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シナリオ詳細

コメはチカラ!

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●漂流
 ギラギラとした強すぎる太陽も辛かったが、何より塩辛い水が身体を苛む。
(俺、もう帰れないのか)
 彼は最後まで自分に手を伸ばしていた、姿だけは幼い妹分を思う。
(アイツ一人で生きていけんの? ……皆助けてくれんだろうし大丈夫だろうけどさ)
 でも、雨風が強い日に眠れないと泣きながら自分を呼びに来る、あの小さな娘の弱い心にいつも寄り添えるのは相棒の自分だけではないのだろうか。
(俺がダメになったら──きっと、他の新しいヤツが来るんだろうけどさ)
 きっとぎこちないながらにもうまくやっていくのだろう。そして、いつか。
(俺のことなんて忘れて──)
 ざっぱんと大きな波が彼を海中に引きずり込んだ。すぐ横を大きな魚がすり抜けて、水の中で身体がめちゃくちゃに揺れる。
 幸い、細いつくりをしているけれど、見かけと違って自分の身体は頑丈だ。
 だけど、心はすでに折れそうだった。
(もう、すべて無くしてもいいから、帰りたい)
(別の誰かがアイツの相棒になるなんていやだ)
(アイツに忘れられるくらいなら──俺が忘れたい)
 色んな思いが『コマさん』の中で渦巻いて、彼はやがて意識を手放した。


●生還、しかし
 今日は春のような暖かな日。彼は前日にコガネが口酸っぱく繰り返した通りに田を耕そうとした。
(……こんくらいでいいか)
 なんとなく、まだ足りないような気がしたが、気持ちばかりが焦って次の行程へと進んだ。
(あとは──)
 結局、彼が作った今期の米の出来『も』最悪だった。
「だから手伝うって言ったのに!」
 目を吊り上げて叫ぶコガネ。
 誰よりも味の劣る米を作るのは今期が初めてではない。もう何度も失敗している。
 漂流したコマさんは記憶を失って米作りの知識すら曖昧であった。けれども、心配するコガネの協力を頑なに断って彼女の存在を邪険にしてきた。
「どうして! 一緒に作ればいいじゃない! 今までだって失敗しながらもいつも二人三脚だったじゃない!」
『黙れ、うるせぇな! コメは俺なんだ。俺の言う通りにさせろよ!』
「何が言う通りよ! だったら自分で水温くらい調節しなさいよ! コメなんだから!」
 涙目で叫んだ後、コガネはハッとして口を抑え慌てて謝ろうとした。けれども、それを口にする前に。
「うっせェな! そういう口うるさいところがムカつくんだよ!」
 固まるコガネ。
 そして、コマさんは身体を揺らしてさっさと二人の家から田んぼへと出て行ってしまった。
 子供のようなコガネの泣き声を聞きながら。


