の類ではないから、緊張感もそこまで張り詰めたものではない。相手はこちらの顔を知るまい。最低限の変装さをこなしておけば、とりあえずバレるという事はない。後は如何に信用を得るかだが、そこはアルヴァの手腕が功を奏している。一行は、この場においても、何ら違和感を持たれることなく歩いていられるのがその証拠だ。
「失礼……少しお尋ねしたいのですけれど?」
 ハンスが、会場軽微と思わしき男へと声をかける。男は静かに頷き、
「はい、なんでしょうか?」
「実は、ニューグさまとお話をしたくて。何方に居られるかはご存じ?」
 静かに手を合わせていうハンスへ、男は会場奥の方を指さした。
「先ほどまではあちらに……ああ、今もいらっしゃいますね。お顔は」
「ええ、存じております」
 ハンスが一礼するのへ、一同も礼をした。男は「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げる。それをしり目に、一行は会場の奥へと向かった。
 初老の男が、そこにいた。近くには、どこかおどおどした顔であたりを警戒する、数名の男女の姿があった。
「……奴隷なのだな?」
 ヴェルデが言う。その口を、ムッと結んで。
「その通りかと。……戦えますか?」
 尋ねるメートヒェンへ、ヴェルデは言った。
「正直、わからないのだ。頑張ろうって気持ちもある。でも、戦いたくないって気持ちもあるのだ……」
「最悪、ニューグを抑えてくれればそれでいい」
 アルヴァが言った。
「他は俺達で何とかする……接触するぞ。メートヒェンさん、合図を。行くぞ皆、気取られるな?」
 アルヴァの言葉に、一同は頷く。ゆっくりと、ニューグへと近づいていく。背後に、裏口へのルートを隠して。
「嗚呼! もしかして貴方がニューグ様?」
 声をかけたのは、ハンスである。
「私、良い奴隷が入り用でして……出品物のお話を聞きたいのですが……ダメ、でしょうか……?」
「ほう? 失礼ですが、あなた方は……?」
 ニューグが尋ねる――不審そうではない。純粋に、名を訪ねているだけだろう。今は答えておいた方がいい。
「お初にお目にかかります。私は辺境の地を任されております、アルヴィ=ド=ラフスと申します。此方は、私の家族のものです」
 一礼。ニューグはすぐに警戒心を解いた。
「ゼオン様は質の良い奴隷をお持ちとの噂がもちきりでしてね。是非、商品を確認したい」
「ははは、ありがとうございます。生憎、今宵のオークションには出品しておりませんが……では、後日にでもお話を――」
 と、ニューグがそう言った瞬間である。
 どん、と会場入り口のドアが蹴り開けられた。飛び出してきたのは、四つの人影だ。
「出入りだオラー! テメエら誰に断って商売しとるんじゃオォン? スッゾオラー!」
 とんとん、と巨大な槍を肩にかけ、如何にもなしかめっ面でそう叫んだのは、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)だった――。

●出入りだオラー!
 その、少し前。地下会場へと続く階段、その地上側の入り口に、風牙たち4人のイレギュラーズ達は待機していた。
「奴隷騒動の元締めって言ったな」
 風牙が言った。
「それで全部解決ってわけじゃないけど、ひとつ芽はつぶせるわけだな」
「そうですね……しかし、先ほどから地下へとはいっていくのは、身なりの良いものばかり。やはり商人や貴族が、奴隷売買の主な顧客なのでしょうね」
 『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が、目を伏せた様子で言う。
「私もファーレル家に連なるもの……我が家ではそのような事はなかったはずですが、しかし、耳が痛いと言いますか。心苦しいものです」
「そもそも……奴隷がどうのって騒動、こんなに多かったっけ??