●コメを育てよう!
 海洋(ネオ・フロンティア海洋王国)の海にぽっかり浮かんだ小さな島にその人々は住んでいた。
 精霊種(グリムアザース)に分類される子供のような外見の住民たち。
 彼らはその島で『コメ』を育てて生きていた。
「それでコガネ様のコメ……コマさんが働いてくれないと」
 リーナ・シーナ(p3n000029)は小石だらけの田んぼで寝転がって本を読む『コメ』を見た。
 彼はまだ青々とした苗だが、周りの田んぼでは黄金色の稲穂が揺れている。
「ううっ、もうあたいどうしていいのかわかんなくて」
 肥料を納品しに来たリーナに泣きながら愚痴るのはこの島の島民であるコガネだ。十歳くらいの姿だが彼女も実は数百年は生きている精霊種だ。ただ、時の流れが緩やかな平和な島で一番年若い子供として生きて来たので、精神年齢も見た目相応である。
「この間も酷いことを言ってしまって。きっとあたいが悪いんだ。コマさん、あれから余計米作りへの熱意を無くしてしまって今期なんて田起こしすらしないの」
 それでも、彼女一人でできるだけは頑張ったのだろう。広い田んぼの半分だけは田起こしがされていた。
『いいじゃねえか。まだ食べるだけの蓄えはあんだからセコセコ働かなくてもよ』
 二人の会話が聞こえていたのか、「コガネのコメ」こと『コマさん』が本から顔(?)を上げて怠そうに呟く。
「ッ、そんなこと! 労働は島に住む者の勤めよ! 勤労を認めてくれる神様がこの穏やかな気候を守ってくださるのだし、こんな何もない島じゃ、いつも蔵をいっぱいにしておかないと何かあった時に困るよ!」
『──フン』
 コマさんはまた興味を失ったように青い葉っぱを揺らしてまた本を読み出した。
 ──『コメ』はこの島に住むモンスターである。
 最初は数体しか居なかったが、この島に稲作を生業にする精霊種が生まれてから彼らと共に相棒として生涯を共にするようになった。
 コガネも生まれた時からこの「コガネのコメのコマさん」と生きて、協力して何百年も稲作をしていた。
 けれども、農作業の落ち着いたある日、コマさんと共に浜辺へ二人はピクニックに行ったのだが、数百年に一度の突風にコマさんが攫われて海に流されてしまったのだ。
 ……彼が助けられたのは、一週間後。
 救助隊を作って船を出してくれた島民仲間が流されたコマさん(稲の姿)をすくい上げてくれたのだが──目を覚ましたコマさんは性格こそ変わらなかったが、すべての記憶を無くしていた。それこそ、稲作のやり方さえ。
「あたいだって一杯一杯お手伝いします! でも、他に畑もたくさんあって……そちらの島外への納品数も決まっているしおろそかにできなくて、もう、どうしていいのか──!」
 大泣きするコガネを前にリーナはよいアドバイスなど浮かばなかったので。
「じゃあ、ローレットに連絡取ってみます?」
 などと、提案(まるなげ)してみた。

GMコメント

依頼を受けて、リーナと共に海洋の島にやってきたところから始まります!
稲作の知識は無くても大丈夫ですがRPとして披露してもOKです。
ほのぼのゆるいシナリオです。


●目的と流れ
米作りのお手伝いをしつつ、コマさんを励ましたり米作りを教えたりしてヤル気にさせる。
米作りを楽しむ。
米作り→収穫→収穫祭
※収穫祭:お米とおかずでパーティ。
おかずは彼女の野菜とリーナの仕入れた材料が利用でき、調理に参加してもよい。
パーティは麦の藁などで飾り付けた小物などが可愛らしく並びます。


●ステージ
一日あれば大人が一周できる小さな島。
家と家がかなり離れており、全員が農業で生計を立てている。
自然豊かで島の四季は小まめに緩やかに変わります。(今期=十日=一年相当)
収穫祭は島民全員で広場で行います。
島民は全員十歳くらいの男女の姿をしていますが数百歳以上の精霊種です。
麦ビールなども嗜みますが、成人しているので問題ありません。


●米づくりの流れ
1)田植え
2)お世話(雑草を抜く、病気や害虫に注意)
3)収穫(稲刈り&乾燥)
4)精米(脱穀まで)
今期収穫した米に限り名前を付けて持ち帰れる(アイテム化なし)
複数の名前が挙がっていた場合GMが付けます。


●NPC
・リーナ・シーナ(p3n000029)
ある程度の道具の調達をしてくれる商人
今回は稲作に必要な農具や肥料、材料などを用意してくれる

・コガネ(精霊種)
独自の米を作って慎ましく生きている種族。
数百年生きているが、十歳くらいの少女の姿をしている。
生真面目で予想外のことには弱く、また泣き虫だが、すぐに反省する基本的には働き者で世話好きの心優しい娘。
米作り以外にひとりで畑作をしており野菜などを作っている。

・コガネマイ(通称:コマさん)
コガネの『コメ』。棒人間みたいな手足のついた稲(苗)の姿をしている。
知能は人間並み、テレパシーで会話もできるし目は無いが周囲の状況もわかる。
事故によって記憶喪失になり、ヤル気が激減している。最近は田んぼで寝てばかり。
同志もしくは兄弟的な絆でコガネと結ばれており、態度は兄。
コガネが生まれた時、先輩から株分けされた。共に成長しながら稲作のノウハウを学ぶ。
『コメ』は友好的なモンスターに分類される。
分裂でき十日前後で苗~稲の姿に成長、米の収穫ができる。オリジナルは分身と違って田んぼを離れることもできる。
ただし、脱穀は特別なクシでブラッシング。
米が全部収穫できると身体が縮み合体し、一本の苗型の姿(手足付)に戻る。
今、彼が常に読んでいる本は表紙は娯楽本だが中身は稲作についてのマニュアル本。
でも、ヤル気がでない。身体も鈍ってる。


●GMより
腰を痛めてリビングで寝ていたら、家族が皆ゲームの中で稲作をしていました。
大変なお仕事ですよね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • コメはチカラ!完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年12月22日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
エレオノーラ・クーリッジ(p3p006337)
コメ米「こまこがね」生産者
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
エミール・エオス・极光(p3p008843)
脱ニートは蕎麦から
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ

リプレイ


●試食会
「農作物を今まで作ろうと思ったことはなかったなー。いざというときに自力でお米が作れる知識は必要よねー」
 いざという時とは。『ビビりながら頑張るニート』エミール・エオス・极光(p3p008843)は何やら頷いた。
「うむ、稲作……いな、さく?」
 『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は困惑を隠せずにどう見ても草である依頼人(?)のコマさんを見る。
(面妖な生き物じゃなあ。……まあ、稲作が学べるというのなら願ったりじゃが)
 『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)はぺこりとお辞儀をした。
「コガネ様、コマ様、よろしくお願いします。ニルはお皿に乗ったごはんしか知らなくて、おこめを作るの初めてなのです」
「よろしくね!」
 笑顔のコガネの隣でコマさんは無言で外見も相まってその感情を察することは難しかった。対して、エミールはいつもの強気な態度に僅かに殊勝な気持ちを混ぜる。
「ま、お米が美味しいから、面倒臭いけど朝起きれて朝食がちゃんと食べられるってものよ。美味しいものは活力だからねー。あたしも皆と美味しいお米が作れるように頑張るよ!」
「うん! 頼りにしてるよ!」
「……」
 コマさんは相変わらずだが、不安だったのだろうコガネは嬉しそうに頷いた。
「お米作りのことは解らないけれど……少しは本を読んで勉強してきたし」
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)はこっそり気遣う視線を向けた。
(あとは実践あるのみだけど──なんとか二人共笑顔になってくれると良いのだけれど)
 やるしかないかと彼女はにっこりと笑う。
「じゃあ、田起し……の、前に──腹拵えね!」
「えっ!?」
 コガネが驚いてポカンとすると、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が豪快に笑った。
「ぶはははっ、米作りと聞いちゃあ黙ってらんなくてな! コイツは俺の領地から持って来た混沌米『夜さり恋』っつーんだが、まあ食べ比べてみてくれ!」
「あ? 俺の米の出来が悪いって言いたいのかよ!」
「て、よりは比較して問題点の洗い出しだな」
 食ってかかるコマさんを穏やかに受け止めて、ゴリョウは和モダンの胸当てエプロンを手早く着けた。
「ついでに上手い飯でこれからの働きに弾みを付けようぜ! おかずも用意するからよ!」