 元々あったものが明るみに出たのか、最近活発になってきたのかどっちなのよ」
 『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が、些か不機嫌そうに言った。人に値段をつける奴隷売買など、ルアナの価値観からすれば言語道断の行為だろう。幻想貴族のすべてがその価値観に染まっていないことは唯一の救いであったが、しかしそれを良しとする貴族もまた多いのも事実となれば、少しは気分を害すると言うものだろう。
「元々あったのは事実……でも、騒ぎになったのはここ最近、と言った所だろうな。ラサでの騒ぎの影響との事だが、しかし幻想へと呼び寄せた黒幕が居るはずなのは確かだ」
 『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は、腕くみなどをしつつ言った。大奴隷市の奴隷商人たちは、多くがラサのブラックマーケットの商売が立ち行かなくなってきたために幻想へと向かったという情報がある。だが、それだけで、大勢の奴隷商人が幻想を目指すものだろうか? 何か、裏がある。手引きをしたものが居るはずだ。イレギュラーズの依頼主たるイレーヌも、そのように予測し、調査を進めていたはずである。
「それが、ニューグって人?」
 ルアナが言うのへ、風牙が頷いた。
「それか、その裏にいる奴だ」
 裏、と聞いて、リースリットは些か暗澹たる気持ちになった。幻想で、これだけ派手な動きを行えるものなど――おそらくは、貴族か、それに連なるものしかいないだろう。そう考えれば、結局は腐敗した幻想貴族の仕業となるのか……同じ幻想貴族の一員としては、胃が痛くなる思いだ。
 はぁ、と思わずため息をつく。足元の猫が、にゃあ、と鳴いた。慰められているのか……と一瞬思ってから、違う、そうではない、と頭を振った。
「猫です! メートヒェンさんの!」
 リースリットの声に、一同の視線が猫へと集まった。猫はにゃあ、と一度鳴くと、その姿を消滅させる。これは、メートヒェンのファミリアーだ。オークション会場から外へ向けて、走ってやってきた。それは、メートヒェンからの合図であった。
 その合図が示すものは、我目標と接触せり、だ。つまり、内部の準備は整った、という事である。
「よし、ならば、こちらも動かないとな!」
 ブレンダが言うのへ、仲間達は頷く。手筈はこうだ。まず、四人が内部に潜入し、ニューグへと接近する。それが確認され次第、外で待機していた四人が、陽動として騒ぎを起こす。
 あとは、その騒ぎに乗じて、中の四人がニューグを確保、連れ出す……と言うものだ。作戦の第一段階は成った。此処から第二段階へと移行する。
「じゃあ潜入班が首尾よく事を運べるように、がんばろー!」
 ルナの言葉と、
「いくぞ、皆!」
 ブレンダの言葉に、一行は武器を手に走り出した。地下への階段を駆け下り、オークション会場の扉をけ破る。
「出入りだオラー! テメエら誰に断って商売しとるんじゃオォン? スッゾオラー!」
 風牙が程よく悪い顔で、叫んだ。その隣には腕を組んだブレンダが立っていて、
「ここがオークション会場か! 首謀者は何処だ!」
 鞘より引き抜いた長剣を振るい、叫ぶ。走る炎が、薄暗い地下会場をぼう、と照らした。
「な、なんだか私達が悪人のようですね……」
 苦笑するリースリットである。ルアナもまた、苦笑いを浮かべ、
「でも、注目は集められたから、結果は良しというか……!」
 そう言う。その通りに、注目だけなら十分に集められたらしい。
「ねぇねぇここで、何してるの? わたしにも教えて?」
 ルアナもまた、刃を抜き放ち、そう言った。じり、と会場の中へと踏み出す。客たちが悲鳴を上げて、入り口から逃げだすのが見えた。この中に、ニューグは居ないだろうか。そこは、潜入班が上手くやってくれるのを祈るしかない。
「ちっ、どこのチンピラだ!?」
 警備員たちが怒号をあげて、刃を抜き放つ。
「やっぱり、なんというか、悪党だと思われてます!」
 リースリットが肩を落とした。
「ま、向こうからすりゃどっちも同じだ! ひとまず敵を引き付けるぞ!」
 風牙の言葉に、仲間達は頷いた。
「他のお客さんには当てないように……!」
 リースリットが術式を編み上げる。クリスタルの細剣を掲げると、その刀身に雷が走った。鋭く突き出すと、刀身より爆ぜた雷が、横走に会場をかける。それは客たちの合間を縫って、警備兵だけを狙って打ち据えて行った!
「ぐ、えっ!?」
 雷の痛みに悲鳴をあげる警備兵。間髪入れず、飛び出すのは三つの影。
「でぇぇぇりゃあっ!」
 雄たけびと共に、風牙が警備兵へと飛び掛かる。振るわれる槍が、警備兵を横なぎにぶっ叩いた! 腹を殴られた警備兵がぶっ倒れて、間髪入れず次の警備兵が風牙へと斬りかかる。
「ちっ!」
 舌打ち一つ風牙は槍を構えて、その斬撃を受け止めた。そのまま剣を振り払うと、槍の先端を突き出した。途端、放たれた『気』の塊が警備兵に直撃。爆発して、その意識を吹き飛ばす。
「おにさんこちらー!」
 ルアナがぴょん、と座席を飛び跳ねる。それを追うように、警備兵たちがどかどかと座席を蹴り飛ばして走り出した。
「命まではとらないよ。でも、ちょっと気絶してもらうね!」