「ゴリョウさんのお米も美味しいわよね、これを目指して作っていきましょ」
 『チョメッケモンゲ像の方』エレオノーラ・クーリッジ(p3p006337)の感想を聞いて、『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)も炊き上がったそれに手を伸ばした。
「へえ。これが噂のゴリョウ米か。ぜひ味わいたいものだと思っていたけど」
 それは期待通りだったらしい。
「お米は此方の世界に来てから初めて口にしたけれど、このなんとも言えない優しい歯ごたえと甘さにすっかり心を奪われてしまったよ。それを一から育てる技術、ぜひ学ばせて貰いたいものだ。妹も、きっと喜ぶだろうからね」
「そっちの稲作とは違いもあるけど、ぜひ教えてあげてよ。それにしても、コメの力を借りてないはずなのに美味しいお米!」
 コガネに続き、ラヴの箸も止まらない。
「んっ、んん……流石ゴリョウさん、優しい香りが立つ味わい深いお米……美味しいわね! こほん……流石にお代わりはもう駄目?」
 そう、これはここへ着く前に打ち合わせたのだ。
(食卓でお米を美味しくいただく姿をコマさんに見せることでやる気を出させる作戦よ。作戦なの)
 心の中でそう繰り返し、ラヴは嬉々として五杯目を盛った。
 ゴリョウの米への賛辞に『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)がするっと身を乗り出した。
「わたしは、ゴリョウさんの、お米づくりを、ちょっぴり、手伝ったことが、あるくらい。つらい部分を、知りもしないくせに、このようなことを言うのも、おこがましいですけれど……ゴリョウさんのお米は、わたしを、しあわせにしてくれますのーーー!!!」
 彼女は顔を輝かせる。
「つまり……わたしが、ゴリョウさんに、惚れたせいかもしれませんけれど……お米のおいしさを、知ってもらいつつ、これからのお米づくりのための、英気を養うには、これが、いちばんに、違いありませんの!」
 ノリアの熱弁が気になったのかコマさんがこちらを見て、首を傾げた。
「美味しく食べて、これから行う稲作が──コマさんのお仕事が、どれほど皆をしあわせにするのか。知るには、みんなで食べてみるのが、一番だと思うんですの」
「しあわせ……」
 コマさんを見るコガネが表情が曇った。
 じっくりと食べ比べていたゴリョウは一旦箸を置いて唸る。
「しらた米とか多いのかねぇ? 多分だが、出穂以後の水の入れ替えが少なくて高温障害になってるのと、刈り取りが早すぎるんじゃねぇかな?」
「……」
 コマさんは無言で米粒を見た。ふたつの米は輝きも違う。
「ゴリョウ様は、おこめのこと詳しいのですね。ゴリョウ様のおこめは『おいしい』。おいしいものを作れるのは、とっても素敵です」
 ニルは空の茶碗を丁寧に置いた。
「ニルもコマ様たちとおいしいものを作れるように、お手伝いをがんばります」
 食べることに憧れたレガシーゼロの言葉がどう伝わったのかはわからない。
 ところで、この一見しんみりとした雰囲気の中で一際激しい感情を滾らせた者がいた。
 『たんぱく質の塊』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)である。
(──嘆かわしい)
 それが彼の抱いた素直な感情であった。
 彼にとって、お米、即ちライスと言えばプリンの最高の供であり、最高のおかずである。
 ──プリンをライスに乗せて食べるのは、最高に美味であるのだ! それなのに。(※極めて個人的な感想です)。
 それゆえに彼はコマさんにすっきりしない想いを抱いている。
(プリンの最高の供の、ライスの化身とも言える存在がやる気を無くしているなどと……そんな事が許せるだろうか、否、放って置けるだろうか!)
「コノマッチョ☆プリンガ来タカラニハ、堕落ナド許サン! 最高ノ美味イライス……作リ上ゲルゾ!」
 熱いマッチョの熱を受けて、コマさんがたじろいだ、ような気がした。
 こまごまと皆のご飯の世話をしていた『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)がコガネにお代わりをよそったお茶碗を渡す。
「稲作かあ……農業は初めての体験だわね。専門的な技術はないけど……皆のお手伝いをいっぱいしないとだわね」
「それなんだけどよ」
 ゴリョウが食べる手を止めて、その場の面子を見回した。
「愛着持たせるために、先に米に銘を付けておくのも良いかもな」
 はたとエレオノーラは閃いた。
「そうね──、『まじまんじ』なんてど」
「そうさなあ、『こまこがね』とかどうよ?」
 エレオノーラの提案は偶然にも同時に発言したゴリョウの声に覆い隠された。
 ラヴの顔がぱっと輝く。
「コマさんの名前を冠したのね。コマさんとコガネさんの絆を表して。ふふふ、そのお米が皆を笑顔にしてくれるなら、それって素敵なことよね」
「素敵です。おふたりの名前のおこめは、きっとおいしいですね」
「賛同するのだわ」
 ニルと華蓮、続いて皆がそれに賛同する。
 エレオノーラも淑やかに微笑む。
「そうね、いい名前だと思うわ」
 彼女は先程の一言を無かったことにしてしれっと周囲に合わせた。



●田植えから
「食べ比べて見ると……味と固さと、やっぱり肥料と田の管理が重要ね」
 明確なイメージが出来たことでやりがいが生まれたと、エレオノーラがまだ何も植わっていない田圃を見つめた。
 逞しく見えるシャツを着たマッチョはプリンを持って勇ましく尋ねる。
「ソレデ、ライス作リトハ、何ヲスルノダ? プリンカ?」
 プリンではない。
 だが、直情径行に見えた彼だが、意外にもゴリョウや経験者の言う事を冷静に聞き入れながら励むつもりなのだ。もちろん、すべては美味いプリンを際立たせるお供のため。
「方針としては俺の知識とコマさんの稲作本と擦り合わせをしながら皆でやっていこうと思ってる。教本に根拠与えて行く感じだな」
「そんじゃあ、ま、『農業』知識を皆に『教導』していくぜ!」
「おーっ!」
 こうして、早回しの稲作が始まったのだった。


 作業が始まってすぐにクレマァダは汗を拭った。
「暑い……ていうかこの島、冷静に考えて異常気象じゃろ……」
 さて、この島では一年が数日で過ぎて季節は日々目まぐるしく変わる。
 つまりは、一日にやることが非常に多い。
「まずは、田植えは疎植寄り、根付きのためには間隔が必要だ」
 指示するゴリョウに尾を巻き付けたノリアはそのまま一緒に作業にあたる。
「ふふ、二人二脚一尻尾でしょう。ゴリョウさんのおっしゃることを、きいて、たくさん、お仕事しますの」
「これはまさに……普段使わない筋肉を使う、というものね。ふふ、大丈夫よ。こう見えても、そんなにひ弱じゃないし、美味しいお米の為なら苦じゃないわ」
「その気持ちはわかるね。でも、ボクもこれでも騎士などと名乗りをあげている身――力仕事であれば、多少の自信はあるものさ」
 汗を拭うラヴに声をかけ、さり気なく多めに耕し始めたレオンハートだったがすぐに一度田から出る。
「これは、上だけでも鎧を脱がせて貰おうかな……」
 鎧を脱ぎ去った逞しいレオンハートの体躯がはっきりとわかり、クレマァダは思わず目を見張る。
(ん? フェルディン、鎧を着てると分からんがけっこう鍛えてんじゃなぁ)
 ぼんやりとするクレマァダに気付くレオンハート。
「おや、クレマァダさん、大丈夫ですか?」
「……何でもない!!」
「ふふ、あまり無理をされませんように……」
 クレマァダは恥じ入るように慌てて視線を反らすと鍬を握り直した。
「しっかしこの田植え……腰が痛うなる……もっとこうぱぱっとできる便利なものはないのかのう」
 その時である。物凄い勢いで田が揺れた。
「ワッショイ! ワッショイ! プリン☆パゥワァアアアア!」
 勢いをつけたマッチョがパワー田起こしをしてゆく。邁進する彼の通った土はフワフワの雲のように。
「ううむ、あったというかおったと言えばいいのか」
 唸るクレマァダ。
 初めは読書に勤しんでいたコマさんだったが、ゴリョウに声をかけられると不承不承身を起こした。
「……俺の意見なんて」
 夕刻、野菜を入れた籠を背負ったコガネが道の向こうから手を振って歩いて来た。疲労困憊、崩れ落ちた一同が手を振り返すと、やがて寄り添うような天使の福音が耳に届いた。
 華蓮の天使の歌だ。
「毎日の疲れはその日のうちにしっかり落とさないと。昔からこういうお仕事は皆で歌いながらやるもの……っていうお話もあるのだわよ」
「そうね……ありがとう。たくさん食べて明日に備えましょう」
 金色の夕陽の中、ラヴが少し眠そうな顔で微笑んだ。