 その小さな体には不釣り合いなサイズの大剣を軽々と振り回し、振るわれる鋭い乱撃が、警備兵たちをまとめて薙ぎ払う。
 一方、ブレンダは炎走る刀身、嵐振るう刀身、二振りの刃を構え、挑発的に笑ってみせた。
「さぁて、かかって来るがいい」
 警備兵が飛び掛かる。冗談から振るわれた斬撃を、ブレンダは炎の刀身で受け止めた。ぼう、とブレンダの戦意に応じるかのように、刀身の焔が燃え盛る。轟! ブレンダが振るう炎の刀身が、警備兵の刃を半ばから切り裂いた! ばかな、と警備兵が悲鳴をあげるのへ、嵐の刀身、その腹が叩き込まれる。行きもつかせぬコンビネーションの斬撃である。
「この程度のことで命を落とすこともあるまい。眠っていろ」
 その言葉を受けたかのように、警備兵は、ごふ、と息を吐くと、そのままくずおれた。まさに快進撃である。
「くそ! おい、兵隊を連れてこい! あいつらタダモノじゃねぇぞ!」
 警備兵が悲鳴をあげる。さらなる足音が響き、増援の予感を覚えさせた。

 ――一方。ニューグは一連の騒動に、舌打ちをしつつ、辺りを睥睨した。
(主催者、とか言ってやがったな……狙い俺か……)
 胸中で吐き捨てつつ、近くにいた奴隷へと視線をやった。びくり、と奴隷の女は肩をすくめたが、すぐに頷いて、腰にかけていた剣を抜き放つ。
「……おや、ニューグさま。何方へ?」
 アルヴァがそう尋ねるのへ、ニューグは呻いた。
「何を……見ての通りではありませんか。あなた方も逃げた方がよろしいのでは?」
「ええ、そうしますよ。あなたを捕まえた後で」
 ハンスがそう言うのへ、ニューグは再度舌打ちした。
「てめぇら、グルか……!」
 ニューグが奴隷たちに視線を巡らす。奴隷たちはすぐさま武器を抜き放ち、イレギュラーズ達へと相対する――ニューグは叫んだ。
「俺が逃げるまで足を止めろ!」
「させない!」
 ハンスが動いた。奴隷たちの包囲網を抜けて、ニューグの元へと動く、それは花を摘むように。優しく振るわれた手が、進むべき道を示し、敵を捕らえる。
「たあっ!!」
 一方、ヴェルデは身体を回転させながら飛び出した。身体を包むマントが、鋭利な刃物のように奴隷の身体に傷をつける――そこから、まさに『逆再生』するかのように、その傷がひらいていく。
「ニューグは捕まえたのだ! どうか、武器をおろしてほしいのだ!」
「かまうな! こいつ等、俺を殺せねぇらしい!」
 ニューグの叫び。此方の狙いを分かっているらしい。ヴェルデは吠えた。
「覚悟するのだ! 誰かの幸せを踏みにじるような生き方を、僕は許さない!」
「綺麗事を!」
「うるせぇよ、小悪党」
 いつの間にか接敵していたアルヴァが、ニューグを蹴りつける。ぐえ、と声をあげて、ニューグが意識を手放す。
「ニューグさま……!」
 奴隷たちが叫ぶ。抜き放った剣を構え、イレギュラーズ達へと肉薄する。
「やれやれ……骨の髄まで恐怖を植え付けられているのか。酷いことをするものだね」
 メートヒェンがゆっくりと構え、奴隷たちを迎え撃つ。振り下ろされた剣の腹、それをメートヒェンは手の甲を振るってはたき落すと、
「悪いけれど、少し眠っていてもらうよ」
 鋭く突き出される蹴りが、奴隷の腹に突き刺さる。その一撃で、奴隷は意識を失った。イレギュラーズ達の攻撃により、奴隷たちは次々と意識を失って行く。最後の一人が倒れた瞬間、陽動組のイレギュラーズが潜入組へと合流する。
「首尾はどうだ?」
 ブレンダが尋ねるのへ、
「完璧だ! 悪いけど、奴隷たちも回収お願い!」
 アルヴァが答える。仲間達が、ニューグ、そして奴隷たちを抱きかかえるのへ、さらなる警備兵たちの足音が響く。
「まずい、増援が来るぞ!」
 風牙が叫ぶのへ、
「すぐに離脱しましょう! リースリットさん、合わせて! 道を開きます!」
「わかりました! 奔れ、雷よ!」
 ハンスの言葉に、リースリットが頷く。ハンスの聖なる光、そしてリースリットの走る雷が、前方に布陣していた警備兵たちをなぎ倒した! 一同は一気に走り、裏口から会場を後にする。階段を駆け上り、さらに路地を抜け、かく乱するようにランダムに道を変えて走った。
 やがて開けた場所に出て、一行は一息ついた。ここまでくれば、追手も来ないだろう。
「ふう。どうやら、ミッションコンプリートだね」
 メートヒェンが言うのへ、仲間達は頷いた。
「これで……しばらくは、奴隷市も開かれなくなるのだ?」
 ヴェルデの言葉に、ルアナが声をあげた。
「分からない……全部の奴隷商をやっつけたわけじゃないから。でも……」
 ルアナは胸に手をやりながら、言った。
「この国で私達が『勇者』になれたら。人の諍いとか、身分とか……少しはそういうの、なくなるかな?」
 何かを決意するように。ルアナは空を見上げた。空は静かに、イレギュラーズ達を見つめていた。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、大奴隷市の仕掛け人は、無事に確保されました。
 共に保護された奴隷たちは、皆さんや幻想中央教会により保護されております。

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