 フワフワの田に苗を植えてゆく。フワリと飛んだ華蓮が、間隔の詰まり過ぎた苗を抜き開き過ぎた並びに植え直した。
「コレハ、最高のライスが育ツ予感がスルゾ!」
 最後には美しく苗が並んだ田を見て思わず漏らしたマッチョの言葉に一同は達成感を噛みしめた。
「……」
 そんな彼らをただ見るコマさん。
「ふぅ、流石に疲れるのだわぁ……。頑張った後は、しっかり休んで明日また元気で目覚める……なのだわ」
 その日も華蓮の歌が終わるのを合図に明日に向けて眠りについた。


●大事に大切に
 翌日。
「な、なぜ……雑草までもコメと同じ速度で育ってくるのよ!? この小石はどこから」
 前日も自己回復をしながら地道に丁寧に苗を植えていたエミールが、翌日の田を見て思わず悲鳴を上げた。それでも、大きく息を吸って疲れた身体に空気を取り入れると、彼女は再びちまちまと雑草に手を入れる。もちろん、他の仲間達もだ。
「雑草は日照を邪魔しない程度にやや高めに揃えるんだ」
「ゴリョウ、これはちょっと様子がおかしくないか?」
「いや、大丈夫だが──。コマさん、害虫対策として注油法なんてどうだ? 益虫も殺すから多様は厳禁だけどな! あとは祈祷も試してみるか」
 ゴリョウの提案を受けると、コマさんは時折本を担ぎながら彼の足元でその作業を興味深く眺めるようになった。
「高温障害を避けるために、出穂後には掛け流しをしておいた方がいいな」
 教本へコマさんが熱心に書き込む。
 そんな彼らを盗み見た華蓮は、視線を戻して作業を再開しながらご機嫌で口ずさむ。
「いい子、頑張って大きくなって立派な子でしょっ!」
「オマエ、ソレハ何ダ」
「声をかけて上げながら育てると元気になるって聞いた事ある気がするのよ」
「フム──、ヨシ! 友ヨ! 共にニ最高ノライスヲ作ルノダ!」
 華蓮とマッチョが懸命に声をかけているとモジモジとしたコマさんが「やめろ……」と呻いた。照れているのだろうか。

「つ、かれたー……」
 ドサリと腰を下ろすエミールに気付いたコマさんはカサリと頭を上げた。田に並ぶ苗と同じ速度でその葉は育っている。
「なんだよ」
「休憩だよ。コマさんも一緒にどう? 一人で休憩するのは少し恥ずかしくて」
「コメでないお前らには大変な作業だろ。もっと休んでいいんだぜ」
「んー。ある意味、田植えは自分の体力や精神力との戦いだと思うから。それに誰かと一緒にやるのはなんか心強いからさ」
 少し、緑の葉が揺れて声なく笑ったような気がした。
「事故大変だったね」
「覚えてねーもん、知らねーよ」
「そっか……でもさ。米作りって大変だけど、楽しいね」
 鏡のような水田で自分たちが植えた苗が微風に揺れているのを感慨深く眺めていると、そんな感想が漏れた。
「……そうだな」
「──わ、ちょっと!」
 エミールが思わず微笑むと、その顔面を掃くように緑の葉が押し付けられる。
 その葉が優しくワシワシと撫でられた。ゴリョウだ。
「焦り過ぎず、じっくり構えようぜ。手前の米を信じろ!」
「……ああ」
 虫も病も酷いトラブルに合わないのは、小まめに米を見てくれる彼らと、提案という形でサポートし続けてくれる彼のお陰だと、コマさんももう認めるしか無かった。
「できることが増えるのはうれしいです。成長していくのを見るのはうれしいです。きっとおいしくできますね、コマ様!」
 ニルが青々とした葉に触れた。サラサラと風に吹かれて流れてゆく。
「……敵わないな」
 ぽつりとコマさんが呟いた。
「米作りの楽しさも旨さも育て方も。お前らは皆楽しそうにコメを育て旨いと笑う。俺はゴリョウのような米が作れるんだろうか」
「でも……あのお米は、ゴリョウさんが、本場、カムイグラを知る前に、育てたお米。コガネさんたちのは、もっと、おいしくできますの」
 ノリアの言葉にコマさんは考え、やがて頭を振った。
「比べるものではないな」



●待ちに待った収穫を
「おはよう。待ちに待った収穫ですよ!」
 心なしか弾んだ声のコガネに起こされた。
 家の外には朝陽に眩しく輝く黄金の原が広がっていた。
「収穫、精米はとにかく人海戦術ね!」
「おーっ!」
 ラヴの声に皆で気合いを入れた。

「オイッチニ、プリン! サンシー、プリン!」
 脱穀のために根元から刈り取った稲をマッチョが運ぶ。それに続くレオンハートの金髪が稲穂と共にきらきらと光って揺れた。風はもう秋のそれ。
 田の周りには大きな茣蓙が広げられ、刈り取った黄金が積まれる。
 手順を効率よく指示していたゴリョウは今は脱穀の方へ回っている。やったことのないブラッシング式を手探りで試していたが、すぐにコツを掴んだようだ。彼に巻き付いて一緒に作業するノリアや他の仲間へも丁寧に教えている。
「こっちでは千歯扱きで脱穀、木摺臼で籾摺り、撹拌式で精米の順だな。出来るだけ早くやって出来るだけ割れを防ぎたい。これらのメリットは自作が可能でメンテも楽って点だ。覚えておけば今後自分らだけでやるにも役立つだろう」
「へえ。あんた本当にすごいなあ。コメみたいだ。そっか、道具の力を借りるのもアリだねえ」
 感心するコガネの後ろでエミールが茣蓙の上に刈り取った稲を降ろす。
「ふーっ、ここに置けばいい?」
 小柄な身体が隠れるほどの量を運んだ彼女へコガネが笑って声をかける。
「プリンさんが一杯頑張ってるからエミールはこっちを手伝ってよ。これがちょっと手間なんだけど……ふふ。皆と一緒だと楽しいね」
 コメの脱穀は不思議なブラシのようなもので穂を梳いていく。一般的なそれと違ってするすると米だけが落ちてそれを集めるのだ。
 コマさんの稲穂を櫛梳るのはエレオノーラだ。
「やっぱり機械化されてると便利ではあるのだけども」
「そっちの稲作ではそういうものを使うのか」
「そう。あとは千歯こきか何かで稲穂から籾をはずして、木摺臼でお米から籾殻を外すの。唐箕とかで籾殻や藁屑といったものを取り除いて、精米をすれば完成ね」
「へえ」
「コマさんの脱穀は、ブラッシングなのね。強さはこれでいい? どこか集中的にした方がいい場所とかあるかしら」
 大丈夫と言うように金色がサワサワと揺れる。
「『コメ』という種族は初めて会うから気になるの」
「俺にしてみれば、お前らの種族や稲作の方が気になるけどな。でも、あんまり変わらないんだと思った」
 変わらない? と彼女が尋ねたがコマさんは照れくさそうに頭を揺らすだけだった。
 ニルが梳き終えた米を集める。
「ニルが、初めて収穫するたべもの。おこめってこういう風に実るのですね。コメって、コマ様って、本当にすごいのですね」
「……ああ、スゲェだろ。でも──育てたのはお前らもだぜ」
 金色に大きく成長したコマさんが照れくさそうに身体を揺らした。



●収穫祭
 この収穫を祝おうと一同は料理作りに励んでいた。
「ちょっと早回しだけどこうやって実際に苦労してみる事で、日々の食事への感謝が大きくなるというものだわね」
「コガネさんの作った野菜も使っていいかしら? わたくしは筑前煮を作るわね」
 料理が得意な華蓮もここには無い食材を並べて腕まくりし、山のように積まれたコガネの採れたての野菜をラヴが手に取る。
 そこへ、水を滴らせたクレマァダとレオンハートが何かを抱えて帰還した。
「祭りは我もひと肌脱ごうと思ってな。コガネに網を借り海へいって来たのじゃ。良き体験の礼じゃ」
「そういうことであればと思いまして、ボクもクレマァダさんにお供しました。
 直接海に潜っての漁では海種の貴女には及びませんが、多少の役には立ちましょうとも。それに、獲れた魚の身を捌く事なら引き受けられますからね」
「フェルディンを困らせる為に一際でかいのを獲ってきてやったわ」
 彼らが獲ってきた大量の魚介に感嘆の声が上がる。
「折角の大物ですから、腕によりをかけましょう。これでも、妹の店の手伝いでね、たまにやらされるんですよ。炊き立てのお米と新鮮な魚の刺身――ああ、これは最高の組み合わせでしょう」
 たっぷりの魚介を見て、エミールが顔を輝かせる。
「いくつか貰ってもいい? あたしは海鮮餃子を作るよ! ふふっ、楽しみだなー!」
 米を炊いていたゴリョウが考える。
「魚なら焼き、煮物は濃い目の味付け、天ぷら……天つゆも必要だな。ただし主役はあくまで米だけどな!」
「私はお味噌汁や副菜を作るのが良いかしら。ドレッシングを手作りしてサラダでも良いし……バランスよくなるようにお肉の炒め物でも添えるのも良いだわね」
「わたしも、おいしい海鮮小鉢と、天然海塩を使って、お料理を、手伝いますの。壮行会よりも、素敵な食卓になりますね」
「そうね。もう一品用意しちゃいましょう♪」
 ノリアがそう言うと華蓮が手を叩く。豪華な収穫祭になりそうだった。
「ニルも、作るのお手伝いしたいです」
「ああ、みんなで作ろう」
 釜で炊いた甘い米の匂いがやがて漂い始める。
 皆で食べる、初めての『こまこがね』。


 甘い新米とそれぞれが腕によりをかけた料理が並ぶ。
「オオオ……美味イ…! ヤハリライスハ最高ノオカズダ!」
 プリンを配り終えたマッチョが、こちらはプリンかけご飯に舌鼓を打つ。
「お魚もプリンも、ごはんのおともなのですね」
「お米はなんでも合いますの。海鮮佃煮も、いかがでしょう」
「まあ、プリンは個人の好みがあるがなあ。とりあえず、こっちの煮付も食べてみろ」
 ニルへおかずを取り分けるノリアとゴリョウ。
「オオ! ソレハハナンダ、ゴリョウ、ナーサリー! 美味イカ!?」
 新米を食べながらノリアは言う。
「……お許しくださいですの……わたしは、ゴリョウさんのほうが好きとしか、言えませんけれど……それでも、こまこがねはとっても美味しいですわ」
「うん。みんなで作って、みんなでたべるごはん。ニルも、一緒に作ったごはん。大勢で、楽しそうで、嬉しそうで──とってもとっても『おいしい』です!」
「ああ! この炊きあがりのふっくりした美しさはどうじゃ? 手をかけただけに愛い……愛いなあ……」
 クレマァダに続いてレオンハートもコマさんを見た。
「うん、美味しいね、この『こまこがね』は。……努力は決して裏切らない。自信を持つんだ、コマさん。そして、必要であれば、またボク達を頼ってくれ」
「……」
「のうコメよ。我は祭司長じゃ。戦えば強いし、学もあるし、そこそこ偉い。じゃが米は作れぬ。焦ったとて、泳ぎ方を知らない者は岸には辿り着けんのじゃ。……誰かを頼るのは、恥ではないぞ」
 コガネがコマさんをそっと小突いた。まだ金色のコマさんはワサワサと葉を揺らしながら一緒にこの米を作った仲間たちを見回した。
「……ありがとう。そうだな、頼るよ。それに、お前たちはまたこの米をただ食べにも来て欲しい。俺はここでコガネとこれからも、『こまこがね』を作っていくから」
 エミールがコマさんの小さな手とコガネの手をそっと掴んだ。
「コマさん、コガネ。あたしたちからもお礼を言うよ。貴重な体験をさせてくれてありがとう」
 ラヴが軽く咳払いをした。
「……こほん。ああ、美味しいわ……何だか感激ね。ありがとう、コマさん、コガネさん」
 しんみりとした空気を振り払うように彼女はお茶碗片手に立ち上がった。
「それじゃあ、四回目のお代わりを……」
「あれ、今回はあんまり食べないんだな」
 目敏く気付いたコガネにラヴは悪戯っぽく笑う。
「ふふ、いいえ。一回に盛る量を二倍にしたのよ」



成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

こうして、コマさんたちはこれからも今までとは違う「こまこがね」を新しく試行錯誤して作ってゆくことにしました。

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